寄り添う
キエリは、ぱっと目が覚めた。
頬には、涙が伝う感覚があった。
それを拭い、寝台から起き上がり、外の景色を窓から眺める。
まだ空は日が昇る直前のようで、空がうっすらと明るくなっていた。
(わたしが小さいときのお母さんとお父さんが死んでしまった日の夢‥‥また見ちゃったんだ‥‥)
(たまたまゼノがあの森に来ていてよかった。ゼノがあの時いてくれなかったら、わたしは本当に独りになってしまっていた)
キエリは、どうしようもなく寂しくなって、また頬に雫が静かに流れた。寂しさを紛らわせようと、ぎゅっとフェリクスにもらったネックレスを握る。
(あぁ、だめだ‥‥少し散歩でもして気分転換でもしよう)
キエリは、部屋をでて廊下を歩いていた。
すると、廊下の先にフェリクスの姿が見えた。
フェリクスもこちらに気付いたようで、少し驚いた表情をしたが、こちらに歩いてきてくれる。
キエリは、気持ちがあふれそうになりフェリクスのもとに走って、勢いよくぶつかるようにフェリクスに抱き着いた。
キエリの勢いは強かったが、フェリクスはびくともせず、そのままキエリを抱きしめて、心配そうに話しかける。
「キエリ、どうしたんだ?‥‥泣いているのか?」
「‥‥‥っ」
キエリは、どういっていいか言葉がうまく浮かばなくて、とにかくフェリクスの背に腕をまわして強く抱き着いている。
急に抱き着いて、フェリクスにとっては迷惑だろうから離れないと、と思っているが、考えと行動が一致しない。
だが、フェリクスはキエリを抱きしめたまま、優しく頭を撫でる。
「キエリ‥‥おいで」
フェリクスは、軽くキエリを抱え上げて、そのまま歩き出した。
キエリは、抱き上げられて驚いたがフェリクスの首の後ろに腕をまわして、しがみついている。
フェリクスがキエリを連れてきたのは、フェリクスの部屋だった。
はいってすぐの部屋にはソファと机があり、絵画や本棚があるくらいで、シンプルだった。
キエリは、初めて入ったのでついきょろきょろ見てしまう。
フェリクスは、ソファに座り、キエリを膝に乗せる。
「ここだったら、誰かに聞かれる心配はないだろう。それで、どうしたんだ?」
フェリクスは、優しくキエリの頬をなでる。
キエリは、優しさが温かくてフェリクスの手に頬をすり寄せる。
「すみません、急に‥‥昔の、わたしの両親の夢を見てしまって‥‥」
フェリクスの表情が一気に辛そうになる。
キエリの両親は騎士団に殺されたと聞いていたからだ。
昔だというからには、フェリクスは、もちろんその時騎士団に所属しているわけはないのだが、それでも無関係だとは言い切れないので、心臓が握られる感覚がしてしまう。
キエリは、フェリクスのその辛そうな表情に気付き、口をつぐもうとする。
「ご、めんなさい‥‥こんな、話をしても困らせてしまうだけなのに‥‥落ち着いたら、部屋に戻りますから」
「困ることなどない、キエリの話は全部聞きたい。君の辛いことも全部俺に聞かせてくれ‥‥」
「フェリクスさん‥‥‥」
そして、キエリはゆっくり、ぽつりぽつりと誰にも話したことはなかったあの日のことをフェリクスに話した。
時々言葉に詰まったり、涙をこらえて黙りこんでしまったりしたが、フェリクスは辛抱強くキエリの言葉を待った。
キエリが話し終えると、フェリクスはキエリを強く抱きしめた。
「ありがとう、話してくれて」
フェリクスの声はかすれていて、キエリから顔は見えないが鼻をすすって肩が少し震えていた。
「どうして‥‥どうして、フェリクスさんが泣くの?」
「キエリが寂しく独りで泣く姿を想像してしまって‥‥それに、今も苦しんでいると思うと‥‥心が痛い」
「俺がキエリの悲しみを取り除いてあげられないのが、もどかしい‥‥」
「‥‥‥っ」
キエリは、フェリクスが自分のことの様に心を痛めているのが、困らせていると思いつつも、「嬉しい」という感情が生まれていた。フェリクスの背中に腕をのばし、優しく背中を撫でる。
「フェリクスさん‥‥ありがとう、話を聞いてくれて、わたしに寄り添ってくれて」
「わたし、あなたのこと、好きになってよかった‥‥」
キエリは、あの日の寒さを思い出して心とからだが冷えていたが、フェリクスの優しさがじんわりと指先まで伝わるように広がって温度を取り戻していく感覚がした。




