困惑
キエリが部屋に帰ると、ゼノがベッドに腰掛けながらキエリが研究室から持ってきていた本をぱらぱらと読んでいた。
「ゼノ、戻ってたんだ」
キエリが声をかけるとゼノは本を閉じ、キエリをにんまりとしながら見てきた。
「キーエリ♪デートはどうだったの?」
「え!? 何でゼノが知ってるの?」
「だってぇ、今のアナタとっても顔がゆるゆるよ。そんなの愛おしーいフェリクスに会ってきたからでしょ? それに、花火なんて、若者はみんな好きな人と見るのがお約束なんだから!」
「そ、そう、わたしそんな顔してるの‥‥やだ、変な顔してなかったかな」
キエリは、フェリクスに変な顔を見せていなかったか心配になって自分のほっぺをむにむにする。
「ダイジョブよ、キエリは可愛いもの」
キエリは、ゼノの隣に腰掛けて、ゼノが手に持つ本をじっと見る。
「んふふ、見つかっちゃったのね」
「ゼノ、魔獣を薬として役立てる研究をしてたんだね」
ゼノは、いつものふざけた雰囲気がすっとなくなり、キエリを悲しみを帯びた目でちらりと見た。
ふぅーっとゆっくり息を吐き、静かに語りだした。
「昔、ね‥‥アナタも理解しているでしょう、魔獣に多くの人間が苦しめられているって‥‥いくら騎士団をそこらに配置しても、どこから出現するかもわからない、数もその時々によるし、強さも違う。人間にとって魔獣は災害みたいなものなの」
「うん‥‥」
「魔獣は出現数は今ほどではなくとも、ずっと昔から各地に出現していた。その度に人間は犠牲を強いられてきた。でもね、その中で希望を見出そうとした人たちがいたの‥‥そのひとつが魔獣を薬として使うというものなの」
「魔獣は、種類によっては人間にとってからだを強くしてくれたり、まだ治療する方法が判明していなかった病気を治すことまで出来ることが先人たちの研究でどんどん明らかになっていったの」
「この知識は、人間たちの必死の足掻きなの」
ゼノは、一言ひとことはっきりとキエリに伝えてくれた。
そこから見えるのは、魔法使いとしてのゼノだった。
「ゼノは、この研究が好きだったんだね」
「‥‥えぇ」
ゼノが伏し目になる。
キエリの顔を全く見ようとしない。
「ゼノ、わたし、ゼノを責めることなんてしないよ。だから、こっちむいて」
ゼノがキエリに言われて、キエリの方を向いたが、視線を合わせようとしない。
キエリは、ゼノに優しく微笑みかける。
「ゼノも、他の魔法使いの人たちも、騎士団の人も‥‥全ての人は自分たちが生きるのに必死なだけ‥‥だから、こういう風に魔獣を利用することは理解できる。自然な選択だと、思う‥‥だから‥‥」
「違うの!! 違う、のよ‥‥‥」
ゼノが突然大声でキエリの言葉を遮った。
「ごめんなさい。キエリ‥‥ごめんなさい‥‥‥」
ゼノがすがるようにキエリにしがみつき、震える小さな声でキエリに謝罪し始めた。
キエリは、ゼノの行動に困惑した。
「ゼノ、ゼノどうしたの? 大丈夫だよ、大丈夫だから。ごめん、あなたをこんなに追い詰めようとしたんじゃないの‥‥だから、泣かないで‥‥‥」
ゼノは、キエリが宥めてもなかなか泣き止まなかった。
キエリは、ゼノが本気で泣いたところなど今まで一度も見たことがなかったので、本当はどうしていいかわからなかった。
ただ、昔、ゼノがキエリが泣いたときにしてくれた時の様に、ゼノを抱きしめて、ゼノの背中を優しくなでた。
キエリは、なくなったページのことやゼノが何か隠していることを、これ以上きけば何かが壊れてしまいそうな予感がして、もうきくことはできなかった。




