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【完結】オオカミはフードを被る  作者: Nadi
オオカミはフードを被る

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31/99

乗り越えて

 部屋に戻ってもゼノはいなかった。


 (お祭りに行くって言ってたし、まだお祭りを楽しんでるのかな?)


キエリが手に持ったままの、ゼノが書いた本を見つめる。


 (どうして、わたしこんなに気にしてるんだろ、確かに変なことだけど、別にわたしに関係あるはず、ないのに‥‥‥)


しかし、キエリはどうしても無視することができなかった。


ゼノがなにか隠し事しているという疑念がすでに積りに積もっていて、そのゼノが魔獣が薬に使われるのをキエリに言わなかったこと、キエリが王都に来ることを拒んだこと、魔獣の薬用に関する本になくなったページがあること、それらが無関係だと決めつけることが、どうしてもできなかった。


 (‥‥‥わたし、ゼノのことよくわかってるって思い込んでたのね、知らないことばっかり、村から出なかったら、知らないままだったのかな。騎士団と出会って村をでて、知らないことばかりがでてくる)


 キエリは、村での生活を思い出す。


村で仲良くなった人々の顔が一人ずつ浮かぶ。


 (お手紙を送ったけど、まだ届いていないよね。みんなを心配させてしまっているよね‥‥早く届かないかな)


 キエリは、フェリクスに想いを伝えた時から、きっと必要なものをかき集めるのに必死になって村にしばらくは帰れなくなることは覚悟していた。


キエリの恋人となったフェリクスはこの国の王子だ。


この国を背負っている人だ。


キエリもその隣にいるためには、足りないものが多すぎると思った。


 「フェリクスさんに‥‥‥会いたい」


 (フェリクスさんに初めて会った時、初めて会ったような感覚がしなかった。彼からは懐かしいにおいがする。初めて会った時からずっと優しい彼、そんな長い間過ごしたわけではないけれど、好きっていう感情がたくさんわいてくる。不思議だな‥‥)


 外をふと見ると日が暮れてきて、空の色が青から朱色に変わるグラデーションができていた。


 「花火‥‥一緒に見るの楽しみだな」

 「早く会いたい‥‥‥」


ゼノはいつ帰ってくるかわからないので、とりあえずキエリは本を机の上に置いておいて、フェリクスの部屋に向かった。




 キエリがフェリクスの部屋にたどり着くのも大変だった。


なんとかまた使用人たちに尋ねてたどり着いた。


しかし、フェリクスの部屋の扉の前でノックしようとする手が止まる。


 (まだお仕事してるかな? 会いたいって思った気持ちのまま、何も考えずに来ちゃった。今は、邪魔‥‥しちゃうよね)


そうやって扉の前でぼーっと考えていたら、扉がひとりでに開いた。


 「キエリ?」


キエリが顔を上げると驚いた顔をしたフェリクスがいた。


キエリもこんなところを見られると思ってなかったので、慌ててしまう。


 「あ! フェリクスさん、ご、ごめんなさい、ちょうど扉をノックしようか迷っててぼーっとしてました‥‥」

 「なんで、迷ってたんだ?」

 「お仕事の邪魔になると思って‥‥」


フェリクスが穏やかにキエリに笑いかける。


この微笑みにいつもキエリは安心させられる。


 「遠慮なんてしなくていい、いつでも部屋においで、俺はキエリが来てくれたらとても嬉しいよ」

 「ふふ、わかりました」


キエリも柔らかい笑みに自然となる。


キエリはフェリクスの心が温められるような優しさが好きだった。


 「それに、丁度仕事はめどがついた。さ、花火を見に行こう」

 「はい!」



 フェリクスがキエリをエスコートして城のバルコニーに向かった。


 「すごいですね、街の明かりがとってもきれいです」

 「ここから花火もよく見えるよ」

 「ふふ、花火を見るの初めてなので、楽しみです」


キエリとフェリクスは、ベンチに隣同士に座り、花火の打ち上げを待った。


 遠くから、ヒュ~という音が聞こえた。


 「あ、見て」


フェリクスがキエリの視線を空へと移させた瞬間、ドン!という爆音とともに、火で模られた花が暗い空で明るく咲き、刹那の美しさを見せた後、儚くぱらぱらと音をたてて消えた。


それを見たキエリはというとフェリクスの腕にしがみついていた。


 「キエリ?」

 「び、びっくりしたぁ‥‥花火ってこんな大きい音出るんですね。でも、聞いていた通り、とってもきれいです!」


キエリは驚いた拍子にフェリクスにしがみついていたようで、まだ心臓がバクバクすると言って、フェリクスにしばらくしがみついていた。


キエリはいろんな形の花火が打ち上げられるたびに、びくついては、きれいと言うのを繰り返した。


一方フェリクスは、キエリにばかり注意がいって花火にまったく集中できなかった。



 花火の打ち上げが終わりを告げる頃には、キエリもすっかり慣れて、フェリクスにしがみつく手を放したが、それはそれで寂しくなって、二人はお互いの手をつなぎ、指を絡ませた。


 「はぁー、すごかった! 最後なんて一気にいくつも打ち上げていましたね! 迫力がありました。あ、ハートの形の花火可愛かったですね。村にいたら見られなかったです」


キエリは興奮した様子で足をぱたぱたとさせていたが、キエリの言葉を聞いたフェリクスが眉間に少し皺を寄せ、辛そうな顔をする。


 「キエリ、聞きたかったのだが、やはり村に帰りたい、よな?」


キエリは、動きがぴたっと止まり、フェリクスの顔をじっと見つめる。


 「最初は、研究を手伝うという目的のために来たが、結局俺がキエリをここに留める理由を作ってしまった。将来的には、より村に易々と帰ることもできなくなる」


キエリは、少し困ったように笑った後、フェリクスをその透き通った瞳で見つめる。


 「‥‥‥確かに、村のことを思えば寂しいですよ。村のみんなに会いたいです。でも、王都に来ると決めた時に、みんなとはしばらく会えないことは覚悟していましたし、あなたに好きと言った時には、わたしの居場所はあなたの隣と決めました。だから、大丈夫です」


キエリは柔らかく微笑んで、両手でフェリクスの手を握りなおす。


キエリの瞳には強い決心の光が宿っている。


 「見ててください。わたし、あなたの隣にいられるようたくさん努力しますから!」


フェリクスは、彼女が自分の隣にいるという選択肢をとってくれたことが嬉しくて、彼女の意志の輝きがまぶしくて、愛おしさが湧いてくる。


キエリを優しく抱き寄せて、抱きしめる。


 「キエリ、ありがとう、俺といることを選んでくれて‥‥だけど忘れないでくれ、俺も君を支えるから」


キエリは、フェリクスの優しくて温かさをより感じたくて、腕をフェリクスの大きな背中にまわした。


 「はい、頼りにしてますよ」

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