温かさと寂しさ
キエリとフェリクスが玉座の間に入ると三つの玉座に二人少し年を取った男女が座っている。
この国の王と王妃だ。
王はガタイが良く、目つきが鋭く、いかめしい顔つきだ。
一方、王妃は、長い黒髪が美しく、ゆったりとして結われており、雰囲気もほんわかしている。
瞳の色や穏やかに微笑んでいる姿は、キエリは見た瞬間、フェリクスはお母さん似なのかなと思った。
王と王妃にばかり目がいっていたが、すでに玉座の間には先客がいた。
「ゼノ?」
「あらん? キエリたちじゃない? やっほー」
ゼノがひらひらとキエリたちに手を振っていた。
ゼノが王と王妃の前で何かを話していた。
以前、城で働いていたといっていたし、フェリクスにも会ったことがあるのだから、王と王妃に面識があっても不思議ではない。
王がフェリクスとキエリを目に留める。
厳しい顔つきの王に見られると、キエリは少しどきっとしてしまう。
フェリクスはその視線にも顔つきにも慣れているのか、ごく普通に礼をし、挨拶をする。
「父上、母上、この人がキエリさんです。」
「ほう、その子が‥‥‥」
「キエリです。初めまして、王様、王妃様」
キエリは、正しいお辞儀の仕方など分からないなりにも、ぺこりと深くお辞儀をする。
すると、王妃が穏やかに微笑む。
「緊張する必要はありませんよ。あ、もしかして、この人の顔が怖い? ごめんなさいね、この人、あなたが来るっていって緊張しているのよ。なにせ、フェリクスが好きな人を連れてくるなんて、初めてなものだから」と、気兼ねしないようにまるで世間話をするようにキエリに話してくれた。
緊張していると言われた王は、ハッとして眉間にできた皺を人差し指でもんでなくそうとしている。
「怖かったか!? うーむ、そんなつもりはなかったのだが‥‥‥」
キエリは、この夫婦がとても可愛らしく思えて、一気に緊張が吹き飛んでしまって、明るくにっこりと笑顔になる。
「ふふ、お気遣いありがとうございます。おかげで緊張がほぐれました」
それにつられるように、王妃も王も笑顔になった。
「いい子そうだし、とても可愛らしい人じゃないフェリクス! ふふ、小さかったあなたが恋をするときがきたのね‥‥‥」
「母上‥‥‥」
フェリクスが、恥ずかしさで顔が赤くなっているのか、手で顔を覆って隠している。
話を聞いていたゼノが、キエリを褒められて得意げになる。
「おほほ! いい子に決まっていますわ! だって、アタクシの娘ですもの!!」
「もうゼノ‥‥‥」
キエリも恥ずかしくなって顔が赤くなる。
王様がうん?と首を傾げる。
「ゼノ殿、そなた、子供がいたのか? しかも、このキエリさんがそうなのか?」
「‥‥‥血は繋がっていませんわ。ま、アタクシもいろいろとありまして、ね」
王は、少し考えこんだ後、また口を開く。
「そうか‥‥‥そなたは昔から不思議な人であった。奇抜な魔法の開発もしていたが、そなたの魔法の研究は、この国の発展に大いに貢献してくれた。そして、わしたちの息子の命の恩人だ‥‥そんなゼノ殿のご息女なのだから、心配はないな」
フェリクスとキエリが驚いて声をあげた。
「父上、待ってください! ゼノ殿が俺の、命の恩人?」
王と王妃が顔を見合わせて、あぁ、そうかと呟いた。
「そうだ、お前は幼かったから覚えてはいないかもしれんが、昔お前はからだが弱かっただろう? ついには病に倒れ、生死をさまよった時があって‥‥‥」
「もうっ王様! それは、昔の話ですわ! 今は今の話しをしまショ」
突然ゼノが話を遮るように割って入ってきた。
王が顔をしかめる。
「しかしなゼノ殿、フェリクスが目を覚ました後、そなたは突然行方不明となって礼もまともにできぬままだった。村で暮らしていたと聞いたが、何故あの時姿を消したのだ?」
ゼノはわざとらしくもじもじしだした。
「だってぇ、王族の命を救った! なんて目立っちゃうじゃないですか? ほら、アタクシってシャイだから‥‥」
「もう、そなたは十分に目立っていたじゃないか‥‥‥」
「アタクシだって、のんびり村で隠居したいお年頃だったのですよ!」
キエリは、じっと王とゼノの会話を聞いていた。
(違う‥‥ゼノはたぶんそんな理由で城を離れたんじゃない‥‥‥)
キエリの頭の中で何かが、繋がりそうな気がしたが、なんとなく、それには気づいてはいけない気もした。
「キエリ?」
意識が思考の渦に飲み込まれていたキエリを心配する声が頭上から聞こえてきて、キエリは我に返る。
安心する、優しい、好きな人の声。
「ごめんなさい、少し、びっくりしただです。まさかゼノがフェリクスさんの恩人だったなんて」
「あぁ、昔はたしかにからだが弱くて何度も父上と母上や使用人たちを心配させたらしいが、成長するにつれてなのかそんなことがほとんどなくなったんだ」
「おそらく、そのときにゼノ殿に助けられたのか‥‥」
ゼノは、王の追及が嫌になったのか「アタクシ、そろそろ失礼するわ、お祭り楽しんでこないと勿体ないもの!」と言ってそそくさと玉座の間を後にした。
王妃が頬に手をあてて浅くため息をつく。
「はぁ、どうにも避けられてるのかしら? むしろこちらは感謝してもしきれないくらいなのに‥‥」
キエリが王妃様の言葉に苦笑した。
キエリだけがゼノに秘密があることに気付けているが、それを他に人に話すことは憚られる。
「王妃様、ゼノが意外と恥ずかしがり屋なのは本当なんですよ。調子に乗ることが多いですが、たくさん褒められるとあの人、たじろいでしまうんですよ」
「まぁ、そうなの意外ね! あら、ごめんなさい立たせたままにしてしまって、よかったらお茶でも一緒にいかが?」
「はい、喜んで」
キエリは、この穏やかな雰囲気を放つフェリクスの父と母をすぐに好きになった。
フェリクスの父と母は、キエリの知らないフェリクスのこと、キエリもゼノとの生活をキエリの秘密をうまく避けながら話した。
話をすればするほど、父も母もフェリクスのことが大切で愛しているのが伝わってくる。
それは、キエリがずっと昔になくしてしまったものだった。
しかし、フェリクスの父と母もキエリによくしてくるので、嬉しさと寂しさが均等にキエリの心に生まれていた。




