安らぎ
城下街は活気づいており、道は人でごった返していた。
道のわきには出店が出ており、野菜や果物などの食べ物や生活必需品、アクセサリーやお土産品、とにかくなんでも売っている。
あまりの人の多さにキエリはきょろきょろしていたら人に流されそうになり、みんなとはぐれそうだったので、ルナが手を握ってくれた。
キエリは、ちょっと子供扱いされてるかなと思ったが、ルナの優しさが嬉しくて、そのまま手を繋いでいた。
フェリクスが言っていたお店に行き、一緒に食事をした。
そこでたくさん話をして、お互いの距離をより縮める。
フェリクスとソールとルナは幼馴染でずっと一緒に過ごしてきたこと、魔獣の簡単な言葉の話し方、ゼノが昔した魔法の実験の失敗、実はフェリクスは昔泣き虫だったこと、そのお返しにソールは蜘蛛が大の苦手だということ、三人で昔したしたいたずらだとか、本当にたわいもない話をした。
キエリは、笑ったり、驚いたり、表情がくるくると変わるのに忙しかった。
日が暮れる頃、キエリたちはまた出店が並ぶ道を歩いていた。
すると、突然ソールがわざとらしく何かを思い出したように、あ!と叫んだ。
「そうだ、そうだ、オレとルナはまだ団長に報告しなきゃいけないことがあったんだったー」
ソールがルナの腕を掴む。
ルナは、は?と確実に言っていたが、ソールが目くばせすると、これまたぎこちなく「あー、そ、そうだったー、私としたことが、うっかり、うっかり」と言い出した。
「じゃ、オレ達先に行くわ」と手を振って、そそくさと人ごみをかき分けて二人は見えなくなってしまった。
「ん? ソールさんとルナさんどうしたんだろ?」
「あの二人は‥‥‥はぁー‥‥」
ため息をついたフェリクスの顔をキエリが不思議そうに見つめていたら、フェリクスと視線が重なった。
キエリは、フェリクスにずっと普通に接していたのが、二人になったと思った途端に心臓が跳ねてどぎまぎしてしまう。
「キエリさん、出店を見てみるか?」
「は、はい」
キエリは、フェリクスの視線に耐えきれなくて、思わずうつ伏せてしまった。
(うわぁ、なんだろ、急にフェリクスさんの顔が、見られない!)
そう思って俯いて歩いていたら、フェリクスに名前を呼ばれた。
「キエリさん」
「は、はい!」
「離れると大変だから、俺の服の裾でも掴んでくれると助かるのだが」
「わかりました‥‥‥」
キエリは、フェリクスの左腕の服の裾を遠慮したようにちょこんと掴んだ。
「あそこの店にきれいなアクセサリーが売っているようだ、見てみるか?」
フェリクスは背が高い分人ごみの中でも周りが良く見えるようだ。
キエリがこくりと頷くと、フェリクスはにこりと笑って歩き出す。
フェリクスが人をかき分けてくれるが、それでも人は多い。
「フェリクスさん、いつもこんなに人が多いんですか?」
「いや、実は明日から祭りが行われるんだ。だから、人や行商人たちがこの街に集まっているんだよ」
「お祭り? あの、花火とか、着飾った人たちがねり歩く、あのお祭りですか!?」
キエリは目をキラキラさせながら、経験したことのない響きに心躍らせる。
「ああ、一緒に見に行こうか、きっと楽しいよ」
振り返ったフェリクスがふふっと笑う。
それを見ると、キエリの心臓がまた強く跳ねる。
キエリの足がふいに止まり、フェリクスの服の裾から手が離れる。
「どうした?」
「‥‥‥あの、手を握ってもいいですか?」
「え?」
キエリが自分の発言がおかしなことに気付き、慌てて訂正する。
「すっ、すみません! わたしっ、おかしなこと‥‥‥そう! 裾を持ってたら、伸びちゃうかなって!」
キエリの顔はもう恥ずかしさで耳まで真っ赤になってしまっている。
(あぁ、なんでこんなこと言っちゃったかな!)
「キエリさん」
フェリクスがキエリに手を差し伸べる。
「いいんですか?」
「もちろんだ」
キエリがフェリクスの手に自分の手を重ねるとフェリクスはキエリの手をそっと優しく握った。
フェリクスの手が自分の手よりもかたくて、大きくて、男の人の手だな、なんて思った。
「行こうか」
(熱い‥‥‥フェリクスさんの手を握っていると、からだ全部が熱くなる)
(でも、心臓がバクバクするけど‥‥‥心地いい?)
キエリがそんなことを考えていると、キエリとフェリクスは出店の前に着いた。
(もう着いちゃった。手、離さないとかな)と、キエリは考えていたがフェリクスが手を離す様子がなく、キエリも、そのままにした。
キエリは、心臓はまだ落ち着かないが目の前のアクセサリーに思考を移した。
「とてもきれいですね、指輪にブレスレットに‥‥‥あ、これ」
ひとつのネックレスに目が留まった。
「このネックレスについてる石、フェリクスさんの瞳の色に似ています。落ち着くような琥珀色‥‥とってもきれい」
キエリは、自然と笑みがこぼれた。
フェリクスが少しだけ握る手をぎゅっと握り直すと、キエリも何も言わず握り返した。
「こっちは、キエリさんの瞳の色に似ているな」
「本当ですか? うふふ」
キエリが嬉しそうに笑う。
「どうした?」
「わたしの瞳って、こんなにきれいな風で見られてるって思ったら、嬉しくなっちゃいました」
「俺もだよ」
フェリクスがまっすぐキエリを見て、言葉を返したので、キエリはまた気恥ずかしくなって、またアクセサリーに視線を戻した。
(フェリクスさん、こういう贈り物って好きじゃないかな? 男の人だもんな‥‥‥)
(フェリクスさんの瞳の色のネックレス、素敵だな、見てたらなんだか安心する)
しばらくキエリは見ていたが、結局キエリもフェリクスも何も買わずに出店の商品をなにとなく見て回った。
その間、二人の手は繋いだままだった。
「フェリクスさんは何か買わなくてよかったんですか?」
「俺は、いいよ。キエリさんはよかったのか?」
「はい、見てるだけでなんだか満足してしまいました」
(お世話になったみんなにプレゼントしたいけど、あとでこっそり買ってびっくりさせちゃおう)
キエリとフェリクスが城に向かって歩いて行く。
城の近くまで来たところで、フェリクスは、足を止めた。
「キエリさん、少し時間をもらえないか?」
「もちろんです‥‥‥」




