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【完結】オオカミはフードを被る  作者: Nadi
オオカミはフードを被る

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24/99

参上

区切りのいいところで分けて投稿しているので、今回は少し長くなってます。

 キエリは、馬車の中でフェリクスとルナ、ソール、そして、まさかのインテルと一緒だった。

キエリが馬車の窓から外を見ながら質問する。


 「王都まであと、どれくらいですか?」


ルナが答えてくれる。


 「そうですね、問題なくいけば、二日といったところでしょうか」

 「王都についたら、お手紙だしてもいいですか?」

 「村の皆さんにですか?」

 「お別れが言えなかったので、みんな心配してるんじゃないかって‥‥それに、ゼノも」

 「そう、ですよね‥‥」


キエリは、寂しそうにまた馬車の窓から外を見る。


キエリのしっぽと耳はしゅんとして下がっている。


 ソールが暗くなった空気を明るくしようとして、キエリに明るい笑顔で話しかける。


 「キエリさん、王都で行ってみたいところってありますか? 案内しますよ!」


キエリは視線を窓から外して、ソールのを見る。


その顔には笑顔が戻っていた。


 「そうだ、フェリクスさんがおいしいお店に連れて行ってくれるそうなんですよ! みなさんもどうですか?」

 「ほーぅ、フェリクスがですか」


ソールが隣に座るフェリクスをニヤッとしながら横目で見るが、フェリクスはそっぽを向いている。


 (最初は一緒に行って、それから二人きりにしてやろう)


ソールは親友の恋路を応援するために、ちょっとした計画を心の中で計画した。


 「いいですね! 行きましょう! な、ルナも」

 「そうですね、キエリさんと行ってみたいです」


にっこり笑って、嬉しそうにするキエリのしっぽが揺れる。


だが、キエリの次の言葉で、フェリクスとソールとルナはぎょっとする。


 「ね、インテルさんも行きませんか?」


キエリに無邪気に話しかけられたインテルは、けだるそうにゆっくりとキエリを見る。


 「なぜ?」


あのインテルが会話をする姿勢をとっているということにキエリ以外の三人は驚く。


 「もちろん、一緒にお出かけをして、皆さんのこと知りたいし、わたしのことも魔獣のことも知るいい機会だと思うんです」


確かにそうは言っていたけれど、矢で射抜いて、殺そうとしてきた相手によくそんなことが言えるな、と三人は思った。


 「何故私が仲良くあなたとお出かけなど、しかも副隊長や部隊長達付きで‥‥嫌ですよ」


当然の返事が戻ってきた。


 「じゃあ、誰とどこに行くんだったらいいのですか?」


キエリは、意外と鋼の精神のようだ。


周りからしたら、この会話を聞くだけで息が詰まる。


 「少なくともあなたと何処かに行くつもりはない」


うーんとキエリは考えこむ。


 「どこにも‥‥じゃあ、インテルさんの家?」


三人がキエリの呟きにからだがびくっとする。


 「でも、インテルさんは家に入れてくれなさそうですね」と、呑気に笑う。


インテルは、腕を組み、壁にからだをもたげて、大きなため息をつく。


 「わかってるなら、そんな馬鹿な考えは言わないでください」

 「馬鹿な考えじゃないですよ! よく村では、おばさまやおじさまの家にお邪魔して楽しい時間を過ごしましたよ。おしゃべりとか料理したりして」


フェリクスが頭を抱える。


 「キエリさん、それは見知った村の人でしょう? よく知らない男の家に一人で行こうとするのとはわけが違う‥‥」


キエリはぴたっと止まる。


見る見るうちに顔が赤くなり、しっぽをもって顔を隠す。


 「すみません。そういうつもりで言ったわけでは‥‥」

 「言っておきますが、私はその魔獣を女だと思ってないですよ。それを差し引いてもあなたのことは好きません」

 「は、はは、そうですね、うん、そうですよ。わたしもインテルさんのことさすがにそんな風には見てませんよ」


実にのほほんとした様子で話すキエリをルナが本気で心配そうにする。


 「キエリさん、大丈夫ですか? 変な男に騙されたり、付きまとわれたりしてないですか? そんな奴がいたらすぐに呼んでください。ねじ伏せますから」

 「そ、そこまで心配しなくても大丈夫ですよ!」


 たわいもない会話をしていると、ダンッという音が馬車の屋根の上からした。


何の音だと馬車に乗る全員が警戒し、身構え上を見る。


 「おりゃああああああ!」


叫びと共に屋根が破壊され、木くずとかした屋根の一部が馬車の中に落ちる。


馬車は吹き抜けになり、破壊された部分から青い空が見えた。


 馬車が急停止し、馬車の操縦をしていた団員が何かを叫んでいる。


どうやら、屋根の上に誰かいるようだ。


フェリクスが急いでキエリに外に出るように言ったが、屋根の上にいた人物が馬車の中に降りてくる方がはやかった。


 「シュタっと」


降りてきたのは、カールした金髪をもち、露出度の高い服を着た女性だった。


 「ゼノ!」

 「この方がゼノ殿!?」


ルナが驚いて目を見開く。


他の人間もゼノという人物がこんな感じの風貌だとは考えていなかった。


 固まっているみんなの顔をゼノはふーんと言いながらじっくりと観察し、フェリクスの顔を見とめた途端、なぜか表情が驚きと暗く悲しい表情を見せた。


しかし、ゼノがキエリの方を向いたときは、キエリを心配する顔になっていた。


 「あぁ! アタクシのかわいいキエリ大丈‥‥んん!?」


キエリの耳は魔獣の耳に戻り、しっぽがでている。


ゼノは、そのキエリの姿を見るなり、悟ったように顔に悲しみの色が表れる。


 「‥‥ばれてしまったのね。アタクシの魔法も万全ではなかった‥‥ということね」

 「ゼノは悪くないよ、これもわたしがへましちゃって、聖水をかけられてしまったから」


ゼノがまた騎士団員のみんなを見る。


その顔はにんまりと笑っているが、喜びから来る笑顔ではもちろんない。


ソールがゼノの怒りを感じ取れて、何とかこの場を収めようと敵意のない笑顔でゼノに話しかける。


 「初めましてゼノ殿、オレ達は‥‥」

 「うるさい」


ゼノが馬車の床を思い切り踏みつけると、たちまちそこから暴風が巻き起こり、なんと馬車は暴風によって破壊され、さらにソール、ルナ、フェリクス、インテルは外に投げ出された。


ゼノとキエリはそんな暴風の中でも無傷でいた。


 「ゼノ、待って! あの人たちは敵じゃない!」

 「キエリ‥‥アタクシはね、ずっと心配だったの。アナタは賢いけど純粋すぎるから、いつしか人間に騙されて取返しのつかないことに巻き込まれるんじゃないかって‥‥でも、現実になるなんて」

 「違うってば! わたしは騙されてこの人たちと一緒にいるわけじゃない! 自分の意志でここにいるの」

 「アナタの意志で‥‥?」


ゼノがキエリの訴えに耳を傾けていると、ひゅんと風が切れる音とがした。


ゼノに向かって矢が飛んできた。


しかし、ゼノはその矢をまるで小さな虫を払うかのように、空中で手の平で払うと矢はばきばきに折れて地面に落ちた。


暴風の衝撃で飛ばされたインテルが弓矢でゼノを狙ってたのだ。


 「いっインテルさん、ゼノを狙わないでください! 彼女を説得しますから!」

 「そんなの待っていられませんね、すでに馬車が一台駄目になっていますし、明らかに彼女は危険です」


他の騎士団員たちも馬車を止めて続々と現れ、戦闘態勢をとってキエリとゼノを囲む。


 「あらん? キエリ、この人たちってば、このか弱いアタクシとキエリに刃を向けてるわよ。それでも、騙されてはいないと?」

 「それは、ゼノが馬車を壊してみなさんを吹き飛ばしたからだよ!」

 「ふぅん‥‥」


ゼノが周りをぐるりと見渡すとフェリクスと視線がカチッと合った。


フェリクスは、ゼノの自分に向ける不思議な視線を感じながらも、ゼノの説得を試みる。


 「ゼノ殿! 説得力がないかもしれないが、俺たちはキエリさんの敵じゃない! キエリさんは、魔獣の研究に協力してくれるといって、俺たちについてきてくれたんだ!」


ゼノの眉がぴくりと上がった。


そして、小さくため息をついた。


 「キエリは王都に行かない」

 「なっ?」

 「もう一度言いましょうか? キエリは王都に行かない」


キエリが顔を曇らせる。


 「ゼノ、書置きも何もせず出ることになってごめんなさい。けど、これはわたしがやりたいことなの」


ゼノは腰に手をあて、次は大きなため息がでる。


 「だったら、アタクシが協力してあげる。国の魔法使いも知らないようなコトいーっぱい知ってるしね、だからキエリ、アナタは帰りなさい」

 「なんで? なんで、そんなこと言うの? ゼノは、わたしに王都に行ってほしくない何かがあるの?」

 「そうよ、アナタは王都に行くべきではないわ」

 「ゼノ、何か‥‥隠し事してる?」


ゼノは、キエリには何でも話してくれていた、とキエリ自身は思っていた。


しかし、それはそうキエリが思っているだけで、キエリは本当はゼノのことを全て知っているわけではないことに、もうキエリは気づき始めていた。


 ゼノは、困った顔をしたが、キエリから目をそらさなかった。


 「そう‥‥ね、アタクシはほんとは隠し事だらけ、でもこれはアナタを愛しているが故なのよ」


その言葉は、どうしても嘘であるとはキエリは思えなかった。


 「全員武器をしまえ! 馬車の中で待機してろ!」


騎士団長のマギが、ゼノとキエリの前に歩み寄ってきた。


 「ゼノ殿、おれはこの騎士団の団長マギだ。キエリさんは、おれたち人間にとって貴重な存在だ。キエリさんにも協力してほしい」

 「んふふ、騎士団長さん、随分この騎士団の人たちはお耳が遠いようね。言ったでしょ、キエリは行かないの。それに、あなたがどう思おうがどうでもよくてよ。せめてもの情けで、アタクシが手伝ってあげるって言っているのだから、それで満足なさい」


ゼノは、口調は柔らかに話すのだが、言葉は棘を持っている。


マギは、頭をかいてため息交じりにうーむと唸る。


 「ゼノ殿、あんたキエリさんの育ての親なんだろ? 心配なのはわかるが、おれたち騎士団ががキエリさんの身の安全は保障する」

 「‥‥‥さっきからね、気になることがあるの」


マギが眉をひそめる。


 「キエリの服、肩のところにまるで穴が開いていたかのように繕ってあって、しかも洗い流せなかったのか、血もついてる。それに、キエリの身体まわりの魔力、誰かに魔力を使われた形跡があるのだけど、これはどういうことかしら? 肩に、手首にも、足首にも、まるで肩は鋭い何かで突き刺されて、手首と足首は枷でもつけられたような‥‥」


ゼノの顔は笑みを浮かべたままだが、周りの空気がどんどん冷えていく。


 (ゼノが、怒ってる!)


キエリは、ゼノが怒ったところなど見たことはなかった。


だが、このぴりつく感覚は、ゼノが騎士団がしてしまったことに対する怒りがあふれていることはすぐにわかった。


キエリはゼノの腕をぎゅっと握り、落ち着かせるようとする。


 「ゼノ! 落ち着いて! ほら、今はすっかり治ってるから、ね?」

 「キエリ、傷というのは表面的なものだけじゃないでしょう? あなたもそれはわかるでしょう?」

 「‥‥‥」


 (ドラゴンが騎士団のみんなを治した時、みんなはすぐには許してはくれなかった。心に傷を負ったからだ。‥‥‥確かに、捕まったとき、すごく怖かった。死の恐怖がすぐ隣にあって、村から連れていかれて、未来がわからなくて、不安でどうしようもなかった‥‥‥)


 キエリが言葉に詰まっていると、インテルがゼノたちの前まできて、話し出した。


 「その魔獣に枷を付けたのも、弓矢で肩を射抜いたのも、私ですが、何か問題でも?」


なんと、キエリにしたことを堂々とゼノの目の前で告白した。


キエリは、驚いて声を上げる。


 「インテルさん! なんでそんなこと言ってしまうんですか!?」


インテルは無表情で淡々と話す。


 「何故って、事実だからですよ。ゼノ殿は、知りたがっていたようなので」


ゼノの表情がより冷たくなる。


 「正直に言ったことだけ、褒めてあげる。でもぉ、別にアナタだけの行いではないでしょう? 騎士団全体の愚行なのよ」


ちらりとマギの方を見る。


マギはその通りなので、顔をしかめたままでいる。


 「愚行、ですか‥‥‥人に化けた魔獣を野放しにしておく方が、騎士団員として一番の愚行です。まぁ、この魔獣をかくまっていた張本人のあなたとは考え方が全く合わないでしょうがね」

 「そのようね、まともな人間なら、すぐにキエリに危険はないとわかるでしょうし、拘束なんてしないから」


 「もう! いい加減にして!!」


キエリが二人の間に割って入り、二人を怒鳴りつけた。


キエリがこんなに声を荒らげたのを聞いたことがなく、その場にいた全員がびくついた。


キッと二人をにらみつける。


そして、ふぅーっと息を吐き、冷静に話す。


 「ゼノ、確かに、連れていかれる時、怖くて、不安で、どうしようもなかった。でも、今は違う、一緒の時間を過ごして、大変なことも経験して、少しだけ、騎士団の人たちとお互い歩み寄ることができたの。だから、もういいの!」

 「インテルさん! 火に油を注ぐようなこと言わないでください! もし、わたしにしたことを気にしているなら、もう必要ないですからね!」


インテルが苦い顔をする。


 「どうしてそのような結論に至ったのか、あなたの頭を開いてみてみましょうか?」


インテルは、苦々し表情で物騒なことを言ってキエリを脅すが、キエリはいたって真面目に返答した。


 「だって、わざわざぶり返す必要のないことをしかもわざわざ怒っているゼノの前で言ったのだから、少しは気にしているんじゃないかと思ったんです。違いました?」

 「‥‥‥違いますね」

 「本当ですか! 気にしてないならよかったです!」


キエリは、しっぽを左右に揺らし、少し嬉しそうにしている。


 「理解できない‥‥‥」


インテルは頭を抱え込み、うなだれる。


そのやりとりを見ていたゼノは力が抜けたように、少し笑った。


 「んふふ、キエリってば、いつのまに男の扱いがうまくなったのかしら? さっすが、アタクシの娘だわん」


ゼノは、キエリの頭を撫でて、得意げにしている。


キエリは、撫でられて嬉しいのがしっぽにでるが、ゼノの言葉の意味が理解できず、きょとんとしている。


 「アナタ、インテルだったかしら? キエリとこんなにお話ししてるってことは、キエリに対しての認識が変わったようね。キエリに免じて許してあげる。むかつくけど」


インテルは、歯を食いしばって苦虫を嚙み潰したような顔をしたが、キエリに思考が翻弄されて少しダメージ受けたようにふらふらしている。


 「あなたに許してもらうことなんてありません」


そして、最後にそう吐き捨てて無事な馬車の中に入って行ってしまった。


 「ふぅー、なんだか気が抜けちゃったわ」


まだゼノはため息をつきながら、キエリの頭を撫でている。


 マギは、過保護な魔法使いをどうしたものかと思案を巡らせている。


 一連のひと悶着を少し離れて見守っていたフェリクス、ルナ、ソースが心配そうな面持ちでキエリたちのもとに来た。


キエリが何か思いついたように耳がぴんと立つ。


 「そうだゼノ、わたし、お友達ができたの! 一番背が高くていつも優しくて助けてくれるかっこいい人がフェリクスさん、いつも明るくて話題がたえなくて太陽みたいなソールさん、それにしっかり者で美人さんで気遣い上手なルナさん! みなさんとてもよくしてくれたんだよ!」


キエリがとても嬉しそうに飛び跳ねながら、ゼノに紹介する。


フェリクスとルナは突然褒められて恥ずかしくなるが、それと同時に本当はキエリはこんなに元気な子なのだと思った。


 「キエリさん! オレ達をそんな風に思っててくれたんですね! ありがとうございます!」


ソールは褒められても、そのままそれを受け止めているようで、素直に喜んでいる。


こういうところが、ルナとフェリクスの二人からしたらうらやましいところだ。


 ゼノは、キエリが嬉しそうにその三人を紹介する様を見て、いや、フェリクスを見て、また悲しそうに、先ほどよりも辛そうな表情をした。


ゼノからの反応が戻ってこないことに、キエリが不思議に思って振り返ってゼノ?と呼ぶと、ゼノは何でもないわと言って笑顔をに戻った。


 「それで? どの子がキエリに惚れてるの?」


えぇ!?というびっくりするほど大きな声がキエリから飛び出た。


三人もまさかの発言に肩がびくっとする。


キエリがあわあわして、顔を真っ赤にしてしどろもどろになりながらも、ゼノに釈明しようとする。


 「ななな、なにを言い出すの!? この人たちはお友達! なっ、なんでそんな話になるの!?」

 「だってぇ、キエリはかわいいし、優しいし、キエリのことを魔獣だと知っても仲良くしてくれる、なーんて好意的な姿勢を見せるのは‥‥‥」


 「もう、それ、好き、じゃん!!」


ゼノは、なんともふざけたような物言いで力強く言い放った。


ルナが咳払いをして、冷静を取り戻す。


 「それは、もちろんキエリさんのことは好きですよ、友人として」


マギがやれやれといった様子でゼノを窘める。


 「ゼノ殿、だいぶ話がそれちまった。今話すべきは、こいつらの恋愛話じゃなくて、キエリさんが王都に行くかどうかだろ?」

 「それは、もちろん反対、プラス! この子たちの恋愛話はアタクシにとって重要なの! 特に!」


ビシッとゼノが指を差した先はフェリクスであった。


 「アナタ、この国の王子よね?」

 「え!?」


キエリだけが驚きの声を上げた。


フェリクスを含め、他の騎士団員たちは、否定する様子もない。


どうやら、他の騎士団員たちにとってフェリクスが王子だというのは、周知の事実のようだ。


 「そ、そうなんですか?」


キエリが恐る恐る尋ねた。


 「キエリさん、今まで黙っていてすまない。俺は、フェリクス・エピメディウム・レックス、この国の王子だ」

 「そう、なんですね‥‥‥でも、なんで騎士団に?」

 「騎士団で数年間経験を積むことが決まりなんだ」


キエリは足の力が抜けたように、その場にへたり込んだ。


 「キエリさん!? 大丈夫か?」


フェリクスが膝をつき、キエリを心配する。


 「あはは、すみません。わたし、勝手にこの国の王族の人たちって怖い人かと思い込んでいました。やっぱり、直接会ってみないとわからないですよね。フェリクスさんはこんなに優しいのに‥‥‥反省します」

 「そうか」


フェリクスは、キエリが王族である自分のことを知っても態度が変わらないことにほっとした。


フェリクスは、顔を上げて、ゼノを見る。


 「ゼノ殿? 何故俺のことを知っているんだ?」


ゼノと会った記憶はない。


もしかしたら、王族が平民に顔を見せた時に見たのだろうか、とフェリクスは考えたが、思わぬ答えが返ってきた。


 「ま、フェリクスぼっちゃんが覚えていなくても無理ないわ。アタクシが城にいたのは、アナタが幼いときだけだったから‥‥‥」

 「まさか、ゼノ殿は王宮魔法使いだったのか?」

 「正解!」


キエリはここにきて初めてだらけの情報がどんどん出てくることに困惑する。


 「ねぇ、ゼノ、フェリクスが王子様だってことも、あなたが昔お城にいたこともわかったけど、結局何が言いたいの?」


ゼノは、キエリの質問を無視して考え込んでいる。


そして、真剣な顔になる。


 「フェリクスはキエリのこと好き?」


フェリクスは、話の見えないゼノの問いを不審に思ったが、ゼノの真剣な表情を見ると、重要な問いにも思えてくる。


だが、みんなの前でその答えを出すことはキエリにとっていいものかどうか考える。


しかし、すでにこの抑え込んでいる気持ちをどうすりこともできないというのも事実であった。


 考え込んで黙っているフェリクスを見て、キエリがゼノが無理に答えを出させようとしているのに、申し訳なさがわいてくる。


だが、もうひとつ、キエリの心の中に不安も生み出されていた。


 (フェリクスさん、何か考えてる‥‥‥わたしのこと好きじゃない? わたし、何考えてるんだろう、フェリクスさんわたしをどう思っているかなんて、どうしてこんなに気になるんだろう?)


 「フェリクスさん、そんな無理にゼノの質問を聞かなくてもいいです。」


キエリは、フェリクスの顔が何故か見られなかった。


 「ゼノ、時々変なこと言うんです。今だって‥‥‥」

 「違うんだ、キエリさん!」


言葉が遮られて、キエリがフェリクスの顔を見る。


フェリクスは、しっかりとキエリを見つめている。


 「キエリさん、今日、二人で話す時間をくれないか? その時に伝えたい‥‥‥」

 「は、はい」


周りはその態度で何を伝えたいかは一目瞭然であった。


ルナとソールは、二人を心の中で応援していた。


しかし、その中で、マギとゼノは、複雑な表情をしていた。


そして、ぽつりとゼノは本当に小さな声で呟いた。


 「これも運命なのかしら‥‥‥残酷ね‥‥‥」


 ゼノは、キエリの肩をがしっと掴んだ。


キエリは突然掴まれて、現実に意識が引き戻される。


 「キエリ!ちょー大変だろうけど、頑張りなさいよ!」


ゼノは、急に明るく振舞いだして、周りの人間は困惑する。


 「なっ、ゼノ結局何だったの?」

 「なんとなーく、キエリがどれだけもててるかなって、気になっただけよ~ん」

 「えぇ?」


キエリが眉をしかめて、じとっとした目でゼノを見る。


 「まぁまぁ、キエリ、王都に行くんでしょう? お耳としっぽ隠さないと」


ゼノの手が光をまとう。


すると、たちまちキエリの耳は人間のものになり、しっぽも消えてしまった。


 「え? ゼノ、反対しないの?」

 「もう、決めたんでしょ。アタクシがとやかく言うことじゃないわん」

 「さっきまで、だいぶとやかく言ってたじゃない‥‥‥」

 「それもこれも親心、純粋なあなたが都会で苦しまないかという心配がアタクシを突き動かしてしまったのよ‥‥‥」


すっかりゼノがおふざけに走ってしまったので、はぁ、とキエリはため息をついて立ち上がった。


 「本当にすみません、みなさん。ゼノが大変なことを‥‥‥」


キエリは、粉々になった馬車をちらりと見る。


ゼノは気にしていないようで、鼻歌を歌いながら、馬車の数を数えるように、指で馬車を追っている。


マギが、うーむと、どうしたものかと唸り、馬車わりをどうにかして、進むかと考えている。


 「うん、いけるわ」

 「なにが?」


ゼノがふふんとキエリに笑いかける。


 「なにって? 馬車で何日も移動なんて、お尻が痛くなっちゃうじゃない? だ・か・ら‥‥‥」


ゼノが掌をくるっと空中で回す。


ゼノが回した部分の空中が歪み、次第に歪みは広がり、そして、一気にキエリたちはもちろん、騎士団の馬車まで包み込んだ。


キエリたちと馬車は、道の真ん中から消えてしまった。

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