救出へ
時は少し遡り、キエリを騎士団が連れて行ってから数日たった頃。
「キエリー!!ただいまぁ、美しく秀才なアタクシが帰ってきたわよ!」
旅から帰ってきたゼノは勢いよく森の中の家のドアを開けた。
しかし、家の中からは返事どころか、人の気配すらない。
しかも、空気が少し淀んでおり、まるで数日間人の出入りすらなかったように思えた。
ゼノは危惧していたことが起こったのでは、と思わざるを得なかった。
「キエリ? キエリ!」
やはり、キエリからの返事はなく、家じゅう探してもいない。
「だぁー!! こんなことなら、じじぃどもの集会なんて無視して、アタクシも残ればよかったのよ!あぁ、でも情報が欲しかったし、でも、キエリより大事なものはないでしょ! アタクシのバカバカバカ!」
ゼノの今回の旅は、魔法使い同士の集会のためであった。
ゼノの知りたいことを知ることができるチャンスだったので、迷った末行くことにしたのだ。
「待って、村は? そうよ、まずは情報収集よ!」
ゼノは腕を空中でくるりと大きな円を描くと、空間が歪んだ。
空間のゆがみは光る円となり、ゼノを飲み込んだ。
飲み込まれたゼノは、村の中心の井戸の前に移動していた。
彼女は、旅に出る時も、この移動魔法を使って、様々な場所に行っている。
「さてと‥‥んん!?」
村に来て、一番最初に目に飛び込んだのは村の家が一度破壊されたのか修理された形跡があった。
「まさか、魔獣が村を襲った?‥‥それを騎士団が食い止めた?」
「あぁ! ゼノさん!」
ゼノの姿を見つけて駆け寄ってきたのは、村のおばさんだった。
他にも村人たちが駆け寄ってきた。
「ゼノさんよかった、キエリちゃんは? キエリちゃんは、ゼノさんのところにいますよね?」
ゼノが質問したかったことを逆に村人にされてしまった、ということは、キエリは村にもいない。
「いいえ、アタクシはついさっき着いたばかりなのだけれど、キエリは家に戻っている様子はなかったわ」
「あぁ、そんな、じゃあやっぱり」
「まず、何が起きたか説明してくださる?」
「‥‥魔獣が、突然村のど真ん中から現れたんです! それをキエリちゃんが退治してくれて‥‥」
おばさんは肩を震わせ、両手をぎゅっと握りしめ、恐ろしい魔獣を思い出していた。
しかし、実際にはキエリが、もちろん村人たちを助けるためでもあるが、おばさんが恐怖の対象としている魔獣を救い出そうとしていたことを、ゼノは想像するに難くなかった。
(あの子ったら、見ていられなかったのね‥‥)
他の村人の男性たちが話し出す。
「おれは、あの魔獣のせいで深いけがを負って、騎士団のテントに運んでもらったんだが、キエリが来て、俺たちの傷をすっかり治してくれたんだよ」
「でも、その後からキエリのこと誰も見ていないんだよ。騎士団の人に聞いても、あいつら、キエリは帰ったって言ってたんだが、嘘だったのか‥‥」
おばさんが、ゼノに詰め寄る。
「ゼノさん、あの子もしかして騎士団に連れていかれちまったのかね!? あたし、あの子に騎士団の人に見初められたらいいね、なんて呑気に言ったけど、それだったら、こんな何も言わずにじゃなくて、ちゃんと言ってくれるだろう!?」
「あぁ‥‥いつも笑顔でみんなの傍にいてくれたあの子がこんな形でいなくなっちまうなんて‥‥」
おばさんはしくしくと涙を流す。
ゼノは、優しい笑みを見せながら、おばさんの肩を叩く。
「大丈夫よ、マダム。アタクシが来たからには、キエリをすぐに取り戻しに行くわ。誰か騎士団の行先を聞いた人はいて?」
村の若い女性が答える。
「あたし、王都に行くって聞きました!」
「ありがとね。なるほど、なるほど、ま、馬車で大勢移動してるってなったら、まだ王都についてはないわね」
ゼノは、また手で空中に円を描く。
(キエリの正体がばれたのか、それとも、アタクシのかわいいキエリに一目ぼれした野郎がいるのかのどちらかね。どちらにしても、もし、キエリに酷いことしてたら‥‥消えてもらいましょう)
そして、ゼノの姿は村から消えた。




