覚悟
キエリは、馬車の中からドラゴンの出現を見ていた。
(あれは‥‥ドラゴン!?)
キエリは森の中でたまに魔獣に出会うことはあったが、ドラゴンは初めてだった。
地面に落ち、悶えるようにうねるドラゴンを見ると、キエリは心が苦しくなった。
(あの子も苦しんでいる。どうにかして、助けてあげないと‥‥近くに街があるし、あんなに大きなからだでもし街に入ったら‥‥!)
そう考えて、馬車の出入り口に手をかけてなんとか扉を開けようと四苦八苦していたら、外から扉が開けられた。
「フェリクスさん!?」
「キエリさん、ドラゴンが出現した。はやくここから逃げてくれ!」
フェリクスは、マギからもらった鍵でキエリの手枷と足枷を外した。
枷がついていた部分は赤くなっていて、それを見たフェリクスは申し訳なさそうな顔をする。
「すまない、痛かっただろう。馬車の馬を使って、村まで逃げてくれ」
キエリがハッとして、フェリクスの腕を掴む。
「フェリクスさんは? それに、ルナさんとソールさんも‥‥もしかして、みんなあのドラゴンを倒しにいくのですか?」
「‥‥そうだ。このままでは、街に被害が出る。何人もの人が死ぬ‥‥キエリさん、あなたもここにいたら危ない、だからっ!」
キエリがじっと真剣な眼差しでフェリクスを見る。
その瞳は澄んでいて、眩しくて、フェリクスは吸い込まれるような感覚がした。
「フェリクスさん、わたし、あの魔獣を止めます。だから、あの子に近づけるように手伝ってください」
「このまま、街の人たちも騎士団の人たちも、あの魔獣も、ソールさんもルナさんもあなたも‥‥誰にも死んでほしくない!」
彼女は決死の覚悟で訴えかけていることが、フェリクスにひしひしと伝わってくる。
キエリの言うとおりにすれば、仲間たちの気遣いを無視することになってしまう。
しかし、フェリクスは、全員助かってほしい、その望みを彼女ならかなえられるという確信があった。
「わかった。あのドラゴンに触れられればいいんだな?」
「はい」
フェリクスは、馬車から馬を離し、キエリを前に乗せてドラゴンに向かって馬を走らせた。




