襲来
翌日、また騎士団が王都ウルブスに向かって街から出発しようとしたときだった。
「うわぁ!」
「まさか、またか!?」
地響きがここ一帯を襲った。
村でもあったこの恐ろしい振動は、魔獣の出現を騎士団員全員に連想させた。
マギが響き渡る声で号令をだす。
「全員、戦闘に備えて準備! 隊を組み、魔獣の捜索にでるぞ!」
近くには街がある。街に村の様に魔獣がでれば、被害は免れない。
「団長、あそこ!」
フェリクスが団長に呼びかけ指を差した先、街からは離れた平地の空中に黒く大きな穴があった。
そして、そこから黒いからだと鱗が見える。
見えたのが一部だと考えると、全体の大きさは、ゆうに家屋よりも大きいことはわかった。
「ありゃあ、やべぇな‥‥」
大きな鱗はうねり、ついにはその爪を見せ、頭が現れ、長い首、広い翼、そしてしっぽと、全体が空中の穴から落ちてきた。
その姿は「ドラゴン」と呼ばれる魔獣であった。
ドラゴンは地面に抵抗もなく落ち、むくりとその巨体を起こすと鼓膜に直接響くくらいの咆哮をした。
「ぐああああああおおおおおおお!!」
「!!」
耳を塞ぐ騎士団員たちの顔が青白くなる。
以前、ドラゴンが出現したときは、街がひとつ潰れるほどの被害が出た。
なんとか当時の騎士団がドラゴンを討伐することができたが、怪我人もだが死者もそうとうな数が出た。
マギの額から汗が伝う。
彼はその当時の騎士団員の一人であった。
ゆえに、ドラゴンがどれほど危険なのか理解していた。
「5番隊と死にたくねぇ奴、街の住民の避難させろ、あとフェリクスもだ」
フェリクスは、驚いてマギを見る。
マギの目は、深刻そうにドラゴンを見つめたままだ。
「そんな‥‥俺に無様に逃げろというんですか!?」
フェリクスの声に怒りがにじみ、拳を握りしめ、震わせる。
「そうだ」
マギは揺らぎのない声で答える。
「おめぇも、もう餓鬼じゃねぇだろ。おめぇはおめぇだけのからだじゃねぇ。将来、この国をしょってかなきゃなんねぇんだからな」
それを聞いたフェリクスは、歯を食いしばり、俯き、悔しさに肩を震わせる。
「わかっています‥‥ですが、目の前で人が死ぬのを黙って見てはいるのは、俺にとって正しい行動とは思えません」
「かっかっか、おめぇは優しすぎるのがたまに傷だ‥‥言っとくが、おりゃあ別に死にいくわけじゃねぇぞ」
マギは、ほら、と言ってフェリクスに何かを放り投げた。
フェリクスが片手で受けとめ、手のひらを覗くと、それはキエリの枷の鍵だった。
「おれたちとはやり方が違うだけだ。とにかく、お前は目の前の命を守ることに集中しろ。ま、そのあとのんびりこいや」
フェリクスは、鍵を握りしめる。
フェリクスの顔は悲壮感が露になっている。
そんなフェリクスの背中をフェリクスが勢いで一歩進んでしまうくらい強く、ルナとソールが思いっきり叩く。
「なーにしょげた顔してんだよ! オレだって死ぬ気はないから!」
ソールがにへへっと眩しいくらいの笑顔を見せる。
「ソールはともかく、私や団長はそう簡単にやられはしない」
「はぁ!? 見てろよ! ドラゴンの足へし折ってやっから」
「楽しみだ」
ルナがこういう時に限って、冗談を言う。
フェリクスを気遣う二人の親友に恵まれて、フェリクスは、心底幸せ者だと思った。
「よし!行くぞ!」
団長のマギと副団長ルナ、部隊長であるソールやインテルらもドラゴン討伐に向かった。




