望まぬ離郷
インテルが王都に戻るうちに逃げてはいけないからとキエリに手錠と足かせがつけられ、その鍵はマギが持つことになった。
キエリは手の動きが制限され、走れなくなってしまった。
重く冷たい錠は、キエリの心に重くのしかかるようだった。
キエリたちは馬車に乗って、この国の王都であるウルブスへと出発した。
キエリは、村の人にお別れを言うこともできず、数年間過ごした土地を離れることとなった。
愛する人々が住む村が遠く、小さくなり、見えなくなる。
馬車では、マギとルナ、そして数人の団員と一緒だった。
ルナが隣に座って、励ましの言葉や心配をしてくれたので、心臓が押しつぶされそうだったのが、ほんの少しだけ気持ちが軽くなった。
(村が見えなくなった。もう、戻れないのかな‥‥ゼノ、心配するだろうな‥‥もし、わたしがこんなことになってるって知ったら、迎えに来てくれるかな‥‥)
馬車が物資補給のため、街にき、騎士団は、街の外れに天幕を張った。
キエリは、常に馬車の中にいるように強いられ、馬車の出入り口に見張りの騎士団員が一人立つことになった。
ルナやソールと比較的会話することができたが、フェリクスとは会話はほとんどできなかった。
周囲がそれを意図的にフェリクスとキエリを会話させないようにしているとしか思えないほどだ。
夜食をソールが持ってきてくれた時に話をしてくれた。
「すみません。キエリさん、あなたをこんな目にあわせてしまって‥‥」
いつも、明るい雰囲気を保っていた彼だったが、今は気持ちが沈んでしまって、まるで太陽に雲がかっているようだ。
キエリは、ソールの心配を取り除こうと穏やかに微笑む。
「大丈夫ですよ、こうやってソールさんやルナさん、それに、フェリクスさんもわたしを気遣ってくれているのがわかっていますから、わたしは心が潰れずにいられます」
キエリは、気にしないでいいという気持ちで言ったのだが、ソールの表情は曇りがかったままだった。
「フェリクスもあなたのことを気にかけてました。ただ、あいつは立場が特殊なんで‥‥こんな状況に追い込んでおいて、頼りないかもしれないけど、オレ達が何とかしますから!」
その言葉を聞いて、キエリはゆっくりと首を横に振る。
キエリは、状況は悪いままだが、時間がたって冷静になっていた。
もしかしたら、きっとゼノが気づいて助けに来てくれるという可能性があると考えた。
それに、魔獣だと知ってもなお、態度を変えずにいてくれるこの人たちがキエリを逃がすことによってかかる迷惑を考えると、心苦しかった。
「ありがとうございます。でも、お願いですから無理はしないでください。もしかしたらゼノが来てくれるかもしれませんから、あなた達の立場が悪くなるようなことはしないで‥‥特にフェリクスさんにそうお伝えください」
「ソール部隊長、そろそろ‥‥」
見張りの騎士団員に遮られ、ソールとの会話は中断された。
キエリは馬車の窓から外をぼーっと眺める。
(魔獣を警戒するのも憎いと思うのも、理解できる‥‥魔獣が人を傷つけているから)
(もし、本当にわたしが協力することで何か進展することがあるとしたら、わたしは協力するべきなの?)
キエリは、ずっと昔の記憶が思い起こされる。
(お父さん、お母さん‥‥わたしは、魔獣と同じようにすべての人が悪いとは思えない。でも、十数年経った今でも、心の整理が追い付かないの‥‥)
「あの人たちは、どうしてわたしに優しくしてくれるんだろう‥‥でも、優しさが温かい‥‥」
「わたしに、できること‥‥」
キエリは暗い馬車の中でぽつりと呟いた。




