詰問
天幕に戻ると騎士団長のマギが腕を組んで仁王立ちしていた。
「おい、インテル! おめぇ、会議をすっぽかしてどこ行ってたんだ? ルナたちがおめぇを探しに出てたんだぞ‥‥って、娘さん、か?」
「ふふふ、それについては申し訳ない、この姑息な魔獣の正体をいち早く暴かなければ、被害が出ると考えましてね」
団長が厳しい目つきでキエリをみた。強面のマギの目つきはキエリを委縮させてしまう。
「部隊長たち全員天幕に入れ、インテル説明しろ‥‥もちろん、娘さんもな」
天幕に団長、他の部隊長、そしてキエリたちが入り、天幕の中心にキエリが座らされ、まるで裁判が行われるようだった。
マギが厳しい面持ちで口を開く。
「それで‥‥娘さんは、何者なんだ?」
キエリはこんな状況で心臓が押しつぶされそうだったが、まだフェリクス、ルナ、ソールという味方がいてくれると思えば、気持ちが保てた。
唇が少し震えるが、一度噛みしめて、覚悟を決めた。
「魔獣です‥‥人ではありません」
「どうやって姿を隠してたんだ?」
「魔法で‥‥です」
「それをかけたのはあんた自身か? それともゼノ殿か?」
「!‥‥」
「おりゃあ、ゼノ殿かと思ってる。もし、あんたがかけた魔法だというのなら、今すぐそのしっぽと耳を隠してみてくれ」
(だめだ‥‥わたしにはできないのが、見透かされてる。わたしの正体がばれてしまったから、ゼノまで悪い状況で巻き込んでる‥‥)
キエリが黙りこくっていると、マギは大きなため息をついた。
「ゼノ殿にも、この問題について話してもらわないとな」
「んで、インテルはどうして気が付いた?」
インテルはにまぁっと口角を上げて目を細める。
「まぁ、初めは長年の勘でしたが、決め手は匂いですね。それからは、人間の匂いではなく変わった匂いがします。特に、それが魔法を使った時、顕著に表れます‥‥みなさんは逆になぜ気づかなかったのですか? あぁ、それの見かけに惑わされていたのか‥‥みなさん緊張感がないのですねぇ」
マギがイラついたように吐き捨てる。
「ったく、おめぇはいつも一言多いんだよ。まさか、こんな魔獣がいるとは誰も考えねぇよ」
「そんな考えでどうするのですか? 騎士団の目的は、魔獣の殲滅でしょう?」
「いいや違う、この国の民の安全を確保することだ。人間に被害を及ぼす魔獣を撃退することはそのひとつにすぎねぇ」
「魔獣を駆逐しなければ、本当の安寧は訪れませんよ‥‥」
空気がひりつく。
キエリは、この団長と部隊長の考え方の相違があることはわかったが、団長がどのような判断を下すかまではわからなかった。
重い空気の中、フェリクスが口を開く。
「団長、俺はこの魔獣が危険だと思えません」
「根拠は?」
「団長もご存じでしょう、この魔獣はずっとここの村を守っていた。村に現れた魔獣も一人で退けた。それに、騎士団員の治療も村人の治療もしました。敵ならこんな行動をするなんて、ありえない」
「うむ‥‥」
それを聞いた団長は、顎髭に手をあて考えこむ。
だが、それにインテルが口をはさむ。
「団長、忘れていませんか? フェリクス殿はどうやらそこの魔獣に好意を抱いているようで‥‥しかも、この魔獣、魔法を使うのでしたね、もしや、この魔獣のいかがわしい魔法で操られてる‥‥なんてことも‥‥」
「なんだとっ‥‥」
フェリクスの表情が一層険しくなる。
そんな視線も気にせずにインテルはルナに質問し始めた。
「副団長、確かこの魔獣に取り調べをしたんでしたよね? 結局なんでしたか、この魔獣が使える魔法は?」
ルナはハッとし眉間に皺が寄る。
ルナは、まだキエリの取り調べについての情報を誰かに共有してはいない。
インテルの質問は彼の鋭い勘から来たものか、どうにかしてキエリとの取り調べを聞いていたのかはわからないが、記録は残しており、嘘でごまかすことはできない。
「傷の治療を行う魔法と幻覚を見せる魔法だ‥‥」
周囲がざわつく。
ひそひそとまさかフェリクスが本当に幻覚を見せられていいように操られているのでは、と囁かれた。
キエリは、心臓が締め付けられるような、深い後悔に襲われた。
(まさか、こんな形でついた嘘がフェリクスさんを苦しめるなんて‥‥! わたしは幻覚を見せる魔法は本当は使えない。でも、使えないことをどうやって証明すればいいの!)
周囲がざわつく中、フェリクスがゆっくりと口を開いた。
「5番隊隊長、あなたなら幻覚魔法をとく方法をご存じですよね?」
5番隊は魔法での援護、戦闘を行う隊で、数は少ないが全員が魔法に携わっている。
その隊長がまさか自分に話がふられると思っていなかったようで、少し動揺していたが、しっかりと回答をくれた。
「幻覚魔法は強力ですが、外から強い衝撃を受けると大抵の場合解くことが可能です」
「強い衝撃というのは、深い怪我を負うということでしょうか?」
「え、ええ‥‥」
それを聞いたフェリクスは懐から短剣をとりだし、それをためらいもなく左腕に突き刺した。
「フェリクス!」
「フェリクスさん!!」
「ぐ‥‥はぁ、はぁ」
フェリクスは、激痛からか額から汗がふきだし、大量の血がどくどくと流れ出ている。
その場にいた人達がフェリクスに駆け寄る。
それを遠巻きにインテルが細い目を見開いて、冷や汗を流し、理解しがたいといった表情でフェリクスを見ている。
フェリクスは、駆け寄る人たちに大丈夫だと言って、インテルを見る。
「どうですかインテル殿? これでも俺がこの魔獣に操られていると?」
「は、はは、操られているよりも厄介な状況になっていることがわかりましたよ‥‥」
キエリが泣きそうになりながら、フェリクスの傷を見る。
「ごめんなさい‥‥わたしのせいでなんて無茶を‥‥今すぐ治しますから」
「いいや、また難癖付けられたらたまったものではない。傷薬でゆっくり治すよ」
それを聞いたマギが怒り出す。
「ふざけんな! おめぇは自分のからだをなんだと思ってやがる! さっさと治してもらえ、もう難癖なんてつけやしねぇだろ」
ちらりとインテルをにらむが、インテルは口をはさむ様子はない。
キエリは、短剣を引き抜き、急いでフェリクスの傷を治療した。
「‥‥っはぁー」
なんとか傷を完治させ、キエリは安堵の息を吐く。
「ありがとう、キエリさん」
フェリクスは、手を握って放すを繰り返して手が動くのを確かめて、キエリに微笑んでお礼を言った。
キエリは、フェリクスが大事ない様子なので少しだけ微笑んだ。
キエリのふさふさのしっぽがほんの少しだけ左右に揺れる。
しかし、キエリは、自分のついてきた嘘を思い出し、途端にしおれた花の様に耳としっぽが垂れ下がる。
(あぁ、もういっそこんなことになるのなら‥‥‥)
「みなさん、わたしはたくさん嘘をついていました。わたしは、わたしは幻覚を見せる魔法なんて使えないんです。魔獣に使ったのは、ただ、ある特殊な匂いを作り出す魔法です。インテルさんが言っていた匂いというのは、それだと思います」
話題に出されたインテルは不快というのが表情にでている。
キエリは、そのまま話を続ける。
「どうやって魔獣が出現するのか、わたしが本当は何をしていたのか、みなさんにお話しします」




