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【完結】オオカミはフードを被る  作者: Nadi
オオカミはフードを被る

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14/99

暴き

 キエリは、ルナとソールと別れ、天幕から出た。


すでに日が暮れていて夜になっているが、雲の切れ間から月の光が差し込むとあたりが明るく見える。



 キエリが寝ていた天幕に向かうその道すがら、見習い騎士のグロスと出会った。


彼は、命令違反をしてまで夜の森に入り、挙句の果てに怪我をして動けなくなっていたところをキエリが見つけて治療してあげた。


それから、姿が見えなかったが、どうしてかからだがぼろぼろだった。


 「あっ、キエリさん」

 「グロスさん‥‥でしたよね? その傷はどうしたんですか?」


グロスは、しょんぼりしながら答える。


 「きいてくれよーそれが、命令違反をしたせいで、こってりしぼられてさ‥‥」

 「そう、ですか‥‥」


キエリは、グロスには思いっきり腕を掴まれたことを思い出して、少し距離をとっている。


しかし、グロスは、人との距離間を狭くとる人のようで、キエリとの距離を詰めてきた。


 「そうだ! キエリさん、実は頼みたいことがあって、ちょっと手伝ってくれない?」


グロスはキエリに拝むようにして両手を合わせる。


 「なっ、なんでしょう?」


グロスのあまりの勢いに、キエリはつい、きいてしまった。


 「実は森の中で落とし物しちゃってさ、連れてってくんない? たぶんすぐ近いとは思うだけどさ、オレまた迷っちまうかもしんないし! な? な?」


どうしようかと悩んだが、グロスが拝むようにして必死で頼んできたので渋々了承した。


 「わかりました。いいですよ」

 「ありがとーう! 助かるよ!」


 (あれ? わたし名前をこの人に教えていないはずだけど‥‥これだけ目立ってしまったら、さすがに伝わったのかな)


グロスとキエリは一緒に森に向かった。


 「キエリさん‥‥とグロス?」


その二人の姿をフェリクスがちらりと視界にいれていた。




 「落とし物って何なんですか?」


 キエリとグロスは、森から少し入ったところに来た。


そういえば落とし物がなんなのか聞いていないと思ったキエリが振り返ってグロスの方を見た。


すると、突然、グロスに手を掴まれた。


キエリは突然のことに息をのむ。


 「なっ!? なんのつもりですか!?」

 「ごめんな、でも、確かめなきゃなんないことがあるんだ」

 「確かめる、こと?」


キエリが困惑した表情でいると、グロスは自身の服のポケットから小瓶を取り出した。


 「これ、知ってる? 聖水っていうんだ。人間には無害だけど魔獣が触ると苦しみだすんだ」


それを見た瞬間、キエリは全身に鳥肌が立った。


思い切り腕を引っ張るがびくともしないどころか、抵抗を始めた途端により力をこめられ、腕の骨が折れそうなほど痛い。


 「痛い! 離して!」

 「やっぱり、嫌がるってことは、あの人が言った通りなんだな! 今その正体を暴いてやる!」

 「やめて!!」


グロスが小瓶の蓋を親指で開け、中身をキエリにぶちまけた。


 「キャウウウウウゥ!」


 (痛い! 力が抜ける! 戻ってしまう!)


キエリはその場にうずくまった。


 「キエリさん!」


遠くからフェリクスの声が聞こえた。


こちらに向かう複数人の足音が聞こえる。


ソールもルナもいるのだろうか。


だが、キエリは今誰も来てくれない方が良かった。


 「こないで‥‥みないで‥‥」


キエリに森の木々の間から月の光が差し込む。


 「キエリさん‥‥なのか?」


キエリの人の耳があった部分にはオオカミのような獣の耳が生え、背の一番下の部分からしっぽが生えていた。


姿の変わったキエリを見て、グロスが勝ち誇ったように高らかに笑った。


 「ははっ、すげえや! やっぱり化けてやがった!」


ルナが困惑したようにグロスに詰め寄る。


 「グロス! 一体これはどういうことだ!? そこにいるのはキエリさん‥‥なのか?」

 「そうですよ、おいっ、隊長たちに顔をしっかり見せてやれよ」

 「あ‥‥ぐ」


グロスはキエリの髪を掴んで無理やり顔を上げさせた。


顔を上げると、フェリクスとルナとソールが驚愕した様子でキエリを見ていた。


キエリの目からとめどなく涙があふれてくる。


これは、隠していた秘密がばれたことによるものなのか、優しくしてくれた人に嘘をついていたことに対する申し訳なさなのか、これから身に起こるであろう事に対しての恐怖なのか、キエリには、もうわからなかった。


フェリクスたちの視線が辛くてたまらなかった。


 「こんな珍しい魔物の正体を暴いて、しかも、その首をとれば、オレも見習い卒業ですよね?」


グロスは、腰に差していた剣を取り出した。


キエリはもう、この人生がここで終わるのかと、ぎゅっと目をつぶった。


 (お父さん、お母さん、ゼノ‥‥ごめんなさい)


 「剣を下ろせ」


酷く冷たい声がグロスの行動を止めさせた。


目を開くとフェリクスが見せたことがない、ゾッとする冷たい瞳でグロスをにらみつけた。


しかも、腰にかけてある剣に手をかけている。


 「ひぇ!? で、でも」

 「聞こえなかったか? 剣を下ろせ」


グロスは威圧に耐えられずに剣を下ろして、鞘に収めた。


 「彼女から離れろ」

 「は、はぃい!」


完全にフェリクスを気迫にすっかり怖気づいて、へっぴり腰になってしまったグロスはさっさとキエリから離れた。


フェリクスがキエリに近づき、そっと横抱きに抱えた。


キエリに向ける瞳は、先ほどと違って優しかった。


 「あなたがずっと恐れていたのは、この秘密がばれることだったのか‥‥」


キエリは、こくりと頷く。


 「人ではなかったのだな‥‥」

 「わたしは‥‥魔獣です。隠していて、ごめんなさい‥‥」


キエリの肩が微かに震える。


フェリクスは、しっかりとキエリを抱きしめて、立ち上がった。


フェリクスがまた冷たい目でグロスを見る。


 「彼女は俺がもらい受ける。いいな?」

 「え? でっでも」


ソールがグロスの肩をぽんっと叩く。


 「ほら、縦社会だし、逆らわないほうがいいと思うぜグロスくん? それか、君が以前に起こした色々な規律違反を団長に報告してもいいけど?」


ソールはにんまりと意地の悪い笑みを向ける。


 「ひっ! そっそれだけは!」


よほど色々とやっていたのか、グロスは顔を青白くさせてソールに土下座する。


フェリクスが優しくキエリに告げる。


 「大丈夫、このまま森に帰してやるから」


キエリは、そんなことが許されるのかと驚いてフェリクスを見る。


 「どうして? 殺さないの?」


ルナもキリっとした表情は崩さないが、優しくキエリを見ている。


 「キエリさん、あなたは魔獣でも、人に危害を加えるとはわたしも思えません。今なら口止めが聞きますから、ご心配には及びません」


ソールが頭をかきながら、にぱっと明るい笑顔を見せる。


 「そそ、だいじょぶ、だいじょぶ! いやー、オレてっきり嫌われてるかと思ったら、そういうわけだったのか! むしろ、それが知れて良かったよ」

 「‥‥っ、本当にごめんなさい。あなた達に嫌な態度もとったし、嘘もついたのに‥‥ありがとう」


キエリは三人の優しさが染みて、ぽろぽろと涙が流れる。


 「おやぁ、まだ汚らわしい魔獣が息をしているではありませんか?」


突然、暗闇から不気味な声が聞こえ、フェリクスたちはその方向に身構えた。


そこには、蛇を連想させるような細目の男性が暗闇に立っていた。


 「あぁっ、インテル部隊長!」


グロスがインテル部隊長と呼んだ男性に駆け寄る。


 「部隊長! 見つけました。部隊長の言った通りにやったら、正体を現しましたよ!」


どうやら、キエリの正体を暴くように命令したのはあの男性らしい。


 「中途半端ですね。私は、あの魔獣の正体を暴き、殺せと命令したのですよ。どうして、まだ、あれは生きているのです?」

 「そ、それはその‥‥」

 「フェリクス部隊長、ソール部隊長、それに副団長まで、一体どういうおつもりで? それは、魔獣ですよね? 魔獣は排除すべき対象ですよ」


インテルが蛇のような目つきでキエリをにらみつける。


キエリは、ひっという悲鳴と共に固まる。


フェリクスの目つきが厳しくなる。


フェリクスたちは、魔獣に対する憎悪を隠しもしないこの男性が確実にキエリのことを殺そうとしていることを理解していた。


 (今無理にキエリさんを逃がしても、あの男のことだ、何が何でもキエリさんを追い詰めるだろう‥‥)


キエリは、目の前に再び現れた死に対する恐怖に身を震わせていたが、ぎゅっと目をつむり、呼吸を落ち着けた。


フェリクスたちから伝わる温かさのおかげで少しずつ決心がついてきた。


 (もう、これ以上この人たちに迷惑はかけれない‥‥魔獣だとわかっても、わたしに優しくしてくれた人たちに)


 「フェリクスさん、もう大丈夫です。これから、わたし一人で森に抜けます‥‥ご迷惑をおかけしました」


ルナが振り向いてキエリを辛そうな顔をして見る。


 「キエリさん、何を言うんですか‥‥! あなたは知らないだろうが、たとえ今逃げられても、インテル部隊長は、きっと森を焼き払ってでもあなたを探し出してころしてしまうでしょう。そういう男なんです」


キエリは、多少動けるようになり、フェリクスに地面に下ろしてもらった。


そのまま、フェリクスから離れようとしたが、フェリクスは、キエリの手を掴んだまま離さなかった。


そして、キエリに囁いた。


 「キエリさん、俺たちを信じて今はあなたのことを任せてくれないか?」


キエリがフェリクスの瞳を見つめる。


強い意志を感じさせる温かい瞳、どこか懐かしさを感じさせるこの人をキエリは信じてみたかった。


 「‥‥‥はい」


キエリは静かに答えた。


フェリクスは、ありがとうとキエリにお礼を言って、インテルの方を向く。


 「インテル部隊長、この魔獣はこのまま、ウルブスに連れていく」

 「ははぁーん? 何を言い出すのですか? それは魔獣ですよ、なぜわざわざ王都に連れていく必要があるのですか?」

 「この魔獣は明らかに今までの魔獣と違う、人の言葉を話し、ほとんど人間の姿でいる。それなら、王都にいる国の魔法使いたちに研究対象として連れ帰った方がいいだろう」

 「ほぉーう‥‥」


インテルは蛇が笑うように口元に弧を描いているが、目の暗さは疑いと殺意をにじませている。


 「まさかとは思いますが、その魔獣に情が湧いたのではないでしょうね? あなた達はよくその魔獣と話していましたから」


キエリはきゅっと唇を結ぶ。


 (この人はいつからわたしのことを疑っていたんだろう‥‥)


 「魔獣と知らなかったからな」

 「まぁ、それもそうですね、私以外誰も気づかないくらいそれは正体を隠していましたから‥‥なんと小賢しいことか」


インテルは、憎々しいと言わんばかりの表情でキエリをにらみつける。


 「ふふふ、まぁ、いいでしょう。今すぐ殺したいところですが、あなた様に逆らうなんてしませんよ‥‥それに‥‥」


インテルがキエリに冷たい笑みを見せ、キエリは背筋が凍った。


 「それは小賢しくも人間の言葉を話すようですから‥‥じぃっくりきいてみたかったんですよ、魔獣は一体何を考えて生きているのか。拷問もしてみたいですね、化け物でも痛みは感じるのか、知れますから」

 「ちなみに、移動中はもちろん拘束具をつけさせてもらいますよ。逃げられては困りますから‥‥さ、行きましょうか」


インテルに促され、フェリクス、キエリ、ルナ、ソール、あとはインテルの後ろにへこへこしながら歩くグロスが天幕に戻った。

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