疑い
フェリクスは、疲労で動けないキエリを横抱きにして森を抜けた。
キエリはその間、からだをこわばらせ、ぎゅっと目をつむっていたが、フェリクスが大丈夫だからと声をかけてくれた。
騎士団の天幕についたとき、やはり周りの視線は痛かった。
しかし、フェリクスは気にせずキエリを抱えたまま歩いていた。
キエリは、昨日泊った天幕で待っているように言われ、その場にひとり残された。
拘束具などで縛られることはなく、逃げ出そうと思えば、村の復旧や怪我人の手当てで忙しい合間を抜けて、明るいうちは難しいかもしれないが夜なら逃げ出せそうだ。
(本当に拘束しなかった)
(わたしが逃げ出さない、と思ってるの?)
キエリは、フェリクスの考えがわからないでいた。
しかし、キエリの意思とは関係なくキエリのからだは疲れて鉛の様に重くなり、クッションに倒れこんだ。
「これからどうしよう‥‥お父さん、お母さん、ゼノ‥‥」
キエリは、気絶するように重たい瞼を閉じた。
その夜、騎士団長と副団長、そして各部隊の隊長たちが、招集された。
ルナは副団長、フェリクスは1番隊隊長、ソールは2番隊隊長だ。
議題は、村の被害状況とそしてキエリについて。
この騎士団の騎士団長は貫禄のある、豪快な雰囲気をもつ男性で、名前をラディウス・マギという。
マギが口を開き、会議が始まる。
「んじゃ、まずは被害報告だ」
ルナが報告をまとめた紙に視線を落とす。
「はい、まずは村の被害ですが、家3軒が半壊、けが人は16名、内重傷者が3名今天幕で治療を受けています」
「次に、騎士団の被害は‥‥ゼロです」
周りが黙り込む、この被害ゼロはキエリが魔獣を一人で何とかしてしまったが故の数字だ。
それを、ここにいる全員がわかっている。
団長のマギが頭を抱える。
「あの娘、キエリが、あの魔獣を一人で大人しくさせちまった、のか」
ソールが大げさに話す。
「いやぁ、驚きでしたね! 魔法なんですかね? ぱぁーっと光ったかとおもえば、見る見るうちに魔獣が大人しくなりましたから」
フェリクスがそれに続いて話す。
「彼女がいなければ、より深刻な被害が出ていたでしょう」
マギが顎髭をじょりじょりとさすって、考え込む。
「果たして、あの娘はこの国にとって味方か敵か‥‥確保はしたのだろう?」
「俺は、彼女の今までの行動や村人から聞いた彼女の行動から考えても、彼女は味方だと考えています」
フェリクスが真剣な眼差しでまっすぐマギを見る。
「だが、魔獣を大人しくさせた魔法も疑問が尽きないが、後の行動も疑問がある、なぜ、わざわざ森に入った? あの場で魔獣をそのまま殺せばよかったものを‥‥」
「俺には、彼女が何を考えていたかは完全にはわかりかねます。しかし、予想はできます。彼女は、森に罠が張ってある場所がわかってましたから、それを使おうと考えたのではないでしょうか? 騎士団に頼らなかったのは、今まであの村を守ってきた彼女なりの決まりがあったのかもしれません」
「もしくは、騎士団あのままが魔獣を村で退治しようとすれば、また村で暴れだす可能性があると考えたら、被害の出ない森に行くのが正解なのではないでしょうか」
マギや他の隊長たちもフェリクスの意見を聞いて、隣に座る人と何かささやきあったり、考え込んだりしていた。
マギは、自分の膝をぱんっと勢いよく叩いた。
「まぁ、想像はいくらでもできるか、実際にきくのがはやいな、それからあの娘の処遇を決めようじゃねぇか! ま、フェリクスがこんなにかばう娘なんだから、おれは白だと思うがな!」と言って、マギはかっかっかと豪快に笑った。
フェリクスは、マギまでこんなこと言い出したのはソールの入れ知恵かとソールの方を見るが、ソールは笑いをこらえながら首を横に振っている。
「いやいや、フェリクス、おめぇが自分で大事そうにあの娘を抱えてきてたんだろうがぁ、いやー、あれは、いい光景だったなぁ」とマギが腕を組みながらしみじみというので、フェリクスはいたたまれなくなった。
ルナが咳払いして、話を進める。
「では、キエリさんを取り調べする際は、私とソールで行います。いいですね?」
隊長たちが頷くなか、瞳が暗く沈んでいく人物が一人いたことに気付いた者はいなかった。




