3-13 管制塔内の戦い(1)
11階回廊に出ると、辺りは騒然としていた。
流石にSPというだけあって、警備の者達がパニックになっているということはない。それでも動揺している様子は見られる。
そんな中でエファ達が冷静に行動できているのは、レンの指示が的確だからだろう。
急ぎエレベーターホールに向かおうとしたところで、レンが足を止める。
「こっちだ」
何故か方向転換をして、レンは非常階段への扉を開いた。
慌ててそれを止めるエファ。
「ちょっと、エレベーターは使わないの?」
「敵は下から来てる。だが、速度を求められる襲撃でわざわざ階段を使って10階まで上ってきたりはしないだろう。なら、エレベーターを使うはず」
言って、レンは少し先に見えるエレベーターホールへ視線を向ける。同じようにエファもそちらを見ると、複数のSPが慌てた様子で屯っている。
「くそ、どうしてボタンを押しても反応がねぇんだ!」
「ここのもダメだ! 4基あるエレベーター全部が動かねぇ!」
「待て、二基は動いてるぞ! 地下から一気にこっちに向かってる!」
「馬鹿野郎、下から来るエレベーターなら敵が乗ってるに決まってるだろ! エレベーターが動かねぇってことは、制御が全部ヤツらに奪われてるってことだ!」
「ありえねぇだろ、ここは最新鋭の技術が揃ってるリンクライン島の管制塔だぞ! そんな簡単に制御が奪われるものかよ!」
どうやら、エレベーターは全機使用不可。管制塔の制御も敵の手の中にあるらしい。
敵が10階に到達するまでそう時間はない。エレベーターの制御を取り戻すのを待っている時間などない。それを瞬時に判断し、レンは非常階段を使うことを選択した。
「行こう」
あまりにも慣れている様子のレンに戸惑いを覚えたエファだったが、それが正しいことは確か。促されるままに非常階段を行くことにする。
本来は災害時やエレベーターの故障時に使われる非常階段は、本格的に使われることを想定していないのかそれほど大きいものではない。だが、侵入者防止用のシャッターは備え付けられていて、今回の会議では9階以下からの侵入ができないようにそれが閉じられている。
管制塔の制御が奪われているということは、あるいは10階へと続くシャッターも稼働しているかと考えたレンだったが、どうやら敵もそこまでは手が回らなかったらしい。
そうして、彼らは10階に至る――
――その少し前。
管制塔を襲った振動が止み、会議室内ではレイフィアをアルヴィンが、アイレミアをルミナスが守るようにして抱えていた。
会議室の扉が勢い良く開き、SP達が様子を見に中へと入ってくる。
「ご無事ですか、両殿下!」
「心配には及びません、私も、レイフィア殿下も無事です。状況を報告してくださいまし」
「はっ! 現在管制塔地下にて、謎の集団が爆発と共に侵入。衝撃の混乱の中、凄まじい速度で護衛を撃破し、エレベーターを占拠。現在この10階に向けて進行中です!」
狙いは間違いなくレイフィアとアイレミア。
想定よりも敵の進行は早い。エレベーターを占拠されている以上、1~8階までの護衛と敵がぶつかることはなく、また9階へと至る非常階段のシャッターも降ろされているため、階下からの増援がやってくるのにも時間がかかることだろう。
敵の規模は不明だが、9~11階にいる戦力で対処にあたる必要がある。
しばらくして、エレベーターホールから騒ぎの声が聞こえてくる。
どうやら集団がここ10階に至ったらしい。
管制塔10階エレベーターホール。
二基のエレベーターから出てきた集団は、全員が武装をしていた。
顔を覆う兜に、鉄でできた防護服。カラーは二つあり、一番エレベーターから出てきた集団が黒、二番エレベーターから出てきた集団が銀で統一されている。
彼らは10階に至ると同時に銃を掃射。待ち構えていたSP達は虚を突かれ、次々と地に倒れ伏す。
なんとかそれを逃れた者達も、エレベーターから出てきた剣や槍を持った武装兵によって、体勢を立て直す前に撃破されていった。
10秒も経たない内にエレベーターホールが占拠され、迅速な行動によって集団は回廊へと進行する。
もちろん護衛のSP達も無能というわけではない。
この短時間、混乱の中で会議室へ至る道に机や椅子で構築したバリケードを設置し、迎撃の構えを取っていた。
それを想定していたかのように武装集団は即座に陣形を展開。回廊での銃撃戦が開始される。
武装集団の手にしている銃は拳銃ではなく両手で扱う連射式のアサルトライフル。おそらくは闇の世界に流れているような代物だろう。性能としては国家の最新武装と同等程度のものであることは間違いない。
対してSP達が扱うものは拳銃だ。そもそもここでの大規模な銃撃戦は想定されていなかったため、彼らに与えられていたのは小規模な戦闘を迅速に鎮圧できるような装備のみ。
バリケードを展開している分、ある程度対等に渡り合うことはできているが、敵の動きはかなり洗練されており、いずれ押し切られるのは目に見えている。
そこに、一つの影が飛び込んだ。
バリケードを易々と飛び越え、武装集団の元に飛び込んだそれは、巨大な物体を振り下ろし、襲撃者の一人を強襲する。
敵の反応も見事なもので、寸でのところで後ろに跳び、それを回避。あまりの速度に銃を破壊されたが、おおよそ無傷だ。
問題はその後、振り下ろされた巨大な物体は地面にぶつかる前に宙で止まったために廊下が砕かれることはなかったが、その勢いによって発生した衝撃波が周囲にいた武装兵4~5人を吹き飛ばし、ひるませる。
影の正体――身の丈ほどもある白銀の大剣を片手に携えた、帝国最強の剣士であるルミナス・ヒルデブランドは、即座にバックステップで後ろに下がると、バリケードの前に降り立った。
銃を斬られた武装兵が、右手を抑えながらよろりと立ち上がる。
「くっ、帝国最強――《朱雀剣舞》ルミナス・ヒルデブランドか」
「どうもぉ、申し訳ないけれど、これ以上の勝手は認められないの。貴方達全員ここで倒させてもらうわ」
「ってわけだ、大人しくしてりゃ痛い目には遭わせねぇぜ」
次いで、その後ろから彼女に並ぶようにして出てきたのは、左手に50センチほどの金色の短剣、右手に無骨な長剣を持った共和国最強の剣士――アルヴィン サイクスだ。
「《鉄の叛剣》――アルヴィン サイクスまで……!」
「問題ない」
銃を持った武装兵の一人が前に出る。
「相手は二人だ。前衛部隊前へ、陣形を再構築、フォーメーションDで制圧するぞ」
「了解!」
素早い動きで武装兵たちが動き、先程までは後方にいた近接武器を持った者達が前に出てくる。
その間に、ルミナスは後ろに声を掛ける。
「負傷者を連れて下がっていてくださいね、派手にいきますよ~」
「か、感謝する!」
SP達は負傷者と共に下がる。短時間の戦闘ではあったが、武装や連携の差によって傷を負った物は少なくない。
二人だけが取り残される形になったが、問題はない。
帝国と共和国、二大国の最強剣士が戦闘を開始する。
銃弾が飛び交う中を縫うようにして駆け、前衛である近接戦闘員と刃を交える。たった二人ではあったが、数十人はいようという集団と互角に渡り合っている。
そこに駆け付けたのが、エイゼル、アーク、ミィンの三人だ。
「加勢しましょう」
「後衛は任せたぞ、ミィン」
「了解だよ、アーク」
バリケードを越え、三人が戦闘に参加する。
エイゼルの鉄塊が前衛を薙ぎ倒し、アークのアームブレードが敵兵の大剣とぶつかり、ミィンのアンカーが後衛を強襲する。
数十人はいる部隊と5人がぶつかり合いながら、優勢なのは少数精鋭の方であるといえた。
そうして戦闘が開始された一分後に遅れて到着したレン達は、足を止めて遠目にその様子を見ていた。
「なんというか、凄まじいわね」
「これ、私達が加勢しにいく必要ないんじゃない?」
セシルとエファの感想も尤もだ。
あの五人に任せておけば鎮圧は時間の問題。どころか、世界最強の剣士二人でもそれは事足りるだろう。
その二人はともかく、レアードの三人も流石と言わざるを得ない。エファが加勢したところで、まともに戦いに介入できるとは思えない。あのレベルに参加できる戦闘力を持つ者など、レンやリオレベルくらいのものだ。
「あら、そうでもありませんわよ」
声と同時に会議室からレイフィアが顔を出す。
あまりに無謀なその行動に、エファ達はぎょっとした。
「れ、レイフィア殿下! 危険です、室内にお戻りください!」
「心配には及びませんわ、私たちには優秀な護衛が付いておりますから」
レイフィアに続き、アイレミアも顔を出す。
確かにあの五人ならば、人一人どころか流れ弾の一発すら通しはしないだろうが。
「それよりも、存外手古摺っておられますわね、5人とも」
「手古摺ってる? あれで、ですか?」
アイレミアの言葉に、セシルが信じられないといったように聞き返す。
その返事を、アイレミアの代わりにエファがした。
「レアードの三人はともかく、世界最強の剣士である二人の実力があの程度であるわけがないわ。ここが屋外なら、ヤツらは一分も持たずに壊滅していたでしょうね」
「外ならって、屋内だから本気が出せないってこと?」
「半分正解ね。あの二人が本気を出したら、きっとこの建物は無事じゃ済まない。それともう一つ、ヤツらの銃弾から建物を守るために立ち回ってる。その証拠に、あんなに派手な戦闘なのに、壁や窓に傷がほとんどついてないでしょう」
エファに言われてセシルが周囲を見回すと、確かに壁や窓の傷が少ない。また、常人ならざる速度で動いている二人が敵の攻撃を全て己が武器で受けていることがわかる。
それだけの余裕を残し、かつ敵を制圧し得るだけの実力がある。
世界最強――S級戦力資格を持つ者は伊達ではないというわけだ。
「それよりも、レンお兄様達にもきちんと役割が残されておりますわ」
レイフィアが不敵な笑みを浮かべると同時、レンとリオが素早く気付いて後方を振り返る。
「全員構えろ、来るぞ!」
「え――?」
咄嗟に後ろを向いてみるが、何もいない。
しかし、ガシャンガシャンという規則的で妙な音が次第にこちらに近づいてくる。
訝しげな顔をしていると、音が止んだと同時に5人の前に突如ぼんやりとしたシルエットが浮かび上がる。
一言で表すならば、鋼鉄の蟷螂。そう表現するには丸くずんぐりとした体。そこから二本の鎌が伸びていて、四本の太い脚で二メートルはあるであろう巨躯を支えている。体躯の上部からはきのこのような頭部が生えていて、カメラと思われる赤い三つ目が五人を鋭く睨んでいた。
明らかに殺人を目的とした武装に、エファ達は武器を取り出して警戒を強める。
「な、なによコイツ!」
「匣の人形兵か」
「厄介なものを持ち出されたでありますね」
どうやらレンとリオには心当たりがあったようだが、話は後だ。
巨大な蟷螂は腕を上げ、臨戦態勢に入る。
「リオ、ケイス、援護は任せた! 行くぞ、エファ、セシル!!」
「え、ちょっと!」
「なるようになれ、ね」
状況についていけないエファ、セシル、ケイスを置いて、レンが駆け出しリオが魔術を展開する。
数瞬遅れてセシルが駆け出し、それにエファが続く。その頃にはレンが既に蟷螂に肉薄しており、それを標的と定めた蟷螂が左腕を振り下ろす。
巨大な鋼鉄な鎌は、エファの大剣にも匹敵する重量があると思われるが、レンはそれを真正面から受け止める。重量だけならエファのそれに匹敵するが、流力による筋力のブーストがない一撃などレンに通用するはずもない。即座に衝撃を殺すと、蹴りを見舞って鎌を押し戻す。
次いで右の鎌も襲い来るが、それにリオの魔術によって生み出された光剣が激突し、蟷螂が大きく怯んだ。
両腕の鎌が封じられたことで隙が生まれ、すかさずリオがそこに光線を撃ち込む。見事に蟷螂の巨躯に命中したが、蟷螂が怯んでいる様子はない。
「魔力による攻撃の効き目が薄い……ということはやはり魔力無効化装甲を搭載しているでありますか……!」
「なんだそりゃ、俺の銃弾も効かねぇってことかよ!」
ケイスも負けじと後方から銃弾を放つが、彼の扱うライフルは魔力を射出するものだ。リオの言う魔力無効化装甲とやらに通用する代物ではないらしい。
「近接戦闘しかないってことじゃない!」
エファとセシルが順に蟷螂に肉薄し、武器を振るおうとする。が、その前に蟷螂の前面装甲が開き、そこから銃口が姿を現す。
「なによそれ!?」
「ちょっと反則じゃないかしら……!」
回避が間に合わないこともないが、咄嗟のことで完全には避けきれない。
多少のダメージを覚悟した二人だったが、それよりも先にセシルの前にリオの光の盾が展開され、エファの前にレンが立つ。銃弾が発射されるがセシルの方は光の盾の強度の前に全てが弾かれ、レンは全ての銃弾を凄まじい速度で叩き落す。
「遠距離武器が出てきた! フィアとアイレミア殿下を中に!」
攻撃が止むと、レンは後方のSPに向けて叫ぶ。
この状況下でまだ廊下に顔を出していた二人の皇女だったが、流石に危険だと判断されたのかSPによって中に連れ戻される。
これで心置きなく戦えると前を向いたところで、蟷螂の左右上方が開いたかと思えば、そこから小型のミサイルポッドが飛び出してくる。
「くっ――!」
☆「え、ちょ--」
レンは即座にエファを抱えると、後方に向けて投げ飛ばす。
ミサイルポッドの標的は三点。レンとセシル、そして後方のリオ達だろう。
セシルに関してはまだリオの盾が残っているので動かなければ問題ない。エファを後方に投げ飛ばしたのは、そこならばリオの防御魔術の範囲に入れるからだ。
問題はレンだったが、エファを投げ飛ばしたと同時に発射されたミサイルが直撃する。
もうもうと立ち込める煙。セシルとリオ達は案の定無事だったが、唯一無事の確認できないレンの方に視線が集まる。
その煙が晴れる前に、一つの影が蟷螂に向けて飛び出していく。
煤で服が少し汚れているが、無傷のレンだ。おそらくだが、バニッシュによって爆風による衝撃を相殺したのだろう。
再度発砲された銃撃の雨の中を、ジグザグに走ることによって速度を殺すことなく駆け抜けていく。
蟷螂もただ肉薄を許すわけがない。巨大な鎌を振るい、レンを迎撃せんとするが、するりと右に滑るようにして左の鎌を躱したレンは、掌底を放って強引に鎌の方向を変える。
強引に右の方向へと進路を変えられた左の鎌は、為す術なく右鎌を激突し、二つの鎌は大きく弾かれた。
隙だらけになったところで、流力を込めて強化されたレンの蹴りが蟷螂の右前足を襲い、バランスを崩した蟷螂はそのまま廊下に倒れ込む。
「今だ、リオ!」
「わかっているのであります」
合図の前に、既にリオは次の魔術の展開を終えていた。
彼女の後方に浮かぶのは、二メートルはあるであろう巨大な光の剣。それが四本。
「魔力無効化装甲は魔力による攻撃を無効化、あるいは軽減するものでありますが、魔力に物理属性を付与した攻撃までは無効化できない。つまり――」
杖を前に振るい、リオが四本の剣を発射する。
既に蟷螂に防御手段はなく、ガガン、ガン! と四本の件がリズミカルにその巨躯に突き刺さった。
「高い硬度を持つ斬属性魔力攻撃は通用するのであります」
ギギギ、とまだ回路が生きているのか、蟷螂の足が立ち上がろうとして動く。
その前に、レンがその腹の前に立ち、剣を当てた。
「光月流無月の型――『天衝』!」
ズン! という衝撃と共に、蟷螂の丸い身体がべこりとへこむ。
しばらく頭部の赤いカメラが点滅していたが、それで完全に回路が死んだのか、カメラの光が消えると同時に蟷螂はガシャリと力なく崩れ落ちた。
「……さすが、ね」
前衛として残っていたセシルが、賛辞の言葉と共にレンの下に歩み寄る。
ミサイル攻撃の後も行動していた彼女だったが、銃撃の雨の中でレンのように即座に攻撃の機会を作ることができなかった。あれはレンの速度と経験が成し得た行動だったといえる。
次いで後方にいたエファ、ケイス、セシルも合流する。
「とんでもない相手だったわね、一体どこから入ってきたのかしら」
「これだけの巨体を運び込んだ方法はわからないが、持ってきたのはヤツらに違いないだろう。多分、交戦前に放って10階の回廊をぐるりと一周させてきたんだ」
11階と同じように、10階も会議室を中心にぐるりと一周円状の廊下が存在している造りだ。武装集団が回り込んでこない理由は、あちらの戦闘で手一杯だからだと考えこんでいたが、もう一つの理由がこの兵器があったからなのだろう。
「それにしても、一体なんなのこの怪物?」
セシルが蟷螂の残骸に近づいて、動かなくなったその身体をコツコツと叩く。
やはりというべきか、返ってきたのは金属的な感触。銃撃やミサイルといった武装で予想はできていたが、この蟷螂は機械ということで間違いはないらしい。
とはいえ、常識的にはこのような大型の機械兵器――いわゆるロボットは、現代の技術ではまだ制作が不可能なもののはずだ。セシルにその手の知識があるのは、あくまで空想上の物語で普遍的に使われているという一般的な知識に当てはめたに過ぎない。
「裏の世界で取引されている、とある組織から流出された自律式機械兵器――通称『人形兵』の一種であります」
一般的な知識にない回答をリオが出す。
「詳細は省くでありますが、この型にはほぼ搭載されている魔力を減衰させる装甲――対魔力装甲を搭載していて、その制圧力はたった一機で軍の小隊程度なら軽く捻りつぶせる程。まさかこんな場所で見ることになるとは思わなかったでありますが……」
軍の小隊程度なら制圧できるということなら、この階にそれほどの戦力に対抗できる戦力は、実際に撃破したレン達を除けば、おおよそ未だ逆方面で戦い続けている五人くらいのものだろう。つまり、ここでこの兵器を投入してきたということは、向こう側で最強の剣士二人とその他の戦力を抑え込んでいる間に、この兵器で一気に会議室を制圧する算段だったというわけだ。
「だけど、私達がそれを倒したってことは、ヤツらの計画もこれで終わりってことよね」
ぐっとエファがガッツポーズを取った。
その次の瞬間、再び爆発音が10階に木霊する。
今度のそれは地上付近から轟くような小さなものではない。
衝撃こそ小さいものの、爆発音はすぐ近く――会議室の中からだ。
くそ、と吐き捨てて、レンが走り出す。続いてリオが、そして引っ張られるようにしてエファ、セシル、ケイスが会議室に向かった。
全員が会議室内に飛び込んで、先に突入していたレンが足を止めているのを見て後の四人が制止した。
その視線の先、会議室の机を挟んで向こう側に、レイフィアとアイレミアの姿がある。
ローブ姿の二人組に捕らわれている形で。
見覚えがある。左腕でアイレミアを、右手に戦斧を持つ者と、両手でレイフィアを捕らえる者。二日前に管制塔前で不審人物を捕らえた際に現れたあの二人だ。
「一足遅かったようだな、レアードの諸君」
レイフィアを捕らえている方が、フードを取る。
露わになったのは、大きな切り傷が頬から鼻にかけて走る、壮年の男だ。明らかに熟練された戦士の目をしていて、一切の隙がない。
実際、その実力で二人の周囲にいたSP達を一瞬で薙ぎ倒したのだろう。4人いた黒服は全員地面に倒れ伏している。
「悪いが、両殿下の身柄はこの通り。我らの手中に収まった」
「……なるほど、強襲部隊も、あの人形兵も囮だったというわけか」
「察しがいい少年だ。その通り、本命は我々であり、同志たちには身体を張ってもらった」
「動くな」
爆発の直後、管制塔10階回廊。
交戦していた最強の剣士二人と、レアードの三人は、衝撃音を聞いて二秒ほどで状況を把握し、会議室へと身を翻していた。
その5人を、武装集団の一人が呼び止める。
通常であればそんなものに構う必要もなかったが、異様な空気に全員がその言葉に従った。
そして、それは結果的に正解であった。
男の手に握られているのは、一つの無線機。
携帯通信機としては機能が単純で、ボタンを押すだけで同じ周波数を受信する機械に声を送るというものだ。
「《朱雀剣舞》に《鉄の叛剣》、そしてレアードの精鋭達よ、貴様らは確かに強い。我々ではお前たちの足止めにもならないだろう。だが、この状況が意味するところはわかるな?」
無線機を口元に近づけ、男が5人を脅す。
「二人の皇女は我らの手に落ちた。貴様らが動けば、即座にその首を刎ね飛ばす」
「くっ、なんて卑怯な……っ!」
堪えきれず、ミィンが姿勢を低くしたところでその肩をルミナスが掴む。
或いは、ルミナスやアルヴィンの速度ならば男達が反応しきれずに無線機を奪い、彼らを無力化できたかもしれない。だが、それは一種の博打だ。無線機を持った男がいるのは武装集団の最奥。かろうじて賭けが失敗する可能性のある、という程度の距離だったが、それでも成功する絶対の保証はない。
ルミナスやアルヴィンがそう判断したのであれば、彼らに大きく劣るミィンが行動に出たところで確率を下げるだけだ。
にこりと微笑んで、ルミナスは武装集団に向き直る。
「要求を受け入れましょう。私達はここから動かない。でも、後ろにいた五人が会議室に突入した件に関しては不問にしてもらいましょうか」
「……構わん、そちらに即座に反応できなかった我らの落ち度だ。それに、最も警戒すべき貴様らをこの場に拘束できた以上、何者も我らが同志を阻むことはできない」
相応の実力者を配備した、ということだろう。
レン達の報告によると、二日前に管制塔の前で交戦した謎の人物は、今年度レアード新入生の中でもトップクラスの実力を持つレンとリュドミール、そして管制塔に勤務するそれと同等の力量を持つミレイの三人を掻い潜ったとの話もある。
「まずい、な」
ルミナスに従い、素直にその場に留まることを選択したミィンだったが、芳しくない状況に焦りが生じる。
武装集団の目的は不明だが、このままではヤツらの思う壺だ。
やはり危険な博打を行ってでも状況の打開を図るべきなのでは――と考えたところで、肩に乗っていたルミナスの手がするりと離れる。
「大丈夫よ」
その笑みに焦りはなく、むしろ余裕すら感じさせ、見る者を安心させるかのような温かい言葉で、ルミナスはミィンに語り掛ける。
「あの五人を信じましょう。ウチのエファちゃんにレン君、それにレアード期待の新入生達はそんなにヤワな子達じゃない、でしょう?」
ニュービーキラー事件にネームレス襲撃事件。決して一筋縄ではない事件を解決してきたレン達ならば。
今回の事件はそれとは一線を画すものかもしれないが、それでも信じるに値する実績を彼らは有している。
こくりと頷いて、ミィンは会議室の方に目をやる。
五人が突入してから数分程経っているが、会議室の中で何かが動くような気配はない。
果たしてあの中で何が起きているのか。知る手段もないミィンは、ただ祈ることしかできなかった。




