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黒幻のリンクライン  作者: 水無雲夜斗
第三章 皇女来島編
72/79

3-8 滞在期間一日目――レアード学園にて(3)

 色々と濃密だった休憩時間も終わり、六限目。

 どうやら皇女達の視察はこの授業の終わりまで行われるらしい。


 おさらいしておくと、レアード学園の六限は基本的に実践訓練である。生徒達の間では実戦訓練とも呼ばれることもあるこの授業は、その名の通り模擬戦という名の実戦の中で、学んだことを実践する時間だ。

 基本的にこの時間は二人一組のペアを組み、ある時はその二人で一対一の模擬戦を、一ヵ月ほど前からは別のペアと二対二の模擬戦をするようにもなった。

 今日もその流れかと思ったのだが。


 「マストウェイ教官、本日は私から提案があるのであります」


 いつものように二組のペアを組むようにエイゼルが指示しようとしたところで、リュドミールが挙手をした。


 「本日は共和国、帝国より皇女殿下がお越しです。普段通りの訓練内容をお見せするのも構いませんが、それでは訓練の成果がわかりづらいかと思います」

 「ふむ、確かにそうですね。でしたら普段組まないようなペアで実践訓練を行ってみますか?」

 「それでもこの二ヵ月でA組、D組の皆様方は全員の手の内をある程度知っているものと予想します。戦闘とは相手の手の内がわからない場でこそ真の力が発揮されるもの。この合同クラス内での実践訓練では、訓練の成果を披露するには不足であります」


 合同クラス全員がリュドミールの意見に神妙な顔を浮かべる。多少なりとも同感できる部分があるということだろう。

 レンはこの意見には賛成だ。相手の手の内を知っている者同士の戦いは、どうしても形式化しやすい。それでは実力を存分に発揮できることにはならないだろう。


 「そこで、今日初めて登校することになった私が、一人で数名の方々の相手をするというのはどうでありましょうか」


 リュドミールの提案に、生徒達がざわめく。

 確かに今日初めて登校してきた彼女の実力は誰も知らない。レン達も昨日の管制塔前でほんの少しだけ彼女が戦闘するところは見たが、あれで全ての実力を見れたかといえばそういうわけでもない。

 実質彼女の実力は未知数ということになるが、それでもレアードの中でも戦闘能力の高い特進クラスのA組、戦闘科のD組の生徒達数名を相手にするというのはなかなかに難易度の高いことだ。


 「まぁ、それは面白そうですわね」


 ぱんと手を合わせて、状況を見ていたレイフィアが笑顔で賛同する。


 「リリエイツ公国のリオート・M・リュドミール様のお噂は聞いておりますわ。公国軍若手の中でもトップクラスの実力を持つA級戦力資格保持者。彼女と世界の中でも優秀な実力者の集うレアードの生徒達。なかなかに良いカードではありませんか」


 言われてみれば、リュドミールはA級戦力資格保持者だ。

 つまり彼らの教官であるエイゼル マストウェイと同じ資格を持つ者。そしてエイゼルならば、このクラスの生徒達を数人相手にすることなど造作もないことだろう。

 それと同等と考えれば、むしろチャレンジャーはリュドミールに相対する側だ。数人がかりでA級に届くかどうか。それならばこれまでの鍛錬の成果も試せるというもの。


 なにより、他でもない皇女殿下の言葉だ。これを蔑ろにすることは、さすがのレアードにも容易にできることではない。

 もっとも、レンはレイフィアがそれを踏まえた上で発言したことに気付いていたが。


 「仕方ありませんね、それではリュドミールさんの意見を採用しましょう」


 レンと同じくレイフィアの性格をある程度知っているエイゼルは、諦めたように受諾する。


 「合同クラスの選抜メンバーはいかがしましょうか。挑戦してみたいというペアはいますか?」

 「いえ、マストウェイ教官。二人では不足でありましょう。ペアといわず、チームで挑戦していただくのが一番であります」


 まるで--いや明らかに挑発するような物言いに、エファがぴくりと眉を動かす。

 それに気付いているかのように、リュドミールはエファの方を見てふっと笑うと、その一帯を指差した。


 「レン サイクスさん、エファ・ヒルデブランドさん、セシル・A・ネームレスさん、ケイス・ラースヘルさん。四人はA組の中でも特に仲が良いと聞きます。昨日の戦いでもなかなかに良いチームであるように感じました。良ければ相手をしていただけないでしょうか」


 なんとも的確な指名だとその場にいた誰もが考えた。

 今回の授業に参加しているA、D組の中でも仲の良いグループは他にも存在するが、チーム戦をするとなれば今期一年生の中で最も高い戦力を誇るのは間違いなくリュドミールが指名した四人だ。

 仲の良さはさることながら、ネームレス襲撃事件での実戦から培ったチームワークは、ここ一ヵ月の訓練でさらに洗練されている。実践訓練でもほぼ常に四人は行動を共にしていて、互いの戦闘スタイルをある程度把握していたし、実力的にもダントツと言っても過言ではない。

 この四人であれば納得だと、生徒達は誰もがそう思っていた。あとは本人たち次第である。


 「ずいぶんな余裕ね、私達四人を相手に一人で勝てるだなんて思ってるの?」

 「少なくとも、対等な勝負になるでありましょう」


 へ~ぇ、とエファは眉をひくつかせる。


 「いいじゃない、その挑戦受けてあげるわ」

 「エファがやるんだったら私も。あんまり侮られたままっていうのも癪だしね」


 挑発に乗せられたエファに続き、セシルも参戦を決意。

 次に様子を見ていたケイスが、ぱしんと胸の前で拳を手のひらにぶつける。


 「おもしれぇ、俺もやってやるぜ。レン、お前もやるよな?」


 お祭り騒ぎが好きなケイスは面白半分で参戦。ここまでは誰もが予想できたことだ。

 しかし、ケイスに誘われたレンは首を横に振った。


 「いや、俺は遠慮しておくよ」

 「なんでだよ!?」

 「今回の提案はフィアが後押ししたものだ。そして、両殿下の視察の目的はレアードの新入生の力を見ること。だとするとフィアは俺の力を既にある程度知っていることだし、俺が参戦する意味は薄い」


 ならばレンの力を知らないアイレミアはどうなる――となるかもしれないが、レアードの力を示すだけなら必ずレンが参戦する必要はない。ケイス達だけでも十分に事足りることだ。


 「それに、A級戦力と戦っておくことは皆にとっていい経験になると思う。そういうわけだから、俺は辞退させてもらうよ」


 理由としては少し弱いが、本人がそう言う以上あまり強制はできない。

 それに、とエファはレンから顔を背ける。

 レンの力は確かに大きい。だからといって、それにいつまでも頼っているようでは自分が成長できない。


 「わかったわ。それじゃあ私達三人で行くわよ、ケイス、セシル」


 二人を呼んで、エファが先に前に出る。

 セシルは何も言わずにその後に続き、ケイスも少し戸惑うようにレンを見ていたが、彼が見送るように微笑んだのを見て、大人しく前に出た。


 「というわけだからこっちは三人になるけど、構わないかしら?」

 「少しアテが外れましたが、まぁ良しとするであります。一応本命の一人は釣れたでありますから」


 そう言って、リュドミールはホルダー魔石から武器を取り出す。

 昨日も見た彼女の武装は、杖だった。

 といっても普通の杖ではない。銀色に輝くそれは、一般的な木製のものではなく明らかに金属質なものであり、先端部分は球状になっていて、その中心に透明に輝く魔石が埋め込まれている。


 異色な武装にエファは警戒というよりも不思議なものを見るような興味を抱くが、相手が構えた以上こちらも構えなければならない。

 エファは予め手にしていた大剣を正眼の構えで持つち、続くようにしてセシルがチェーンブレードを、ケイスがブレードライフルをそれぞれ魔石から取り出した。


 「言っておくけど、手加減はしないわよ」

 「ふふ、私達に喧嘩を売ったこと、後悔させてあげる」

 「俺らのチームワークはなかなかのもんだぜ、覚悟しな」


 相手の気合は十分。それを見て取って、リュドミールは何かを思案するように一度目を閉じ、一秒ほどしてから開いた。

 周囲の生徒が距離を取り、静寂が場を包み込む。

 試合のための十分なスペースが確保できたことを確認すると、エイゼルは手を上に挙げた。


 「それでは、試合始め!」


 先手必勝。

 リュドミールは遠距離攻撃を得意とする魔術士だ。近距離戦を得意とするエファは懐に潜り込まなければ勝機はない。故に開始と同時に地を蹴り、距離を詰める。

 それにはセシルも同行していた。彼女は鎖を駆使した中距離戦も可能だが、それでも魔術士相手に距離というアドバンテージを与えることは、自分を不利に導くことになる。

 いかに早く相手の懐に入れるか。対魔術士戦で重要になる定石を実行するために、その行動は至極当然のものだった。


 「まずは牽制。その後は任せるわ、エファ」


 素早さでエファに勝るセシルが一足先に前に出て、鎖のリーチに入ると同時にブレードを投げる。

 それは正確にリュドミールへと向かって飛ぶが、この程度で勝利できるとは微塵にも思っていない。言葉通りの牽制だ。


 セシルが鎖を投げる前に、リュドミールは既に行動を開始していた。

 杖を横に振り、魔力を展開する。

 先端の魔石が描いた軌跡上に現れたのは、前方へ切っ先を向けた五本の光の刃だった。

 それを出現させると同時にセシルが刃を放ち、それに対抗するためリュドミールは杖を前に向け、光剣の一本をブレードに向けて飛ばす。


 コォン、と中身のない鉄棒に衝撃を与えたような音がして、セシルのブレードが撃ち落とされる。

 同時にリュドミールは杖を横に薙いだ。それによって、三本の光剣が前方に向かって飛んでいく。

 その射線上にはエファとセシルがいる。回避は可能だが、その後に攻撃に転じるための時間は、魔術士にとって攻撃の起点になりかねない。


 「お願い、エファ」

 「こんなもの!!」


 セシルがスピードを少し緩め、エファが地面を勢い良く蹴って前に出る。

 そうして大剣を一薙ぎ。それで全ての光剣を打ち砕く。こうすることで回避よりも時間を短縮してリュドミールに近づくことができる。


 全て叩き落されるとは思っていなかったのか、目を少し開いたリュドミール。その関心を噛み締める間も無く、彼女の耳に発砲音が届いた。

 戦闘経験からそれに反応することができた彼女は、展開していた光剣を縦にし、それを360度回転させるとそこに数発の魔弾が命中した。

 見ると、ケイスが膝を曲げ、射撃姿勢でリュドミールを狙っている。射程距離が長く威力がそれなりにある銃弾だが、追撃してこないところを見るに連発できないらしい。


 「ナイス援護、ケイス!」


 明らかにケイスに隙ができるが、それを埋めるようにしてエファがリュドミールの眼前に肉薄していた。

 必然、そちらの対応に追われることになりケイスは後回しになる。


 斜め上段から袈裟懸けに振り下ろされるエファの剛剣。それを驚くべきことに、リュドミールは杖の柄で受け止める。

 ぶつかった衝撃が行き場を失くして周囲に拡散し、豪風が巻き起こった。

 それほどまでの威力。それを真っ向から受け止める防御力。

 正直受け止められるとは考えていなかったエファは、驚きを隠せないでいた。


 「驚愕すべきはこちらの方でありますよ、私の光剣はそう簡単に砕かれるような強度ではないのでありますが、それを一度に三本も破壊するとは思ってもみなかったのであります」

 「それよりも遥かに威力を籠めた斬撃を軽々と防いでみせたあなたの方もすごいわね、いったいどんな手品を使っているのかしら」

 「単純なことでありま――」

 「あら、戦闘中におしゃべりなんて余裕ね」


 エファとリュドミールが迫り合いをしている間に懐に潜り込んだセシルが、右方からブレードを振るう。

 魔術士の苦手とする近接戦。一人がそれに持ち込めれば十分だと考えていたエファ達だったが、二人がそこに入り込めたのは思った以上の戦果だ。

 これでいかにリュドミールが優れた魔術士であっても、苦戦は免れない。


 「実際、余裕なのであります」


 カコォン、とブレードが光の刃に止められる。

 魔術士は本来、魔力の展開までに時間がかかる。故に咄嗟の判断が必要な近接戦では優位に立てないのだが、この展開速度は常識を逸している。

 だが、近接戦での優位性は変わらない。

 刃を右に滑らせるようにして抜けさせると、その勢いのまま背後に回り込む。


 「甘いのであります」


 そこに待ち構えていたのは新たに展開された五本の剣だった。

 それらは行く手を阻むようにして振り下ろされ、セシルは後ろに跳ぶことによって間一髪で回避した。

 一息つく暇もなく、振り下ろされた剣は頭を上げ、後方に逃れたセシルに向かって真っ直ぐ飛ぶ。

 苦い顔をしながらもそれを横に回避しようとした彼女だったが、横並びに飛んできた最端の一本だけ回避しきれないと判断すると、ブレードの腹で受け止める。

 空中でそれを真っ向から受けてしまえば、その勢いでさらに後方に飛ばされる。そうならないよう、セシルはうまく刃に角度をつけ、剣を受け流すことに成功した。


 「セシル!」


 これ以上の追撃を許せばいずれセシルが撃破される。

 そう判断したエファは、競り合っていた刃を一度離し、間髪入れずに右下段から剣を振り上げる。

 しかしその一撃も、リュドミールは軽々と杖で受け止めた。

 そこからはそれの繰り返し。エファが剣を振るい、リュドミールが杖で受け止める。

 まるでレンを相手にしているような感覚に陥るエファだったが、彼ほどの圧倒的な防御力は感じない。このまま続けていればいずれは崩せる。


 もちろん、それを黙って許すリュドミールではない。

 彼女はエファの頭上に数本の剣を展開させると、それを真っ直ぐ下に落とした。

 さすがにこれには退かざるを得ないと考えたエファは、杖とぶつかっていた大剣に力を籠め、前へ押し出そうとする。リュドミールはこれに対し同じく前に力を籠め、両者の力が反発力を生んで弾かれる。

 両者後方へと下がり、誰もいない場所に剣の雨が降る。


 「もいっちょいくぜ!」


 そこへ遠距離からケイスの援護が入る。

 咄嗟にリュドミールが剣の壁を展開。左方からの射撃を防御し、攻撃が止むと同時に体ごとその剣を後方へと振り向かせ、既に距離を詰めていたセシルに切っ先を向ける。

 再度射出される剣。横一列に並んで飛ぶそれを、セシルはしゃがんで回避する。

 その体勢のまま、アンダースローでブレードを投げると、リュドミールは杖を振り上げてそれを弾いた。


 防御動作にしては大きすぎるかと思われたが、リュドミールの目的はブレードを弾くだけではなかった。

 杖の石突きが描いた軌跡に光の剣が並んで出現し、秒も待たずに射出される。

 さすがに不安定な姿勢のセシルだったが、床に手をついてころがるように横方向へ回避。しかしそのせいでバランスを大きく崩してしまう。


 そのセシルのカバーに入ったのはエファだ。

 リュドミールの背後から剣を上段から振り下ろす。しかしそれを後ろ目に見ていたリュドミールは、ひらりと体を捻って回避した。

 そして流れるような動作で杖をエファに突きつけると、彼女の周囲360度を取り囲むようにずらりと剣が並んで出現した。


 「くっ――!」


 一ヵ月前のグリッド戦でも味わった、魔力による完全包囲。

 それを二度も食らうものかと、エファは気を集中させた。


 「――はぁっ!!」


 裂帛の声と共に体ごと剣を一回転させ、流術による衝撃波を起こす。

 それで横方向に展開された全ての剣が砕かれた。あとは上下に残る刃だけだ。エファは襲い来るそれを返す刀で全て叩き落す。

 グリッド戦の時に掴んだ感覚。流力を一気に体外に放出することによって魔力を相殺する技術――『バニッシュ』。

 一ヵ月前のあの戦いから、エファはそれを自分のものにするためにひたすら技術を磨き続けた。レンの指導もあって、今はなんとか実戦に取り入れられる程度には形になっている。エファがレアードで成長した証の一つだ。

 これには周囲から感嘆の声が上がる。

 そしてルミナスは娘の成長を喜ぶように微笑み、アイラは関心したように頷き、アルヴィンは称賛の口笛を吹き、レイフィアは感情の読めない無表情でそれを見ていた。


 バニッシュというのは学生レベルで使える技ではない。それを三年生ならともかく、一年生が実戦レベルで扱えているというのは、それだけでレアードにとって誇るべきことである。


 「これは驚嘆であります。が――」


 前方で地を蹴るエファを見据え、杖を振ろうとしたリュドミールは、そこで思ったように腕が動かないことに気が付いた。

 じゃらりという鎖の音。セシルが一瞬の隙を突き、杖に鎖を絡めたのだ。

 これまでの戦いでリュドミールが魔術を発動させる時は、必ず杖を起点にしていた。だからこそそれを封じればいいと考えたのだろう。


 「もらったわ!」


 既に眼前に迫っていたエファは、剣を脇腹に構えている。

 ヒルデブランドの一撃必殺の剣。なぜか杖では防御されていたが、この状態ならば確実に命中する。

 その予想を裏切り、リュドミールはばっと左手を剣の進行方向に広げる。その先に生まれたのは光の盾だ。

 重鉄同士がぶつかるかのような鈍い音がして、大剣と光盾が激突した。結果、エファの攻撃は完全に防御される。


 「――Lex(光よ)」


 呪文を唱えると、光盾が輝きを増し、エファの剣を弾く。

 それと同時にリュドミールは手を横に向け、不意を突いてきたケイスの弾丸の方へ盾を展開した。


 「――Et ferrum(我が盾) fit statim《となり》 exilit et(刃と) clypeus(化せ)」


 ケイスの魔弾を全て防ぎ、それを見届けた後で身体を捻り、セシルに向けて盾を放り投げる。

 さしずめ円刃といったところだろうか。これを受ければひとたまりもない。

 セシルは横に飛んで躱すが、それで踏ん張りがきかなくなって鎖の拘束力が弱まったことにより、リュドミールが杖を引っ張る。セシルはそれによってぐんと引っ張られ、その先に待ち構える光剣をその目に捉えた。


 たまらず鎖をリュドミールの腕から外し、射出された光の剣を身を捻って回避する。

 しかし彼我の距離がそれなりにあるため、この態勢で前に出るのは危険と判断して、一度後ろへと跳んだ。

 ケイスの援護射撃もまだインターバルの途中。リュドミールを包囲できている形にはなっているものの、別の視点から見てみれば三人は完全に分断されてしまっている。全方位対応可能な魔術士相手に、この状況は仕切り直しにもなっていない。

 明らかに誘導されたような配置。三人がかりの猛攻の中にあって、ここまでの優位性を作り出せるだけの実力。


 「感服ね。まさか三人がかりで一太刀も入れられないなんて」

 「そう落胆することもないであります。中、近距離でうまく立ち回るネームレスさん、絶妙なタイミングで援護射撃を行うラースヘルさん、そしてなによりもヒルデブランドさん、先程のバニッシュは見事でありました」

 「それはどうも。でも、褒めてくれたからって容赦はしないわよっ!」


 再び三人が動き出す。

 方々に散っての連携はそれなりに難しいが、今はリュドミールを囲んでいるというアドバンテージを活かすのが最善手だ。彼女に勝つためには、この状況を利用してうまく立ち回る他ない。


 「なるほど、それではこちらも容赦なくいくであります」


 リュドミールが杖をやや下に向けると、その先端に光の刃を出現させた。そうすることによってできあがったのは、杖を柄にした槍だ。

 そこでリュドミールは予想外の行動を取る。地を蹴り、エファの方へ向けて駆け出したのだ。

 よもや魔術士が距離を捨てて動くとは考えていなかったため、ケイスが牽制のために放った魔弾は空を切る。

 そして魔術士とは思えない速度で向かってきた相手にエファは驚愕したが、突き出された槍をすぐに大剣で受け止める。


 「なんで魔術師が近接戦なんて仕掛けてくるのよ!」

 「魔術士の弱点は近距離戦闘での反応の遅さ。手練れの魔術士であれば、その弱点を補う方法を持っているのは当然なのであります」


 考えてみればそれは道理だ。あのグリッド・A・ネームレスにも、魔術士の弱点であるはずの近距離戦はあまり効果がなかった。


 「私の場合はひたすら近距離戦の腕を磨いたのであります。こうして武器を手に打ち合える程度には」


 そこでようやくエファは納得する。

 先程エファの剛剣を受け止められたのは、リュドミールが流術を操る術に長けていたため。彼女にとって距離は活かせるものであっても、弱点にはなり得ないものなのだ。


 「エファといちゃつくのはいいけど、私のことも忘れないでほしいわね」


 やや出遅れてセシルが場に介入する。

 咄嗟にリュドミールは槍を引き戻し、エファから距離を取りつつ時計の振り子のように槍をぐるりと回すと、その勢いのままセシルに向けて穂先を振り上げる。

 素早くその動きを察知したセシルはブレードで槍を受け止めるが、その一撃にはかなりの流力が込められていた。一ヶ月前にエファの剛剣ですら凌いでみせたセシルならば防御しきることもできたが、それだと次の攻撃に対する流力の余裕がなくなる。

 よって衝撃を軽減しようと身体を宙に浮かせたが、それがリュドミールの意図通りであったことが誤算だった。


 槍に上方向の力を加えることによって、セシルの体がぐんと持ち上がる。

 そのままリュドミールの頭上を半円を描いて通過し、対面にいたエファに向けて振り下ろされる。


 「ちょ――!?」

 「きゃっ!?」


 それを回避するわけにもいかず、エファはセシルを受け止めて大きく姿勢を崩した。

 あからさまな隙。それを見逃すはずもなく、リュドミールは流れるような動作で腕を引き、


 「はぁぁぁっ!!」


 常人では追うことすらできないほどの速さで連続の突きが放たれる。

 一突き一突きが流力によって強化された腕力で放たれたもので、エファもセシルもなんとかガードは間に合ったものの、その衝撃で吹き飛ばされる。

 凄まじい勢いで飛ばされた二人は、あわや皇女のいる場所に突っ込もうとしたところで、エファがレンに、セシルがルミナスによって受け止められた。

 なんとか惨事は避けれたものの、決闘に参加していない二人が手を出してきたということは、つまり敗北を意味する。


 「うっそだろ」


 一人取り残されたケイスは、茫然とその様子を見ていることしかできなかった。

 だが、まだ試合が終わったわけではない。リュドミールはすぐさまケイスの方へと振り向くと、一気に駆け出す。

 その速さたるや、小柄で速度に特化したセシルに匹敵するほど。あっという間に距離を詰められたケイスは咄嗟にブレードライフルを構えるが、彼の近接戦闘技術は当然エファより低い。


 なんとか槍の防御には成功したものの、その状態で彼は止まった。

 既に光の刃が四本、ケイスに切っ先を向けて待機していたからだ。こうなると完全に詰みだ。


 「ま、まいった」

 「試合終了、勝者リュドミールさん!」


 冷や汗を垂らしながらケイスがひねり出した言葉を聞き届けると、リュドミールは槍を下げた。

 それと同時にエイゼルによる勝利宣言が行われる。

 結果は、Aクラス選抜チームの圧敗だった。


 拍手が巻き起こる中、レンに支えられたエファは勝者の姿を瞳に映す。

 一対一ならまだしも、三対一でもまるで歯が立たなかった。

 あれがA級戦力保持者。同年代でありながら、一足先に高みに上っている今年度一年生の第一位。

 溢れ出る感情を抑えきれず、エファはぎり、と唇を噛む。その様子を、レンは視線を前に向けたまま無表情で見守っていた。

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