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黒幻のリンクライン  作者: 水無雲夜斗
第三章 皇女来島編
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3-5 月夜の管制塔前

 「ニュービーキラー事件の後始末?」


 中央管制塔一階、ゲストルームに移動したレン達一年A組一行は、エイゼルから今回の一件に関する説明を受けていた。

 曰く、共和国、帝国にできている一つのパイプ。つまりサイクス家とヒルデブランド家の関係性について。

 ニュービーキラー事件によって生まれたこの関係は、現状において共和国と帝国を結びつけるものであり、また戦争の火種となりかねない問題への対抗策でもある。


 とはいえ、この臨時的条約ともいえる協力関係は、共和国と帝国が正式に認めたものではない。

 リンクライン島で起きた小さな問題が勝手に生み出し、なし崩し的に了承せざるを得なかったもので、両国がこの件についてきちんと触れることは今までになかった。

 それを今回、改めてどのような形でニュービーキラー事件で発生した国家間問題に決着をつけるのか。それを話し合おうということで開かれたのが、共和国・帝国の皇族がリンクライン島を訪れることによって成立する会議である。


 「なるほど、だから母様が来ていたのね」


 長方形の机を中心にしてソファに座るエファが納得したように呟く。

 元々ニュービーキラー事件はヒルデブランド家が引き起こしたものだ。それについて話し合うというのであれば、ヒルデブランドの当主が来るのが当然というもの。

 同時に、それに関わったサイクス家の当主が参ずるのも頷ける。

 ルミナス・ヒルデブランドにアルヴィン サイクス。二人は単に皇族の護衛ではなく、この一件に関わった者として会議に参加することになったというわけだ。


 そう説明されれば納得できるものもあるが、エファの隣に座っていたレンはどうも納得できない部分があった。

 というのも、なぜそのことが当人である自分達に伏せられていたのかということだ。


 「ちなみに今回の訪問についての内容をレン様とエファ様にお伝えしなかったのは、レイフィア殿下のご提案ですわ」


 レンの脇に控えるようにして立っているメイド――エリアが、にっこりと笑顔を湛えながらそう補足説明をする。

 事情によってレイフィアのことをよく知るレンはまぁそうだろうなと諦めたような顔をしていたが、エファはそうではない。


 「なによそれ、そうした方がいい理由でもあったの?」

 「いいえ、レイフィア殿下は単にいたずら心でそう提案されたまでですわ」

 「わけわかんないんだけど……」

 「まぁ、フィアのことだから、きっと俺達をびっくりさせたかったんだろうな」


 そう言ってレンは苦笑する。

 エファ達にはその意味がよくわからなかったが、まるで大したことではないと言わんばかりにレンはその話を流す。


 「それよりも、こんなレベルのVIPが来るなんて聞いてませんでしたよ。今回の任務、お遊びで済むレベルじゃないと思いますが?」


 二大国からそれぞれ皇女が一人ずつ。そんな人物たちの護衛というものが学生ごときに務まるとは思えない。

 規格外の力を誇るレアード学園の生徒会会長、風紀委員長、そして今期一年生で最強と謳われる総合成績第一位の三人はともかく、今この場にいるメンバーではあまりにも荷が重すぎる任務。

 それはエイゼルも理解しているのか、彼は気難しそうな顔をして頭を掻いた。


 「う~ん、とはいっても両殿下たっての依頼ですからねぇ」

 「依頼? どうして俺達を?」

 「アイレミア殿下の方はわかりませんが、レイフィア殿下はレン君と、その学友の皆さんにぜひ護衛を依頼したいと。理由は私も聞かされていません」


 それを聞いて、一同は沈黙する。

 レイフィアはレン達よりも年下で、まだ年端も行かない少女だ。だが、仮にも一国の皇女。それに十代も半ばとなればそれなりの常識は身についているはず。ならば学生を護衛につけようなどという考えは出ないはずだが。


 「ま、レイフィア殿下のことですし。いつものことでしょう」

 「そうですわね、気にするだけ無駄です」

 「フィアの遊び心には困ったものだな……」


 いつものことだと呆れかえる共和国組。

 レイフィア エルハルトという人物を知らないエファ達にはよくわからないことだが、この件については追及するだけ無駄であろうということだけは理解できた。


 「解せないのはアイレミア皇女殿下の方ですね。どうして彼女までレン君のことを指名してきたんでしょうか」

 「それはフィアと全く同じ依頼をしてきたということですか?」

 「いいえ、向こうはレン君のみに絞っていましたね。しかしエファさん達を護衛につけることを禁止していたわけでもありませんでした。その意味ではレイフィア殿下と同じようなものでしょう」


 ふーむ、とレンは顎に手を当てる。

 共和国のレイフィアはともかく、アイレミアのことをレンは全く知らない。

 詳しそうなのは帝国組、特に面識があると思われるエファだが――


 「私にもわからないわよ、あの方とは数回程度しか会ったことがないし」


 期待の眼差しを一同が向けると、エファは首を横に振った。

 レイフィアと違い遊び心のなさそうな人物ではあったが、であればどういった理由があってレンを指名してきたのか。


 「ま、なんにせよここで考えてたところでわからねーだろ」


 手を頭の後ろに回したケイスが、もっともなことを言う。

 それもそうだと納得した一同。

 話題の切り替わりに入り、話を切り出すエイゼルが咳払いをする。


 「とにかく、ここにいるメンバー全員が護衛に参加することは確定事項です。レン サイクス君、リオート・M・リュドミールさん、エファ・ヒルデブランドさん、ケイス・ラースヘル君、セシル・A・ネームレスさん、五人ともよろしいですか?」


 問われて、一同は顔を見合わせる。

 使命感があるわけではないが、断る理由もない状況。特に軍属であるリュドミールは上からの命令を受けているはずで、拒否という選択肢はないに等しい。

 その彼女が全員に問いかけるような視線を送ると、それを受けた四人が頷いた。


 「構いません、その任務引き受けましょう」


 全員の総意ということで、レンが返事をする。


 「それで、殿下たちのスケジュールはどうなっているんですか?」

 「本日はここ、中央管制塔の上層にあるVIPルームでお休みになられる予定です。もう時間も遅いことですしね」


 確かに、現時刻は午後6時。今から行動をするというには少しばかり遅い時間だ。それに、列車とはいえリンクラインへと至るまでの数時間の旅の疲れもあることだろう。


 「今回の訪問は今日を除いて三日間に及ぶ予定です。そして会議が開かれるのは二日目になります」

 「ということは、明日は?」

 「両殿下ともリンクライン島の視察を行われるそうですね。午前はアイレミア殿下は市街の方へ、レイフィア殿下はリゾート地であるミシュバの方へ参られるそうです」

 「二手に分かれるということですか、じゃあ俺達はどちらかにつく形になるんですか?」

 「いえ、皆さんは通常通り通学してもらいます」


 その言葉に、全員が疑問に満ちた顔を浮かべた。


 「マストウェイ教官、我々の任務は両殿下の護衛のはずです。学園に登校している時間などないと思いますが」


 リュドミールがその疑問を口にする。

 レンとしても護衛任務という話を聞いてから、その任を請け負った期間は学校は休むことになるものだと思っていた。他の全員も同じように思っていただろう。

 しかし護衛が必要ないとはどういうことだろうか?


 「心配せずとも、私を含むレアードから出る護衛はあくまで予備です。両殿下には本国から特殊部隊が護衛としてついています。それに加えてリンクライン島も明日から四日間は警備体制を強くする予定です。我々が抜けたところで問題はないでしょう」


 それは、確かにそうかもしれない。

 一国の首脳の子息につく護衛ともなれば、それなりのものであるのは間違いない。何よりも、世界三大剣術のトップである二人――即ちレンの父であるアルヴィン サイクスと、エファの母であるルミナス・ヒルデブランドがいる。

 その上、帝国使節団、共和国使節団、リンクライン島からもそれなりの護衛がこの会議のために動いているという。もしもそれを突破できるというほどの戦力がこの島に集まっているとなると、敵も大規模な人員を配備せざるを得ず、そうなるとどこかで警戒網に引っかかっているはずだ。


 「それに加えてもう一つ理由があるのですが、まぁそれは明日になればわかるでしょう」

 「なんだよ教官、意味深だなぁ。もったいぶってねーで教えてくれよ」

 「はは、まぁ教官からのちょっとしたいたずら心というものですよ、ケイス君。というわけで明日は皆さんには普通に登校してもらいますが、二日目からは学校を休んで護衛についてもらいますよ」

 「マジかよ、ラッキー!」

 「ですが真面目に任務をこなしていないと減点させていただきますので、その旨はきちんと理解していてくださいね」


 げー、とケイスは苦そうな顔をする。


 「では、本日のミーティングはここまで。特に何もなければ皆さんはこのまま寮に戻っていただいて構いませんよ」


 というエイゼルの言葉で締めくくられ、ひとまずは今日は解散ということになった。




 ●




 管制塔正面玄関から外に出ると、既に夕陽はその大半を水平線の下へと沈めつつあり、暗闇が辺りを支配する時間帯となっていた。

 魔力革命によって生み出された文明の利器である街灯が周囲を照らしてくれているため、街中はそれほど暗くはない。

 特に市街地の中心部である管制塔付近は他よりも格段に明るい。


 リンクライン島に来て二ヵ月。そんな常識にもすっかり慣れたレン達は、もはやその光景に驚くこともなく、セシルに至っては建物の中の詰まった空気から解放されてかぐっと伸びをしてリラックスしていた。


 「それにしても、なんだか面白いことになったわね」

 「大変なことになった、の間違いじゃないの?」

 「あら、そんなことないわよ、エファ。二大国の超特大VIPの護衛なんて任務、そう経験できるものじゃないわ。しかもその理由を作ったのがレンとエファだなんて、私本当にあなた達の友達になって良かったわ」

 「まったくもって同感だな。普段からお前らはおもしれーけどよ、ほんっとこんなおもしれーことに巻き込んでくれるなんて、マジで最高だぜ」


 そう言って、ケイスはレンの肩に腕を回す。

 少しばかり迷惑そうにしていたレンだったが、そこでぴくりと何かに反応した。


 「おや、そこにいるのは――」


 と、そこで管制塔の玄関にある両開きの自動扉から制服らしきものの上に白衣を纏った、くせっ毛だらけの茶髪の女性が現れた。

 眠たげな瞳をした彼女に、レンとエファは見覚えがあった。


 「お久しぶりですね、レン サイクスさん。そしてエファ・ヒルデブランドさん。実に二ヵ月ぶりになるかと」


 気軽に語りかけてくる彼女に、面識のないセシルがレンの袖をくいと引く。


 「誰?」

 「ああ、セシル達は会ったことがなかったよな。俺達が二ヵ月前に管制塔三階にあるメインコントロールルームを訪れた時に知り合った、クローデンさんだ」


 ミレイ=ナ=クローデン。二ヵ月前にレンとエファがエイゼルにお使いを頼まれて管制塔を訪れた際に出会った、管制塔三階で働いている助手(?)的な人だ。


 「初めまして、ミレイ=ナ=クローデンです。レンさんのクラスメイトの方々ですか?」


 問いに、初対面の三人が「セシルです」「ケイス・ラースヘルっていいます!」「リオート・M・リュドミールであります」と順に挨拶をする。


 「なるほど、あなた方が今期のレアードA組というわけですか。皆さん良き表情(かお)をされてますね」


 ぐるりと五人を見渡して、彼女は感慨深そうに言う。

 それはさておき、こちら側の挨拶がまだだったということに気が付いたレンがケイスの腕を解いてから一歩前に出る。


 「クローデンさん。ご無沙汰しています」

 「話は聞いていますよ、皆さんは使節団の護衛をすることになったのだとか。管制塔(ここ)にいるのもその任務のためですか?」

 「そうですね、といっても今日は俺達の護衛は必要ないらしくて、今から学生寮に帰るところなんですけど」

 「ふむ、そうですか」


 会話に妙な間が空く。

 というより、この場にいる六人の中の三人の様子がおかしい。

 そのことに気付いたのはエファで、その三人とはレンとリュドミール、そしてミレイだ。

 普通に会話をしているレンとミレイは明らかに視線を動かそうとはせず、リュドミールに至ってはぴりぴりとした雰囲気を放っている。

 いったいどうしたことかと思っていると、そのことをまるで気にした様子もなくミレイが会話を再開した。


 「実を言うと今夜の管制塔は厳戒態勢でして、内部はもちろん外部にまで警備の手が回っています。私も警備を担当することになり、こうして表に出てきたわけなのですが、あなた方がいるのであれば応援を呼ぶ必要もないかと」

 「なるほど、それじゃあ陽動を警戒する必要はないということですね」

 「了解しました、これより確保に当たります」


 言うが否や、リュドミールが懐から武器を収納する魔石――ホルダー魔石を取り出す。それに続くようにミレイも魔石を取り出し、レンも太刀を包む布を取った。


 まずレンが先行し、それに続く形で魔石からリュドミールが杖を、ミレイが槍を出現させる。

 彼らが向かう先にはスーツ姿の一般人が二人。向かい合って言葉を交わしている。

 そんな彼らに向かって武器を取り出し、向かっていくとは何事かとエファは騒然としたが、彼女が言葉を発するより前にその変化は表れた。

 スーツ姿の男達が舌を打ち、懐からホルダー魔石を取り出して銃を出現させたのだ。

 明らかに一般人らしからぬ反応。それを予想していたかのように、レン達は冷静に事態に対処する。


 まず放たれた銃弾をレンが鞘で弾く。

 次いで後方に控えていたリュドミールが杖を構え、光の剣を二本出現させてそれを男達に向けて射出した。

 かなりの速度で放たれたものだったが、距離があったので男達はそれらを回避する。とはいえ、何らかの訓練を受けていなければできない動作。

 只者ではない。それでも、対するはレアード学園の今期新入生の中でも桁外れの実力を持つレンとリュドミールに、彼らの動きに完全に合わせて動くミレイだ。


 エファは以前にレンからミレイが実力者であるということを聞いていたが、それを証明するかのように彼女の動きは洗練されている。

 リュドミールの攻撃を回避した男の一人に素早く迫り、槍を振り上げる。そのまま振り下ろされた槍を、男は後方に跳んで回避するが、ミレイはその槍の力をうまくコントロールし、完全に振り下ろされた槍の軌道を修正し、下段から前方に向けて素早い突きを何度も繰り出す。

 巧に槍を操ることによってその槍が男の体を貫くことはなかったが、体のギリギリを掠めていった槍は彼の体に複数の切創を生んだ。

 衝撃によって後ろに倒れた男は、そのまま眼前に槍の穂先を突きつけられ、動きを止める。


 一方で、もう一人の男に対応していたのはレンだ。

 持前の速度で男に肉薄したレンは、そのまま肉弾戦に突入。

 しかし男の方もそれなりの経験はあったようで、攻撃を苦手とするレンは防御に徹することになる。

 とはいえ、この状況において時間が味方をするのはレンの方。彼がうまく位置取りを変えたおかげで、リュドミールが気付かれることなく男の背後に駆け寄り、杖で頭に一撃を加え、それで戦闘は終了した。


 「拘束はお任せを」


 事が済んだ後、リュドミールがそう言って杖を構えると、二人の男の体に光の輪が巻き付けられる。

 完全に状況に置いていかれているエファとセシルとケイスは、終わったことを見計らうようにしてその場に駆け寄った。


 「ちょっと、なんなのこいつら?」

 「不明ですが、おそらく塔にいる要人を狙った刺客かと」


 完全に男が拘束されたことで槍を引いたミレイが答える。


 「ですが、見たところ主犯格というわけでもなさそうですね。おおかた偵察に来た下っ端といったところでしょうか」

 「な、なんでそんなことがわかんだよ?」

 「簡単さ、ケイス。ここは警備が一番厳重な管制塔の正面玄関。そんなところから攻め込もうとする意味がないだろう」


 加えて、刺客は二名。いかに少人数といえど、正面から管制塔に侵入するリスクは高すぎる。仮に正面から侵入するにしても、この二人の実力程度では管制塔の中で何らかの目的を果たすのは難しい。

 故にその程度の人員がこの場にいる目的は偵察。それがレンの出した結論だ。


 「なるほどね、それにしてもあなたたち、よく気付いたわね」

 「管制塔を出入りする人をチェックしている素振りがあったからな。最初は気のせいかとも思ったけど、クローデンさんが出てきたところで確信に変わった」

 「そうですね、私が出てきた瞬間に警戒度が一気に上がった気配がありました。察するに、私の脅威度を認知しているが故の反応かと」


 まったく気づかなかったエファは、つくづく目の前の実力者達に感心する。

 管制塔の正面玄関だからとほぼ警戒を解いていたエファに対し、レンもリュドミールも、そしてミレイも周囲の反応の機微に目を光らせ、正確に刺客の存在を察知した。


 「改めて、どういう環境で育てばそんな鋭くなれるのかしら」

 「どうしてその矛先は俺にだけ向けられているんだ?」


 相変わらず事情を探ろうとしてくるエファに、レンは少したじろぐ。

 それはともかく、この場でやることはまだ残っている。


 「それでは、この方たちを連行しましょうか」

 「あら、拷問とかしないの? 私こう見えても人をいたぶることは得意だったりするんだけど」

 「そういうことは本職に任せておけばいいから。多分拷問はしないと思うけれどね」


 恐怖を煽るような笑顔を浮かべるセシルに、エファが釘を刺す。

 まったくもって彼女の言う通りで、取り押さえた彼らはしかるべき組織に連行すべきだ。

 そう考えてミレイが応援を呼ぼうとしたところで――


 「――っ! 皆さん、伏せてください!」


 リュドミールが叫んだ直後、レン達の頭上に一つの影が落ちてくる。

 奇襲。それに気付いたレンがいち早く動き、ローブでその身を隠した何者かが振り下ろしたものを鞘で受け止める。

 それは柄の長い斧だった。戦斧(ハルバード)と呼ぶべきそれに刃はなく、代わりに無骨で厚い金属が先端についていることから、斬撃よりも衝撃に特化したものであることが窺える。

 その証拠に、レンが受け止めたにも関わらず、凄まじい威力が衝撃波を巻き起こす。


 衝撃に怯んだ一同を見計らうかのように、ローブ姿の刺客は戦斧の接触部に重心を置いてレンを飛び越え、彼の背後に着地すると同時に拘束された男達の元へと駆ける。

 まずはリュドミールに肉薄し、戦斧を横薙ぎにする。咄嗟にリュドミールは杖で防御するが、戦斧の一撃は重く、防御しきれずに吹き飛ばされる。

 ガードが空いたところで男を拘束していた光の輪を素早く破壊し、もう一人の男の元へ。


 今度は体勢を立て直したミレイが待ち構えていた。これを突破するのはそう容易なことではない。

 しかしローブの刺客はまったく怯むことなく交戦の構えを取り、二人の攻防が始まる。

 それは十数合に及ぶ武器同士の激突。幾度もの火花を散らしてと派手な音でぶつかり合う戦斧と槍だったが、軍配が上がったのは刺客の方だった。

 ギリギリのところで競り負けたミレイは戦斧の一撃をガードし、大きく後退させられる。その隙にローブの刺客は男の拘束を砕いた。


 そこにすさまじい速度でレンが迫るが、ローブの刺客は素早く斧を振るう。レンはそれを防ぐことしかできず、勢いを殺されることによって相手に後退する隙を与えてしまった。

 一連の攻防に参加できなかったエファとセシルだったが、みすみすこれを逃すつもりはない。

 それぞれ武器を取り出し、レンが刺客とぶつかった時には既に地を蹴っている。

 ギリギリ逃れられる前に届く。そんな距離で、


 「待て、エファ、セシル!!」


 ケイスの制止の声で足を止める。

 見ると、彼はライフルを構えて、背後にある管制塔正面玄関の上にその銃口を向けていた。

 その先にいたのは、もう一人のローブ姿の刺客。

 ケイスが二人を止めるのも無理はない。その刺客から放たれる威圧感。それを一度意識してしまうと、迂闊にその場から動くことができない。それほどまでに圧倒的な強さを感じさせている。


 しかし、動かないということは刺客を逃がすということで。

 既に管制塔の前にいた二人の男とローブの刺客は闇に溶け込むようにして逃走している。

 これ以上追うことはできない。そう一同が認めたところで、正面玄関の上にいたローブの刺客もくるりと身を翻し、闇に溶けていく。


 「何だったのよ、今の……」


 大剣を下ろし、頬を伝う汗を感じながらエファが呟く。


 「わからないが、どうやら相当な刺客が来ているみたいだな」


 事態を冷静に受け止めながら、レンは周囲を見渡す。


 「どうやら他にはいないみたいだな」

 「はい、どうやら全員撤退したようであります」

 「結構な騒ぎでしたし、もうすぐ他の警備の者もここに駆け付けてくるかと」


 武器を納め、テキパキと状況収拾に勤める三人。

 なんとも慣れた動きだ。管制塔で警備をしているミレイと公国軍所属であるリュドミールはともかく、どうしてレンまでそこまで手馴れているのかは謎だったが。

 それに倣うようにして、エファ達も武器を納める。


 「それにしてもすごい連中だったわね」

 「ええ、まさかこれだけ人数がいて出し抜かれるとは思ってもいなかったわ」


 実力者揃いのA組に、リンクラインの重要施設である管制塔に詰めるミレイ。この六人をたった二人で出し抜くのは、至難の業だ。

 それほどまでに相手の力量が高かったということ。

 このタイミングでの正体不明の刺客。その狙いは間違いなく、管制塔の中にいる二人の皇女。

 騒ぎを聞きつけて警備員が駆けつけてくる中、エファとセシルの呟きを聞いたレンは管制塔を見上げる。


 「どうやらまた、一波乱ありそうだな」


 その言葉に呼応するかのように、空には暗雲が立ち込め、輝く月を覆い隠す。まるで、これから不吉が起きることを物語るかのように。

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