↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒幻のリンクライン  作者: 水無雲夜斗
第三章 皇女来島編
66/79

3-2 新入生第一位

 「では一年A組所属、レン サイクス君。我々生徒会は今この時をもってキミを正式に生徒会の役員として認めよう」


 六分歴532年6月20日。

 季節は梅雨に入っていたが、今日は雨が降っていない。代わりに薄暗い雲が空を覆いつくしており、五月までの清々しい雰囲気はどこへやら。それでもリンクライン島は相変わらず動き続け、そして今日という日を迎えた。


 朝のホームルームが始まる一時間前。

 黒髪の少年――レン サイクスはなんとも面映ゆいような感情を抱え、生徒会室で拍手に包まれている。

 といっても拍手をしているのは二名だけだ。

 学生にしては大人びた厳格さを感じさせる、レアード学園の現生徒会長――アークティス=パンツァーゲイル。

 無愛想な生徒会長に代わり、生徒会の顔役として彼のサポートを行うことの多い風紀委員長――ミィン ラクティア。

 相変わらず生徒会室にはこの二人の役員しかいない。というかレンはまだ他の役員と顔を合わせたことすらない。学内でたまにすれ違う程度の面識はあるが、果たして他の役員はレンが生徒会に所属していることをきちんと把握しているのか、時たまに不安になる。


 それはさておき、どうやら4月からあった話である、レンを生徒会に迎え入れる件が固まったようだ。

 本来一年生が生徒会に入るには、学園の後期にある全校集会の選挙で一定数の生徒の投票を受ける必要がある。

 その工程をすっ飛ばしてレンが生徒会に迎え入れられたのは、彼の驚異的な問題解決能力を、生徒会及び教師陣がかなり高く評価したからだ。

 だが、特殊な事例故にいろいろと手続きが必要だったらしく、レンは今まで仮の生徒会役員として扱われてきた。それが今日、ようやく正式な生徒会役員として認められたというわけだ。


 「では、今日からキミにはこの腕章をつけて過ごしてもらう。といっても、何度かつけたことはあったと思うけどね」


 と言ってミィンが手渡してきたのは、「生徒会」という文字が刺繍された腕章だ。

 確かにレンはこれまでにもこの腕章をつけたことがある。だが、正式な生徒会役員は常にこの腕章をしていなければならないものらしい。実際、学内でもたまにすれ違う役員はこの腕章をしている。

 ついでに目の前の二人も腕章をつけている。入学時からずっとそれを見ているだけあって、逆に腕章をつけていないと違和感を感じるレベルだ。


 腕章を受け取り、左腕につける。

 特に感慨深く感じるものはレンにはなかったが、ミィンが嬉しそうにうんうんと頷いていた。アークも心なしか唇の端がつり上がっているように見える。


 「ぐふふ、これでやっとレン君を正式にこきつか――ごほん、生徒会活動に正式に参加させることが可能になったわけだ。心の底から嬉しいよ」

 「ほどほどにしておいてくださいね。しかし、正式な生徒会役員というのは今までとどう違うのでしょう?」

 「え? それは……う~ん、書類整理してもらったり?」

 「今までも手伝ってましたよね?」


 実のところレンは放課後になると生徒会の手伝いをしている。

 今しがたミィンが述べた書類の整理から校内の見回り、教官陣との連絡、生徒の危険行為取り締まり等。


 「今までいろいろな活動をしてきましたが、生徒会の正式な役員ともなると、もっと他にも大切な活動があったりするのでしょうか?」

 「う、う~ん、そうだね……いや別にちょっと特に、ないかな」


 どんどん尻すぼみになっていく声。

 レンとしては他の生徒会役員がほとんど生徒会室にやってこないことから、生徒会の役員というものは毎日重要なミッションをこなしているものだと思っていたのだが。


 「実を言うとレン君に任せられる生徒会の業務って、今のところほとんどないんだよね。本来なら一年後期から入った生徒会役員は、下っ端の雑用っていうのが慣例だからね。その代わり二年生になると重要な仕事も任せられるから忙しくなるよ」


 ということは、一年の仕事は先輩達が出払っていてできない書類整理や清掃などの、まさに雑用といったところなのだろうかとレンは勝手に想像する。

 それなら一年の生徒会役員がいないこの時期に生徒会が忙しくなるのも納得だ。三年が抜けてその穴埋めとして前雑用担当であった役員が駆り出されているとなると、自然と雑用要員がいなくなるのだから。


 「なんにせよ、生徒会なんて思わぬ時期に思わぬ仕事が舞い込んでくるものさ! その度に人手不足を痛感するからね、キミが生徒会に正式に加入してくれたのは本当に助かるんだよ」

 「ああ、ミィンの言う通りだ。我々生徒会はキミの活躍に期待している。そしてこれは生徒会としての活動とは少し違うが、さっそく頼みたい仕事がある」


 そうアークが前置きしたところで、タイミングを見計らったかのように生徒会室の扉が開いた。


 「ああ、良かった。まだいてくれたようですね」

 「エイゼル教官」


 生徒会室に入ってきたのは天然パーマのかかったボサボサの茶髪に、片眼鏡(モノクル)を左目にかけたレンのクラスの担任教官――エイゼル マストウェイだった。

 どうやらレンに用があったらしく、彼の姿を見て安堵の息を漏らしていた。


 「ちょうどいいタイミングです、マストウェイ教官。例の件を頼もうとしていたところでした」

 「おやさすがはアーク君、仕事が早いですね。それでは私の方から話をしてしまっても?」

 「はい、ぜひお願いします」

 「それでは、入ってきていただけますか?」


 エイゼルが扉の方に声をかけると、再び木製の扉がガチャリと開く。

 入ってきたのは一人の女生徒だった。

 腰元まで伸びたアッシュブロンドの髪に、エメラルドグリーンの綺麗な瞳。凛とした雰囲気は雪を連想させ、そのイメージ通りに何か冷たさを感じるような、そんな浮世離れした空気をレンは感じ取っていた。

 それにしても、見たことのない生徒である。

 赤色のリボンをしていることから一年生であることが窺い知れる。レンはレアードに入学してからある程度学内にいる生徒の顔は見ているし、一年生ともなればそれなりの顔は憶えている。

 アッシュブロンドの少女はかなり目を引く外見をしている。それこそ、一度見れば最低でも記憶の片隅には残るほどに。それでも見たことがないということは、彼女とは一度も出会ったことがないということなのだろう。

 ミィンやアークも似たような反応だったが、しばらくその顔をじっと見て、あることに気付いたようにミィンが手槌を打つ。


 「おや、もしかしてキミはリュドミール君じゃないかい?」


 これまた聞いたことのない名前。

 しかし、レン以外の室内にいた全員がその名に憶えがあるらしい。アークも得心がいったという顔をしている。

☆言葉を受けてそれを肯定した少女は、慣れた動作で敬礼をして、


 「初めまして、リオート・M・リュドミールであります。この度は例の件に参加すべく一時的に生徒会と協力関係を組ませていただくことになりました。よろしくお願いします」


 まるで典型的な軍人のような態度。そのあまりに堅苦しい雰囲気に、その場にいた全員が呆気に取られる。

 それをフォローするかのように、エイゼルが口を挟んだ。


 「リュドミールさん、ここは軍ではないのですから、そんなに畏まる必要はないのですよ」

 「はっ、しかし教官、今回の一件は我が国の上部から正式に言い渡された任務であります。となれば軍務も同義であり、私は軍人として振る舞うのが適切だと思われるのでありますが」

 「ここでの貴女は生徒会に一時的に協力することになった一生徒です。軍人という扱いをするつもりはありません」

 「はぁ、そうなのですか」


 納得したようなしていないような、とにかくアッシュブロンドの少女--リュドミールは堅苦しい態度を解く。


 「失礼しました、どうも私は軍に毒され過ぎているようで。いつもそのように言われているのでありますが」

 「いやいや、構わないよ。それにしても本当に軍人なんだね」


 物珍しいものを見るかのように、ミィンは少女をしげしげと見つめる。

 一方で唯一彼女のことを知らないレンは、このタイミングにとエイゼルに問いを投げた。


 「ところでエイゼル教官、彼女は?」

 「ああ、そういえばレン君は知らないのでしたね」

 「レン君?」


 その名前にぴくりと反応した少女。

 じっとレンの方を見つめ――いや、睨んでいる。


 「あ、あの、何か?」

 「貴方が噂のレン サイクスでありますか。想像していたより普通でありますね」


 何のことかはわからないが、どうやら向こうはレンのことを知っているらしい。

 もっとも、レンの知名度はこの二か月で随分と上がってしまった。

 入学式前の数々の事件に、ニュービーキラー事件、ついには島全体を混乱に陥れたグリッド・A・ネームレス襲撃事件すら解決した期待の新入生。

 その名前はすっかりリンクライン島に浸透し、今ではすっかり有名人だ。

 という理由から彼女がレンのことを知っていてもなんら不思議はないのだが、睨まれている理由はわからない。


 「えっと、俺が何かしたかな?」

 「おっと、これは失礼。改めまして挨拶させていただきます。私は一年A組所属、リオート・M・リュドミールであります。クラスメイトとしてよろしくお願いします、レン サイクス」


 ぺこりと頭を下げるリュドミール。

 というよりも、聞き捨てならない台詞が彼女から出たような気がして、レンは思わずエイゼルの方に視線を向ける。


 「お察しの通り、彼女はしばらく不登校だった二人の内の一人。そして今年度入学時総合成績第一位のリュドミールさんですよ」


 レンは驚きに瞠目する。

 確かに第一位の姿は見たことがなかったが、まさか女性だとは思いもしていなかった。


 「疑うのも無理はありませんが、事実です」

 「マストウェイ教官、その言い分は私に対していささか失礼ではないでしょうか」


 じとっとした目でリュドミールに睨みつけられるのをスルーするエイゼル。

 それはともかくとして、そろそろ本題を進めたいと考えたミィンがごほんと一つ咳払いをした。


 「それで、マストウェイ教官。そろそろ例の話をしてもらってもいいですか?」

 「ああ、そうでしたね。それでは始めましょうか」




 ひとまず落ち着いて話をするため、生徒会室にいたメンバー全員が応接用の机へと移った。

 長方形の机を囲む形で設置されている椅子の上座にエイゼル、横手の長ソファにアーク、ミィン、そして下座にリュドミール。レンはアーク達の向かい側に即席で容易されたパイプ椅子に腰かけている。

 生徒会メンバーではないリュドミールがパイプ椅子に座ることを進言したのだが、さすがに女性に席を譲ってもらうというのは男として気が引けたので、そこはレンが引き受けた。


 「要人護衛?」


 そしてエイゼルの話を結論から聞いたレンが、その言葉を反復する。

 こくりと頷いたエイゼルは、詳細について語り始めた。


 「近々、というか今日の放課後くらいでしょうか。アニエスタ共和国からある主要人物がリンクライン島を来島されることになりました」

 「ずいぶんと急な話ですね」

 「来島については元々決まっていた話ではあるのですがね。それほど大した話でもないので、機密というほどではありませんが、公には伏せられています」


 ずいぶんと中途半端な対応だとレンは思った。

 国家の要人ともなればもっと大々的に報道されるはずなので、その程度の対応で済ませていいはずもないのだが、そうでないということは、訪れるのは地方貴族程度だったりするのだろうか。


 「それと同時に、アンデルス帝国からも要人がリンクライン島を訪問される予定となっております」


 それはなんとも、おかしな話だ。

 特に大きな変化もなく、案件もないこのタイミングで共和国、帝国の二大国から要人がリンクライン島を訪れる。

 レンには特に心当たりはないが……。


 「明らかにきな臭い話ですね」

 「そう思うのも無理はないでしょう。ですが、とりあえずのところ二大国の要人達は話し合いという名目でリンクライン島を訪れるそうです」

 「話し合いですか?」

 「ここ最近、リンクライン島ではいろいろなことがありましたからね。特に共和国、帝国間には非公式とはいえ一本のパイプもできてしまっている。その辺のことを一度整理しておきたいのでしょう」


 共和国、帝国間に繋がったパイプというのは間違いなくサイクス家とヒルデブランド家のことだろう。

 二ヵ月前、レンは新入生が次々に闇討ちに遭うというニュービーキラー事件にて、クラスメイトの少女――エファ・ヒルデブランドを救うために彼女に婚約を申し込んだ。

 もちろん本気ではない。あくまで繋がりを作るための宣言だったのだが、その効果は絶大だ。

 なにせ二大国の大貴族であるサイクス家とヒルデブランド家の子息が――正確には確定ではないが――婚姻を結ぶのだ。国に絶大な影響を与えている貴族家の事情をないがしろにできるはずもなく、共和国と帝国は否が応にでも協定を結ばざるを得なくなった。

 多少の混乱を想定していたレンだったが、まさか二大国による話し合いにまで発展するとは思ってもいなかった。

 ここで初めてやりすぎだったかなという感情が生まれてきたが、もはや後の祭りである。


 「とにかく、そういうことですので生徒会メンバーは総出で要人の護衛を担当していただきます」

 「待ってください、どうしてその要人の護衛を俺達レアードの者が担当するのですか?」


 基本的にレアード学園生徒会は学園に関する事柄にしか関与できない。

 先月に起きたネームレス襲撃事件では、学園の生徒であるセシル・A・ネームレスが関係していたために、強引に事件の現場に立ち入ることができた。

 だが、今回の件はレアード学園はまったく関係ない。

 その疑問を持つのはもっともだったが、エイゼルは首を横に振った。


 「やむにやまれぬ事情というヤツですよ。どちらかというと、レアード学園というより私達に関係がある、と言った方が正確ですから」


 その言葉の意味は理解できなかったが、とにかく要人の護衛は強制参加ということで話が終了した。

 あまりにも唐突で、漠然とした話にレンは一抹どころか多大な不安を抱かざるを得なかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。