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黒幻のリンクライン  作者: 水無雲夜斗
第二章 ネームレス襲撃編
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2-24 炎の卵

 「どうやら、警官隊が奥で交戦中らしい。もう少ししたら駅のホームに出るし、何かがあると見て間違いないだろうね」

 「何かというと何でしょう? 私、すごく気になります!」

 「それは行ってみればわかることさ、ミナ君。さ、急ごう」


 再び一同が走り出す。

 煙でイマイチ現在地が把握しづらかったが、四人がいる場所は駅のホームからほど近い場所だ。

 一分ほど走ったところで、開けた空間に出る。

 煙がもうもうと立ち込めていたが、視界はかなり開けていた。おかげで、駅のホームの状況がよく見える。


 「これは……」


 ミィンが状況を見て思わず呻く。

 駅のホームでは警官隊と大量の使い魔の戦闘が繰り広げられていた。

 状況は警官隊の方が押され気味。それもそのはずで、駅のホームにはいたるところに使い魔が存在していて、警官隊は数の力で圧倒されているのだ。

 そしてホームの中央に鎮座する巨大な炎の塊。あれが何なのかはわからないが、きっと本命であることには間違いない。


 駅のホームに侵入者が来たことを察知してか、数十体の使い魔がレン達の方を向いた。

 途端に襲撃してくる使い魔たち。それを見て、ミィンが前に出た。


 「薙ぎ払え!」


 剣を伸ばしたミィンが、横一文字に使い魔たちを薙ぎ払う。

 だが、全ての使い魔を撃破できたわけではない。それほどまでに多くの炎が宙を舞い、レン達の元へと迫ってくる。

 ミィンに飛び掛かろうとした使い魔を、レンが太刀で防御する。その横から現れたエファが、使い魔を斬り伏せた。


 今度はミナが横合いからやってくる使い魔たちを、扇を仰いで風の魔力を発生させ、一網打尽にする。

 からんからんと音を立てて使い魔を発生させていた魔石が地面に落ちる。中には罅が入ったり完全に破壊されているものもあったが、それ以外の魔石に再び炎が灯る。

 ぼっ、と魔石が燃えたかと思えば、再び使い魔が形を成した。


 「うそでしょう、使い魔は完全に撃破したはず」

 「ふむ、今までになかった現象だね。どうやら核となっている魔石が破壊されているものは復活できないようだが、魔石が原型を留めているものは再び活動が可能になるようだ」

 「で、でも、今までは魔石が纏っている魔力を消し飛ばせば再生はしませんでしたよ!?」


 言いながら、ミナは扇を思いっきり振って風を発生させる。先程と同じように魔力を纏った暴風が炎を吹き散らす。

 魔力が形を失い、魔石が地面に落ちるがすぐに炎を纏い、再び使い魔たちが活動を開始した。


 「い、一体何が起こっているんですかー!?」

 「魔力供給、か」


 レンが接近してきた使い魔を蹴散らしつつ、その解を呟く。


 「魔石として機能するものに何かが魔力を供給し続けている。だから、魔石に纏っている魔力を吹き飛ばした程度じゃ―――」


 言いながら、レンは使い魔の一体を掌底で撃破した。

 バニッシュにより流力の衝撃を与え、魔力を吹き散らす撃破の方法だ。それでは魔石本体にダメージを与えることができず、レンの言う通り魔石としてまだ機能するものが使い魔として形を成す。


 「この通り、再生するってことか」

 「それじゃあ、核になってる魔石を直接破壊すればいいんでしょ」

 「簡単に言うが、容易なことではないね。私やエファ君のように纏っている魔力ごと魔石を斬り伏せられるほどの攻撃力を持つ使い手ならまだしも、警官隊の銃はそもそも数発撃ってようやく使い魔の纏っている魔力を吹き飛ばすことができる程度の威力だ。レン君やミナ君の攻撃は衝撃系で、魔力を吹き飛ばすことに長けてはいるが魔石にダメージを与えることは難しい。加えて、この使い魔の数だ。全て撃破するとなると多少骨が折れる」


 ミィンに言われて一同が周りを見渡すと、確かに使い魔の数が尋常ではない。

 少なくとも100体以上。ホームを埋め尽くすほどの数の使い魔がここには存在している。警官隊が苦戦するのも頷ける話だというものだ。


 「とにかく、我々の目的は情報収集だ。そのためにも警官隊と合流するのが得策だと思うのだが、みんな異存はないかい?」

 「ありません、行きましょう。先陣は俺とミィン先輩で!」


 こくりと頷き、全員が行動を開始する。


 駅のホームへの入口は二階にあり、ホームへは階段を使って下りる必要がある。

 警官隊がいるのは一階で、どうやら線路から直接ホームへと乗り込んだようだ。彼らがいるのは一番ホームで、レン達がいるのは二番ホーム二階部分。

 階段を使うのもいいが、一階には歩行型使い魔がうじゃうじゃといる。二階の連絡通路を伝って一番ホームへと向かうのが得策だと判断した四人は、そのまま道を進む。

 その過程で飛行型の使い魔の襲撃があったが、レンとミィンがそれらを難なく迎撃していく。一度魔力を失った魔石が地面に落ちるが、再生までには時間がかかるらしい。魔力を失った魔石を無視し、四人は一番ホーム上にたどり着いた。


 「飛び降りるよ!」


 指示をして、ミィンとレンが躊躇いなくフェンスを飛び降り一階へと落下していった。

 確かに流術を使えば着地できない高さではないが、それにしては思い切りの良すぎる行動に後ろを走っていた二人は一瞬呆気にとられる。

 しかし飛行型の使い魔がいつ襲ってくるともわからない状況でいつまでも呆けているわけにもいかない。エファとミナは顔を見合わせて頷くと、フェンスを飛び越えて落下を始める。


 一階には歩行型の使い魔がかなりいたはずだが、着地と同時にレンとミィンがそれらを払っていたようで、着地地点には穴が空いたかのように使い魔がいなかった。おかげでエファとミナは無事に着地することができた。

 先を行っていた二人は既に使い魔を蹴散らしながらも警官隊の方へと走り出していて、後の二人も遅れないように走り出す。途中討ち漏らした使い魔の相手をすることもあったが、それでもエファとミナの実力であれば難のないことだ。

 そうして無事に警官隊と合流した四人は、部隊に群がっていた使い魔たちを一気に払いのける。


 「なんだ、君達は!?」


 警官隊の一人が驚き、声を上げる。

 対応したのはやはりというべきかミィンだ。


 「レアード学園の者だ。臨時特例第一条により立ち入り調査に来た」

 「臨時特第一条だと!? いや、まぁいい、学生とはいえどうやら腕は立つようだからな、援軍に来てくれたというのであれば助かる」

 「それで、状況は?」

 「ああ、現在我々は駅内から突然現れた謎の化け物集団と交戦中だ。外に出ていったヤツらは駅を囲んでる別動隊がなんとか駆除しているらしいが、構内のヤツらはそう簡単にはいかない」

 「というと?」

 「ヤツら無限に復活しやがるんだ。どうやら、あのデカい炎の塊から魔力供給を受けてるらしくてな」


 そう言って警官の指差す先には、ひときわ目立つ巨大な炎の塊がある。

 まるで卵のようなそれは、ただ炎を発するだけで動くことはなく、ただただ異様さと不気味さを放っていた。


 「うーん、やっぱりあれが大元と見て間違いないようだね。それじゃああれを叩けばいいんじゃないのかい?」

 「やってるさ、でも化け物どもが邪魔しやがるんだ。それに銃でどうこうできるもんでもなさそうだしな」


 確かに、よくよく見ると使い魔はあの巨大な炎の卵を守るように動いている。それに、あれほど巨大な炎の塊を銃弾でどうにかできるとは思えない。


 「なら、私が!」


 と、前に出たのはミナだ。彼女は扇を思いっきり振りかぶると、勢い良く振り下ろす。

 発生した暴風が使い魔たちを吹き散らし、見事に炎の卵に激突した。

 ぶあっ、と炎が煽られ、卵の形が一瞬崩れる。だが、崩れたのは一瞬ですぐに炎は元の形を取り戻した。


 「ど、どうしてですか!? 小さな衝撃程度じゃどうにもできないってことですか!?」

 「うーん、というよりはこの使い魔たちと近い現象のように思えるね。つまり、あの巨大な炎もどこかから魔力供給を受けていて、攻撃を受けても再生する。そんな仕組みかな」


 近場にいた使い魔を斬り払いつつ、ミィンが冷静に考察する。


 「多分、あれを撃破するには直接核となっている魔石を狙うしかない。でもその魔石の在り処がわからないね。あれだけの大きさを誇る炎の中から探し出そうとするのは至難の業だ」


 加えて、あの巨大な炎の塊の周囲は使い魔たちが守りを固めている。

 炎の塊の周囲の炎を削り、内部の魔石を探し出すことはできなくはないだろうが、それにはまず使い魔の数を減らす必要がある。でなければ炎を削る作業に集中できないからだ。


 しかし使い魔の数はゆうに百を超えている。全ての撃破も不可能ではないが、かなり時間がかかってしまいことだろう。

 果たして、敵がここまで大規模に動いているこの状況で、その作業を行うだけの時間的余裕があるのかどうか。いや、おそらくはその時間稼ぎこそ敵の思惑であることに間違いはない。

 よってここでのんびり魔石発掘作業をしている暇などない。


 「ミナ、魔術師であるキミならあの炎の塊がどこから魔力供給を受けているかわかるか?」


 レンの問いかけに、扇を振るって使い魔たちを蹴散らしていたミナが慌てて振り向く。


 「ええっと、あれほど巨大な魔力の塊です。注意して見ればわからないこともないですが……」

 「なら頼む、どこから魔力供給を受けているのか探ってくれ」

 「わ、わかりました!」


 ミナは扇を畳み、じっと炎の塊を注視する。

 すると浮かび上がってくるのは地を這うように伸びる一つのライン。それは線路を伝い、島の中央へと向かって伸びている。


 「ありました、この線路を伝っていった先です!」

 「わかった、ミィン先輩!」


 使い魔たちを蹴散らしながら、レンはミィンを呼ぶ。

 少し離れた場所で使い魔の対応をしていたミィンは、後退するような形でレンの元へとやってきた。


 「どうしたんだいレン君、何か妙案でも思いついたかい?」

 「その通りです、今から大元を叩こうと思います」

 「大元?」


 すっと、レンはミナが示した方角を指差す。

 それは二番ホームから伸びる一本の線路。唯一島の中心部へと続く出口がある道。そして、その先にあるのは―――


 「リンクライン鉄道中央管制塔かい? そこに大元がいるのか」

 「確証はありませんが、おそらく」

 「わかった、だがどうするつもりだい? ここを放って抜け出すわけにもいかないよ。なんてったってこの数、警官隊の戦力だけでは凌ぎきれないからね」


 確かに、警官隊の防衛力はさほど大きくはない。

 そもそも警官が使っている銃は暴徒鎮圧用のもので、威力にかなり欠ける。魔力供給の源である巨大な炎はおろか、普通の使い魔にすら苦戦するような武装だ。

 かといって彼らも撤退するわけにはいかない。ここを制圧されれば、シーベルト王国とリンクラインを結ぶ線路が火の海に呑まれる可能性があり、そうなるとシーベルト、リンクライン間の鉄道はしばらく休止せざるを得なくなり、王国は経済的大打撃を負うだろう。


 「ミィン先輩、ミナ、この場は二人に任せていいですか?」

 「どうする気だい?」

 「俺とエファだけで管制塔へ向かいます」


 レンのとんでもない提案に、ミィンは頭を抱える。


 「許可できない。管制塔に大元がいるというのなら、それは間違いなくグリッド・A・ネームレスだ。キミ達二人の戦力でヤツに勝てるとは思えない」

 「ですが、俺達全員がこの場を離れてしまえば警官隊は一気に瓦解する可能性があります。ミィン先輩とミナが残れば、確実に守り切ることができるでしょう」


 確かに、現在において魔力供給をされて復活する使い魔に有効打を与えることができるのは範囲攻撃を備え持ち、使い魔の核である魔石ごと破壊できるミィンと、魔石の破壊には至らないが多くの使い魔を一時行動不能にできる魔術を持つミナだ。

 レンとエファが戦力にならないということはないが、この二人がいれば時間はかかるかもしれないが使い魔の全滅だって可能になるだろう。

 だが、グリッドの狙いが時間稼ぎであるのなら、時間はかけていられない。一刻も早く駆け付け、その思惑を阻止する必用がある。

 そう考えたのであれば、レンの提案は決して悪いものではないのだが。


 「だからといって、やはりリスクを容認することはできない」

 「大丈夫です、俺には奥の手があります」


 奥の手。つまりニュービーキラー事件の時に披露したレンの諸刃の剣である技術。

 確かにそれがあればグリッドと渡り合うことも可能かもしれない。もちろん、リスクが多少軽くなる程度ではあるが。

 熟考した末、ミィンは制服のポケットをまさぐって携帯連絡器を取り出した。それをレンに向かって投げ、レンがそれを右手でキャッチする。


 「私の携帯電話だよ、使い方はわかるかい?」

 「じ、自信はありませんが」

 「私がわかるわよ、貸して」


 横からエファが強引に携帯電話を奪い取る。

 折り畳み式の携帯電話をぱかりと開くと、エファは多少慣れない手つきで操作をした。


 「その中に、ミナ君の番号が入っている。さっき交換したばかりだからね。いざという時はそちらに連絡してほしい」

 「えっと、あ、これね。わかりました、それじゃあこれは預からせてもらいます」


 言って、エファはスカートのポケットにそれをしまう。


 「いいかい、レン君、エファ君、くれぐれも無茶だけはしないように。無理だと思った時は自分の命を優先して撤退すること。わかったね?」


 二人はその言葉に応えることも、頷くこともしなかった。最初から無茶をする気まんまんといったところか。

 ミィンがため息をついて、武器を構える。


 狙いは管制塔へと繋がる線路、そこへと至る道を拓くことだ。ミナもそれに合わせて扇を構える。

 そこにやってくる複数体の使い魔。タイミングを計って、ミィンとミナはそれぞれ武器を振るう。

 奔る剣閃と疾風。それが十数体はいた使い魔を一気に無力化し、二番ホームへと至る道ができあがった。


 「今だ、レン君、エファ君!」


 ミィンの合図で、レンとエファの二人が走り出す。

 追いすがる使い魔もいたが、二人の方が速度が速い。

 あっという間にホームを抜け、二人は線路の向こう側の光の中へと消えていった。


 「頼んだよ、どうか無事で……」


 そんな祈りにも似た呟きが、最後にミィンの口から零れたのだった。

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