2-12 炎の襲撃者
夜。街の明かりも徐々に減り、道を行き交う人々の数が減ってくる。
いわば深夜というべき時間帯。
リンクライン鉄道中央管制塔の下、列車進路変更用テーブルがたくさん並ぶ施設にはたくさんのコンテナが存在している。
それは貨物列車からリンクライン島に運び込まれてきたものであったり、これから他国へ渡ろうとする過程の積み替えで一時的に地面に降ろされているものであったりする。それがその施設のところどころに乱雑に存在していた。
「ふぁ~あ、やっと夜か」
コンテナの影、ちょうど人目につかなさそうな一区画で、人影が動く。
この時間帯はターンテーブルも全て動きを止め、施設内の照明が落とされて作業員も全員引き上げてしまっている。だから、施設内に誰かがいるということは本来ありえないことだった。
人影はどっこいしょとその場で立ち上がると、寝起きの体をほぐすように大きく伸びをした。
「やれやれ、潜入成功ってところかね。それじゃあ次は行動開始といきますか」
人影は暗くなった室内にも関わらずしっかりとした足取りで歩を進める。
向かう先は出口。非常灯が点いているので迷う理由もなくどんどんそちらに進んでいく。
カツカツと鉄でできた階段を上がり、作業用通路を通ってその出口へ。
と、そこで人影が向かう先の出口から明かりが這い出てきた。
深夜帯の見回り警備員だ。懐中電灯を持った二人の男が、警備服を纏って人影のいるエリアへと入ってくる。
そしてライトで周囲を照らして、その人影を発見した。
「誰だ!」
二人で人影にライトを当てる。
そうして浮かび上がった人影は、男だった。
炎のような赤髪に、濁った水のような淀んだ青い瞳。体格のいい大男というのが第一印象で、次に警備員達が抱いたのは単純な恐怖。
それは燃えるような威圧感。まるで目の前に巨大な炎があるかのような錯覚を覚えるかのような殺気。
「な、何者だ貴様は!?」
咄嗟に二人が銃を構える。腰に差した警棒ではなく、ほぼ反射的に銃を手に取っていたのは恐怖故だ。
しかし銃という圧倒的な暴力を目の前に突きつけられて、男はまったく動じる素振りがない。どころか、大きなため息を吐いた後に懐に手を入れる。
「動くな!」
「まぁそう焦んなさんな」
気怠そうな動作で男が懐から取り出したのは、一本の煙草だった。
それだけならなんてことはない動作の一つに過ぎなかったが、男がその煙草を口に咥えた瞬間に煙草の先に火が点く。
男がライターやマッチの類を使用した形跡はない。どころか、男の手は両方ともポケットの中に入ったままだ。その状態で何の動作もなく勝手に煙草に火が点いた。この手品に、警備員達は困惑と共に警戒の色を濃くする。
「貴様、何者だ!?」
「名乗るほどのもんじゃないんだけどなぁ。ま、あえて名乗っておくとするかね」
ふぅ~、と煙を吐いて、男はにやりと笑った。
「ネームレス盗賊団、《炎獣》のグリッド」
そう男が名乗ったところで、警備員達は足元がおかしいことに気付いた。
熱い。異常なまでの熱さ。それは痛みとなって頭にまで届く。
「なっ!? ひ、ぐあぁぁ!!?」
見ると、彼らの足元から体を這い上るように炎が起きている。
どうして、と思う暇すらなかった。一瞬にして全身を飲み込んだ炎は、彼らを真っ黒な墨に変えてからやがて勢いを失っていく。
がさりと倒れた死体の傍を、男が悠然とした動作で通る。
もはや燃えカスとなってしまった『物』に、何の興味も示す必要はないとでもいうかのように。
「やれやれ、それにしても団長も面倒な仕事を押し付けてくれたもんだねぇ。俺だって公国の方で暴れたかったっていうのによぉ」
ジー、とその男の姿を、通路に備え付けられた小型の監視カメラが追う。しかし、その監視カメラも唐突に発火を始めたかと思えば、ガシャンと音を立てて地面に落下した。
「それじゃあ、行くとしますかね。例のレアード学園とやらに」
暗闇の中で宣言し、男は歩んだ道に炎をまき散らしながら、ゆっくりと闇の中に溶けていく。
この日、新たな脅威がリンクライン島を訪れた。




