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黒幻のリンクライン  作者: 水無雲夜斗
第二章 ネームレス襲撃編
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2-9 死屍累々

 「にしても二人ともすげーよなー」


 刃を交える二人を見ながら、他人事のようにケイスが呟く。


 「エファの凄さは大体わかってたけどよ、セシルのヤツもやるじゃねぇか。あんな珍しい武器を完全に使いこなしてるっぽいし」


 ケイスの言う通り、セシルはチェーンブレードという武器の特性を完全に活かして戦っている。

 ブレードならではの剣戟に加え、チェーンを駆使してブレードを自由自在に操り、敵を翻弄する。あのチェーンブレードという武装をあそこまで使いこなすには並大抵ではない努力が必要だったに違いない。


 潜ってきた死線の数、戦闘の経験。その全てにおいてセシルはエファに勝っている。互角に見える二人の戦いだが、押されているのはエファの方だ。彼女はセシルの攻撃を凌げてはいるものの、チェーンブレードの動きに翻弄されて攻勢に出れないでいる。

 一方のセシルは、まだ余力を残している様子がある。かつてニュービーキラー事件においてあのリーナ・エニスタの襲撃を凌ぎ切ったという実績を持つ彼女ならばあり得ない話ではないし、そもそもレンの目にはセシルが手加減すらしているように見えていた。


 「となると俺が援護するっきゃねーよな」


 言って、ケイスはライフルを構えた。

 銃というものは構えてから照準が合うまでに若干のラグがあるものだが、ケイスのそれは限りなく短い。


 構えてからほんの一秒。それがケイスが弾丸を放つまでに至った時間だ。

 ドン! とライフルが鳴って弾丸がセシルに向かって飛んでいく。


 「おっと」


 空中にいたセシルはそれをブレードでガードし、次に追撃を加えようとするエファを迎え撃つ。

 地上に降り、接近を許したエファと剣戟を結ぶ。


 その間にケイスは照準を絞り、次弾を放った。

 発射音でそれに気付いたセシルが、ひらりと跳躍をして躱す。しかし、そこにエファの追撃が加わった。

 これまた凌ぎ切るセシルだが、やはり二対一は不利か。そう思う者も少なくなかっただろうが、彼女にはまだ余裕があった。


 確かに二対一で先程よりも状況が切迫したのは確かだ。しかし、ケイスの弾丸に気を配る余裕はあるし、エファの攻撃を綺麗に受け流している。

 とはいえ、流石に二対一というのは大人気がない。


 「ケイス、お前なぁ」

 「はっはー! いいじゃねぇか、もともと俺とエファはパートナーなんだしよ」


 レンの非難の目を避けつつ、ケイスは次弾を放つ。

 呆れつつ、しかしセシルは大丈夫そうだと目を向けたところで、新しい動きがあった。


 「こっのぉ!」


 エファの渾身のフルスイング。しかし、セシルからは距離が離れている。

 狙いはセシルではない。剣で宙を仰ぎ、強力な烈風を巻き起こす。

 流術で強化された腕力に、あの大剣の威力が加算されればそれなりに勢いのある烈風が生まれるというもの。思わずセシルが顔を腕で覆った。


 「よっしゃナイスだぜエファ!」


 隙アリといわんばかりにケイスが弾を放った。既に烈風は収まっており、弾は軌道を変えることなく一直線にセシルへと向かっていく。

 しかし烈風が収まっているということは、セシルも顔を覆う必要がなくなったということだ。すぐさま弾が放たれたことを察知すると、彼女は先程と同じように宙に跳んで回避する。


 そこに完璧なタイミングでエファが待ち構えていた。大剣を大きく上に振りかぶり、今にも振り下ろさんとする体勢。

 咄嗟にガードの体勢に移行するセシルだったが、そこは空中だ。ガードは間に合うが、このままでは大剣の威力によって地面に叩き落されてしまうことだろう。

 流術によって脚部を強化。少しでも衝撃を減らそうと準備を整えたセシルに、容赦なく大剣が振り下ろされる。


 「やぁ―――っ!」


 勝負あったか、と周囲が息を呑んだ瞬間。

 ブゥン、とエファの大剣が大きく空振りした。

 危うく体勢を崩しかけたエファだったが、なんとか着地に成功する。そして何が起きたのかと状況を把握するために周囲を見回したところで、それを発見した。


 「そっちがそのつもりなら、こちらも本来のルールに則らせてもらおうか」


 視線の先、およそ10メートルほど離れた場所に、セシルを抱えたレンがいた。

 あの一瞬で空中にいたセシルを救い出すほどの速度。確かにレンならありえなくはないが―――


 「ちょっとレン! いったいどういうつもりよ!」


 エファから非難の声が上がる。

 しかしレンは悪びれた様子もなく答えた。


 「もともと俺とセシルはパートナーだ。一対一ならまだしも、ケイスが参加するというのなら俺も参加するというだけの話さ」

 「ばーろーおまえ、二対一でようやくいい勝負ができてたんだぞ! お前が入ったら戦力釣り合わねーだろうが!」

 「戦力が釣り合うも何も、もともと二対二というルールだったはずだろう」


 残念ながら今回の模擬戦のルールはレンの言う通り二対二だ。担当教官のエイゼルは戦力云々の話はまったくしていない。


 「そういうわけだから、全力でかかってきてくれ、二人とも。そっちの方がいい訓練になるだろう?」

 「かーっ、ムカつくな。勝者の余裕ってヤツかよ。エファ、こうなったらとことんやってやろうぜ!」


 言われたエファは、むくれたように不機嫌な顔を晒していた。


 「そう、あなたはネームレスに味方するっていうのね」

 「この時間に限っては、俺とセシルはパートナーだからな」

 「わかったわ、それじゃあお望み通り全力で叩きつぶしてあげる!」


 地を蹴り、エファがレン達に肉薄する。

 定石としてはこれをレンが向かい撃ち、セシルはこの場を離れてケイスの相手やエファの隙を探るというのが妥当なのだが。


 「きゃーこわーい」


 ものすごい棒読みで、セシルはレンの右腕にがっしりとしがみついた。


 「「なっ―――!?」」


 重なった声はレンとエファのものだった。

 レンの驚愕はそんなことをしたら危険だろう、という至極順当な思考回路から。

 もう一方のエファの驚愕の理由は、剣戟の威力となって表れた。


 ガァン! とレンの鞘が重い一撃を受け止める。彼の防御力をもってすればなんてことはない一撃だったが、明らかに以前剣を交えた時よりも重い。

 恐る恐るエファの顔を覗いてみると、彼女は顔を俯かせて不気味な笑みを漏らしていた。


 「そう、そういうこと。そういうつもり。そっちがその気なら、こっちだって全力でやってやるわよ!」


 きっ、とエファの顔つきが変わった。

 鬼気迫るその表情に、流石のレンも若干気圧される。


 右腕にセシルをぶら下げたまま思わずその場から後ろに飛び退くと、今まで彼がいた位置に容赦ない大剣の振り下ろしがお見舞いされる。

 ドゴォン! という轟音と共に砕け散る体育館の床。さすがはヒルデブランド流の破壊力だと称賛したいところだが、体育館の床を傷つけてはいけないというのは暗黙のルールである。それを破るほど今のエファは感情を荒立てている。


 「お、落ち着けエファ、そんな力いっぱい剣を振るったら―――」

 「うるさい!」


 問答無用の横薙ぎが来たので、レンはセシルごとしゃがんでそれを避ける。するとあまりの威力に大剣から烈風が発生し、ちょうどレンの後ろにいたD組の生徒が二人ほどそれに巻き込まれて吹き飛んだ。

 まるで紙切れのように綺麗に飛んでいく生徒を見ながら、はっと我に返ったレンは慌てて一歩後ずさる。


 「ま、待てエファ。さすがにやりすぎだって」

 「問答無用!」


 ぶんぶんと振るわれる大剣を、右腕にぶらさがったセシルを意識しながらギリギリのところで回避する。

 まずいと思って一瞬の隙をついて一気に後方に跳ぶと、それを追うようにしてエファも跳躍する。


 「ま、待て待て待てエファ。それは流石に―――」

 「はぁぁぁ!!!」


 振り下ろした剣をレンが回避したことによって体育館の床に激突し、猛烈な破壊音を立てて爆風が巻き起こる。

 それに煽られて吹き飛ぶ生徒が三名。いずれもD組の生徒である。「ぎゃーす」やら「うぎゃー」やら書物で読むような悲鳴が飛び交い、そんな中をレンはセシルを抱えたまま逃げ回る。

 藁にも縋る思いでやってきたのはケイスの元である。


 「な、なんとかしてくれ、ケイス」

 「いや無茶言うなよ……。っておいおい来たぜアイツ」

 「ま、任せた!」

 「おぉい卑怯だぞ一人だけ逃げるなんて!」


 素早くその場を離脱したレンに、その場に取り残されたケイス。既にエファは剣を振るう体勢に入っていて、間違いなくケイスがいる場所を一閃しようとしている。


 「待て待て待てエファ、俺らパートナーだろ、頼むから止まって―――あーれー!!?」


 ギリギリのところでブレードライフルによる防御が間に合ったが、ケイスの技術力ではエファの力を防ぎ切ることなどできず、見事なホームランが決まった。



 そんなやりとりが繰り返されることおよそ一分。

 時刻は現在にまで戻る。


 まさに死屍累々。

 床に転がる生徒が10人前後。いずれもD組の生徒がほとんどである。

 担当教官のエイゼルを連れてきたのはカミトだったのだが、彼はなにやら面白いものを見た後かのように満足げに何度も首を上下させていた。


 目の前には息を荒げるエファの姿。そして右腕にひっついて離れないのはセシル。

 いったいぜんたいこれはどういう状況なのだろうか。

 あまりのわけのわからなさに、レンはもはや苦笑以外に何も出てこなかった。

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