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黒幻のリンクライン  作者: 水無雲夜斗
第二章 ネームレス襲撃編
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2-8 実技訓練 エファvsセシル

 スパルタンな五限目が終了し、小休止を取ってから始まる六限目。

 なんとかエイゼルの指導を乗り越え、げっそりとしたD組の生徒と共に再び第一体育館二階の中央に集まったレン達は、前に立つエイゼルの話に耳を傾ける。


 「それでは六限はペアを組んでの模擬戦といきましょう。先程の時間に学んだ流術を大いに活かして闘っていただこうと思います」


 ということでA組、D組問わず誰かとペアになれとの指示が下った。

 決してA組の者はD組の者とペアを組まなければならないという指示もなかったので、順当にA組で仲の良い人と組むのが妥当だろうとレンは周囲を見回す。

 条件に当てはまるのはケイスだったが、彼を発見する前にエファが近くにやってきた。


 「良ければ組まない? あなたとならいい訓練になりそうだし」


 誘われて、レンは少し考える。

 ケイスと組むつもりではあったが、仲の良いクラスメイトという条件であればエファもそれに当てはまる。断る理由はないだろう。


 というわけで返事をしかけたところで、後ろから右腕を誰かに引かれた。

 見ると、ちょんとレンの右裾を掴んで立っていたのは、今日一日なにかと目立っているセシル・A・ネームレスだった。


 「レン、私と組みましょう。ほら、クラスメイト同士親交を深めるのも大切でしょう?」


 む、と目の前のエファが表情を固くする。

 確かにクラスメイト同士の親交を深めるのは大事だが、先に誘ってくれたのはエファの方だ。ここは彼女の方を優先すべきだろう。


 「すまない、俺はエファと―――」

 「いいから、いいから」


 ぐいぐいと引っ張られてレンはその場から強引に移動させられる。小さな体のどこにそんな力が、と疑問が浮かんできたが、おそらく流術を使っているのだろう。

 仕方がないとレンは後ろ目にエファに対して謝罪すると、彼女は不機嫌そうに顔を逸らした。その肩を、横からやってきたケイスが叩く。とりあえずエファはケイスと組むことになったようだ。


 そんなわけでセシルとペアを組んだわけだが、周囲からはこちらを見てひそひそと話す声が多く上がっていた。

 一応、ニュービーキラー事件以降にレンとエファは婚姻関係を結んだ仲になっている。周囲にはそういう風に伝わっているので、レンとエファが組むというのであれば納得する者も多かっただろう。

 だが、今レンの横にいるのは彼の腕にくっつくセシルだ。端的に言ってしまえば、第三者視点から見てレンが浮気したように見えなくもない。

 男子からは鬼気溢れる視線を、女子からは蔑むような視線をその身に浴び、レンは困ったようにため息を吐く。


 「あら、私と組むのがそんなに不満だったのかしら?」


 すると、レンの顔を覗き込むようにして隣のセシルがそう訊ねてきた。

 その顔はまるでレンをからかうようににやついている。というより、本当にからかっているのだろう。


 「別にキミと組むこと自体は構わないさ。ただ、周囲の視線がなんというか……痛い」

 「ふふ、気にしなくていいじゃない。今は私との親睦を深める方が大切よ」


 まぁ、確かに、周囲の視線を気にしないというのは大切なことだ。

 レンはこの学園に遊びにきたわけではない。誰がペアであろうと、授業を真剣に受けることが最優先。


 「それにしてもどうしてキミはそんなに俺にくっついているんだ?」

 「だってその方が愉快じゃない」


 愉しそうに言って、セシルはちらとエファを見やる。明らかに不機嫌そうにしていた彼女は、ふんと顔を背けてしまった。

 どうしてこういう状況になったのか。レンにはまったく見当もつかないが、そうこうしている間にも他のペアが固まったらしく、エイゼルがぱんぱんと手を鳴らした。


 「はい、ペアが組めたようですね。それでは今から模擬戦を行います。ルールは簡単。今あなたがたの隣にいる人はパートナーであり、他のペアとそれぞれ闘っていただきます。いわば二対二の対決というわけですね」


 てっきりペア同士で模擬戦をするものだと思っていた生徒達は、そう来たかとペア同士で顔を見合わせ苦笑する。

 ともあれこれでセシルはレンのパートナーとなったわけだが、彼女はレンと組めるのであればどちらでも良かったのか大して気にしている様子はない。

 レンとしても、セシルと闘うことに興味はあったが、共に闘うというのもまた貴重な経験だ。互いに癖のわからない者同士で果たしてどこまでやれるのかというのは一種の挑戦である。


 「それでは、適当に闘ってみたいペアを選んで二対二の勝負を始めてしまってください。ここからは自主訓練です。先生は少し席を外しますので、節度を守って授業に臨むように。何かあった時はレン君、よろしくお願いしますね」

 「……え?」


 呆けるレンを後目に、エイゼルはさっさと体育館から出ていってしまった。

 なんと勝手な、と思わないでもなかったが、これもある程度生徒のことを信用してのことだろう。生徒が危険な行為に及ぼうとすれば、レンに全てを任せるというのは少々無責任な気がしないでもないが。


 エイゼルからすればレンを信用しての行動なのだろうが、この件は後できっちりしかるべきところに報告しようと心の中で誓って、周囲を見回す。

 取り残された生徒達は多少戸惑いはしていたようだが、徐々に動き始めて各々模擬戦を行う相手を探し出し、既に戦闘準備に入っているところもあった。


 「それじゃあ、俺達も相手を探すとするか」

 「いいえ、その必要はないわ」


 言われて、レンがセシルの見ている方を見てみると、相手は向こうからやってきた。

 エファとケイスである。

 険しい顔のエファに、仕方がないとケイスが面倒臭そうについてくる形だ。

 距離を置いて立ち止まり、エファはセシルの目を直視した。


 「それじゃあ、私達も始めましょうか」

 「ええ、受けて立つわ」


 二人の間で火花が散る。

 この状況は一体何なのだろうとケイスに視線で問いかけるも、彼は首を横に振るばかりである。


 かくして注目のカードがここに揃った。

 他の生徒達が自分達のことはそっちのけで、A組の奇妙な組み合わせ四人組に注目する。

 もはや周囲にギャラリーができあがりつつある中、四人はそれぞれ武器を取り出した。


 レンは鈍色の鞘に収まった太刀。エファは身の丈ほどもある紅い大剣。

 そしてケイスの武装は、今の時代ではあまり見慣れないものだった。

 砲身がかなり細く、そして長い銃。レン達はいちおう実技の授業でこの武装を何度か見ているが、ケイスはこの武器のことをライフルと呼んでいた。どうやら、普通の銃よりも遠距離にあるものを狙うためのものらしい。その砲身に沿うようにして備え付けられた刃。あえてこの武器に名をつけるとしたら、「ブレードライフル」といったところか。


 「ふふ、おもしろそうな武装ね」


 セシルはそんなケイスの武器に興味深々といった様子だった。

 確かにケイスの武器は珍しいが、セシルの興味の示し方はなんというか、品定めしているような感じだ。

 それはさておき、もう相手は臨戦態勢に入っているわけで、未だ武装していないのはセシルくらいだ。手ぶらの彼女に、レンは問う。


 「キミは武器を出さないのか?」

 「それもおもしろそうだったけど、ちょっとだけやる気が出たから使うことにするわ」


 そう言うと、セシルは懐から魔石のついたペンダントのようなものを取り出す。それは光を放つと、一つの武器に変化した。

 じゃらりという金属音。セシルがその手に持っていたものは、鎖のついた剣だ。

 刃の長さはおよそ50センチほど。鎖は折りたたまれていたので正確な長さはわからなかったが、おおよそ20メートルくらいはあると思われる。


 「へぇ、変わった武器だな。風陣にも似たような武装はあるが」

 「鎖鎌のことかしら? まぁ、原理は大体同じね。鎖の先についているのが剣か鎌かの差。そうね、いわば私のこれは『チェーンブレード』といったところかしら」


 チェーンブレードを胸の前に掲げ、セシルはそれをレンに見せる。

 改めてその武器を観察してみると、やはり変わった武器だという感想が出てくる。

 刃渡り50センチほどのブレードに柄はなく、剣を持つ柄もない。片刃の鉄の塊に穴を空けて、そこを持つ形だ。その剣尾に長い鎖が繋がっていて、撒かれた鎖は左手で握られている。至ってシンプルだが、この武器がどのような戦術を生み出すかはあまり予想できない。


 セシルはやがて武器を下ろすと、エファ達に向けて歩き出す。


 「それじゃあ、始めましょうか。本当はレンと闘いたかったのだけれど、こうなった以上は次に興味が出た彼女に相手をしてもらうことにするわ。男は男同士でよろしく」


 レンが何かを言う暇もなく、セシルは地面を蹴った。

 目標はエファ。確かにこの模擬戦に審判の開始の合図もゴングもないが、あまりにも唐突すぎる。

 しかしエファはそれにもしっかり対応し、セシルが横薙ぎに放った刃をきっちり大剣で受け止めた。


 周囲は「始まった」と言わんばかりに盛り上がる。そんな中、拮抗状態にあるエファとセシルは短く会話を交わしていた。


 「さすがね、ヒルデブランド家の長女というのは伊達じゃないってことかしら」

 「そっちこそ、不意打ちなんていかにも犯罪者らしいやり方―――ねっ!」


 セシルのチェーンブレードに対し、エファの大剣はかなり重い。拮抗状態から小柄なセシルごと弾くのは容易なことで、それ故にそうなるであろうことを予測していたセシルは体勢を崩すことなく後方でしっかり着地をした。

 そんなセシルを追撃するようにエファが地面を蹴る。大剣を右方から横薙ぎに大きく振る構え。

 回避は不可能ではなかっただろうが、セシルはにやりと笑うとたった刃渡り50センチ程度のブレードでそれを受け止めた。

 鈍い金属音と共に広がる衝撃波。しかし見事にそれを受け止め切ったセシルに、エファは驚愕の表情を浮かべる。


 「嘘、今のを受け止めるなんて―――」

 「驚くことじゃないわ、今日習った流術を使えば誰だってできることよ」


 などとセシルは簡単に言うが、今のエファの一撃を止め切れるのは、ここにいる生徒の中ではレンくらいのものだっただろう。

 小細工は何もない。セシルが使ったのは彼女の言う通り単純な流術だ。身体強化と物体強化による防御、レンの無月の型と同じことをやってのけたまで。

 しかし、それでも防御特化のレンほどの技量はないようで、エファがぐっと大剣に力を込めるとセシルは簡単に身を引いた。力勝負では敵わないということを理解している動きだ。


 タタッタ、と三歩ほどステップを踏んで、セシルは再びエファに迫る。跳躍し、ブレードを振りかぶる。それを迎え撃つ体勢のエファは、剣を左から右に大きく薙ぎ、セシルは振りかぶったブレードを下ろした。

 ブレードが大剣の先端あたりに命中し、その勢いのままセシルは空中で一回転をしてエファの頭上を通過した。そのまま地面に足が着く前に体勢を立て直すと、ブレードをエファに向かって思い切り投げる。

 予想外の行動にエファが驚きつつも、横薙ぎの勢いのまま体を反転させて迫りくるブレードを大剣でガードした。通常であればブレードはそのまま地面に落ちるが、セシルは鎖を引いて自分の手元にブレードを戻す。


 数メートルの距離を取った着地したセシルは、左手で鎖を持ち、右手で鎖ごとブレードを回し始める。

 回転によって力を一点に集める動作。つまりそれは、次に強力な一撃を放つことを意味しており、一点に集めた力を開放するようにセシルはエファに向けてブレードを投げた。


 「こんなもの!」


 大剣を振り下ろし、そのブレードを叩き落す。それと同時に地面を蹴って、エファは前方に駆け出した。

 ブレードを投げたセシルは今は無防備な状態だ。攻撃のチャンスが訪れたのは誰の目から見ても明白だったが、それこそが罠。

 にやりと笑ったセシルは、左手に握る鎖を引っ張った。


 はっとしてエファは後方を向いて、迫りくるブレードを大剣で弾いた。

 それと同時。セシルが宙に跳んで、体を斜め横にして一回転をする。それに合わせるように鎖も回転し、ブレードがセシルの体の周りをぐるりと回った後にエファに向けて襲い掛かる。

 上方から振り下ろされるブレードを、エファは上段でガードする。セシルはそのブレードをキャッチすると、そのまま体重を乗せた。


 「なんつーか、野郎の出る幕がねぇなこれ」


 なんとかセシルの一撃を凌ぎ切り、再び交戦を開始するエファとセシルの二人を見ながら、ケイスは呆れたようにそう言った。

 残念なことに、レンもその意見に関しては同意である。二人の戦いに入り込む余地はいくらでもあるが、なんというか邪魔をしてはいけないオーラがものすごい漂っている。まさに女と女の戦いというべきか。


 「にしても二人ともすげーよなー」

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