2-5 昼食の誘い
昼休み。
これまでの厳しい授業を乗り切り、すっかり空になった胃を満たせる時間がやってきたということもあって、この時間になると学内に活気が満ちる。
教室で友人同士固まって弁当を広げる者、学食に行く者、この季節であれば外に出て昼食を摂る者もいるようだ。
「うーっす、レン、エファ。学食行こうぜー」
起き上がった後はぶつくさと文句を言っていたケイスだったが、教材を片付けると同時にスイッチが入れ替わったかのようにいつもの調子に戻り、レンの元へとやってきた。
彼は基本的に弁当組ではなく、学食で昼食を摂ることが主だ。
そしてニュービーキラー事件以来すっかりグループとなったということもあって、レンとエファはいつもそれに付き合うという流れが日常化していた。
「ああ、わかった」
「そうね、行きましょう」
言って、二人は同時に弁当包みを鞄から取り出した。
それをケイスは羨望の眼差しで見る。
「いいよなぁ、お前らはいつも弁当で。しかもレン、てめぇはあのエリアさんに作ってもらってるんだろ。羨ましいことこの上ねぇ!」
「俺は無理して作る必要はないって言ってるんだけどな。なんか弁当作るのが義務って感じでいつも作ってくれるんだよ……」
「私のところも同じ感じね……」
二人してありがたいのやら迷惑なのやら複雑な表情を浮かべる。ちなみに、エファの弁当を作っているのは彼女の従者であり姉のような存在であるリーナ・エニスタである。
「お弁当をいつも作ってくれるのはありがたいんだけど、その、愛が重いのよね」
「そうだな、重い」
エファはまんざらでもないような感じだったが、レンの場合は本当に重そうに弁当箱を抱えていた。あのエリアが作ったというので彼の気持ちも理解できないことはない。
「今日も飯の上にハートマークあるかどうか賭けねぇ?」
「間違いなくあると思うから賭けにならないんだけどな」
などとくだらない会話をしながら三人は席を立って教室を出ようとする。
と、レンとケイスの前を歩いていたエファが突如足を止めた。
何事かと思って彼女の前方を見ると、そこには見覚えのある小柄な女生徒が一人。まるで三人のことを待っていたかのように立っている。いや、実際に待っていたのだろう。確実に視線がこちらを向いている。
「セシル・A・ネームレス……」
エファがその名を口にする。
すると藍色の髪の少女―――セシルはくすりと笑ってレンの方を見た。
「あなたたち、学食に行くの?」
「え、ああ、そうだけど」
自然と目が合っているレンが答えることになる。
なぜ一番先頭にいるエファではなく自分に話しかけたのかはわからなかったが、流れ的に仕方なかった。レンが戸惑いの中にいるのに構わず、セシルは不敵な笑みを浮かべた。
「だったら、私もご一緒していいかしら?」
三人は顔を見合わせる。
珍しいクラスメイトからの、突然の誘い。正直にいえばどういうことなのかまったくわからないが、特に断る理由もない。
レンとケイスの二人はそういう結論に至ったが、一人だけ違っていた。
「ダメよ」
厳しい顔をしたエファが、鋭い声で否定する。
「あなた、ネームレスなんでしょう?」
「ええ、そうよ」
「隠そうともしないなんて、いったいどういうつもりかしら」
「別に私はネームレスであることを気にしているつもりはないもの」
どういうことなのかはまったくわからなかったが、エファの態度は少し横暴だ。少し迷いはあったが、レンは口を挟むことにした。
「エファ、別にいいだろう。彼女は今までクラスにあまりいなかったんだし、交流を深めるにはちょうどいいじゃないか」
「あなたは何も知らないから―――」
「まーまーまー」
エファが何かを言いかけたところで、ケイスが間に割って入った。
「別にいいじゃねーかエファ。ここでいつまでも揉めてたって仕方ねぇし、とりあえず昼飯にしようぜ。さっきから腹が減りまくってもう限界だっつーの」
「でも!」
「気にすんなって、いくらネームレスだからってクラスメイトを邪険にするなんて、それこそ変だってもんだろ」
「……」
どうやらケイスの説得は通じたらしく、エファは不満そうにしながらも反論することはなくなった。
エファが怒り、セシルが不敵な笑みを浮かべ、ケイスが宥める中、レンは何がなんだかわからないといった風に首を傾げていた。




