1-28 レンの決意と覚悟、そして宣言
二人目のローブ姿が地に伏した。
その前に立っていたレンが、静かに掌底を放った手を下ろす。
リーナに比べ、ローブ姿の集団はそれほど大したことはない。決して弱いというわけではないが、攻撃な苦手なレンでも多人数戦で圧倒できる程度の練度。やはり新入生狩りはあのリーナがメインとなって行われていたと考えていいだろう。
レンがエファとリーナの間に入ったことで、周囲にいたローブ姿の二人は一斉に動き出した。元々二人は決闘をレンに邪魔させないように見張っていただけなのだろう。しかしその決闘にも決着が着きそうな瞬間にレンが動いたことにより、反応が一瞬遅れた。
故に二人が動いたのはレンが宣言を行った後だ。すばやく三本爪を取り出し、同時に襲い掛かった二人はしかしてわずか一分足らずで制圧されてしまった。
そのことに、リーナは顔色一つ変えない。
「わたくし達を守る、というのは一体どういう意味でしょうか」
明らかにリーナは苛立っていた。
部外者であるレンがいきなりしゃしゃり出てきて、守るなどと堂々と宣言したのだ。
どう転んでも悲劇にしかならないこの状況で、一体何ができるというのだ。そもそも部外者である男が何を言うか。
これはヒルデブランドの問題だ。レンが口を挟んでいいことでは決してない。
「言った通りの意味さ」
しかしレンはまったく悪びれた様子もなくリーナに向き合う。
「俺は生徒会としてではなく、俺自身の意思でキミ達を守る」
「ふざけないでください」
怒りに満ちたリーナは、その場で腕を横に振った。
「わたくし達はもう、後戻りはできないのです! だからお嬢様と決闘をしてでも決める必要があった。この事件をどういった形で終わらせるか、そして誰が傷つくべきか。それがわたくし達に許された、唯一の選択。これ以上の選択はもうありません」
「いいや、あるさ」
あっけなくレンは言い放つ。
「俺が第三の選択肢を用意する」
「……ふ、ふふ」
思わず、といった風にリーナが笑みを零す。
「何を馬鹿な、部外者である貴方に何ができるというのですか! 貴方にできることはせいぜい、この事件でこれ以上の犠牲が出ないようわたくしをここで捕らえることくらい。もちろん、貴方程度にわたくしが捕らえられるとは思いませんが」
リーナの実力は圧倒的だ。確かに、レンでは捕らえることはできないだろう。
しかしそんなことはどうでもよかった。レンは再びエファに近づくと、地に伏していた彼女を近場の木にもたれかかるように体勢を変えてやる。
「確かに俺は部外者かもしれない。キミ達の事情に首を突っ込む資格はないし、守るなんておこがましいことなのかもしれない」
怪訝な顔をするエファを横目に、レンは立ち上がる。
「でも、俺は守りたいと思った。もちろん、最初からそうだったけど、ここに来てからそれはさらに固いものになった」
「何を……」
「キミ達は純粋すぎる」
振り向いてそう口にするレンの瞳は、まるでリーナを慈しむようだった。
いや、おそらくリーナだけではない。エファもその目を見たのだろう。疑問と驚きがブレンドされたような顔をしている。
「エファから聞いた。キミ達は姉妹同然に育ったのだと。そして今、キミ達のやりとりを見ていて、俺は二人共が相手のことを本当に大切に想っているのだと感じた。だからこそ、見ていられない」
「……?」
「姉妹なら喧嘩することくらいあるだろう。でも、どちらかが相手のために自分を犠牲にする、そんなことを決めるために喧嘩をするなんて間違っている」
語っている間に、周囲に気配が満ちていく。
魔獣のものではない。おそらくリーナの仲間達だろう。だが、そんなものは問題ではないとレンは続ける。
「どうして互いのことを大切に想い合っている者同士が、そんな風に傷つけ合うわなきゃならない? そんなことをしても、痛みが広がるだけだ」
「たとえそうだとしても、痛みを背負わなければお嬢様は―――」
「エファは貴女が誰かを傷つけることなんて望んでいなかった」
リーナの言葉を遮り、レンは数歩前に出る。
「貴女はそれに気付いていたけど、どうしてもエファの順位に納得ができなかった。エファの人一倍努力している姿を知っていたからだ。だからエファのため、国のためにと言い訳をして新入生狩りを始めてしまった」
「それは……」
「だけど、始めてしまってから気付いたはずだ。やっぱりこれは違うと。それでもその時にはもう手遅れだった、だから言い訳をしてでも続けるしかなかった」
沈黙。
それは肯定と同義で、図星以外の何物でもなかった。
「では、どうすれば良かったのですか」
ぽつりと、リーナの口から零れるように疑問が漏れる。
「私はお嬢様にどうして差し上げればよかったのですか!? 総合順位11位などという不名誉を背負わされたお嬢様に、何をしてあげられたというのですか!?」
その言葉に、エファが反論しようとする。しかし、レンが片手でそれを制した。
「どうしてそれが不名誉になるんだ」
「だってそうでしょう、お嬢様はそれほどの努力をしてきたのです」
「そうだとしても、他の新入生だってそれなりに努力をしてきた。あるいは才能だってあったのかもしれないけど、努力なしに上位の成績を勝ち取ることはできなかったはずだ」
レンの正論に、リーナは口を閉ざす。
頭では理解していても、心はどうしても納得できないのだろう。
「やはり貴女のしていることは間違っているよ」
改めて、レンが事実を突きつける。
「でも、間違ったならやり直せばいい」
その上で、レンは提案をする。
「まだやり直せることなら、そうすればいい。手遅れだというのなら、他の何かで取り戻せばいい」
「そんな方法はないと言っているでしょう!」
「だったら、証明してみせる」
高らかに、レンはその場で左手を天に向けて突き上げる。
「アニエスタ共和国、一級貴族サイクス家が長男―――レン サイクスはこの場で、アンデルス帝国、名門貴族が長女―――エファ・ヒルデブランドに、婚約を申し込む!」




