1-13 レアード学園からリンクライン鉄道中央管制塔へ
リンクライン島主街区は、島の南方に広く展開している。
近代的な建物群に、行き交う人々で賑わうメインストリート。その中央を走る自動車は絶えることなく、人口約2万人程度の自治区である島とは思えないほど栄えているという印象がある。
1~2キロほどだろうか。通学路である長い坂道を下り、学生寮の脇を抜け、歩くことおよそ15分。レアード学園はその主街区から離れた島の中央付近に存在しているので、ここに来るまでそれなりに距離があった。
街と学園の間に学生寮にあり、登下校の間に街を通る必要がないという立地の都合上、レアードの学生が放課後に街に繰り出すことはあまり多くない。レンも特に用事がないので入学式以降、街までやってくることはなかった。
「やっぱりすごいなリンクライン島は。俺の故郷の街でもここまで賑わってはいなかった」
「あなたの故郷って、アニエスタ共和国のこと?」
「ああ」
自然に答えて、数秒後に「ん?」と疑問が浮上する。
「俺の出身国のこと、キミに話したことあったか?」
「いいえ、ただあなた随分とマストウェイ教官と仲が良さそうだったから」
それと自分の出身国に何の関係があるのだろうか。レンが首を傾げていると、再びエファが呆れたように肩を竦める。
「あのね、エイゼル マストウェイといえば世界的にも有名な人物よ」
「そうなのか?」
「エイゼル マストウェイ。またの名を『鉄塊のエイゼル』。元共和国軍第四大隊所属の軍人で、当時は部隊内で彼の右に出る者はいないとすら言われた実力者。数々の戦線で活躍し、時には戦車四台を主戦力とする敵一個中隊をたった一人で壊滅させたこともある」
「ず、随分詳しいんだな」
嘘のような話だが、レンはその話が事実であることを知っている。なぜなら、レンはエイゼルと旧知の仲だからである。
「キミの言う通り、俺と教官は共和国で面識がある。そして、レアードへの入学を最初に奨めてくれたのもあの人だ」
「恩師みたいなもの?」
「間違いじゃないな、でもどうして俺とエイゼル教官が知り合いだってわかったんだ?」
「さっきも言った通り、職員室のやりとりを見ていて単なる教師と生徒の関係とは思えないくらい仲が良いなって思っただけよ。出身国がアニエスタだと思った理由はそれだけじゃないんだけどね」
なるほど、確かにレンはエファのことなど気にせず普段通りの調子でエイゼルと会話していた。あれは今にして思えば一介の生徒と教師のやりとりとは言い難いものだったかもしれない。
「別に隠していたつもりじゃなかったんだけどな、俺の出身国に関しても、キミには話していなかったというだけさ」
「そうなの、じゃああなたがファミリーネームを隠している理由は何なの?」
「……」
六大陸から有望な才覚を持つ若者が集まるこのレアード学園では、問題が起きる可能性があると判断された場合にファミリーネームを隠す貴族生徒などがいる。
当然学園側はそういった生徒のフルネームを把握しているが、素性を隠すことを希望した生徒の名を隠すことを禁止したりはしていない。これは様々な思惑や権力が蠢くレアード学園という特殊な環境だからこそ許される措置だ。レンはその措置を利用し、名を伏せて入学した。だからこそ他の生徒でレンのファミリーネームや素性を知る者はいない。
「答えられないってこと?」
「ああ、別に大した理由じゃないんだけどな」
自嘲するように笑って、レンは止めていた足を再び動かし始める。エファもその後に続いた。
「俺は強くない人間だ。だから堂々と自分の名を名乗ることすらできない」
「なによそれ、嫌味?」
「別にそんなつもりはないんだけどなぁ」
だが言われてみれば確かに、レンは総合成績第三位という実績を持っているのだ。そんな人間が自分より下の成績保持者に「自分は弱い」などと言えば、それは嫌味に他ならないのかもしれない。
「すまない、今のは俺が悪かったよ」
「昨日もそうだったけど、あなたって自虐趣味でもあるの? もしかしてM?」
「……キミは思った以上にずばずばものを言うタイプなんだな。いや、斬り合いでもズバズバ斬ってかかってきていたけど」
思わず、といったようにエファが噴き出す。楽しそうに笑う彼女を見て、レンは目をぱちくりとさせた。
「な、なによ?」
「いや、キミが笑うところを見るのは初めてだったから、少し驚いただけだ」
「わ、悪い?」
「そんなことはないさ、むしろ笑っているキミはなんというか、自然でいいなと思ったよ」
レンの台詞に、エファは立ち止まって顔を真っ赤にする。
「な、な、な、なんなのよ、それ。あなた私のことを口説いてるの?」
「……? 普通に思ったことを言っただけだけど?」
「普通にって、あなたねぇ……う~ん、なんとなくそういう気配はあるなとは思ってたけど、まさかここまでだったなんて」
ぶつぶつと呟いているエファに、首を傾げるレン。
やがてエファは顔を真っ赤にしたままずんずんと歩くと、レンの前に出る。
「ほら、いつまでもこんなところで立ってないで、さっさと要件を済ませに行くわよ」
「待ってくれよ、そもそも俺は中央管制塔がどこにあるのか知らないんだって」
「何を言ってるの? もう目の前に見えてるじゃない」
「目の前って……」
言われて眼前を見てみると、ひときわ目立つ建造物が一つ。
確かにそれは塔だった。高さにしておよそ150メートル。縦に長細い三角形の頂点付近に丸い球が貫かれる形でくっついている、不思議な形をした塔。それはこの島で一番高い建造物であり、当然レアード学園からも見えていたもので、ずっと何の建造物なのかと疑問に思っていたのだが。
「もしかして、あれが?」
「そう、あれがリンクライン鉄道中央管制塔。長いからみんなからは管制塔って呼ばれているわ」




