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和解

「仁志亀吉を連れて来た。後は好きにしておいてくれ」


智樹が亀吉をまた別館に連れて来ると、すぐに部屋を離れる。


「どうも、はじめましてではないですけど、三波太郎です」


「君は、乙姫と一緒にいた子だろう……? なぜここに?」


「その辺の事情はまた話します。俺は乙姫さんに世話になってるんで、今回の立ち退きはやめていただきたいんです」


「だが、立ち退かせないと、借金が……」


「あら聞いてない? あなたの借金はチャラになってるわよ」


「え?」


「あの人は私のおじ様なの。それでちょっといろいろあってね」


「あ、ありがとございます……」


「ついでにおじ様はあそこの立ち退きも止めるように言ってくれたわ。全部太郎君がおじ様と話してくれたおかげよ。感謝するのね」


「あ、ありがとう……。これでやっと、小町を探しにいける」


「小町? お母さんですよね」


「ああ、あの家には居なかったから、実家にでも帰っているのだろう?」


「いえ、小町さんは既に亡くなっています」


「え? 嘘だろう?」


「本当です」


「じゃあ小町の誤解を解くことは一生できないのか……」


「やっぱり……、何かあったんですね。15年前に」


「全部話す。父さんと母さんと、乙姫にも話そう。本当の真実を」


「カグヤさん、ありがとうございました。後は俺がなんとかします」


「頑張ってね。乙姫さんにもよろしく」


太郎は亀吉を連れて、仁志家に向かった。




「おじいさん、おばあさん、乙姫先輩」


店につくと、ちょうど3人とも店の奥にいたので、太郎が声をかける。


「あら太郎ちゃん……? 亀吉?」


「何だと! 太郎君? どういうつもりだ? 君のことは信用しているが……?」


「太郎君……」


「3人とも、お願いなので、亀吉さんの話を聞いてもらえますか? 責任は俺が全てとります」


「た、太郎君。君は何も悪くないだろう、頭を上げてくれ。分かった。君がそこまで言うのなら、話を聞こう。亀吉。話してみろ」


「お父さん、お母さん、乙姫、それに小町。悪かった! 悪いのは俺だ!」


そして、15年前、いや15年間の真実が亀吉から語られる。




亀吉と小町はとてもバランスのいい夫婦であった。


おっとりとした亀吉に対し、ちょっとだけ厳しくも優しい小町に、容姿は小町だが、おっとりとした乙姫が生まれて幸せに過ごしていた。


だが、その日常はある日とつぜん崩れる。


亀吉は、会社のお金を横領した罪を冤罪で着せられ、首になってしまったのである。


そして借金を背負わされ、家に迷惑をかけぬように、あまり戻らずに、借金の返済相手のもとで働く。


だが、完全に返済したかと思われたタイミングで、今度は美人局に会い、また借金を抱える。


さすがに厳しくなった亀吉は、家を頼ろうと思ったのだが、そこで噂を聞いてしまう。


『仁志家の奥様が浮気をした』という話である。


この亀吉が地元に戻った時点では、まだ小町がここに来てから間がなく、噂が1人歩きしていて、いまいち情報がはっきりしていなかったのだが、不幸にも、亀吉は間違った噂を耳にしてしまった。


家に戻りづらくなった彼は、家に電話をするが、小町はいないという。


親に迷惑や心配をかけたくなかった彼は、小町がいないというのであれば、戻る意味がなく、すぐにそこを離れた。


自分が悪かったとはいえ、信頼していた妻に裏切られた彼は、心が折れて、アウトローな世界に足を踏み入れてしまう。


もともとそこそこ会社では実績のあった彼はそれなりに結果をだすのだが、基本的に善人なので、いまいち借金は減りきらず、結局200万くらいの借金が減らないままで、止めようとすれば、実家への押しかけもあるとまでいわれ、やめられない妙な状況が続いていた。


今回、立ち退きをする場所が、亀吉の実家で、かなり苦戦しているので、なんとかできれば200万の借金をなくし、それどころかたくさんのお金を渡して開放するという話を受けて、立ち退かせることになっても、大金を手にして恩返しをしようとしたのが、今回の行動だったが、200万の借金が、西条家のはからいでなくなったので戻ってきたのである。




「すいません、俺が悪いから、小町が浮気をして……、心配もかけたから、死んじゃっただよな」


頭を下げ、ところどころつまりながら、亀吉は全てを話した。


「亀吉……、それは本当のことか」


「信じられないかもしれないけど、全部本当だ。俺が悪い」


「浮気はお前がしたんじゃなかったのか?」


「浮気? そんなのは1回も考えたことは無い。俺ははめられたけど、何もしてないのに、襲われたんだ。俺が愛したのは、生涯小町だけだ」


「重雄さん……これは……」


「ああ、小町ちゃんも重雄も悪くない……。ただ、いろいろ空回りしてしまったんだな」


「どういうことだ?」


「聞いてくれ。小町ちゃんは浮気なんかしていない。お前が浮気をしたと勘違いして、ショックを受けてしまったんだ」


そして、重雄はずっと閉まってあった写真を見せる。


「これは、俺がだまされたときの……」


「タイミングが悪かったな。これを探偵の人が撮ってしまったんだ」


「小町は浮気は?」


「してない。町で一時期、お前がしたとか、小町ちゃんがしたとか、情報が錯綜したときがある、お前がそのときに、こっちに戻ってきていたとは知らなかった。お前は小町ちゃんが浮気をしたというほうの噂を聞いてしまったんだな」


「そ、そんな……。じゃああのときすぐに戻っていれば……」


「ワシも悪い。お前に電話で嘘を言ってしまった。ほんの少しでも誰かが歩み寄れれば……、何とかなったのかもしれないのにな……。辛かったな、15年。よく頑張った。お前はやっぱりワシ達の自慢の息子だったんだな。馬鹿正直な」


「父さん……、うわぁぁぁ!」


亀吉と重雄は抱き合って泣きあい、それに鶴と乙姫ももらい泣きしていた。


15年間ずっとすれ違っていた家族は、ようやくまた1つになったのである。


チーン。


少し落ち着くと、亀吉は小町のいる仏壇に手を合わせた。


「悪かったな。小町。本当に申し訳なかった」


「お父さん……」


「乙姫も悪かったな。今まで何もできなかったけど、まずは父さんの手伝いから始めるから」


「…………頭撫でて……」


「へ?」


「お父さん、小さいころずっとやってくれてた。記憶は少ないけど、優しいお父さんだったのは覚えてるから……」


「あ、ああ。俺の手なんかでいいのか」


そして亀吉は乙姫の頭を撫でる。


「ん……、お父さんだわ。小さな記憶だけど。また今日から、お願いします」


「ありがとな、乙姫」


「良かったですね。うまくいって」


「太郎君、本当に感謝している。亀吉と乙姫の両方……、いや、ワシ達のことも助けてくれて」


「いえいえ、俺はカグヤさんに相談しただけです。感謝するなら、カグヤさんにしてください」


「いや、智樹さんから話は聞いた。確かに場所を提供したのはカグヤさんだが、いろいろ話をしてくれたのは、太郎君なんだろう。娘をよろしく頼む」


「いえ、本当に大丈夫ですから。俺が気になって勝手にやっただけですし」


ギュッ。


「せ、先輩?」


「太郎君、本当にありがとう。大好き……」


「さてさて、鶴に亀吉、仕事をしよう」


「そうですね。亀吉、昔手伝ってたから覚えてるね?」


「はいはい、あとは若い2人で」


1階の居間から3人が出て行って、太郎は乙姫と2人きりになる。


「お母さん、お父さん帰ってきたよ。太郎君のおかげ。もう何度も紹介したけど、またするね。お母さん、見てて」


そういうと、乙姫は太郎に口付けた。ほんの一瞬だけだったが、乙姫からいつもする香りをよりいっそう強く太郎は感じた。


不思議と、遺影の小町が少し笑ったように見えたが、それは錯覚であると太郎は思っていた。

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