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15年前の出来事

15年前、重雄と鶴は2人でのんびりとした老後を過ごしていた。


おっとりした草食系の息子亀吉が、無事に結婚し、孫を見せてくれて、安心もしていた。


「平和ですね、重雄さん」


「そうだな。鶴」


「最近は亀吉が顔を出さなくなりましたね」


「仕方がないだろう。あいつも仕事が忙しくなっただろうし、乙姫ちゃんも3歳でまだまだ手がかかるはずだ。小町ちゃんも、あまり私達に迷惑をかけたくないと言っていたしな」


亀吉と小町の夫婦は、はじめての子供ということもあって、初めの頃は毎週のように顔を出していたのだが、

途中から、小町が自分でも頑張らねばいけないということで、来る頻度を落としていた。


「でももう半年近く来ていないじゃないですか。心配です」


「そうだな、いずれ私達のほうから、家を訪ねよう、あ、いらっしゃいませ」


2人で話していると来客の気配があったため、重雄が顔を上げる。


「お義父さん……、お義母さん……」


そこにいたのは、小町と乙姫の2人であった。


「小町ちゃん? いったいどうしたんだ!」


重雄が声を上げて叫んだ。


無理も無い。朗らかな笑顔をいつも浮かべていた小町が、憔悴しきった顔で、荷物と乙姫を抱えていたからだ。


「と、とにかく奥に行きましょう。重雄さん、臨時休業にしましょう!」



2人は奥に2人を連れて行き、話を聞く。


「どうしたんだ? それに亀吉は?」


これまで亀吉と小町は絶対に2人で尋ねてきていて、おのおので来ることは無かったのである。


「亀吉さんが……、浮気をして……、私達2人を捨てて逃げました……」


「!! まさか!」


「信じられない、あんないい子が……?」


「間違いないです。証拠もありますし、連絡もずっとつきません……」


そして小町は、写真を見せた。


そこには、間違いなく亀吉が女性と不倫をしていると思われるもの写っていた。


「ここ半年、まともに家にも帰って来ませんし、2週間くらいは行方も分かりません。いつの間にか、仕事もやめてました……、それで……、悪いとは思ったんですけど……、2人を頼ろうと思いまして……」


「気にするな。小町ちゃん、君は間違いなく私達の娘だ。しばらくはここで養生しているといい亀吉のことは私達で探そう」


「お願いします……、……うぅ……」


バタン!


「小町ちゃん!」


小町はすぐに病院に搬送されたが、亡くなった。心労のストレスによる脳卒中であった。


そして彼女が入院して、死ぬ少し前、亀吉から重雄の家に電話があった。


『父さん、小町はそっちに行ってないか……』


「……来ていない……」


「そうか」 ガチャ。


「おい! 亀吉!」


たったそれだけであった。重雄としては、小町にそれ以上負担をかけたくなくて、嘘をついたのだが、結果的にこれ以降亀吉と連絡を取る手段を失ってしまったのである。


それから、15年。亀吉はまったく姿を見せず、乙姫を2人は大事に育てていった。



「こういうことだ」


「そうだったんですか……」


重雄の話が終わって、太郎は神妙な顔になる。鶴は泣きそうな顔になっている。


「いい子だったから、今でもきっと何か事情があったんじゃないかって思うの……。でも、何も言ってこなかったし、今日のことで、小町ちゃんの言ってたことは本当だったって思っちゃったわ……」


「今日は帰ります。俺にできることなら何でも協力しますので」


「ああ、ありがとう」


太郎は仁志家を後にした。




(何か気になるな……。カグヤさんなら話してもいいだろうか。信用できるし)


次の日、乙姫は学校を休んでおり、放課後はカグヤと会う用事もあったため、カグヤに相談することにした。


「あなたねぇ……、そんなデリケートなことを私に話さないでよ。そもそも私愛人の娘だって言ってるでしょ」


「すいません。でもカグヤさんは、面白がって人に話したりしませんよね」


「もちろんよ」


「ただ俺の違和感が気のせいなのか、思い込みなのか感じたかっただけなんです。俺良くも悪くも適当ですから」


「ええ、違和感はあるわ。亀吉さんって言う人が、乙姫さんを見て、あの女と同じで、色ボケしているって言うのは少し変ね。浮気をしたのはその人でしょ。その言い方じゃまるで、小町さんが浮気をしたみたいだわ」


「はい、俺もそれが違和感がありました。いくら亀吉さんが、態度が悪くなったとか、浮気をしたとかそう言う事情があったとしても、その言い方は変です。何かあるんじゃないかと思うんですよ」


「15年間で、亀吉さんとおじいさん達の交流は電話の1回だけ。話も全部亡くなる直前に小町さんから聞いただけ。確かに匂うわね」


「何とか話してみたいですね。亀吉さんと」


「おせっかいじゃないかしら? そこまでしなくても、信用はされてると思うわよ」


「悲しいじゃないですか。お父さんもお母さんも生きてるのに、誤解か何かで一緒にいられないなんて。子供にとって1番の親不孝は、一緒に居てあげられないことですよ」


「あなた、お父様はご存命よね……、ということは……」


「ええ、母は小さい頃に亡くなりました。ですから、もし何とかできるなら手助けしたいです」


「まったくもう、無関心なのに、1回絡むとスッポンみたいに放さないのね。だからこそ私もあなたを選んだんだけど。いいわ、この辺りなら多分西条家ね。お父様にお願いするのは尺だけど、これで貸し1つよ」


「何か手があるんですか?」


「お父様の友人にいるのよ。そう言う人とつながりのある人が。やっぱり裏との付き合いも大事だから」


「助かります」




そして数日後、太郎はカグヤと共に仁志家の別館にいた。


「お嬢ちゃん、ずいぶん美人になったな」


そこにいたのは大柄で黒スーツにサングラス、顔に傷があり、子供でも只者ではないものが分かる雰囲気を従えた50歳くらいの男が居た。


「おじさん、いい年して私を口説かないでよ。それに、この人が婚約者よ。紹介するわね。お父さんの友人で西条智樹おじさん」


「はじめまして、三波太郎です」


「ああ、聞いてる。家柄はまぁまぁだが、ちょっとお嬢の相手にはならないんじゃないですか?」


「おじさん、今日はそう言う話じゃないでしょ」


「ああ、そうだったそうだった。調べておいたよ。亀吉だったか。確かに家の組の傘下の西田組にいるな」


「その人と会うことはできるかしら?」


「申し訳ないがそれは難しい。亀吉は借金を持っているから、それを返済しない限り西田組から引き受けることはできない。もともとお互い引き抜いたりするのは違反だからな。その借金は最低でも返さないと難しいだろう。だから、兄ちゃんが金を出してくれれば、いいぞ」


「どうにかできないのおじさん?」


「俺らに得がないからな。借用書とかも信用はできない。キャッシュだけだ」


「……いくらです?」


「200だ。出せるか?」


「無理よ。いくら三波家の生まれでも、まだ17歳よ。そんな簡単には」


「お願いします」


そして太郎は懐からお金を出す。


「お? これでお引取り願おうと思ったんだが、持ってきていたのか?」


「俺、親や親戚からお金をもらったりしてたんですけど、全然使わなかったので残ってるんです。うちの親が忙しくて構えないから、まぁまぁお小遣いはもらってました。今は全然ですけどね」


「ふむ、しかし他人のために200万を出すのか?」


「ええ、亀吉さんは俺の大事な人の知り合いなんです」


「……お嬢から話は聞いている。世話になっている先輩の親なんだってな。だが、浮気をして家族を捨てた親だ。仮に会えても、必ずうまくいくとは限らない。この200万はドブに捨てることになるかもしれないんだぞ」


「いいんです。俺がすっきりしたいだけですし、あまり俺お金使いませんから」


「参った。お嬢の人を見る目は確かか……。今時これだけの利他主義は珍しい」


太郎のまっすぐな瞳と言葉に、意気と意地の世界で生きている智樹は心を撃たれた。


「じゃあお願いできるの?」


「ああ、金さえありゃなんとでもなるさ。この200万は返しとく。俺がおごっておく。お前の男気に免じてな」


「いいんですか?」


「ああ、お前とお嬢が一緒になって仁志家を盛り上げてくれれば、結果的に俺達も潤う」


「ですけど、俺とカグヤさんがもしかしたら結婚できないことも将来的にはありえるかもしれないですよ」


「それくらい分かってるさ。別にお前はお嬢とくっつかなくても、将来大物になる。俺はお前の男気に興味が沸いたんだ。お前なら将来的に200万くらい簡単に稼げるだろうが、今のお前にとっては同じ200万でも重みが違う。もしお嬢とくっつかないなら、将来的に返してくれればいい」


「ありがとうございます」


「すぐに手続きをしてくる。3日後にまたここでいいか? お嬢」


「ええ、お願いしますわ」


そしてその日の話し合いは終わった。


「太郎君、あなた男ね」


「何言ってんですか?」


「乙姫さんのことが大事なのは、ずっとあなたを見てきたから知ってたわ。でも、これだけ人のために頑張れるのって、お馬鹿だとは思いますけど、悪くないんじゃないのかしら?」


「別に、俺はたまたまお金を持っていただけです。そんなにすごいことはしてないですよ」


太郎は謙遜したが、いくら好きな相手の関係者とはいっても、自分の財産のほとんどを投げ出し、しかもそれが解決に導かない可能性もあるのだ。意味があるならできる人も居るだろうが、意味が無いのにできる人がどれだけ居るだろうか。


それができるからこそ、太郎をカグヤと智樹は認めたのであった。

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