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勇者がいないファンタジー世界で俺は……  作者: アルねこ
第3章 勇者冠水編
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第八十七話 交差する思惑 その1

他面子の視点です。読み飛ばしても問題無いよう書く予定の為、面倒な方は飛ばして頂いてOKです。

「よし行くぞー、テレサー」

「外に出るの凄い久々!」


 魔族である二人は見た目に反し、軽く百歳を越える者達である。それ以上の年齢を女性に聞くのは野暮。そんな二人が外に出るのは文字通り数百年振り、もう一方は百年の時を越えて初めてダンジョンの外に出たということもあり、年甲斐も無くはしゃぎ喜ぶ。


「テレサ川に行くぞ、川!」

「待ちなさいレティ。私達は一刻も早く、ノヴィのところに行かないといけないの。こうしてる間にもノヴィが子作りをしているのかもしれないのよ」


「むむ、そうか……。まあ、いざとなれば、妾に考えがある」

「何?」

「産まれてくる前に、腹にいる赤子を殺すぞ!」

「ノヴィが聞いたら卒倒しそうな台詞ね」


「大丈夫じゃ本で読んだ。何やら人族には『堕胎』という合法的な施術があるらしい」

「どういった方法なの?」

「冷たい水の中で母体を冷やしたり、母体の膣から細長い鉄棒のようなもので刺し殺すと書いてあった」


「……レティよく聞きなさい」

「なんじゃ?」

「レティは赤ん坊や子供を見たことがないから、知らないの」

「見たことは無いが、知っておるぞ」

「それは知らないということなの。貴方も赤ん坊を直に見れば分かるわ」

「何が分かるのじゃ?」

「赤ん坊は殺してはいけない。産まれてくる子供に罪は無いから」

「赤子は生かすものなのか?」

「そう。レティだって赤ん坊を見れば、あまりの可愛さにそんな気は一瞬で無くなるわ」


「そうなのか……、そこまで言うなら一度は見てみたいの。となると、理解できぬことがある」

「何かしら?」

「何故、半獣の赤子は殺される? ハッセルから聞いた話では、半獣として産まれてくる赤子には生が与えられぬと聞いた。半獣の赤子は可愛くないのか?」

「……私には分からないわ。きっと人族も獣族も馬鹿なのよ」 

「ノヴィが半獣の娘を好きになった理由は同情からか?」

「違うわ…………多分…………ノヴィのアレはただのスケベよ」

「スケベであのように頭を下げることができれば、世界を救うのは慈愛でも仏心でもない、スケベ心かもしれぬな。アッハハハハハハハ」



 二人が街道を歩き進んでいると、前方から物凄い勢いの馬車が走り去って行く。


「馬車を初めて見たが、あれほどにも速い乗り物だったのだな」

「多分、かなり速い馬車ね。私もそれ程見たことがないけど、かなり速かったわ」

「ノヴィの話では、アレよりももっと速い『自動車』という乗り物があるらしい。それよりも、もっと速い乗り物が『えふわん』と言っておったぞ」

「アレよりも速いなんて想像つかないわ」

「妾はいつか『自動車』という乗り物を作ろうと考えておる!」


 彼女達二人は知らない。追い求める人物が、たった今過ぎ去った馬車に乗っているとは、夢にも思わないであろう。


 そうとは知らずに彼女達は、ファルファシオンを目指し進んで行く。内通者(ヴィヴィアン)の話によれば、ノヴィはファルファシオンで足止めされているらしい。であれば、足止めされている間に追いついてしまうべきと計画していた。



 ファルファシオンに到着する前に、一晩野宿で夜を過ごす。女性二人組が野宿と考えれば危険なイメージがつきまとうが、片方は夜をフィールドとする種族、もう一方は最強存在であるため、何も心配することなく交代で夜を明かす。


 ダンジョン中では見ることの出来なかった夜の灯(つき)、夜の星空にレティがはしゃいだのは言うまでも無い。


 そんな野宿を挟みながら、ファルファシオンの石門に到着する頃、間もなく三回目の日が沈むという時間であった。


「何やらさっきから妾達が随分とジロジロ見られておるの」

「う~ん、流石に魔族とはバレてないと思うけど、どうしてかしらね」


 石門の前で人族に交じり並んでいたところ、盗み見るような視線が二人に突き刺さっていた。何かあればレティが即座に対応する準備をしていたが、結局何事もなくやり過ごすことになる。


「一人銀貨二枚じゃないの?」

「すみませんね、数年前から一人銀貨三枚になっているのですよ」

「そうだったの。はい」

「妾も銀貨三枚じゃ」


「少し尋ね事いいかしら?」

「ええ構いませんよ」

「この街にノヴィという男がいると思うのだけど、心当たりはないかしら?」

「ノヴィ……どっかで聞いたような、聞いてないような……」

「何処か心当たりか情報の聞けそうな場所があれば教えてくれる?」

「それなら…………」



 門番の話によると、街一番の大きな酒場が良いらしいとのことである。二人はそこに真っ直ぐ向かう予定であったのだが……


「こらレティ、直ぐ何処かに行かないの」

「やじゃあ、やじゃー、アレを見たいのじゃー」


 子供の目にはどれもこれも目移りする珍しいものらしい。あのダンジョンに百年以上も閉じ籠もっていれば、初めての街は興味を引くものばかり。多少の行動は目を瞑っていたが、先程から一向に酒場へと進まない為、しびれを切らしたテレサがレティを引きずる形で進む。


「ここが門番が教えてくれた酒場らしいわ」

「おおおおおお、でかいのおおお。生誕の食堂よりも広いぞ」


 二人が顔を覗かせた酒場はかなりの広さであり、かなりの人が押し寄せていた。何よりも中からは香ばしい食事の匂いが二人の食欲と興味を惹きつけてやまない。


「いらっしゃーい、お客様お二人?」

「ええ」

「こっちにどうぞ」


 店の女に案内される途中、席に着いてからも、二人に降り注ぐ視線は止まない。


「ごめんなさい、ちょっと聞いていいかしら?」

「どうしましたか?」

「街に来て以来ずっと見られているのだけど、私達変なところあるかしら?」

「あぁ、お客さん達凄い美人ですから。それで見られているんですよきっと」

「あらそうだったの。お世辞でも嬉しいわ」

「お客さんにお世辞を言ったら、私はお世辞を言ってもらえなくなりますよ」


 そんな笑い話(ジョーク)を交えながら注文を受付ける。


「妾はこの鶏肉のマヨネィズ焼きが食べたい!」

「お客さん目が高いですね。それウチの料理でも自慢の一品なんですよ」

「それは楽しみじゃのう!」

「じゃあ私も同じものを」

「はい、かしこまりました。少々お待ちくださいね」


 店の女が下がった隙に、一人の男が滑り込むように駆け寄ってきた。


「ゼェゼェ……、お嬢さん……達、お二人……けかい? 良かったら一緒に飲ま……か?」

「お主随分と息を切らしているが、どうしたのじゃ?」

「ちょっ……した競争の、代償だ……心ぱ……ねぇぜ」


 誰が先に声を掛けるか、刹那の競争に勝ち抜いた男であった。男はかつてこれほどまでに、自分の力の限界を越えた事が無かった。そう人は限界を越えれば代償が来る。まさにその代償を受けている最中。


 息の切らし方が尋常で無い為、二人がやや訝しげにジト目で睨む。


「よし、こうしようじゃないか、何か賭けでもやろうぜ。そっちが勝ったら、今日好きなだけ奢ってやるぜ。その代わり俺が勝ったら今晩──」

「いいわ。あなたが勝ったら一晩付き合ってあげる」

「付きあっ──え? アレいいの?」

「あなたが言い出したことでしょ?」

「自分で言うのもなんだが、こんな上手く行くなんて思ってなかったから……」


 男が下心満載で迫ったところ、あっさりと賭けに乗ってきたのである。男はかつて無い程、喜びと幸運に酔いしれていた。男はこの酒場でもそこそこ古株の人間。この酒場で流行っている『チェス』を賭けにする算段でおり、酒場でも一、二を争うチェスの愛好者であった。


「その代わりもしあなたが負けたら、人探しに付き合って欲しいの」

「そんなのでいいのか?」

「私達には重要なことよ。それに土地勘がない場所で、人探しで苦労することは目に見えているもの」


「よっしゃ成立だな。それじゃあこれで勝負しようぜ(やっと俺にも幸運が舞い降りてきたぜ!)」

「あら『チェス』ね」

「ほう『チェス』か」

「どうするレティ? 私が言い出したことだから、私がやってもいいけど」


「(もし負けても寝かせておけばいいしね)」


「妾がやりたいー。妾にやらせてくれー」


「へへ、お嬢ちゃんいいのかい? 俺は結構コレ得意なんだぜ」

「ほう奇遇じゃのう。妾も得意な盤戯じゃ。遠慮しないで掛かって来い!」

「(やったぜええええ、今晩はどうしよっかな~!)」


 ~十分後~


「ほらチェックメイトじゃ。もうチェックじゃないぞ」

「…………嘘だろ?」


 レティはあの負け以来、暇をみては『チェス』の修練に時間を割いていた。いつかノヴィとあのエルフに勝つ為だけに頑張っていた。肝心のノヴィとやろうとすれば……『リリアンに勝ったら、相手してあげる』と言われ、勝負から逃げられていたのである。


 あれが初戦とはいえ、リリアンの打ち筋はなかなかのものであった。魔族と一通り打ってみたが、実のところエルフとの一戦が一番白熱していたのである。


 そんな事情もあり、レティの頭の中にいるノヴィのチェスの腕前は、とてつもない強敵へと育っていた。アレだけの途方も無い知識を有して、そして作り手である本人。であれば万全の態勢で挑むと、日々修練を重ね続けていたのである。…………十年間も。


「お主弱すぎるぞ……」


「おい今度は俺にやらせろ」


 別の男が割り込んできた。


「どうする? あなたも賭けてみる?」

「へへ、いいのかい? そんなこと言っても。コイツほどじゃないが、俺にだって勝てる可能性はあるんだぜ」

「いいわ。条件はそこの男と同じ。あたなが勝ったら一晩、私が勝ったら人探しに付き合ってもらうわ」

「よっしゃあああ」


 ~五分後~


「お主……本当は初めてじゃろ? さっきの者より弱いぞ」

「次は俺だ俺! 俺にやらせろ!」



 テレサは知っていた。レティの腕前が指折りの実力者であることを。


 テレサは以前にレティと打った後、ヴィヴィアンとも試しに打ってみたことがあるが、力関係はこんな感じであった。


 レティ>>>テレサ=ヴィヴィアン


 ヴィヴィアンとは勝ったり負けたりの形になっていたが、レティに対してだけは全く勝てない。そしてレティのライバルであるノヴィとの力関係はこう。


 レティ>>>テレサ=ヴィヴィアン>>>ノヴィ


 レティは自分で育てた強敵(ノヴィ)と日夜研鑽を積んでいた。さしずめ脳内ライバル。



 ~数時間後~



 酒場には『チェス』の敗北者が死屍累々と積まれていた。否、現在進行形で積まれている最中。


「貴方達に探して欲しい人物は『ノヴィ』という男」


 死体となった男達はちょっと後悔していた。大抵このパターンは男を追っかけていると、長年の経験から直ぐに気づいたのである。


「のびー?」


 小さなウェイトレスがノヴィの名を可愛らしく告げる。


「そうよノヴィという男。もしここに来たら、あなたも協力してくれるかしら?」

「のびーというひとに、なんぱされたことあります」


「……………………あ゛、の゛、男……節操無しかぁ!」


 テレサがキレた。


「この鶏肉のマヨネィズ焼きうまいのう。おかわり頼む」

「ありがとうございます。しょうしょうおまちください」


 ノヴィを捜索する集団が出来上がってしまった。そんな一夜の出来事。

相変わらずちょこちょこ視点が代わり申し訳ありません。邪道とは知りつつもついつい挟んでしまう……。一応読み飛ばしても問題無いようにしました。


引き続き宜しくお願いします。


次回もノヴィ視点お休みの予定(汗

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