第八十六話 フラグブレイカー?
「ノヴィはプライドを捨てたこと……あるの?」
脱出している最中ずっと緊張していたのか、無言だったネリーが突然話しかけてきた。
「急にどうしたのさ?」
「あれ程強い魔術は初めて見たわ。それなのにプライドを捨ててまで、命を取れと言われたから……」
「プライドかどうかは判らないけど、それにかなり近いものは捨てたことがあるよ」
「どのような時に捨てたの?」
「昔、十年程前だけど、生誕から出てきたマント一枚の男の噂、聞いたことない?」
「噂には聞いたことがあるわ。見たこともないアイテムを作ったり、色々な情報が交錯していたみたいだけど」
「あれね俺のこと」
「……冗談……じゃないのね」
「本当の話だよ」
ネリーに話してあげる。銀貨二枚にすら苦労していたこと。街に入ってから、酒場の樽を漁ったこと、酒場の残飯に落胆して、酒場の夫妻に助けられたこと。
「結局さ悪いことする理由て、何か苦しみを知ってるから、それから逃れる為に悪いことしたり、悪いことを考えたりするんだよ。お腹が減ったとき、ネリーもそうだったんじゃない? そうじゃなかったらネリーは相当凄いと思うけど」
「うん……」
「ネリーは大丈夫だよ。ネリーは馬鹿じゃないし、きっと次はもっと上手くできる」
「ノヴィは冒険者にならないの?」
「ならないよ。それに怖いし」
「怖いって……、それだけ強いのに?」
「強い強いというけど、俺の根はマント一枚の頃と同じだからね。身を守る為なら頑張るけど、基本お断り」
「今回ダンジョンに潜った理由は?」
「本当に伯爵様に恩を返す為だよ。銀貨二枚に救われたと本当にそう思っている。あと生誕じゃ多分死なないからという点が大きいかな。いざとなったら魔族が助けてくれるかなぁと思ったし」
「ノ、ノヴィあのね……」
「うん?」
「わた、わた、私と冒険者になりませんか!」
……。これてあれかな、クラウディアが言っていたアレに近いのかな。でも純粋に気に入られているだけのような気もする。
「誘いは嬉しいけど、辞めておくよ。怖いし。それに用事もあるから」
「用事?」
「うん。俺、『大都市メルディカバリ』に行く用事があるんだ」
「私も一緒に行って良い?」
「止めておいた方がいい(真剣な表情」
「そう……」
あっぶねぇ。これはフラグが立つところだった。ネリーは可愛いお嬢さんだけど、俺これ以上フラグ立てると壊れるからな……物理的に。いやこの場合、精神的にだろうか。
「ノヴィも私はお淑やかにしたほうががいいと思う?」
「別にどっちでもいいんじゃね。可愛いから冒険者でも十分モテるでしょ」
「そんな、全然モテたことなんてないよ。男の人になんて告白されたこと殆ど無いし」
「ネリーがお淑やかになりたいと思うなら、変わればいいと思うよ」
「そう……ね」
「でもさ」
「?」
「貴族の娘なのに冒険者になったということは、何かやりたいことか憧れるものがあったんじゃない?」
「……うん」
「別にすぐ変わる必要も無いと思うよ俺は。迷っているなら試しに少しの間、冒険者辞めてみるのもいいんじゃないかな」
「え?」
「ネリーの家はお金持ちだから、しばらくお家でダラダラしてみるのもいんじゃない? 俺も嫌なことがあったとき、しばらく部屋に閉じ籠もっていたからさ。冒険者だって生涯続けるのは難しいかもしれないからね。予行演習とでも思えばいいよ」
「皆に臆病者とか言われないかな……」
「好きなように言わせておけばいいよ。それに伯爵様はそんなこと言わないと思うよ。真っ先に仲間を逃がしてくれたこと、褒めてくれるんじゃないかな」
「私ファルファシオンに帰ったら、父様に謝る」
「それよりもまずお礼言ってあげなよ、多分喜んでくれると思うよ」
そんな話をしているとダンジョンの外に脱出。二人で久々の日の光に喜びを分かち合う。
「あれ? ノヴィさん……、本当に一日で帰ってきたのですね」
「ネリーが帰る時結構頑張ってたし、君何帰る準備しているのさ」
「アハハハハハ、すみません。本当に帰ってくるとは、思っていなかったので」
危うく帰りの馬車に置いて行かれるところであった。
「ノヴィ……あのね」
「まだ何か聞きたいことあるの?」
馬車での帰り、好きな人はいるかとか、嫁はいるのだとか散々聞かれていたのである。流石にここまで聞かれると、少なからず俺がどう思われているのか確信に近い察しはつく。
「ノヴィは強くて綺麗な娘とお淑やかな娘どっちが好み?」
「お淑やかで優しい子」
俺は無駄にフラグを建てない男になると決意したのだ。俺の一言に凄くガッカリしている感じは見られるが、ここで中途半端に行っておくと絶対変にこじれる。だからフラグをバキバキに折っておく。
……ごめんねネリー。
急に馬車が止まる。なんだろう。
「ノッ、ノヴィの兄貴!!」
「どうしたの?」
例の元盗賊の一人である。兄貴スゲェ達の一人である。
「それが……」
どうやら街中で俺を必至に探している連中が大量に居るらしい。
「なんか以前も似たようなことあったよな、これ……」
「ノヴィの旦那がいるかと、倉庫や商人ギルド手当たり次第にやられている感じですぜ」
「相手そんなに強いの?」
「少なくとも片方はヤバイですぜ。見たこともない魔術を使ってる様子もあるようでして」
「正面切ってまで戦いたくないな。このまま他の街に行こうかな」
「あのノヴィ様……」
「ん?」
「ファルファシオンの屋敷にいらっしゃいませんか? まだお礼も何もしていないものですから」
「でも相手が相手だし困るんじゃない?」
「仮にも伯爵家の屋敷です。ノヴィ様の一人や二人身の安全は保証致します」
「そう? じゃあ申し訳ないけど、少しお願いしようかな」
「はい!」
すげぇ嬉しそうこのお嬢さん。
今更ですがネリーとネリサ名前被り気味ですね。すみませんでした。名前考えるのが凄い面倒です……。




