第八十五話 ファランクス
アップが遅くなりすみません。
ネリーからデストロイヤーの情報を聞く。流石にBランク冒険者だけあり、モンスターに対しての情報管理がしっかりとしている。
ネリーの話によると、出口を封鎖するという異質な行動らしい。彼女達も幾つかのダンジョンに入ったことはあるらしいが、出口を塞ぐといった行動のモンスターは初めて見たとのことである。
彼女達のパーティー撤退までの一通りの行動も含めて確認。
最初はレティのミスから発生したものかと思ったが、何か意図がありこの階層に設置されたと思われる。
それよりも……、
「五十点」
「何が……もしかして他のメンバーを逃したことに対して?」
「そっちは問題無い。俺も同じ立場なら、そうしていたかもしれない」
「何故魔族が助けを提案した時に乗らなかった?」
「魔族に助けを乞うなんて、恥知らずもいいところよ」
「生誕の魔族は命までは取らないといった噂を聞いたことないか? 武器を取り上げられ、入り口に放り出されると」
「聞いたことぐらいあるわ……でも、魔族に──」
「ネリーはプライドを守る為に命を捨てた。伯爵はネリーの命を助ける為にプライドを捨てた」
ネリーがバツの悪そうな表情で視線を逸らす。
「君の話を聞く限りでは、虫を食べるぐらいの根性もある。仲間を逃がす勇気も認める。けど生きることに、最後まで足掻くべきだったと思う。命とプライドならプライドを捨てろ」
「貴族ではないノヴィに、プライドの重さは分からない!」
「ああ、わからないね。けど伯爵はそのプライドを捨てたんだ。他の貴族は知らないけど、俺は伯爵がプライドとか関係無しに家族を救おうとしている姿は格好良いと思うよ。喧嘩売るような真似すまなかった。そろそろ行こう」
「行くって何処に?」
「上だよ上。ファルファシオンに帰らないと」
先程からネリーが対策を煩く尋ねてくる。
レティがこの十二階層にデストロイヤーを配置した理由。以前に俺がダンジョンの中ボス的存在について聞いたことがある。最初はてっきりヴルムやハッセルが中ボス的キャラなのかと思っていたが、どうやら階層主やゲートキーパー的な存在はいないということが分かった。
逆にそれが何かと聞かれ、テレビゲーム的なものを説明したことがあるのだ。あのとき随分とキラキラした目で聞き入ってたが、多分その影響下で生まれたのが十二階層のデストロイヤー。
ネリーの話を聞く限りでは、積極的に命を狙ってくるわけでなく、あくまで出口を封鎖するルーチンを組まれているようである。
考えられる可能性は二つ。単純に十一階層へ戻ることができないようにする為のモンスター罠。状況によっては命を落とす可能性も十分に考えられる。レティが単純にこんなトラップを仕掛けるとも考え難い。
もう一つの可能性、知恵比べだ。
ネリーの話によると、一定場所まではデストロイヤーを引きつけることができたらしい。その隙にパーティーを逃したとか。しかし、一定の距離を離れると、デストロイヤーが出口まで直ぐに戻っていくらしい。
何かしらの行動パターンを見つけ、デストロイヤーが離れている隙に上に脱出する。そんな試練的要素では無いかと考えた。あのレティに対し、チェスやパズルゲームで勝てる気がしない。
俺の考える最善の手。それは……
「正面突破だ」
「冗談よね?」
デストロイヤーを正面に捉える。
一旦最下層まで行き、確認することもできたが、時間が惜しい。どうせ即時生成されるのである。正面突破でいく。一定の距離を取ればリセットできるということを考えれば、モンスターとの戦闘経験を積むいい機会とも考えられる。
「直列回路起動!! 二番三番四番接続、ファランクス!!」
俺達の正面に大きな石壁が出現する。当初土系統魔術は一番相性が悪いと思っていたが、イメージが通りやすくなったことにより、かなり勝手のいい系統魔術に進化していた。
土系統魔術は密度を上げれば上げるほどその強度を増す。勿論その強度には限界があるが……。
デストロイヤーが石壁に対し、何度も強打する。しかし一向に石壁が壊れる気配な無い。
「ハハハハッハハハハ、これが科学の力、ショックアブソーバーだ!!」
ここまで上手くいくと笑いが止まらないわ。三系統接続は成功率がイマイチだっただけに、これは会心の出来である。
この石壁の特徴。まず二枚の石壁。といっても二枚目に関しては防御に使うものではない。最大の特徴は石壁の間にある空気圧、それを囲う泥水。正面で受けた衝撃を中の泥水と空気圧が振動を減衰させる機構だ。普通はシリンダーなどを利用するが、魔術で固めている為その必要が無い。まさに魔法科学の力。
泥水と空気圧が見事にスプリングの代わりとなる。
「凄い……けど防御ばかりでどうするつもりなの?」
「大丈夫。これは攻防一体の魔術だからね。ファランクスというのは、槍を持った重装兵が行う密集隊形のことなのよ。多分……」
「なんで自信なさ気なの!?」
「重要なのは発想とイメージよ。うん、名前はそんなに重要じゃないから。俺の狙い通りであれば、自滅してくれるからアイツ」
細かい攻撃の連打を諦めたデストロイヤーが、徐々に大振り攻撃になる。そして一番の大振り攻撃が迫る。
デストロイヤーの強大な拳が石面にぶつかったその瞬間、耳をつんざく爆発音。
「ごめん、この音はちょっと予定外だった」
「今の爆発音なに…………きゃっ!?」
俺達の目の前でデストロイヤーが数本の石槍に貫かれていた。モンスターはそのまま大きな音と共に息絶える。
威力は予定通り。というか予想以上かもしれない。一定以上の威力、シリンダー部に圧力が加わると、超圧力を利用した石槍が飛び出る機構を組んでいた。魔法様様である。ファランクスと名付けたもの、機構としてはスパイクシールドなどに近いかもしれない。
この発想どこから生まれたのか。中◯製の椅子が爆発し、シリンダーが肛門に突き刺さるといった事件から思いついた。俺のファランクスは不良品じゃないよ? 本当だよ?
デストロイヤーの死体からある素材を探す。
「おお、かなり大きい魔晶石。初めて見たよこんなサイズ」
俺達も魔晶石のサンプルは幾つか持っていたが、デストロイヤー級の魔晶石を見つけたのは初めて。ちなみに人の頭よりもやや大きい位のサイズ。心臓部の役割を果たしている為、モンスターのサイズによって魔晶石も成長する。
「ネリーも欲しい素材あったら、持って帰っていいよ……多分だけど」
「こんなモンスターの素材幾らすると思っているの? それに倒したのはノヴィじゃない……」
「いいのいいの。俺ひ弱だから持ち物そんなに持てないし。それにネリーだって随分頑張ったからご褒美だよ。欲しいの持って帰りな。それともこの大きなコレが欲しいのかい?」
「貰えないわ、そんな大きな魔晶石」
「ほらほら要らないのだったら、残り全部燃やしちゃうよ?」
「待って! 待って!」
結局、骨部位を幾つか、腱、角、目を回収したネリー。セカンドアイはデストロイヤーのみの特典になるため、意外と抜け目ないお嬢さんである。
それはそうと意外と力持ちなのね君。昔の漫画のような泥棒が担ぐように、首から大量に荷物を背負っている。とんでもないお嬢さんであった。




