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勇者がいないファンタジー世界で俺は……  作者: アルねこ
第1章 生誕編
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第八話 ダンジョン脱出-前編-

 翌朝、夢魔族(テレスタジア)と一緒に食堂へ向かう。昨日と同じく夢魔族(テレスタジア)が色々構ってくれていたが、全て作り笑いの返事になる。


 今この同じ食卓を囲んでいる魔族(モンスター)達が急に怖くなった。勝手に名前やら何やら付けて楽しんでいたが、人を殺していると知った途端これである。自分がいかに現金なやつであるか思い知る。この出鱈目(ファンタジー)な世界を知らず知らずのうちに錯覚していたようである。


 今はこうして友好的な関係ではあるが、人を殺せない、人の味方をするようであれば、恐らく俺が殺されるのだろうという考えが昨晩から嫌になるぐらい渦巻く。人の世界に召喚され、明日から戦争に行けと言われたほうがマシかもしれない。いきなり召喚された挙句、魔族として人々を喰い殺せと言われているのだ。


 当面の方針を計画しなければ事態を回避できない。今日から学ぶべきことを限定し、街に行く機会を得ること。この二点に絞り込むことにする。そして学ぶべきことは言語関係や文字が最優先であろう。人の街に入っていきなりコミュニケーションが取れないとか、そんな事態はできるだけ避けたい。


 その日は夢魔族(テレスタジア)から貨幣経済を学ぶ。正確には貨幣知識しか取得できなかった。召喚されて以来会話に不便することがなかったが、文字が読めないという問題が判明した。文体は楔型(くさびがた)文字に似ている気がするが、読み書きが想像以上に難しい。1日での取得を諦め、貨幣経済の習熟に一日費やす事となった。幸いというわけではないが、この世界の算術はそこまで発展しているというわけではなく、貨幣の計算自体は容易であった。


 白金貨1枚 = 金貨100枚

 金貨1枚  = 銀貨100枚

 銀貨1枚  = 銅貨100枚


 貨幣知識を学ぶ過程で、この世界の予備知識が幾つか解る。村の出入りはお金が掛からないらしい。街に該当する場所は、入るにも住むにも金銭が発生するようである。税金のことと予想。村については作物等の何らかの形で課税されているのではないかと思われた。予想通りであれば田畑あたりの面積で課税が掛かっている(はず)


 それから数日を要し、ある程度の読み書きは可能となった。20階層もあるダンジョンではあったが、地上までの経路も把握できた。紙とペンで密かに脱出経路を図る。


 現在『生誕』と呼ばれるこのダンジョンは、貧乏貴族に該当するような状態であるとのこと。侵入者の出入りが少ない為魔力が貯まり難く、ダンジョンの魔力が無い為、金銀財宝等が構築し難いようである。当然この金銀財宝というのは人を呼ぶ餌のことだ。


 俺にとって追い風となる点が幾つかある。ダンジョンを徘徊するモンスターが少ないこと。ダンジョンの魔力が少ない為に、徘徊させるモンスターを減らすしかないようである。俺自身の魔力が無い点も初めてメリットとなる。ここ数日を通して解ったが、ここの魔族達やモンスターは魔力感知して位置を把握しているようであった。薄暗い通路が多い為、俺が迷子になることが多々。


 計画を立ててから数日、脱出を実行することとなる。勝負時はこの魔族が比較的休んでいる時間帯である。外は昼間なのか夜であるか判らないが、周期的に休眠を取るようである。




 ダンジョンを駆けて行き、順調に10階層まで駆け上がることができた。ダンジョンは下層に潜り難くい構造であった為、難無くクリア。物覚えの悪いフリをして、19階から10階層までの罠通路やモンスターの徘徊経路をメモしていたことが非常に大きい。


 問題は10階層からであった。10階層から先は冒険者の出入りが多々あるらしく、危険だということから10階層から上は行かせてもらえなかったのである。冒険者達に出会うことができれば、そのままダンジョンを脱出できるかもしれないと企てていた。


 勿論冒険者が10階層までやって来るということは希望的観測である為、少しでも上の層に上がらないといけないのである。最悪自力で脱出を試みないといけない。


 俺は10階層で身を潜め、あるモンスターの徘徊をひたすら待つ。ここが計画の一番の要であり、失敗できないポイントである。10階層の岩陰にて1時間程待った頃、目的のモンスターがやって来る。サイクロプスと呼ばれているモンスターが闊歩(かっぽ)していた。


 このダンジョンには巡回するモンスターが少ない。魔王はこの問題点を巡回ルートを分散させ、侵入者用の包囲網に穴が無いようにしていたのである。戦闘が発生しない場合、モンスターの徘徊ルートが重ならない為、やり過ごせば脱出する分には抜けやすい穴がある。


 そしてこのサイクロプス。一つ目の巨大なモンスターであり、いかにもパワー重視のヤバそうなやつの代表である。生前に漫画やゲームで見ていたサイクロプスと共通するところもあり、コイツがサイクロプスだと一目で解った。


 魔王から聞いた話では10階層から3階層まで、このサイクロプス3体を等間隔(とうかんかく)に動かし、ダンジョンの制圧力を上げているとかなんとか。ようはコイツらがこのダンジョン中でも、特に強い奴らということである。


 10階層から3階層までの脱出はこのサイクロプスを利用する。サイクロプスも情報通り魔力で気配を感知しているらしく、少し離れた後ろを歩いても振り返ること無く前進して行く。脱出する相手を手取る目的で徘徊させているわけではなかった為、脱出に利用するにはピッタリのモンスターであった。


 暫くし、ようやく5階層へと辿り着く。難点はコイツの歩行スピードがかなり遅いことだ。加えて、ダンジョンの巡回を目的としている為、5階層に着くまでに2~3時間以上は要していた。最初に脱出をしてからそろそろ4~5時間になると推測。計算通りであれば残り1時間程となる。かなりシビアな状況ではあるが、ここで焦っても解決しない為、辛抱強く行くしか無い。


 焦る鼓動を必至に抑え4階層に到達。4階層はフロアが狭いのか、あっという間に3階層へと到達したことには少し安堵(あんど)した。


 サイクロプスの道案内が終わり、手頃な柱の影へ姿を隠す。現在身を(ひそ)めているのは3階層であり、残りはこの3階層と2階層と1階層である。しかも全く情報が無い為、ここが死線となる。20階層もあるダンジョンの20階から4階までを難無く歩き、3階から命懸(いのちが)けということは本当に皮肉な話だ。


 さて難関の3階層攻略。このまま冒険者を待つのもありかもしれないが、分の悪い賭けになる。情報通りであればこのダンジョン、冒険者の入りが悪いらしい。これは下手すると一日二日待って来ないとも取れる情報。であれば、自力で3階層2階層と突破するしかない。


 まず罠通路の(トラップ)の回避方法と判別。この数日何度か迷子になり掛けたこともあり、トラップの回避方法を確認しておいた。


 このダンジョンの罠には大きく2種類物がある。一つは単純な物理反応するトラップ。もう一種類は魔力反応するタイプのトラップであるとのこと。俺はこの魔力反応するトラップに引っ掛らない為、迷子なった際は物理罠を避けるように言われていた。


 物理罠の避け方である。非常に単純な方法ではあるが、(ほこり)の被っていない、または足跡がある床を踏めと言われていた。既に発動済みの場合もある為、慎重に歩くようにとも。壁には絶対触れるなと。俺では判別出来る力量が無いらしい。広い通路に出るか、元の場所に戻り次第あとは動くなと言われた位の簡易レクチャーではあったが……。


 マントの裾先から片足だけを伸ばして、まずは足の指先でツンツンしてみる。異常無しだ。続いて伸ばした足先に力を入れ、床に反応が無いか再度確認。問題が無ければ両足を乗せる。この動作とモンスターの有無を確認しながら慎重にダンジョンを歩いて行く。


 ダンジョンといっても石板で加工された綺麗な通路ではない。魔族がいた最下層付近やたまに舗装された感じの通路はあるが、基本的には洞穴を固めただけの通路である。水が染み渡った泥水を踏んだ際、思わず叫びそうになるぐらい怖い。あとほぼ真っ暗という視界の悪さが致命的だ。


 サイクロプスの巡回できない理由が、もしかしたらこの視界の悪さが原因なのかもしれない。偶に薄っすらと石に光が灯っているが魔力で光っているんだろうか。20階層に居た時は気にならなかったがかなりキツイ。


 冒険者はこんなダンジョンを出入りしているらしいまじ凄いわ。光源を確保しておかなかったことを激しく後悔する。


 因みに現在の俺の持ち物。

 ・マント(初期装備)

 ・黒パン一つ(今日の夕食、残り半分)

 ・チキンハート(警戒心)


 チキンハートと警戒心は逆だった。


 多少の休憩を挟みつつ、なんとか2層への階段らしきものを見つける。軽くマッピングをしていて気づいたことは、非常に脱出が楽な通路を形作っているのである。入るのは凄い大変そうなんだが、出るときは一本道みたいな状態である。


 上層でこのような作りだと、そもそも初心者は入るのが面倒でなかなか来ない気がした。初心者狩りを平気で行うなら、上層は入り易い帰り難い通路にするべきではないかと考えたのだ。魔族的考えを振り払い、先へ進む。

通貨の話は目安程度に書きました。

銅貨1枚あたりで日本円の100円~80円ぐらいと思い下さい。

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