第七十六話 白金貨祭り
(うおっ、なんだこれ!?)
翌日酒場を出た俺は、10年ぶりの市場調査に出たが……そこで驚くべきものを見た。
(妖精の欠片、銀貨80枚てなんだよ。ほぼ金貨1枚じゃねーか)
とんでもないボッタクリである。確かに天然磁石が有限である以上、いつかは生産に限界が来るであろうが、これは酷すぎる価格。日本円で換算するとざっと80万近く。
教会が牛耳っていると言われていた、妖精の欠片について見に来たのだが、とんでもないボッタクリ価格であった。これは俺の意にそぐわない結果だ。
「お願いします。ボクの『妖精の欠片』を治して下さい」
「駄目だ駄目だ。壊れたのなら、買い直せ」
「そ、そんな……、銀貨80枚なんてボクには……」
妖精の欠片を売ってる店主に、涙目で訴える少年がいた。
「少年よどうした?」
「実は…………」
妖精の欠片を水に浮かべても沈んでしまうらしい。
「ちょっと見せて」
(木材の一部が腐食してしているだけじゃん)
「これ直したい?」
「え? 治せるのですか?」
「うん。余裕余裕」
「お願いします!」
「オッケー」
バキッ! ベキッ!
「え? え? ボクの妖精なんで折っちゃうのですかっ!!」
すげぇ掴みかかってキレやがった。
「だって中の磁石取り出せないし。ホレこれよ」
「なんですかこれ?」
「妖精の欠片の心臓みたいなもの」
「こんなのがあったのですね……」
マジでこんなことも知らないのか……。妖精の欠片として売り出したはいいが、オカルトチックに浸透しすぎだろ。
「妖精の欠片の羽根や木片は、飾りなの分かる?」
「なんでそんなこと知ってるのですか?」
「だって俺が作ったんだし」
「え? 嘘ですよね」
「嘘じゃないよ」
とりあえず無事な木片に適当に取り付けて完成させた。
「はいどうぞ」
「え? ボクの妖精がボロボロ……」
「とりあえずそんなの、水に浮けばいいんだよ。ほら」
「あれ? 本当だ……グスッ」
なんだろう直ったのに、すげぇしょんぼりしている。あれかな見た目が悪いのかも。俺が直した妖精の欠片は、一番始めに作ったプロトタイプ並みの見た目ゴミである。
「近々、水を使わない新型が売りだされるから、それで我慢しておいてよ」
「でもボクそんなにお金が……」
「大丈夫大丈夫。販売予定価格は銀貨5枚から10枚程だから。君のお小遣いでも買えるような価格帯で売り出せるよう頑張るよ」
「ほっ、本当ですか!?」
「マジマジ。魔神様印の『コンパス』で売り出すから期待しておいて」
「『コンパス』ですか?」
「そそ。頑張ってね」
ボクっこ少年と別れを告げる。
「手始めに磁石の石を大量生産しましょう」
「 は? 」
話を聞いていた、ジェラルドは疑いの眼差しで俺を見る。市場調査が終わった後、ジェラルドを交えて、商人ギルドにて秘密の会議を行っているところだ。
「ノヴィ殿、磁石が作れるとは初耳なのですが」
「だって今言ったし。それに磁石の石で儲ける予定だった俺が、磁石の作り方言うわけないじゃん」
「え? ノヴィ殿は前から知っていたのですか?」
「当たり前だよ。磁石売り出してパクるやつ絶対いそうだったからな。黙っていただけ」
「兄貴ちょっと……」
「なに?」
「今の話を聞いていると、妖精の欠片を作ったのが兄貴みたいなんですけど……」
「そうだよ」
「「「「「「 ……兄貴マジすげぇ!! 」」」」」」
「ノヴィ殿が仰る通りであれば、妖精の欠片を大量生産して、安く売るということでしょうか?」
「いやそれは最後の段階かな。まずは大量に磁石の石を作って、全部教会に売りつける」
「はぁ!?」
「それで、できるだけ金を奪ったら、磁石を滅茶苦茶安くして売る方針。しかも水が要らないバージョンの新型を売り出す」
「ノヴィ殿、何故その新型を教えてくれなかったのですか?」
「だって以前、直ぐにでも欲しいと言ったのそっちよ」
「……あ」
ということで、教会のお金を奪おう計画が開始される。
実は磁石の石が大量生産できるようになった理由があったりする。
数日後、商会で用意してもらった倉庫に、かなり大きな鉄棒を何本か用意してもらった。予め北と南を調べ、方向に合わせて鉄棒は設置。
「ノヴィ殿、本当にこんな鉄が磁石の石になるのですか?」
「んーと、正直言うと試してみないとなんとも。まずは試してみよう」
「魔術回路起動、一番ロード、ヒートファーネス」
鉄棒を囲むように火が燃え盛る。イメージは炉で鉄棒を熱するイメージ。とにかく鉄棒が真っ赤かになるまで熱するのだ。頃合いと見ると、別の魔法に切り替える。
「魔術回路起動、四番ロード、ストーンハンマー」
次に鍛冶屋が打ち付けるように、圧縮した石を鉄棒の上から叩きつける。何度か同じ動作を繰り返す。
「魔術回路起動、二番ロード、アクアバケット」
ヒートファーネスの水版イメージ。水の中にドボンと浸けて、鉄棒を冷やす。
「完成よ」
「「「「「「「 ポカーン 」」」」」」」
兄貴すげぇの人達までポカーンとしてるよ。お前ら俺の魔法知っているだろ。
「ノッ、ノヴィ殿いつから魔法が?」
「最近使えるようになったの、結構凄いでしょ」
「俺達よく生きてたよな…………」
そう。この工程を行うにあたり、魔法という便利な技術がうってつけだった。俺が量産計画に気軽に取り組んだ最大の理由。
熱して冷やすだけでも行ける気がするが、鍛冶屋のようにハンマーで打ち付けると、磁性がより強くなるという記憶があり、石で適当に叩いてみた。
冷ました結果……。
「ちゃんと磁性を帯びてるみたいだね」
「はぁ、にわかに信じ難い状況ですが……」
とりあえずこれ適当に切るね。例のアレを取り出す。ブレイクスルーソードだ。金太郎飴のように手頃なサイズにカット。念のため、切り口を水で冷やして完成。
「ノッ、ノヴィ殿これは一体……」
「俺の武器。危ないから触らないでね。まぁ動かせないと思うけど」
「俺達こんな危険人物に喧嘩売っていたんだな…………」
「よし各自分担して、これを教会に売りに行こう。他の都市の教会にも売りに行きましょう」
~数日後~
「ノヴィ殿、白金貨5枚になりました」
「チっ、思ったより持ってやがるなあいつら。白金貨をいきなりポンポン出すとは思わなかった。もういっちょやるか」
というわけで、今度は本格的に大量生産を始める。同時作業にうってつけなのはコイツだ。
「並列回路起動!!」
工場もびっくりな汎用っぷり。レティのおまけ機能に感謝。
「「「「「「「((((((((ガクガクブルブル)))))))))」」」」」」」
危ないから近寄らないでと言おうとしたが、その必要は無さそうだ。
「よし売りに行くぞ。今度は街の外にガンガン売ろう」
そんなことを繰り返し一ヶ月程、ようやく相手も息を切らしたようだ。
「へへ、アイツら遂に買い取り断ったぜ(ドヤ顔」
教会に持ち込まれる、磁性を帯びた大量の鉄塊に不信感を抱いたのかもしれない。これだけ荒稼ぎすれば十分だろ。教会の底知れない財政のほうが恐ろしい。
「ノッ、ノヴィ殿。私は少々怖く……白金貨がこんなに……」
「「「「「「 兄貴が魔王に見えてきたぜ……へへ 」」」」」」
魔王じゃない。俺は魔神だっつーの。コイツら物覚え悪いな。
ところで俺達が幾ら稼いだか?
『 白 金 貨 2 5 2 枚 』
日本円に直すと252億円程度である。まじでアイツら、幾ら持っているんだよ。最初に大量生産した大半を例の大都市に持って行ったらしいが、そのときは即金で白金貨100枚を渡されたらしい。恐ろしいやつらだ。
そもそもアイツらが磁石の石を買い占めないといけない最大の理由は、市場価格コントロールにある。つまり産出されるであろう磁鉄鉱を限界まで買い占める必要がある。そこを逆手に取り、買い取りの上限まで徹底的に売り込む。奴等はこれを量産品とは知らない。天然磁石の方が遥かに価値は高いが、まさか作れるとは思っていないため、同価格帯にて買い取って頂ける。馬鹿な奴等だ。
まぁ俺の予想が正しければ、そろそろ仕掛けてくる頃だとは思う。普通に考えればあまりに異常な量であるため、タネに気付く頃、もしくはこの大量生産工場に探りを入れてくるはず。
「そうだジェラルド」
「なんでしょうか?」
「今度は鉄じゃなくて、鋼鉄集めてきて、はがねのほうね」
「鋼ですか? 鍛冶屋が扱う?」
俺は以前にエポックスの工房を見ていた際、鋼鉄を作る工程を見たことがある。おそらく炭素を混ぜる技術が確立している。コンパスの作成には鋼鉄を使う予定だ。
「そうそう。あと使っていない天然磁石があったら、それは売らないようにおねがい」
「了解しました」
「こんな形の薄い鉄板を作れる職人を集めて欲しい」
「今度作る『コンパス』はじっくり作る予定だから、人は増やしていいかも」
「同じく了解しました」
さてと、あとは倉庫で敵さんを待つとしましょう。
次話7/22予定。
※磁性を帯びさせる技術に関して、もしかしたら若干間違ってるかも……。




