第七十四話 十年後の酒場
「ノヴィの兄貴、マジでいったい何者なんですか?」
「俺? 魔神よ。魔神。来年辺り流行するから、覚えておくといいよ。今は勇者なんていうのが流行ってるけど、来年頃には廃れる予定だから」
「はぁ……まったくワケの分からない兄貴だ」
ジェラルドに金貨10枚貰い、外で待たせていた元盗賊達を迎えに行ったのである。
「流石、俺達の兄貴だぜ」
「俺、街に入れたの何年ぶりだろ……グスっ」
「泣くな兄弟」
「兄貴、俺達は何処に行くんですか?」
「んーちょっと仕事の話と、折角だから皆でご飯でも食べようかなと。おすすめの店があるんだ。もちろん俺の奢りだからお金の心配はいらないよ」
「イヤッホゥ!! 流石兄貴だぜ」
俺のオススメの店といえば、元職場である。
「アレ、おっかしぃな。ここで合っているんだけど……」
「ここじゃないんですかい?」
「いや違うんだよ。俺、昔働いていたことがあるのだけど、こんな馬鹿でかい店じゃなかったんだよ」
「そうなんですかい」
「まぁいいや、時間勿体無いし今日はここにしようか。美味そうな匂いもするし」
「流石兄貴だ。その決断力の早さがニクイぜ」
店に入ると既に人が溢れかえっていた。相当繁盛している店なのだろう。座る場所すら怪しい感じである。
「いらっしゃい~」
「七人だけど座る場所ある?」
「ん~七人ですか、ちょっと待っていて下さいね」
他の客にずれて貰い、席を一つ空けて貰ったようだ。ちょっと悪いことしたな。
「こちらどうぞ」
「ありがとう。今席空けてくれた人達に一杯おごってあげて。俺につけていいから」
「いいのですか? 今の人達は結構常連さんなので、あまり気にしないと思いますが」
「いいよいいよ別に」
「お客さんがいいなら、さっきの人達に出しておきます。ウチとしては代金になるだけなので」
「兄貴……奢られる俺達が言うのもなんですが、気前よく出しすぎじゃないっすか?」
「いいのいいの。魔神はみんなに優しいよアピールしている最中だから」
「はぁ」
「とりあえずみんなも適当に頼んで。お酒も飲んでいいけど、本格的に飲むのは仕事の話が終わってからね」
「「「「「「 うぃっす! 」」」」」」
「まずズバリ聞くけど、みんな勇者嫌いな人達ということでいいよね?」
「そりゃ勿論」
「全員恨んでるわけじゃないけど、仕事独り占めしているしな」
「あいつら女の冒険者と傭兵以外は、パーティーに入れないからな……」
他のメンバーも大体同じ感じのようだ。
「実は俺、勇者の評判を落として、勇者の人気度を落とそうとしてるの。みんなには俺の仕事の手伝いをしてもらおうかなと思ってるけど、どうする?」
「まじっすか、兄貴はそんな大それたこと考えていたんすね」
「いやいや。ダンジョンのあいつら見てたけど、大丈夫だと思うよ。戦闘になることはできるだけ避けるけど、もし危ないなら俺が戦うから」
「確かに兄貴が入れば、余裕な気がするな」
「俺は付いて行くぜ。兄貴には借りもあるしな」
「俺も行くぜ」
「俺も俺も」
「おきゃくさま、そうだんおわったなら、ちゅうもんもらえますか?」
何やら可愛らしい声が届く。テーブルにやっと頭の届く背丈の可愛らしい女の子が、注文を取りに来ていた。
「ごめんごめん。もういいよ。オススメは何かある?」
「とりにくの、まよねぃずやきが、おすすめです」
「じゃあそれにしようかな。みんなも好きなの頼んでよ」
皆が注文する物を頑張ってメモしている。随分可愛らしいウェイトレスさんである。
(ん? なんだろう。何処かで一度見た感じの娘さんだ。商人の人と久々に会ったあの感覚だ)
けどこんな小さな女の子、そもそも十年前だと生まれているワケ無いしな……。
「ウェイトレスさん、俺ノヴィって言うのだけど、俺の名前か顔に見覚えない?」
「……わかりません。なんぱはおことわりします。ごめんなさい」
おう勘違いされているよ。まぁいいや。ウェイトレスの娘が厨房へと戻っていく。
「ノヴィの兄貴って……あーいうのが好みなんすか?」
「え?」
「いや、ナンパしてたみたいだから」
「いやいや、俺は至ってノーマルよ。もっとバインバインなお姉さんが好きよ」
「そうなんすか。俺達はてっきりノヴィの兄貴がその手の奴かとばかり」
「幼女は愛でるものだからね」
「あ゛ん゛たかいっ!? ウチの娘に手出す不届き者は?」
なんだろうこの覚えがあるけど、逆らってはいけないドスの効いた声。
「い゛っだだだだだだだだ」
頭を鷲掴みされる。そのままくるりと声の主の方に向けられる。
「あっ……!?」
「ん…………?? あんたどっかで見た顔だね」
この世界で最も逆らってはいけない人が目の前にいた。俺のカースト制度において、ピラミッドの頂点におられる方だ。
「タリサさん。俺っすよ。ノヴィっすよ。酒場で一番下っ端だったノヴィですよ」
「あ゛?……あんた、本当にノヴィなのか?」
「本当ですよ。一部俺が死んだみたいな情報が出回ってるみたいだけど、バリバリ生きてますから」
「あっ、あんた…………」
「タリサさん…………」
顔をうつむかせるタリサさん。酒場では暴君であるタリサさんも、感動の再会に喜んでくれているらしい。
「ア・ン・タ・はいつまで……、ほっつき歩いてたんじゃあああああ!! 生きてるんならサッサと帰ってこんかぁぁああいいいいい」
「い゛た゛い゛。い゛た゛い゛。ギブギブギブギブギブ」
頭を掴んでいる万力がどんどん締まっていく。
結局、感動とはならない再開を果たすこととなる。俺がずっと探していた酒場はそもそもここで合っており、軌道に乗りまくった酒場を大幅に改築。人もかなり増やしたとのことらしい。
タリサさんの後ろから、先程のちっこい娘が顔を覗かせていた。これで記憶とイメージが合致。つまりタリサさんの娘ということだ。俺が見覚えがあったのは、この暴君の面影ということである。つまり……将来的には逆らえない存在になるかもしれない。まったく末恐ろしい少女である。
「本当にノヴィなのか」
「あ、スプライドさん、お久しぶりです」
「ノヴィ……よく生きてたっ!」
スプライドさんが熱く抱きしめる。そうだよ。本来はこんな感じで、俺の生還を喜んでくれるはずなのだ。
「スプライドさん……ギブギブギブギブギブ」
そうこの人、十年たった今も全く衰えを知らない筋肉ムキムキマン。当然そんな人に抱きしめられてしまうと、俺のボディーが砕けそうになってしまうのである。
「すまんすまん。今日は奢りだ、好きなだけ食え」
やっばいわ、この筋肉マン。素敵過ぎる。
「ということらしい。俺の奢りから、この店の店主の奢りになった」
「「「「「「 ゴチになりやす!! 」」」」」」
「しっかしアンタ、こんな小汚い男共どこから連れてきたんだい」
「途中で拾ってきたんですよ。俺の仕事手伝ってもらおうかと思って」
「はぁ…………まーたアンタは、ワケの分からないことをやりだすんだろ」
「それはそうと、やっぱりこの店にも『チェス』置いたんですね」
「そうだね。今は『チェス』の無い酒場には人なんて入らないよ。このチェスもアンタが作ったのかい?」
「知りませんでしたか? 俺が作ったメンバーの一人ですよ」
「兄貴がこの『チェス』を作った人だったんすか!?」
「一応そうだよ。俺はそれの一番最初のモデルだけ作って、ちょっとダンジョンで事故っちゃったからね」
「魔法も使えるし、こんなアイテムまで作れるなんて、俺達の兄貴は流石だぜっ!!」
「ノヴィ、お前魔法が使えるようになったのか?」
スプライドさんが驚いた顔で俺に尋ねる。
「わりと最近ですけどね。もちろん十年前は使えませんでしたよ」
そもそも十年前魔法が使うことができれば、この酒場に辿り着いていないのだ。
その晩酒場の飲み場を借りて、一晩過ごす事となる。
「スプライドさん」
「なんだ?」
「少々お聞きしたいのですが、ファンレの行き先に心当たりありませんか?」
「いや、知らないな。最後にお前の所に行ったきりだ」
「そうでしたか。ありがとうございます」
「追いかけるのか?」
「正直今の時点では微妙なところですね。ただ行方が分かるのなら追いかけますよ」
「そうか」
やはり行方が分からないらしい。ジェラルドにも確認したが、行き先には心当たりが無いと言っていた。ファンレの捜索は難航しそうである。
「そういえばここ数年から『勇者』というのが現れたらしいですが、スプライドさんから見てどうです?」
「そうだな。昔の冒険者……だな。ただリーダーシップを取っている者、力をそれなりに示している者もいる。何より他のパーティーメンバーの心の拠り所になっている点がでかい」
「あー確かに。俺が見たパーティーもそんな感じでした。参考になりました、ありがとうございます」
勇者の評判を一方的に落とそうかと思っていたが、冒険者の時と同じく、いきなり全部消えてしまうと問題がありそうだな。そうなると教会を叩くほうがやはり早そうだ。とはいえ『大都市メルディカバリ』到着のが遅れそうだし、一度連絡取ってもらったほうがいいな。
次話7/21予定。少し遅れるかもしれません。




