第七十二話 ノヴィと十年後の世界-後編-
「らくちん、らくちん」
「魔術師様、本当によろしいのですか?」
「盗賊のこと?」
「はい」
「いいの、いいの。いざとなったら戦うし、彼等もそこまで馬鹿で無いと思うよ」
上手いことファルファシオン行きの馬車に乗れてラッキーだ。折角なので今のうちに食料を……、モソモソしながらエネルギー補給。お腹を満たしていると……。
「ジーーーー」
なんか後ろに座っている十歳前後の女の子が俺を睨んでいる。
「食べたいの?」
首をサッと引っ込める。
「すみません娘が……。人見知りなもので」
「ん? 孫じゃないの?」
「その恥ずかしながら、私の娘でして」
「爺さん凄いね。ちょっと憧れるわ。すげぇ」
男にしか解らない会話をしながら街道を進んで行く。
「ねぇ、爺さん俺と会ったことある?」
「はて……?」
「俺、ノヴィて名前なんだけど聞き覚えないかな?」
「いや、私はございませんな」
(ん~、どっかで見た記憶がある爺さんなんだよな……どこだっけかな)
「ノヴィさんは、どちらからいらしたのですか?」
「俺? 俺は生誕から脱出してきたの」
「魔術師ではなく、冒険者様でしたか」
「肩書的にはどっちも不正解だけどね。冒険者ギルドにもまだ登録していないし」
「それはそれは。そういえば昔このあたりで、生誕から出てきた男を乗せたことがありまして……」
「あー!、爺さんもしかしてあの時の商人さんか。俺だよ俺、あの時マント一枚だった男。覚えてる?」
「あぁああ、あの時の兄さんか」
「そうそう。言葉遣いとかすっかり商人が板について、全然気付かなかったよ。貫禄も滲み出ているし」
「いやいやお互い様ですな。頼りなかったあの男が、こんな立派な魔術師になってるほうが驚きです」
やはり十年という歳月は人を変えるに十分な時間のようである。
「へーそうなると、あの後に成功して嫁さん貰えたんだ」
「私みたいなのところに、嫁いでくれる女性が居て助かりました。ノヴィ様、結婚は?」
「ノヴィでいいよ。俺はあれだな嫁運が無い」
「嫁運?」
「俺の嫁一号は俺の知らない所でポンポン子供産むし、嫁二号は俺の財産目的で近づいたの」
「はぁ。お二人も娶り羨ましい限りと思いましたが、災難が続いてるようですな」
「そうなのよー。元々結婚の約束をしていた婚約者には逃げられるし、踏んだり蹴ったりなんだよ」
あの時と同じく、十年に渡る世間話で花を咲かせていた。
「おとーさんのおともだちなの?」
「そそ、俺むか~しこのへんで疲れて休んでいたら、君のお父さんが助けてくれたの。へいへいそこの兄ちゃん、俺の馬車に乗ってけ!と言ったんだ」
「おじさんそんなに強いのに?」
「お、おぢさんか……」
「こら、リサ。ノヴィ殿に失礼だろ」
「いいのいいの。俺おじさんでいいよ。ダンディーなおじさん目指すから。それに昔の俺超弱かったからね。魔法も魔の字も使えなかったよ」
「おじさんは勇者様なの?」
「勇者ねぇ。勇者なりたいけど、勇者のなり方よく知らないのよ」
「勇者は教会に行くとなれるんだよ!」
やっぱり教会絡みか。基準は分からないが、なんかありそうだ。
「リサはね。大きくなったら勇者様のおめかけさんになるの!」
「お嫁さんじゃないの!? お妾さん?」
「勇者様は貴族と同じぐらい偉いから、およめさんは難しいかもってママに言われたの」
「そうなんだ」
勇者て肩書だけでモテモテになれるのか。一昔前の冒険者みたいだな。
「へぇー。そうなんだ、初めて知ったよ。リサは物知りだな」
「リサお勉強頑張ってるの」
「偉いね。でもそんなにお勉強頑張るのだったら、お妾じゃなくてお嫁さん目指すといいよ。リサは可愛いから、お嫁さん狙うことマジオススメ」
「そうなの?」
「そうなの、そうなの。勇者なんてあれよ、所詮ただの流行りだから、来年辺りはもう廃れてるかもね」
「うそだー!!」
「本当本当。来年、再来年あたりはきっと魔神ブームが来るから……多分」
「まじん?」
「うん。魔神よ魔神。きっと近い将来魔神ブームが来るから。ブームがなければ創ればイイ(ドヤ顔」
「変なかおー。まじんてどんな人」
「俺みたいな人」
「変なおじさん?」
「うん、まぁいいやそれで」
道中会話をしていると、ファルファシオンの石門前に到着する。
「アレ? ファルファシオンでかくなってない?」
「ノヴィ殿は久々に来るのですか? ここ数年の間、オセロ、チェスから始まり、妖精の欠片、物凄いアイテムが生まれてた街ですから。それに隠れた工芸品『漆』を求めて、王族の遣いまで来るようになっているのですよ」
「まじかぁ」
俺の知らない所で、俺が火を付けた作品たちがブーム化しているようである。こりゃ魔神ブームを巻き起こすのもチョロいかもしれない。
「銀貨三枚だ」
「え?」
「早くしてくれ。次がいるんだ」
「ちょっと待って、十年ぐらい前は銀貨二枚だったと思うけど」
「今は昔と違ってこの街も大きくなった。何年か前から銀貨一枚が増えたんだ」
「まっ、マジデスカ……」
やべぇ、自信満々で到着したら、まさか銀貨三枚に値上がっているとは。商人親子に一枚借りるしか無いな。
「というわけで、スミマセン。追加でもう一枚貸してください!」
「はぁ、本当に昔から変な人ですな。どうぞ」
「ありがとうございますっ!!」
「ノヴィの兄貴、俺達はどうしたら?」
「あー、君達か。どうしようかね」
「護衛はもういいなら、俺達は帰りますけど」
「いやいやだって君達帰ったら、また盗賊になるんでしょ?」
「それは……」
「ちょっと提案だけど、まだ提案出来る内容も少ないけど街の外で待っててくれる? 俺の金が引き出せれば、皆の分の入る銀貨も直ぐ用意できるから」
「まじっすか。ノヴィの兄貴何者なんですか一体……」
「じゃあちょっと行ってくるね」
盗賊たちに告げ、俺は商人親子と十年ぶりに、ファルファシオンの中へと入っていく。
次話7/21予定。




