第六話 ゆうべは おたのしみでしたね。
意識が半分目覚め、うっすらと体の感覚が戻り始める。二の腕あたりを『ふにょん』とか『ポニョん』といった擬音語がぴったりくる感触が包む。昨夜就寝したベッドが、あの有名なスライムで出来ているのではないかと疑ったぐらいだ。
(まぁスライムなんてまだ触ったこと無いけどな!)
気持ちいい感触を確かめるように何度かニギニギする。
(このベッドマジで凄いな)
そしてある違和感に気づく。右手と左手の感触が違うことに。手を離すとと同時に左を見る。
「うわぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
本気ビビリでベッドを転がり落ちる。尻を床に叩きつけた感覚で意識がハッキリと目覚める。
「あら、大丈夫?」
俺の隣で寝ていたと思われる御方が声を掛けてくれる。
「大丈夫っす」
「本当に大丈夫? ちゃんと立てる?」
マジで心配されている様子なので、とりあえずその場で起立し、正常に立てることを確認。軽く2回ほどトントンとジャンプする。
「本当大丈夫です。本当にすみませんでした」
そしてジャンプ後に思い出したのだ。
俺が 完 全 に 裸 であることを。おまけに朝起ち完備。
思わずその場で頭を抱えだす。見られたことに対して、それとも美人の裸を見たことに対してか、朝起ちが治まらないといった緊急事態まで発生。立てぬに立てぬ事情を抱え、問題点を隠したままベッドの死角に移動。
「お聞きしたいのですが……」
「何かしら?」
「ここは俺が昨日魔王様に案内された部屋だと思うのですが、間違ってないでしょうか?」
「間違いないわ。ついでに説明すると私から潜り込んだのだから、心配しなくても大丈夫よ」
とりあえず最悪の自体は回避できているようで良かった。
「それとも私みたいな女で気を害したかしら? そうだったら謝るわ」
この目の前の美人、明け透けとしている性格の割に、凄い優しいのである。
「いえいえとんでも無い。むしろ俺みたいなちんくしゃな男の裸なんて見せて、申し訳ない限りです」
「そんなこと無いわ。素敵な男性よ」
思わず日本語で『ちんくしゃ』なんて言ってしまったが、意外と通じるんだな。さすが出鱈目設定。というかこんな美人に面と向かって素敵とか言われると、赤面を通り越して、美人局のようにしか見えないわ。
何が狙いなんだ? 昨日の試験の結果が原因だろうか? それとも昨日壊しまくった武器が原因だろうか? ソレは俺のせいじゃなくて、トカゲのおっさんに文句言って欲しいのだが……
「お待たせ」
ビキニっぽい服? を着ると俺の前に立つ。そんな姿で目の前に立たれると、スタイルの良し悪しがよく分かる。この美人のスタイルは間違いなく良い方だろう。男受けがいいスタイルといえば判り易い。つまり何が言いたいのかと言うと……。
「朝食に行かない?」
「朝食ですね~、食べるには食べたいのですが……」
昨晩どっかに置いたであろう、例のマントをキョロキョロと探す。すると俺が探しているものに気づいたのか、マントを持ってきてくれる美人。股間のソレをそれとな~く隠しながら、マントを付けて頂く。
「あら」
くたくたになったマントの裾を広げる時、気づかれてしまった。
「マジスミマセン。出来心というか自然現象というか」
「私としては嬉しいのだけれど……。私が魔力が無い人に手を出してしまうと、肉体を殺しかねないの。ごめんなさい」
結局、それから自然放置で治まるのを待つ。待つ間にふと思う。もし魔力があれば、18歳以上のシーンに突入していたのだろうかと。俺はこの世界に来て、魔力が無いことに初めて絶望した。
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自然放置にて問題を解消し、食堂らしい部屋に招かれる。食堂には既に何人かそれらしい人?等が座っていた。
席には昨日試し切りマシーンと化していた、トカゲのおっさん。俺の中では、トカゲのおっさんがもうファンタジーの象徴と成りつつある。
すげぇ鬣をグワーとさせた人。一言で言うなら、こいつはライオンキン◯だな。いっそライオン丸とでも名付けておこう。
そして凄いイケメン。外国の映画俳優に悪魔ぽい角を付けた感じである。
ジャニーズと呼んでおこう。全然日本人ぽくないが、俺の中でジャニーズにメンバー入りした。
角メイド。昨日俺にマントくれた人だ。クール系美人。巻いている角を左右に付けているお姉さんだ。羊っぽくてちょっと可愛い。取り敢えず羊のお姉さんに決定。
最後に偉そうに上座っぽーいところで座っている幼女。どうみても幼女。もう一言ぐらい加えるのであれば金髪幼女。俺の予想が正しければ、きっとこの幼女は偉いやつなのだ。黒鎧魔王の娘とか孫とかソレ系ポジションに間違いない。この幼女には無礼をしないように気を付ける。
仲良くなるよう交流をする。これが現状一番安全なルートと判断。
「おはようじゃ魔人様。昨日は眠れたか?」
俺の視線に気づき、幼女が挨拶してくれる。
「おかげ様でよく眠れました。ベッドも柔らかくて凄い良かったです」
よく眠れたアピール、さり気ない良かったポイントも付け加えておく。
まぁ実際よく眠れたことには間違いないと思う。昨日よりも随分と恐怖心や混乱が薄れている気がする。それに目の前の人達に命名出来るぐらいに心に余裕がある。
「そうかそうか、それは何より。揃ったことだし、朝食にしよう」
そして朝から居る美人に案内されるがまま席に着く。で、美人もそのまま俺の隣に着席。
着席後、トカゲのおっさんやライオン丸、幼女達が一同驚いたように口と目を見開いていた。ジャニーズと羊のお姉さんも驚きは表情に現れていないが、俺を注視している。
(なんだろう。着席する際のマナーでもあったのだろうか?)
軽く周囲を見る。皆一様に2つ程席を空けた間隔で座っているのだ。原因はこれだろうか。取り敢えず申し訳程度に軽く頭を下げ、別の席に移動。するとお隣さんもトコトコと席を移動する。もう一度俺が同じ席へ戻る。するとお隣さんもトコトコと同じ席へ戻る。
(視線の原因はコイツじゃねーか)
普段はどうなか知らないが、注目されている原因がこの人との距離感であることには間違いない。
「あのー、多分俺一人でも朝食は食べれると思うので、良かったらいつも通りの席に座って頂ければ……と」
「大丈夫。私が隣で座りたいだけだから問題無いわ」
「そ、そうですか」
俺のさり気ないサインを軽く流し、ニコニコ顔で返事をされる。
そして異様な雰囲気の朝食が始まる。ここでの食事は初めてだけど、異様な雰囲気であることは間違いない。
俺が肉に手を付けようとすれば……
「それオークの肉よ。良かったら切り分けてあげようか?」とか
赤い果実を味見して見ようとすると……
「それ甘酸っぱくて美味しいけど、デザートに食べるのオススメよ」とか
距離感が間違っていることをヒシヒシと感じる。甲斐甲斐しく世話されているのである。俺、昨日このお姉さんに何かしたのだろうかと必至に思い返す。
(やべぇ全く覚えてねぇ……)
しかも厄介なことにこの距離感を不快に感じず、寧ろ心地良く思っていることである。徐々に取り込まれ始めている焦燥感、みたいな感情が一切湧いてこない。美人だからということもあるが、恐らくそれだけではないことに薄々気づいていた。
しかし記憶をどれだけ捻り出しても、この状況に至るまでの経緯に一切覚えが無い。
「昨日俺何かしたのでしょうか? お姉さんにここまで世話して頂く理由が、全然分からなくてですね……」
俺の核心的な会話を周りが気にしているようである。皆黙々と食事しているが、特にライオン丸お前だ。耳がスゲェーピクピクしてるぞこの野郎。
隣の美人は頬に手を当て、何かにウットリする仕草を見せ、甘い溜息を吐く。
「私あんなに激しい異性との交渉は初めてでした。私の術を尽く躱し、最後は私の魂を……」
「ブフォッ!」
全く覚えの無いその発言に、口の物をぶち撒けそうになる。掌で、辛うじて大惨事を防ぐことには成功。どうやらその発言は二次被害を招いているようであり、他も三者三様に防いだようだ。ジャニーズはハンカチのようなもので口を拭いてるあたり、いちいち絵になるやつである。
「魔人様とテレサ……仲睦まじいことは結構じゃが、朝食後会議室に来るように。他は『王の間』で待っておれ」
ベタな展開ですみません。
肝心の異世界冒険が全然始まってませんが、ボチボチ始まるの予定なので生暖かい目でご愛読頂ければ幸いです。




