第六十五話 魔神と女の子の魔術革命-中編-
先行で64話が上がっています。注意下さい。
それからというもの、俺とレティは飯の時間以外は秘密の部屋に居た。
実は眼鏡を貸して貰って以来、理解度はともかく情報量が段違いであり、研究がかなり捗っている。まず俺の魔法がイマイチおかしい点についてだが、俺とレティでは体に走る魔力図が明らかに違うのである。そもそも人体構造が違うのだからしょうが無いとは思うが、俺のは太さも凄いまばらで幼稚園児が書き殴ったような、ミミズが這うような下手くそな模様なのである。
対してレティの図は凄く精錬された図であり、太さについてもできるだけ揃えている感じであった。
「レティの魔力図は綺麗だけど、遺伝か何かなの?」
「妾が自分で書いた」
「へ? それ自分の人体にも書けるの?」
「うむ書けるぞ。ただ物凄く痛いぞ」
「ええええ。レティはまたそんな痛いことやってたのね。つまりレティの魔力図がそんなに整っているのは、自分で調整したということかな?」
「そうじゃな」
「もしかして俺にも出来たりする?」
「出来ないことは無いと思うが……やって欲しいのか? 先に言うておくと止めておいた方がいい」
「んー、正直可能性があるならやってみようかなと。解決策が見つからないから、手当たり次第にやってくのが一番早いだろうから」
「そうかお主がやる気なら、妾は止はせぬ。明日準備するから、お主も明日まで心構えだけしっかりしとけ。あと排泄もすませておいたほうがいい。死ぬほど痛いぞ」
やべぇ、脅しじゃなくてマジで痛いのか。レティがすごい気軽に言うから、甘く見ていたかもしれない……。
~翌日~
「ほれ、これを噛んで我慢しろ」
手渡されたのは木の棒に布をぐるぐる巻にしたもの。
(何この本格的にヤバそうな、野蛮なアイテム。今更ながらすごいビビってきた。どうしよう)
「とりあえず今日のところは体一部と左腕だけにしておけ。痛くて我慢できないようであれば、止めるからちゃんと言うのだぞ」
「先生お願いします。優しくして下さい」
「妾もちゃんとしたやり方なんぞ知らぬ。気合いれるのじゃぞ」
と最後にギャグを入れたまではいいが、そのあとが地獄の始まり。
悲鳴を上げそうになる声を必至に棒に齧りつき、悲鳴を必至に抑えこむ。いつもであれば何か余裕なことを考えていたが、そんな余裕なんて何処にもない。気絶しようにもあまりの激痛に気絶することすら許されない。
ただ早くこの作業が終わってくれとだけ祈る。情けなく溢れる鼻水が呼吸を荒くし、どんどん俺の体力を奪っていく。部屋に来る前にはトイレに行ったはずであるが、股間の辺りには汗とは違うジワっとした感触を何度も覚える。
そんな激痛に耐える姿に見兼ねたのか、時折レティが止めるかと俺に促す。俺は意地で首を左右に振る。レティはこんなマジでヤバイ激痛に耐えたのか。
「終わったぞ」
激痛の拷問が終わりを迎える。下衣の中はグチョグチョになり気持ち悪い。顔は涙と鼻水で塗れていた。
「ノヴィ話せるか?」
「────大丈夫」
「妾が着替えと湯を持ってくるから、お主はここで横になっておれ」
「────りがとう」
俺はそう告げると。横になる。激痛に耐えた後は、心身共に披露困憊であった。命を削るような作業であったとすら思う。
初めて【黒き力】に飲まれた時も酷かったが、あれに劣らぬ地獄。終わりがある分こちらのほうがマシに見えるが、次にあの手術っぽい作業に耐える自信は無い。
「なさけねぇ……」
レティみたいに全身を綺麗な魔力図に出来ればと思っていたが、とても真似できるような所業でない。
レティが確か俺よりも小さい時に書いたと言っていたが、こんな激痛に耐えることができたのかと疑いすらもってしまう。
しばらく休んでいるとレティが戻ってきた。
「ありがとうレティ」
「よい。お主はそのままでいい。妾が拭いてやる」
情けないことに、左腕が激痛で動かせないのである。
「レティはこんな激痛に耐え切ったの? しかも全身になんて」
「うむ。お主と違うのは左腕は一年掛けてじゃがのう。妾が自分でやった時は、激痛でそのまま意識を失い。目が覚めてから続きをやっておった。それを繰り返しやったからお主よりは楽だったかもしれぬな」
「俺より楽なんてそんなわけないよ。絶対に自分でこんな馬鹿げた真似をする勇気無いし」
「でもお主は耐えたじゃろ。過去にルーカスにも頼まれたが、ルーカスは激痛に耐えられなく、作業を途中で断念した。少なくとも妾は、お主が臆病者とは思っておらん。自信を持て」
結局パンツやら何やら全部レティに任せてしまった。
「レティごめん。俺最初は全身やるつもりだったけど、正直次も耐える自信無い。立ち向かう勇気が無い」
「構わぬ。最初に言っておいたじゃろ。妾は止めておいた方が良いと思っておったからの」
「激痛で手が動かないんだけど、これ大丈夫なのかな?」
「正直に言うと、少し様子を見てみぬと解らぬ。ただ一応証拠としてお主の髪が一部変質しておる」
レティが俺に鏡を見せてくれる。前髪の左一部が金髪に変色していた。
「なんだこれ。新手のメッシュてワケじゃ無いと思うけど、これが施術の影響?」
「そうじゃのう。妾も徐々に金髪になっておったから、成功はしておると思うぞ」
「レティどーいうこと? お前って元々金髪じゃないの?」
「妾はお主と同じ、元は黒髪じゃったぞ」
「嘘だろ……」
つまりこーいうことだ。レティは天才ではあるが、最初から最強ではなかった。最強たる力を知らしめている魔力は、この施術をによってもたらされた結果であると。黒髪が一本も無い、金髪へと変わったように彼女は何かを捨ててきた。
何が彼女をここまで強く狂い立たせた……。
「レティ…………」
「なんじゃ急にどうした?」
動く右手でレティを抱き寄せる。
「頼むからもう無茶はしないでくれ。もしお前がどうしても、こんな酷い痛みに耐えないといけない何かがあるのであれば、俺がなんとかする。だからもう無茶はするな」
俺に考えられる原因はアレであろう。
「もしかして、お母さんの為に耐えたのか?」
「誰かに聞いたのか?」
「少しだけ。実はここに来る前に、ある奴等に喧嘩売ろうと決心してさ。ヴィヴィアンから敵について聞いたんだ。一応言っておくと、レティが俺を呼び出した本当の理由も、全部理解しているつもり」
「そうか」
「レティのお母さんは魔王だったの?」
「違う。父上が魔王であった。父上が命を犠牲に、母さまの御身を呪縛から解き放った」
「だから強くなろうとしたんだな」
レティは神に祈る前に、地獄に耐えてきたのだ。それでも力が足りぬと考え、最後は神に祈った。
答えは精神世界の中で見つけた。レティの力は強大で唯一無二の天才。そんな天才が何故、ファルファシオンに攻めるだけの為に俺を必要とする。
そもそも本気でファルファシオンに攻めるのであれば、レティ一人でも戦力としては十分なのである。あの時S級冒険者を含めた一同を威圧だけで恐慌させる力。ファルファシオンにそのような戦力は無かった。何故あんな周りを恐怖させる真似をした。答えは簡単だ、レティは役割を演じていた。世界の暴力から怯え隠れるように。
「我が名は魔神ノーヴィス=レムリアンシード」
「君がこの歪む世界に立ち向かうなら、共に戦うと誓う」
「君が茨に満ちた世界を進むなら、俺も隣で歩くと誓う」
「君がこの世界を壊したいのであれば、俺が壊すと誓おう」
「お主は大馬鹿者じゃ。精神世界で暮らしていればいいものを………………」
たしかに見ないフリをする選択、あのとき日本に帰る選択もできた。けどあの時に決めた。
「今まで良く一人で頑張ってきたな、偉いぞ。レティは凄いよ」
一杯一杯褒めてやる。こんな小さな体で、見えない強大な敵に体を張っていたのだ。昔の俺ならビビって即逃げてたぐらい。それを小さなこんな体で踏ん張っていたんだ。そんな小さな女の子が、俺に助けを求めた。ここで俺が体を張らなければ、男としては最低最悪。
俺の腕の中で小さな女の子のダムが決壊する。張り詰めた糸が切れ、ただの小さな女の子が泣く。秘密の部屋で小さな女の子が涙を流していた。
「レティ。俺達がいる場所はまだ何も無い砂漠だ。まだまだ先は長い。だけどレティがここで流した涙はいつか緑の糧となる。その涙は無駄にならない。だから今はいっぱい、泣いていいよ」
レティを好きなだけ泣かしてあげる。それが俺の魔神ノーヴィス=レムリアンシードとして、初めての大切な仕事だから。
次話7/20予定。




