第五十八話 伏線回収のお話だよ?
「おまわりさん。ボク家の帰り方がわからない」
「ノヴィは時々変なこと言うわね。もう慣れたけど」
「それよりも紅茶の時間にしましょう」
アレだけカッコ良く決めた筈なのに、何故か呑気にお茶の時間となっていた。理由は簡単だ。
『 か え り か た が わ か ら な い 』
最初は行き来のベテランである、テレサに聞いてみた。
「魂の回廊に立って、目を瞑ってビュ~ンかな」
意味ワッカンネー。とりあえず騙されたと思い、魂の回廊に立って目を閉じてみた。
「だまされた!!」
「ノヴィの帰り方なんて知らないし。責任取れない」
次にヴィヴィアンに聞いてみた。ヴィヴィアンは眷属、前回で言うとセレクティアをバイパスして通ったとか。これはちょっと無理そうかなと思ったけど、セレクティアが協力してくれるというので試してみた。
「無理だった」
今度はセレクティアに協力を仰いだ。実はセレクティアホイホイ来ているようなのだが、特殊な湖、この森とアクセスできる特殊な湖を利用しているのだとか。どうも以前は俺と魔神属性が世界を繋ぐ管のようになっていたらしいが、俺が完全にコッチに来てしまった為、気軽には来れない状態に戻ってしまったとかなんとか。
そうして、午後のティータイムを過ごしているわけである。一刻も早く戻りたいとは思いつつ、手が浮かばない。どうやって肉体に戻るのか考えている最中である。
「ノヴィ様、今日はお煎餅が出てきました」
あの『マジカル戸棚』も家の中でブラックボックス化している一品。各種お茶類が自動補充はされる点は勿論のこと、一日に一回お茶菓子がランダムで出現する。三時のおやつの存在に気づいたテレサとセレクティアも、結構な頻度で午後のお茶時間に現れていた。
「今更だけどセレクティア」
「なにかしらー?」
「お前こんな頻繁にコッチに来て大丈夫なの? リリアンて今どうしてるの」
「それねー。ちょっとね、リリアンあの事件以来、本気で凹んじゃったのー。今はエルフの集落で暮らしているのだけど、リリアン外に行きたくないーて言ってるのー。だから私もリリアンの近くで休憩中てとこかしら」
「そうなんだ。まぁ自分で言うのもあれだけど、結構ショッキングな姿だったらしいからな」
「ノヴィはあの光景覚えてないの?」
「断片的には覚えているよ。鮮明に思い出せるかと言われると怪しいな。俺も暴走モード的な感じだったし。まあ次アレが来ても大丈夫だと思うよ。俺の『浄火』で対応出来ると思うし。余裕余裕」
結局いい手が浮かばない為、自分の家にあるベッドで横になる。
「レティもそうだけど、リリアンのことも何とかしてあげたいな」
など言いつつ、横になっているとウトウト眠気が迫ってきた。
次に目を覚ますと。不思議な場所に降り立っていた。さっきまでの自分の部屋ではない場所。
「はて、何処かで見た場所な気がするけど」
取り敢えずその場で立ってみると、足がペタペタ、冷え冷えである。
「ん? …………アレ、素っ裸じゃないか」
ようやく気づいた。多分肉体に戻れたのだ。
(散々アレコレ試して駄目だったから、諦めて寝てみたけど、睡眠が俺の帰り方だったのかな)
「まぁいいや!」
しかし困った。
『 服 が な い よ 』
服ぐらい誰か着せておいてくれると助かるのに。こんな姿でレティやストゥニールさんの前に出たくないな。なんかいい方法が無いかとちょっと考えてみる。
(アレを試してみよう)
俺の中でも何気に便利秘術化しているアレである。
「石透過」
試しにやってみたはいいが、ちゃんと発動しているかどうか怪しいところ。なんせこちら側で秘術を実践するのは初めてだからな。そもそも以前は魔法の魔の字すら使えなかったのである。
通路に出てみると丁度、羊のお姉さんがやって来た。彼女の服は寝間着なのだろうか、いつものメイド服ではなかった。ふと彼女と視線が合う。
(やべ、バレてるのかなこれ。素っ裸だし股間ぐらいはガードしておこ)
「誰ですか。こんな所に変な石を置いた人は。全くここの人達は…………しょっと」
彼女はそう告げると、俺を抱っこで持ち上げた。
(きゃー!! これが憧れのお姫様抱っこなのね! …………立場が逆だけど)
第三者がこの光景を見ると相当アレであろう。なんと情けない姿であると。仮にも魔神を名乗ろうとしている男が素っ裸で、羊のお姉さんに抱っこされているのである。
うん、全く俺は気にしてないよ。羊のお姉さんのぽにゅっとした二つの果実が当たろうと、俺は気にしてないよ。だって今の俺は石だから。心も石なのである。
(おっと、紳士の鼻水が垂れてきた。フキフキ)
なんとも脆い石である。そんなことを思いながら、抱っこされていると、ストゥニールの私室らしき場所に連れて行かれる。そのまま邪魔にならないよう、床に置かれる。
「見た目の割に結構、軽い石ですね。変な石です」
(あーそうなのか。聞いたことは無かったが、サイズはそのままの大きい石、岩に近い感じだと認識されるのか)
そんな第三者視点の情報を考察していると、俺の目の前で最も興味深い事象が起きた。
(わーい。羊のお姉さんのお着替えだー)
うん。俺のせいじゃないよ? 彼女が自分で石を連れ込んだのである。不慮の事故だ。しかしこれは貴重映像だ。オレのメモリーにしっかりと残しておこう。おっと紳士の鼻水が。
今日は紳士の鼻水がよく出る。今日は花粉がいっぱいなのかもしれない。今からウキウキしちゃうよ。この石透過について俺はとんでもない勘違いをしていた。
セレテクィアとリリアンのペアにはただの隠密秘術だと告げられていたが、これはそんな生易しい秘術じゃない。男達の夢とロマンが詰まった、素敵秘術なのである。
(セレクティアさんマジ神!! アイツこんな凄い秘術考えるとかマジ天才!!)
今度からセレテクィアに足向けて寝れないわ。
そんなアホなことを考えていると、ストゥニールはいつものメイド姿に着替え終えている。俺を再び持ち上げると通路を歩いて行く。
ストゥニールさんの朝は早い。彼女はメイド服に着替えると魔族達の朝食の準備を始める。
(あーこの光景は見ない方が良かったかもしれない)
朝食に使われるであろう材料を見てしまったのである。まじかよそんな物までといった材料が、バンバン使われている。元人間の俺としてはちょっと食欲が失せるラインナップだ。
よしこの映像は俺の中からデリートしよう。勿論先程の貴重映像はメモリー保護済み。
彼女は朝食の準備を終えた後、俺を玉座の間の隅に置いた。
(これからどうしようかな。服を探しに行ってもいいけど、俺が丁度良い服といったらルーカスの服ぐらしか心当たりが無いからな)
俺にはイケメンの服を着こなすセンスなど無いのだ。全くもって恐れ多い。
そうしてウンウンしていると、また眠気が襲ってきた。
(いつもより早起きしたせいかな、眠いわ。邪魔にならないだろうしここで寝よ)
玉座の間で二度寝をすることに。
「全く誰じゃ! こんな変な石を持ち込んだ奴は」
(ん?)
「お主かハッセル?」
「いっ、いえ。我ではありませぬ。そもそも石なんて持ち込む意味が」
「じゃあ誰じゃ。責任を持ってこの石を捨てて来ぬか」
邪魔な石だと思われ、石を誰が捨ててくるか話し合っていた。
(でっ、出るに出れねぇ…………)
玉座の間にはテレサを除いたメンバーが集結。真っ先に疑われるライオンの人が可愛そうである。
(まぁアイツなら爪研ぎ用とかいって、持ち込んでそうだしな)
そんなアホなことで時間を潰していると……。
「レティ!!」
「おぉテレサ、久しぶりじゃのう。どうした随分と慌てて」
「こっちにノヴィが来てないかしら?」
「うん? 生誕にはおらんぞ。そもそもノヴィは精神世界におるはずじゃろ。妖精族とも話し合い、ノヴィはそちらに住むと聞いておったが」
「それが昨日からノヴィが見当たらないの。午後のおやつになっても、出てこないからこちらに来たと思って…………」
「そうなのか。ルーカス。ノヴィの肉体は何処に置いてある?」
「封印の間ですね」
「ノヴィの肉体がどうなっているか見てこい」
「他のものはノヴィが何処かに彷徨いていないか探すぞ」
(なんか大事になってるし、この隙に一度逃げるか。探しているところで、迷ったフリして皆の前に出るか。うん、そうしよう)
「ちょっと待って!」
「どうしたテレサ?」
「なんでその石がそこにあるの?」
(ギクッ!!)
思わずギクッなんてベタなこと思ってしまう。
「それがのう、今朝スゥが廊下で見つけたのじゃ。誰が持ち込んだのかは知らんが、邪魔な石だったからのう。今誰が持ち込んだのか、探しておったところじゃ。テレサはこの石を知っておるのか?」
「この石、以前私達のお風呂場にあった石よ。誰が持ち込んだのか知らないけど、みんな座り心地が良くてずっと探していたの。結局誰が持ってきた石かわからなくて……」
(ヤバイ。ヤバイ。ヤバイ。ヤバイ。ヤバイ。ヤバイ。ヤバイ。ヤバイ。ヤバイ。)
なんかこれはヤバイ臭いがプンプンする。どう考えてもあの時の伏線回収だよ。このタイミングで伏線回収しなくていいのに。しかも今日はよりによって、羊のお姉さんに抱っこされたり、お部屋に連れって行ってもらったりと、素敵イベント満載。
(どどどどどどどどうしよう。試した事ないけど、少しずつ動いてみようかな)
すこ~~~~~~~~~~~~~~しだけ、足を動かしてみる。ちょん。
「今この石動いたぞ」
(おいトカゲやろおおおお。てめぇは余計なこと言うな!!)
「む。怪しいなこの石。ヴルム、ハッセル、この石を斬れ」
(ひいいいい。いきなり大ピンチ。これ程早くあの死亡フラグがやって来るなんて、聞いてないよおお!!)
次話は7/18予定。




