第四十五話 魔神の優雅?なティータイム
どう見ても俺の実家っぽい建物。どうやらこれは外殻というらしい。本来はもっと遥かに小さいものであるが、俺のだけ特別デカイとのことだ。試しに本来の外殻はどのようなものか聞いてみたところ、看板みたいなものから、武器様々、墓標みたいなものらしい。わらえねぇ……。
それはそうと実家に入ると、摩訶不思議な状況に陥る。外観は完全に俺の実家なのに、内部は俺が一人暮らしで住んでいたマンションなのである。物理法則なんて存在しない。
「あの……魔人様雰囲気変わりました?」
ヴィヴィアンが俺に恐る恐る尋ねる。
「俺だよ俺。ノヴィ。ノーヴィス=レムリアンシード。あの黒い奴の中でさ、魔神覚醒しちゃったんだ。黒いのは適当に吸い込みながら燃やしてやったよ」
アハハハとか笑ってたら、ポカーンとされたわ。
俺の精神体は結構ダメージが深く、今治療をしてもらっている。治療といっても、他のサキュバスのお姉さんに、体を拭いて貰っているだけだが。なんかちょっと役得とか思っているのは秘密。
最初はテレサが治療すると駄々をこねていたが、テレサのダメージも深いようであり、引きずられるように『魂の回廊』と呼ばれる場所に連れてかれた。古いヨーロッパみたいな通りの場所である。どうやらあの場所がテレサ達、夢魔族の住処であるとかなんとか。
「そういえばヴィヴィアン」
「はい、なんでしょうか?」
「俺、正確には覚醒する前のことなんだけど、セレクティア虐めたみたいだったんだけど。謝れるかな? 俺は動けないから、ここに来た時にでも謝っておきたいんだけど」
「とんでもありません。あれはあの者の無礼ですから」
「覚醒したときに記憶を見たんだけど、本気で泣かしてたからなぁ。生誕入るとき色々手伝ってくれたし、謝っておきたいんだよ」
「は、はぁ。お望みであれば」
こうして話していると気付く。以前に生誕で見た時のヴィヴィアンと比べ、コチラのほうが素に近い気がするな。生誕でみた彼女は威厳に満ちていたけど、猫を被っていたということかな?
今ここにいる精神世界について聞いてみる。ヴィヴィアンの説明を聞いてみると、聞けば聞くほどなんかに似ている気がする。
「ノヴィ様の書物に例えるなら、界◯星ですね」
(あ、わかるんだ。そのネタ。しかもイメージにぴったり。ちゃんと読んでるらしい)
俺の家もとい外殻に漫画があるらしい。もうなんでもありだなこの世界。確かにこんな適当な世界なら無敵な気がするわ。
それにしても喉が乾いた。多分黒い短剣に刺されて以来、飲まず食わずだったから相当消耗してるみたいだ。そんなことをヴィヴィアンに言ってみる。
「すみません。気が利かなくて」
あーごめん。そー言うつもりじゃなかったのに。心の中で謝る。
ヴィヴィアンは両手で湖の水をすくい、足元危なげに戻ってくる。本人には悪いが、随分と微笑ましい光景である。
「どうぞ」
そうしてヴィヴィアンは両手の水をそのまま俺に突き出す。
(ん?)
「もしかして、私の汚らわしい手では、お気に召さなかったでしょうか?」
(何を言っておられるんじゃ、この女の人は)
しばらく俺が考えていると、ヴィヴィアンが困ったように焦り出す。意味がわからん。
「いやいや、別にヴィヴィアンの手は綺麗だと思うよ。むしろ俺が口を付けるほうが気持ち悪いでしょ?」
「いえいえ、滅相もございません。どうぞ遠慮無く潤して下さい」
なんか俺が当初抱いていた、傲慢なヴィヴィアンのイメージがどんどん壊れる。あの時のヴィヴィアンは替え玉か何かなの?
しかもグイグイ手をつき出すから。結局、口を付けて飲んでしまった。なんか凄いイケナイ事をしてる気がしてならない。テレサがこの場にいなくてよかったと思う。
「ありがとう。美味しかったよ」
「はい」
凄い嬉しそうにしてるよこの人。本当に意味わからんわ。すると今度は彼女、何処かから花を一摘み持ってくる。
「これ持っていて頂けますか?」
「あ、はい」
言われるがままに、花を渡される。ツツジっぽい花だ。これどうすればいいんだろう。するとヴィヴィアンが、あの足元危なげな姿で帰ってくる。また水を汲んで来たようである。
「ここにその花の蜜を垂らして頂けますか?」
「これ?」
「そうです。それを傾けて頂ければ、蜜が垂れます」
一滴の蜜が糸を引いて、彼女の掌の水に落ちる。
「はいどうぞ」
(また飲んでいいよてことかな? 絵面的に何度もやると流石に、気まずいんだよな)
「どうぞ」
彼女の押しに負けて、飲み干してしまう………………。
「何これ。物凄く美味しいよ。どうなってんの?」
しかもなんか体から元気が溢れるような感じすらある。養◯酒か何かなの?
「さっき飲んで頂いたのは、私の湖にある魔力水です。美味しいと仰られたので、もしかしたらと思って、蜜を入れてみたのですが良かったです」
「それにしては美味しくなりすぎだよ。何あの蜜。ヤバイ蜜なの?」
「私達の森で育てている花の蜜です。産まれたての赤子や魔力水が苦手な者用に育てています。蜜を加えると飲みやすくしてくれるものです。普通に魔力水を飲める人にも効果はありますよ」
あれかな。薬のシロップみたいなものかな。それにしては物凄く美味かった。下手すると中毒性がある美味さ。なんか俺だけ一方的に貰ってると悪いな。
「そうだ良かったら、俺の部屋に来なよ。ごちそうするから」
なんか凄いナンパっぽい台詞だけど、純粋にお茶をごちそうするだけだからな。なんかあの部屋見た感じ、住んでいた環境がそのまま残ってるんだよな。全くもって出鱈目設定を超えるデタラメっぷりだ。
紅茶のパックは見つかった。しかし問題があった。水が出ないのである。蛇口がある癖に水が出ないとか、見掛け倒しかよふざけんな!
「あ、あの私が水を汲んできますから」
「いやいや、待つんだ。こうなったら、意地でも蛇口から水を出してやる」
俺は台所下を開けると、鍋とか色々な物をどかす。その光景にヴィヴィアンがやたら驚いているが、別にどうでもいい。片付ければいいしな。バルブを何回か回してみるが、やはり水が出る気配がない。おいふざけんな! なんだこの宝箱を開けたら、ハズレを引かされてる気分は。
次に俺は外にでる。俺に続くようにヴィヴィアンもトコトコついてくる。量水器の青い蓋を見つける。アレだ。日本では当たり前のようにある水道メータがついている堀のことである。そこを開けるとやはりそいつが存在してた。
『赤いバルブ』
これでハズレだったらぶち壊してやろうかと思ってるぐらいだ。適当に何回か回す。そして相変わらず口を開いたままポカーンとしているヴィヴィアン。台所へと戻る。蛇口をひねると…………。
「おっしゃあああああああああああ」
水がシャーと出てきた。あ、別に勝◯さんとシャーをかけてるんじゃないよ。本当だよ?
とにかく初めてファンタジーに打ち勝ったわ。あの【黒き力】を倒したときよりも、遥かに達成感がある。井戸掘りで水を引き当てるというのは、こんな感じなんだろうか。
夢中で考えていなかったが、この水何処から来てるんだ? 立地場所から考えても、森の湖から拝借してる気がしてならない。一応ヴィヴィアンに断っておこう。
「というわけで、多分そっちの湖から引いてると思う」
「──────(ポカーン」
駄目だこの女の人、絶対理解してないよ。
「あとで水返してと言われても返さないよ。いいの?」
「いえ大丈夫です。この外殻にこんな使い方があるなんて、初め知りまして……」
「魔神の魂だっけ? アイツがここにいた時はどうしてたの? 水とか無いと凄い不便だと思うけど」
「私の湖に飲みにいらしてました」
「結構面倒臭いことしてたんだな。まあ使えるようになったからいいや」
「使いたかったら、ヴィヴィアンも使っていいからね」
「えええ!!??」
「何そんなに驚いてるのさ」
「ノヴィ様の外殻を、許し無く使わして頂くなんて、とんでもございません」
「別にいいよ。だって水……魔力水だっけ? それはヴィヴィアンのを借りてるんだから。お互い様。せっかくのご近所だから仲良くしたいしね」
ようやく本来の予定である、紅茶の準備に取り掛かる。
(カップどうしようかな。男の一人暮らしだったせいか、洒落たカップとか無いんだよなぁ。あっ!)
俺はふと戸棚下にあるカップのセットの存在を思い出した。会社の同僚の結婚式の引き出物で貰ったカップだ。
「あった、あった」
箱からカップを取り出す。カップを先にお湯で温めるぐらいは分かるが、蒸らしとかさっぱりだ。不味い茶だすぐらいなら、ティーバッグのほうがいいかもな。ということでティーバッグになった。
「ごめんね待たせて。紅茶入れる手順がよく分からなくて、結局ティーバッグにしたよ」
「こうちゃ……お茶ですか? お茶が精神世界にあるのですか?」
「うん、そこの戸棚に入ってた」
あ、お茶という単語に凄い嬉しそうに反応している。お茶が好きな人なのかね。
「砂糖いる?」
「砂糖もあるのですか!?」
「うん、戸棚にあったよ」
ヴィヴィアンが凄い嬉しそうにキラキラしているわ。
~数分後~
「ああああ。ここで、しかも聖杯でお茶が飲める日が来るなんて」
「だから聖杯じゃないって。ただのカップ。しかも貰い物だよ」
「ノヴィ様こそ。これの価値がお分かりになっておられません。間違いなく聖杯です。魔力水を蓄える器、しかも持ち運べる時点でこれは聖杯なのです」
「なんか大げさだなぁ。それそんなに気に入ったならプレゼントするよ。別に高いものじゃないし」
ヴィヴィアンが気を失うように倒れた。
2章はスローライフがメインです。
次話は間に合えば 7/14 アップ致します。




