第三十九話 希望の光と終わりの始まり
「俺の希望は先程も申し上げた通り、この冒険者共の命を一度だけで結構ですので、俺に預けて頂けないのでしょうか」
「妾が負けを認めたのだ。今ならそこの妖精族が言い出した通り、過去のようにダンジョンを回しても良いというておるのだ」
「俺は生誕にいる間、それなりにレティ様とも話したつもりです。俺が今日この部屋に入った際、真っ先に声を掛けてくれました」
「たまたまじゃ」
「俺が朝飯に一番遅い時も、ずっと待っててくれました。先程の勝負もレティ様の『優しさ』につけ込んだ汚い手を使った結果です」
「そんな貴方が殺しても、まだ怒りを静めることができない。きっと俺が想像も出来ないほどの、酷い事件だったと思われます」
「もし仮に、俺の愛する人が殺されるようなことがあれば、殺し尽くすまで怒り狂います。怒りを忘れろと言う戯言を申し上げるつもりはありません」
「しかし戦争が始まると、俺にとって難しい問題が発生致します。俺がなんとかしますから、この人族に一度だけチャンスを与えてやって下さい。もしまた生誕の怒りを買うような者が現れれば、俺がどんな手を使ってでも、ここに引きずり込んできます」
「どうかお願いします。人族と戦争を起こさないで下さい」
俺は頭を地にこすりつけるように頭を下げて、お願い申し上げる。レティ達の怒りを知りつつも、チャンスをくれと言ってるのだ。これぐらいではまだ足りないということは理解している。
戦争が始まれば、きっとファンレにとってマズイ状況になる。戦争が回避できるのであれば、今のうちになんでもやっておく。でないと必ず後悔する。打てる手は全部打っておく。
「ノヴィ、頭をあげろ」
「はい」
「ノヴィは何故そこまで人族に入れ込む?」
「ファルファシオンには俺の愛する人がいます。半獣の娘です。戦争が始まれば、彼女は絶対に獣の道具として扱われる、少なくとも道具の一端として見られます」
「獣族の集落に逃げ込むにしても、新しい街へ移動するにしても、種族間の差別意識を取り払うにはあまりに時間が掛かります。せめて彼女が人族に溶け込めるぐらいの時間が欲しいのです。そして彼女が今溶け込もうとしている街こそが、ファルファシオンなのです。ファルファシオンに攻め込むのは許して下さい」
何度も何度も頭を下げる。下げることが回避する最善策とは思えないが、俺に取れる最後の一手はこれしかない。レティには真摯に謝る。これが俺に思い付く限りの最善の一手。
「妖精族の長よ」
「はい、なんでしょうか」
「魔族は人族、妖精族と事を構える為に魔神を召喚した。召喚された魔神は武力も魔力も持たない者で、とても戦争で使える代物では無かった。我らはまた数百年苦渋を味わうのかと絶望しておったぐらいだ」
「その者が今、頭を下げておる。関係の無い者が真っ先に頭を下げたのだ。ここ数百年もある中で唯一人だけ頭を下げておる。お主等冒険者はどうするつもりだ?」
頭を下げる俺の側に誰かが座る気配する。ふんわりとしたあの甘い香りだ。きっと俺と一緒になって頭を下げてくれているのであろう。この人はこの人なりに、何か大変だったのかもしれない。ただキッカケと謝り方を知らなかっただけなのかもしれない。
自分の後ろで地を擦る音が幾つか聞き取れる。皆俺と同じように協力してくれていると思う。
「この場にいる生誕に連なる者達よ。二十一代目、魔王レアゥリティ=ロードナイトの名において命ずる。これより禍事について冒険者一同並びに妖精族を恨むことを禁ずる。異を唱えるものがおれば、咎めることはしない。申し出てみよ」
ただ静かに沈黙が続く。
「一同、面をあげて良い。長き争いであったが、今日からお主等を我らの隣人として迎え入れる」
目の前にいるレティは迎えてくれた。あの無邪気に笑う顔で。
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「ノヴィ無礼講じゃ。さっさと盤戯を出せぃ」
あれから以前俺が居た時のような生誕であった。皆で食事を終えた後、レティが手当たり次第にチェスを打つ。屋敷にいた爺と全く同じだよ。
俺はさっさと帰ってファンレとイチャコラしたかったのに、ある御方が帰してくれない。あの場の勢いで言ってしまったが、テレサという問題が一切片付いて無かった。
本当はもっと別のタイミングで切り出す予定だったのに、あの状況では言わざるを得ないというか、なんというか。
「ノヴィどーいうこと!?」
「俺好きな子がいるんだ」
もう浮気現場を追い詰められた感じのノリである。浮気も何も俺はテレサとは恋仲じゃないし。断りを入れるも、フザケないでとか、どうせ寂しかったんでしょとか、すごいテレサの都合のいいように解釈される。
そんな矢先。突然周囲の景色が壊れた映像のようなノイズが何度も走る。
(なっ、なんだよこれ。きもちっ──)
俺が焦りの声を出す間もなく、周囲が停止した。いや正確には停止していない。本当に僅か。微かにではあるが、動いている気がする。ただ俺の手や足も満足動かせない。物凄く固いものに埋め込まれた感覚である。
そしてその感覚の中ようやく気づいた。俺の知覚スピードと思考だけが妙に加速している気がする。加速というよりは切り離された場所にいる感じだ。味わったことのない感覚であるため、例えが分からない。その世界から切り離されて、第三者視点で映像を見ているようにも取れる。
そしてもう一つ分かることがあった。この中に一つだけ悪意の塊。負の塊のようなものを悟る感覚。だがそれがどこから発せられるものか分からない。テレビゲームで言えば無造作に広がるフィールドで、いきなりボス戦の音楽が流れる状態。明らかに何かが存在するが、何が存在しているのか捉えることができない。
時間が無限にあるようで、無限には無い。時を迎えることは可能かもしれないが、俺の中にある何かが先程から激しく警笛を鳴らし続けている。この警笛が異常事態であることを直感させるのであるが、本当に何をしたらいいのか全く理解できない。
まずは周囲を冷静に観察してみる。皆を順に見てみるが皆目見当が着かない。自然に解消される気もするが、そんな考えを起こす度に俺の中にあるソレが激しく訴える。段々とこの空間で取り残されてしまうことに異様な不安を覚える。
結局相談する相手もいないため観察を続ける。いた。一人だけ何か黒いものを持ってる。あの黒いものが、この異常な世界に引き込んでいることには違いない。黒曜石のナイフにしては変過ぎる。見たこともない真っ黒な短剣。剣先から柄、そして本人の手すら黒く染め上げている。
しかし何故だ、何故あの人があのような異質な短剣を持っている。あの人の武器は俺が見ていた限り、ショートソードしか振っていなかったはずだ。
その人を見て気づいた、明らかに周囲と違い、動く速度が違う。あの上階層で見たような、鋭い動き。アレをスローで再生している。スローで再生していても、これだけ動くのであるから、相当速いのであろう。
一度ヒントが出来れば、掴める情報は増やすことができる。足の先、視線から対象を確認した。レティを狙っている。先程和解したはずなのに、なぜレティを狙う必要がある。本当にレティを狙っているかどうか確信はできないが、いずれにしてもあの黒い短剣は本当にマズイ。誰が受けても駄目な気がする。
ヴルム、ハッセルを確認する。駄目だコイツら。肝心なときに役に立ってねぇ。お前等仮にも武人系の幹部だろ。こんな異常なときにパッと活躍してくれる凄い奴等だと信じていたのに。やっぱりお前達はトカゲのおっさんとライオン丸だよ。
他に戦えそうな者を確認するが絶望的である。皆気づいていない、レティも盤面に集中しており、その悪意に気づいていない。
俺しかいない。
すごい苦難を乗り越えて、安心していたのに、こんなトンデモイベントとか想像もしてなかったよ。
俺が対応するパターンを考えてみるが、どれもマズイ気がする。あの人の剣技、剣速、切り返し、全てずば抜けていたのは印象的に覚えている。とても俺が切り払うとか、掴むとは難しい。捉えるイメージが湧かない。
そうなればできるだけ広い面積で、あの短剣を突き受けて、本人が動けないように捉えるしか無い。
最低最悪なプランだ。腹に受ける傷は致命傷とか聞いたことがある。この世界で外科っぽい手術を見たこと無い。そうなればレティや生誕の秘術頼みになりそうだ。体を蘇生できるぐらいだ、なんとかしてくれそうと祈るしか無い。
このままレティに武器が向うことも、見ぬ振りをすることもできる。選択肢の一つだ。しかし心の中にあるソレは最悪な選択肢であるように、異常な警笛を鳴らすのだ。
覚悟を決めるしか無い。もしレティに何かあれば今度こそ戦争に引鉄になりかねない。それは避ける。そうだ今からすることはファンレの為だ。大丈夫、ファンレの為なら頑張れる。なんとか出来ると信じる。
俺が決心を決めると、また周囲の景色に不自然なノイズが何度も走りだす。
結局7/13アップになりました。すみません。一章が終わり間際なので、7/13で一章終われるようアップ頑張るのでよろしくお願いします。




