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勇者がいないファンタジー世界で俺は……  作者: アルねこ
第1章 生誕編
39/92

第三十八話 ノヴィの秘策-後編-

7/12 32~37話、同日アップされています。ご注意下さい。

 リリアンは涙目ながらも、真面目に白い駒を進める。オセロの時にも思ったが、ある程度の力量まで順応するスピードが早い。勿論その実力が上級者などとは言わない。ゲームで言えば、攻略となるポイントを見つけることが上手い。


 流石にリリアンの頭の構造や得意分野までは知らないが、ルールや制約を把握し、自身のベストに至るまでのプロセスを作る過程が断然上手い。おそらく冒険者としては重要な才能の一つなんだろう。初見のモンスターでも弱点を分析したり、自分の得意な攻撃パターンに引き込んでしまう。そんな才能と思われる。Sランク冒険者と名乗るだけのことはある。



 戦場となる盤面。初心者らしい駒の取り合いになっている。俺の狙い通りの進行。言い方を変えれば、ただの泥試合。泥試合になれば本人達は必至になり、接戦を繰り広げている感覚に囚われる。


 そして今回の最大のポイントは二つ。一つ目はリリアンの合理的に攻める考え方。チェスに置いて、王を攻めることは必須条件となり、そのために駒を犠牲にして進めることの出来る思考パターン。


 二つ目はレティの弱点。このレティ頭脳明晰、対話力、さっきの強大な魔力といい、超ハイスペック幼女だと思われる。お前みたいな出鱈目設定(ファンタジー)存在(キャラクター)は、漫画だけでいいんだよと声にして言いたい。この幼女一見無敵に見えるが、ある一点においては脆いと思われる部分、弱点とも捉えることが出来る可能性が存在する。


 俺がこの生誕の中で生活する中で見つけた、彼女の美点であり弱点となる部分。レティは身内に対して、家族のように優しく接してくれる。この場合の身内というのは俺を含めた魔族全員。


 レティは魔王としては魔族に優しすぎるのである。人族や他種族に対しては非情になりきれる為、周りは特に気にしていないのであろう。これはレティの魅力であり、周りが付き従う最大の理由である。


 だから今回俺はその『優しさ』を利用、付け込む形をとる。現在レティは初めてのチェスにおいて、戦場をシミュレーションしたプレイスタイルを取っている筈。いかに(こま)殺さず(・・・)に王を取るか。そんなことを考えながらプレイしているに違いない。


 レティとはそういう存在なのである。常に仲間を殺さぬようにと思考を巡らせ、きっと仲間が危機に瀕すれば表立って戦う。そんな優しい王様なのだ。


 しかしチェスはそれ程甘くない。上級者と初級者ほど力量差があれば、駒を殺さぬように動くこともできるかもしれないが、チェスは駒を上手く殺し、王を取るゲームである。真剣に取り組めば取り組むほど、今のレティには歩く場所が次々と泥沼と化していく。


 対しリリアンは合理的に駒を殺して、王を取るためのスペースを作っていく。彼女は別に部下を殺しているわけではない。あくまで命懸けのゲーム(・・・)をしているだけのことだ。


 ここに勝機が見いだせる。


 そしてリリアンが黒き王を射程に捉えた。ただのチェックである、チェックメイトではない。チェックとは王が逃げることが可能、または他の駒で邪魔できる位置。


 しかしレティの手が止まる。聡いレティのことである。きっとこのゲームの本質には、プレイ中とっくに気づいていると思う。このゲームを上手にプレイするには時間が足りないと。


 そして最初のプレイはシミュレーションとして行っている。王を守るため、兵を殺すか信念を試されている。ゲームとして徹すれば問題無く続けることができる。これがレティの境界線だ。


「おい、ノヴィ」

「はい、なんでしょうか」


「これはお主が作ったのか?」

「いえ、俺は作り方を知っていただけです」


「どちらでも構わぬわ。またも妾を(たばか)ったな。よくもまあ、こんな意地の悪いアイテムを用意してくれたものだ。最初からそのつもりでこれを用意していたのか?」


「いいえ。本当に最初は、唯の献上品として用意しただけです。レティ様ならばこの遊戯盤(ゆうぎばん)の面白さに直ぐに気づいて頂けると確信していましたから」


 チェスは頭がいい者ほどハマりやすい傾向はすでに確認済み。シヴ屋敷内にて散々試したからな。


 俺は元々冒険者(リリアン)と争わせるつもりなんてなかった。ただ同じ玩具で遊んでくれれば、自然と和解できると信じていた。


 レティにはこれが戦を模したシミュレーションアイテムとして騙してテーブルに着かせ、実は唯の玩具だったと暴いた。普通の魔王であれば、怒りでブチ切れていたかもしれない。だけどこの目の前にいる魔王様はレティなのである。


 レティの怒りの理由は本当にわからない。しかし彼女は理不尽にキレる程、暴力的ではない。彼女は話合いができる優しい魔族の王様だからこそ、この手に興じた。


「はー、もうよい。この勝負は妾の負けじゃ」


 レティが足をプラプラ遊ばせている。いい傾向だ。彼女がどんどん俺の罠にハマっていく。


「そこのエルフも、もう泣くでない。一回戦目はお主の勝ちで良い」

「え?」


 何が起きたのかイマイチ理解していない、ドジっ子エルフがいた。これだけ頑張ってくれたのだから、ドジっ子と呼ぶのは失礼か。


「一回戦目はリリアンが勝ったんだよ」

「まだ続けることができるのに?」

「リリアンの目の前にいるのは、魔王様だけどレティだからね。今話合いで解決できたんだよ」


 話合いというにはあまりに強引過ぎるが、勝ちは勝ちである。


「何が解決したのじゃ? まだ二回戦目、三回戦目が残っておろうが」


 リリアンの喜びが一瞬で暗闇のどん底に落ちてしまう。


「魔王様。この戦を模したシミュレーションアイテムで、駒を殺さずに勝つには、(いささ)か時間が足りないと思いますが。よろしければ二回戦目、三回戦目また後日ということにしませんか?」


 そうこの理由で逃げ切れれば俺の勝ち。後日、改めて冒険者が来ても知ったこっちゃない。世の中には逃げるが勝ちという偉大な言葉がある。そう逃げちゃえばいいのである。


「おいノヴィ。妾がこの盤戯の本質に気づかぬと思っておったか? そんなものとっくに気づいておるわ。残りの二回妾が勝つのはもう決まったも同然だ」


 実際の所、レティの言っていることは誇張ではないだろう。それ程にレティの思考能力はずば抜けている。理想とする形を作る才能が、天才的とテレサが言っていたぐらいだ。魔法を教えたら、翌日には最大出力&コントロールができる魔法が使えていたらしい。


 実際二回戦目、三回戦目を勝つのは難しい可能性が濃厚。


「そうですか……、魔王様はついにこの『チェス』の本質に気づかれてしまわれたんですね……」

「だからそういうておろう」

「そうですか。このチェスは駒を殺して王を取る。これが基本となるゲーム」

「そのくらい一回目で見抜いたわ。お主もそれで妾を陥れたのであろう」

「そうですか。誇り高い魔王様のことです。駒を殺すなんて出来損ないの模擬戦闘盤。魔王様にとっては模擬戦闘の一つにもなりませんよね」

「お主さっきから何が言いたい?」

「いいえ。ただこんなもの魔王様にとっては、ただの玩具(おもちゃ)ですよね?」

「模擬戦闘盤なんてお主が言い出したことであろう。どこからどう見ても遊戯具だ」


「やはりそうですか……まさか魔王様が冒険者と、同じおもちゃで二回も三回も遊びたいなんて言うつもりはありませんよね?(ニヤァ」


 この時の自分の顔は見えない。でも最低な程にニヤついているのだけは実感していた。


 一方のレティといえば、口をパクパクさせてる。


「いやあ残念で仕方ありません。こんな魔王様を謀るような出来損ないの盤は、さっさと俺が持ち帰って処分します。いやぁ失敗作だったなぁ。次回のシミュレーション盤はどうしようかな」


「おいノヴィ貴様! これが本当の狙いか!」


 ヤッベェまたキレてるよレティ。でもここで余裕を崩したら俺の負けになる。だから余裕ぶっこいて、もっとアピールしないといけない。


「実はここには『オセロ』という別の盤儀もありまして。あーあと、俺の家に帰ると『チェッカー』というチェスよりも、もっと出来損ないのシミュレーション盤が転がっていたりするんですよねぇ」


 もうレティの頭の中にはチェッカーというもので、頭が一杯であると思いたい。


「…………」

「いやぁ次回作はどうしようかな」


 いかん煽り過ぎたかもしれない。痛み分けのつもりが、マジギレされては困る。


「はぁあああああもうよいわ、本当に妾の負けで良い。お主の希望を申してみろ」

「ありがとうございます」


 色々あったけど苦労の末、交渉のテーブルに持ち込むことができた。

時間的にギリギリですが、次話は7/12アップ予定です。間に合わなかったらすみません。


流れ的にどうしても会話する人が固定されてしまうので、違和感があるかもしれませんがお許し下さい。

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