第三十三話 ノヴィの華麗なるダンジョンでびぅー
現在俺は某お使いのテーマソングを口ずさんでいる。
「ノヴィちょっと黙ってて」
「すみません」
怒られてしまった。どうも妙な感じでハイテンションだ。現在はダンジョンの四階層。俺の前にはリリアンとヤスィーさん。俺の後ろにはニュトンさんが構えてくれている。リリアンさんとヤスィーさんが前衛となっているのは、素早くトラップを解除し、進行速度を上げるためらしい。
そしてトラップの解除待ちの最中に歌い出したら、怒られてしまったのである。
「ノヴィ歌うなんて随分と余裕ね」
「んー、なんか歌っていれば、知り合いがヒョッコリ来てくれないかな~と」
「知り合いも何も、ここに入った冒険者は殆ど全滅してたじゃない」
そうなのである。実はこの四階層に来るまで、ここに入ったであろう冒険者の遺品らしきものが散らばっていた。下の階層に行っている最中のパーティーがいるかもしれないと思っていたが、リリアンの見立てでは下層に行けるようなレベルの冒険者はファルファシオンでは見かけなかったと。
そして俺の緊張感が緩んでしまっている理由がもう一つある。この人達が結構ガチで慎重らしく、この四階層に至るまでにかれこれ三時間以上は要していた。よくよく考えてみると、俺の時は物理感知トラップのみ警戒で済んでいたが、魔力感知トラップの解除も要しているため、時間が倍になっている。
このペースで進行するとなると、中階層から最下層までの時間がヤバイと思い、いっそのこと知り合いの魔族が来ることを期待し、歌い出したのが本当のところ。怒られるのを覚悟で歌い出したら、マジで怒られたわ。
「セレクティア」
「な、なんでしょう?」
俺はセレクティアにちょいちょいと呼びかけ、周りに聞こえないよう妖精の耳に口を寄せる。
(ちょっとテレサか誰かに言って、こっちまで来てもらえないのかな?)
(実は既にヴィヴィアン様には、お伝えしているのですが…………)
どうやら妖精族のお偉いさんには伝言済みなのであるが、ここ暫くテレサと連絡が取れないとかなんとか。なんだろう、緊急事態なのかな?
どちらにしても、このスロウペースは個人的にまずいと思う。前にいらっしゃる冒険者二人組に、今後の予定とダンジョンの踏破ペースをお伺いする。
「そうね予定では三日から五日ほど掛けて、十階層を目指す予定よ」
おぉぉぉう……。とんでもない事実が発覚してしまった。どうやらこれでもペースは早い方であるらしい。地図が無いダンジョンの探索はかなり慎重になるらしく、こうして手探りのペースを維持して、ダンジョン下層を目指して行くのとか。難易度の高いダンジョンとなると、それこそ数ヶ月掛けてダンジョンのマッピングを行いながら、最下層を目指すこともあるとかなんとか。
(オイオイオイオイ。俺はさっさと日帰りぐらいのつもりでいたのに、とんでもない思い違いをしていたのかも知れない)
「ゴブリンよ!」
モンスターとの初戦闘。ゴブリンは俺の腰から胸元ぐらいの背丈、人族とは明らかに異質な硬質した浅黒い皮膚、ひしゃげた耳をしたモンスター。手には棍棒らしき武器を装備。馬車の中で低階級のモンスターであるとレクチャーを受けていたが、俺には致命傷になりかねないので、ニュトンと共に距離を空けるよう注意されていた。
リリアンがゴブリンに近づき攻撃を誘う。横薙ぎの棍棒にはバック回避にて対応。ゴブリンがリリアンの距離を詰めるように走り、縦に棍棒を振りかぶったところで、すかさずリリアンとヤスィーのショートソードがゴブリンの腋、腹を鋭く切り払う。
切り払った箇所からは人とは違う色の体液が溢れ、体液が地面に溢れ落ちるよりも早く、ヤスィーの剣先がゴブリンの胸元へ突き刺さる。突き刺さった剣を引抜くと同時に、ゴブリンが地面に倒れ息絶えた。
臨時とはいえヤスィーさんの剣捌きは、素人目ながらもかなりのものであった。切り払った後、心臓部に突き刺すまでのモーションが異常な速度を放っていたのである。
「ほう、やるじゃないか」
ニュトンさんから見ても、ヤスィーさんの剣捌きは凄いようである。
「俺もAランクだからね、このぐらいは。何度もSランクにして欲しいとは言ってるんだけど……」
確かにこの人の腕前なら、Sランクにしても俺的には問題無い気がする。トラップ解除もリリアンの手伝いを出来るぐらいだ。世界で七人しかいないのは何か理由がありそうだけど、もし妖精族のお偉いさんやギルド長に会ったら、是非Sランクに推薦してあげよう。
ゴブリンとの初戦闘を終えると、トラップを解除しながら進むスロウリィな探索が再開される。
よく考えてみると、初めてのモンスターはサイクロプスであったことを思い出した。あー、サイクロプスを利用すれば、四階層から十階層は突破できるなという案が浮かぶ。
再び妖精を呼びつける。もうコイツだけが便りだ。
「セレクティアは俺から魔力を感じる?」
「いいえ、全くといっていいほど感じないですね。ダンジョンでこうして活動していられるのが、かなり不思議です」
「もしだけど、皆の魔力を俺ぐらいまでググググと押さえ込んだり、感知されない程に隠す魔法てあったりしない?」
「あるにはありますが……、その際は皆様の魔力を消耗し続けるので、あまりオススメはしませんね。もし戦闘になった場合、魔力を消耗した状態になるのでかなりキツイ戦闘になるかと。リリならともかく、他のお二人は魔力容量は少なそうなので、一日も使ってしまえば魔力が空になってしまうと思います」
他にも魔力を減らした状態でのダンジョン活動は死に繋がる為、オススメしないとのことである。
俺は以前の脱出に使った時間を思い出す。
(行けないことは無いと思うけど、試してみる価値はありそうだな)
そんな感じのゆっくりとしたペースで、ようやく五階層に降りたところでご一考に提案した。
「何言ってるの? それにサイクロプスが生誕で歩いているという話も、にわかに信じ難いのだけど」
「俺も同感だな。サイクロプスがこんな低階層で歩いているダンジョンなんて聞いたことがない」
俺の提案にベテランであるリリアンとヤスィーさんの猛反対が飛ぶ。
「ニュトンさんはどうですか?」
「俺も冒険者寄りの意見で言うなら反対だな。しかし、今になって実感したが、コイツは生誕から脱出した逸話があるからな」
「私もその情報は見たけど、噂半分で出回った情報じゃないの?」
「多分本当だろ。コイツがファルファシオンにやって来た時、マント一枚だったのは間違いないからな。それに後ろから見ていて気づいたが、ノヴィは物理トラップをしっかりと警戒していた」
脱出のこともあった為、踏み抜く足には気をつけるよう心掛けながら、ダンジョンを歩いていたのである。前を歩く二人が思ったより慎重であった為、素人の俺でも足元の物理トラップを警戒する余裕ができていた。
「それではまず、ここで休憩がてらサイクロプスが来るか待ってみませんか。もし俺の言った通りであれば、一時間だけでもいいので俺の作戦を試してみてもらえませんか?」
「一時間ぐらいであれば、ニュトンもヤスィーの魔力も全然大丈夫だと思うよー」
俺の意見に賛成と後押ししてくれる妖精。実はコッソリと、俺の作戦に乗って貰えるようお願いしていたのである。現実的な話、このメンバーで俺の話を一番信じているのはこの妖精だけである。まったくもって悲しい話だ。
俺に疑惑の目が掛かりながらも、休憩すること三十分程経過した頃。
「この音……、巨大なモンスタがー来るわ。本当に……サイクロプスなの」
リリアンは風の魔法の一つで警戒していたらしく、いち早くモンスターの歩行音に気づいた。マジでこのリリアン優秀だったんだなと心の中で感心。
俺を除いた三人で『幻透過』という魔法を掛けてもらう。セレクティアの秘術であるらしく、認識阻害してくれるとからしい。この秘術中であれば魔力も感知されないとかなんとか。
初めてこの妖精のことをスゲェマジパネェとか思ってしまった。リリアンもセレクティアもファースト・コンタクトがあまりに微妙すぎた為、俺の中で随分と低評価を付けてしまっていたのである。
「予定通りまずは一旦やり過ごしましょう。俺の見立て通りなら、もう一度サイクロプスがこの五階層に降りてくると思うので」
そして隠れること数十分。
「まじかよ……、本当にサイクロプスが歩いて行きやがった」
俺の話を完全に信じていなかった、ヤスィーさんもようやく作戦に納得してくれたようである。
「では行きましょう」
こうして時間は若干掛かったもの、サイクロプス誘導に従いながら、十回層へと到着する。サイクロプスが通る道にはトラップが仕掛けられていない為、非常に楽な移動であった。前回と違い、いざとなったらパーティーがいるということが、随分と心理的に働いたらしく、俺の体力も十分に残っていた。
「サイクロプスは戻って行ったけど、これからどうする?」
「そうですね、二人とも魔力感知型のトラップだけ警戒して欲しいと言われたら、ペース上げることできそうですか?」
「そうね。私の方は魔力容量が高いから、魔力感知だけなら私だけ警戒でも行けると思うわ」
「それではこれを使いましょう」
俺が取り出したのはボロボロになったマントである。
「何これ? 何かのマジックアイテム?」
「いえ、ただのマントです」
「ふざけてるの?」
「いえいえ、そのマント攻略本ならぬ攻略マントでして」
「ノヴィと話していると、時々頭が痛くなってくるわ」
どうやら俺の常識は頭痛の種らしい。
というわけで、リリアンが魔力感知型トラップの警戒兼道案内、ヤスィーさんがモンスターを警戒するという仕事分担にて探索が再開。
最初は物理トラップだけ回避できれば十分かなと思っていたが、どうやら俺の攻略マント記載の通路は、トラップ自体が無い通路のようである。
「嘘みたいに精度の高い地図ね……」
まぁ住人の情報を参考に作った地図ですから。心の中でコッソリ説明しておく。
「これだけ精度の高い地図だったらかなりの値だが、いかんせん生誕の地図というのが残念すぎるな」
ヤスィーさんが本当に残念そうに告げる。精度の高い地図は物凄く高価らしく、金貨数十枚で取引されるらしい。なんでこのダンジョンは人気が無いと嘆く俺。
異常なペースでダンジョン下層に向かっているらしく、周りからは逆に不安がられる始末。
そんなこんなで突き進むこと小一時間。アイツが現れた。ライオン丸ことハッセルである。コイツは忘れろという方が難しいぐらい、インパクトのある濃い存在。
その時の俺はちょっとドキドキしていた。…………恋してるわけじゃないよ?
次話は7/12アップ予定。
7/12 プロローグにも記載しましたが、本文の漢数字と数字の扱いがバラバラになっております。お金の扱いを数字。残りは漢数字で統一致しました。
近日中に推敲と修正する予定です。お見苦しい文章ですがこれからも宜しくお願い致します。




