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勇者がいないファンタジー世界で俺は……  作者: アルねこ
第1章 生誕編
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第三十二話 ボラギ◯ールが必要になるかもしれない

 馬車の振動が尻にダイレクトアタックを続けていた。以前一度だけ馬車に乗っていたときには、こんな揺れを感じなかった気がしたが、今乗っている馬車はとてつもなく揺れているのである。ガタッとかそんなレベルじゃない。尻がかなり浮き上がり、そのまま台車に叩きつけられるのである。


 そろそろ痔を心配したほうがいいかもしれない程に深刻である。かといって、急いで行って、急いで帰りましょうと言い出した手前、俺から道をやっぱり変えたいとは物凄く言い辛い。



 ファンレのお願いを聞いた夜から、かれこれ数時間は経ったであろうか。生誕(ダンジョン)行きのメンバーを乗せた馬車が結構な勢いでダンジョンへと爆走を続けている。馬車の操者はニュトンさんが担当。隣には臨時で入ってくれたAランク冒険者のヤスィーさん。後ろ荷車には俺、そしてドジっ子エルフのリリアンとセレエクティアが座っている。


「ノヴィお尻痛くないの?」

「痛いよ! 滅茶苦茶痛いよ!」


 かれこれ数時間が経過し、俺とリリアンはそれなりに打ち解けるこができた。そんな感じで速い馬車に乗るコツを教えてもらう。


「尻の穴が裂けるかと思った」

「ノヴィは馬車に乗ったことがないの?」

「あるにはあるんだけど、その時はもっとゆっくりで、そんなに痛みは気にならなかったんだ」


 ようやく馬車の勢いに慣れると、テストついでに託された、改良型オセロを広げる。このオセロ俺が改良案を出したときと比べ、もう一つ工夫が増えていた。以前のバージョンではどうしても大きい揺れには耐えられない。かといって、突起物ダボと呼ばれる棒が長すぎると、オセロの裏表返しが非常に面倒であると困ったとのことであった。俺は最初に磁石を埋め込む案を提案したが、これにシヴさんが強く反対。貴重な磁石を玩具には使えないと言ったのである。最終的にコスト面も考慮した上で、考えられたのが黒板と白板の間に重りを仕込むという改良を加えた。


 この重りを加えたオセロは今のところ問題無いようであった。難点はどうしても重量が増えてしまうことであろうか。大量生産しても、運ぶにはそれなりにコストが掛かってしまうのが難点。そんなことを考えながら、振動するオセロ盤を眺め続ける。


「ノヴィさっきからジッと見ているそれは、まじないの類か何かなの?」

「これ?」

「そうそう。白と黒で綺麗な盤だけど、マジックアイテムには見えなくて」

「これは『オセロ』ていう、俺が作ったゲーム。まだ売り出して間もないから、他の街じゃ見かけないかもね」

「ねね、これどうやってやるの?」


 それから俺が1~2分ほど掛けてルールを説明しながら一通り遊ぶ。


「もう一回やりましょう」


 ……。

 ……………。


「もう一回、もう一回やりましょう」

「もう俺はいいよ。テストも十分だし。セレクティアにやり方教えるから、セレクティアと一緒にやってよ」

「ハッハヒっ」


 未だ俺との会話に慣れない妖精が、突然の呼びかけにおっかなびっくりする。それから二人で仲良くずっと繰り返し遊んでいる。馬車の中で遊ぶオセロはいいが、もしチェスを持ち込むとなると、どうするべきか悩む。やはり俺としてはマグネット案が理想だとは思うが、天然磁石の利用に反対されるんだろうなとアイディアを練りながら時間を潰す。


 以前に生誕(ダンジョン)から脱出した時もそうであったが、この道中まだ一回も魔物(モンスター)との遭遇が無い。最初は少ないだけかと思っていたが、そもそもいない気がするのである。そんなことをリリアンに話してみると。


「モンスターは魔素の濃度が高い場所でしか発生、活動できないの」


 とのことである。


「魔素が濃い、森、山脈、洞窟あたりだとモンスターがいるわ。そーいう珍しい場所は強いモンスターが縄張りにすることが殆どね」


 勿論ダンジョンを縄張りにしているのは魔王とのこと。そんなありがたーい知識を頂く。道中アイテムの知識なども教えて貰う。ポーションの扱い方やいざとなった時の逃げ方など、冒険者としての心得を伝授頂く。ドジっ子とはいえ流石Sランクを名乗ることだけあり、豊富な知識は勿論のこと、その知識の教え方が上手い。


「リリアンはもしかして凄い冒険者だったりする?」

「自分で言うのも嫌味なんだけど、結構凄いと思うわ。Sランク冒険者は世界で七人しかいないんだから」

「マジデスカ!」


 この話が本当で、もし俺の命が狙われていたとしたら、瞬殺だった気がするな。そういえばこの人、これほど優秀なのに何故ベッドに倒れていたんだ?


「あれはちょっと私もよく分からないの……この話をすると……」

「((((((((ガクガクブルブル)))))))))」


 ちっこい妖精のセレクティアがバイブレーションモードになる。彼女の何かトラウマスイッチでも発動したのであろう。こんな感じである為、あの夜の出来事は何もわからずじまいであった。


 そしてその日の内に生誕(ダンジョン)付近まで到着。野宿で休憩、翌日の早朝にダンジョン侵入を開始すると決定する。明日は楽しいダンジョン日和になりますように……。

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