第二話 生誕の秘術
7/1 改行など若干調整しました。
禍々しい鎧、高貴な雰囲気を漂わせる青年、剛建な者、荒々しい鬣を纏う獣人、麗しい女、一同がテーブルを囲んでいた。
「これより生誕会議を始める」
魔王配下の一人である魔貴族の男、ルーカス=メルリナイトが場を始める。
「恐らく皆の意見は予想できるが、まずはヴルムから」
「ゴブリンに毛の生えた程度ならまだマシだな。今日見た限りではゴブリン以下だぞアレは」
魔神と呼ばれている男と対峙していた、トカゲの魔族が呆れるように告げる。
「全く持って同感だな。センスの欠片も無いわ!」
「ハッセル、気持ちはわかるが、順に話せ」
ルーカスが獣人の男に静かに注意を促す。女に対し侮蔑する態度を示す獣人。我関せず、凛としたまま聞き流す女。
「モルガナイト嬢はどう見る?」
会議に漏れることなく、ルーカスがテレスタジア=モルガナイトに問い掛ける。
「少なくとも魔力を抑えているとか、そんな様子では無かったわ。遠目だからハッキリしなかったけど、珍しい器をしていたわね」
「お主が珍しいというのだから、相当珍しいのだろうな」
黒い甲冑を纏う魔王がテレスタジアに話し掛ける。
「ええそうですね。もう少し見てみないと何とも言えないですが……」
テレスタジアが勿体ぶるように一息付く。
「一見器が大きいように見えますが、器が無駄に大きく見えるだけ。魔力を貯める場所が全く見当たりませんでした」
「ハッハハハハハハ。力も無い。魔力を貯める器も無い。器の見た目だけがでかいときた。文字通りとんでも無い魔神様ですな!」
テレスタジアの分析を笑うハッセル。魔王が静かに思案する。
「夢魔族の秘術で器を削りだすことはできそうか?」
魔王は器がデカイなら、魔力を貯める場所の一箇所二箇所ぐらい作ることが出来るのではないか?と考える。
「私も一度考えてみましたが、恐らく止めたほうが宜しいかと。先程も申し上げたとおり無駄にでかいだけです」
テレスタジアが改めて再考する様子を見せる。
「ギリギリに穴を空けることができたとしても、魔力の圧力で直ぐに崩れ、漏れ出すと思われます。器の中に空洞が幾つかあるようでしたが、とてもですが魔力の貯蔵と転換に向いておりません」
「そうか……」
「残念ですが、武力魔力方面での運用は避け、諦めて人族のスパイにでも仕立てあげたほうが宜しいかと。幸い容姿は人族に酷似しておりますから、知恵を付ければ使い道はあるかと」
「相分かった。テレサの案を採用とし、人族へ潜らせるようにする」
一同は魔王の決定に逆らうこと無く、続々と部屋を後にして行く。
「魔王様、ちょっとお願いがございまして……」
「言わんでもよい。元々妾から頼むつもりでおった」
「魔王様は話が分かるから助かります」
魔王とテレスタジアが肩を並べて通路を歩く。
「しかしテレサから直接寝屋を共にするとは珍しいこともあるの」
「まぁ拾ってきたのは私ですからね。それに早く殻をなんとかしないと、ご近所さんが五月蠅いので」
「何じゃ?回廊に繋いでるのでないのか?」
「それがですね……、大き過ぎたので、ご近所さんに置かせて頂いておりまして。回廊からはこー、ずいずいずいと、伸ばして繋いだのですよ」
テレスタジアが身振り手振りでアレコレ説明する。
「原因は解りそうか?」
「今晩一緒に寝てみますが、なんとも……。でもこれで本当に魔力が無いということであれば、それはそれで利用価値がありますからね」
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魔王が自室に入ると、待機していた角メイドのストゥニールが、何も言わぬまま鎧を外す作業を淡々と行う。最後に顔を覆うフルフェイスのヘルメットを取り外すと、艶やかで金の髪が腰近くまで溢れる落ちる。
黒鎧の銘は『猫被り』。角メイドの前にいる少女が作りあげた一品。効果は禍々しい鎧が威圧、王の風格を醸し出す。ただ効果はそれだけ。実のところ鎧としての強度はイマイチであり、武力を底上げするといった効果も一切無いという見掛け倒しの鎧であった。
少女は生誕の歴代魔王の中でも、一二を争う程の強力な才を秘めていた。
「疲れたのじゃあ~」
顔から天蓋付きベットに飛び込む。
レアゥリティ=ロードナイトは黒鎧にて、相応の少女と魔王の厳威を使い分ける。仕える家臣達は当然これを把握しており、少女姿のレティを決して軽んじているわけではないが、レティは魔王の正装として黒鎧を用いていた。
「スゥーは魔神をどう思った?」
「正直に言っても?」
「構わん」
ストゥニールが『猫被り』を布で磨きながら思案顔。
「神と呼ぶにはあまりにおこがましいかと。他の方々も仰っていたように、人族の農民程度にしか見えませんでした。いえ……あの力量からすれば、もっと酷いかと」
レティは深く思慮する。術式は成功していると自信があったが、生まれ落ちた者はあまりに脆弱過ぎたのだ。
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生命の死とは輪廻転生である。寿命、怪我等で肉体が死を迎えると、肉体は土へ還る。魔力を含んでいる魔の肉体は、素材として再利用されることが多々ある。
死を迎えた精神体は次に命を迎える為、より強靭で逞しく、気高くなる為に長く厳しい旅をする。生命としては至極普通の仕組みである。
精神体が長い旅から還る際、この世界に再び命を定着させる為、還る家の印として魂の器たる外殻を精神世界へと残す。
そして外殻は精神体と共に力強く変貌して行く。
しかし、この精神体が消滅、もしくは長い旅の途中で消滅を迎えると、外殻の成長は停止、完全な滅びを迎える。滅びた外殻は魂の回廊との繋がりを断ち切られ、デブリとなる。
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本来、消滅した精神体を再生することは不可能とされていた。
生誕にて伝わる秘術、魔神召喚は魔神反魂とも呼ばれ秘匿されている。魂の器たる外殻から精神体を復元する。
そして今回の魔神召喚はこうである。最初に精神世界の住人であるテレスタジアにて、精神世界に流れるデブリを回収。この時、レティがテレスタジアに所望した内容は、珍奇な器を所望。一度は消滅したとはいえ、漂う外殻が大きいようであれば、象徴する力も大きいと考えられていた。テレスタジアはレティの希望に沿う、珍しく大きな外殻を用意した。
続いて生誕秘術を用いる。漂う魂の残滓を外殻の中に集める。
生誕が殻の内側を読み取り、殻に繋がっていたであろう魂を想造する。言い換えれば、骨からその生物がどのようなものであったかを推測、魂の残滓を粘土のように形作る。輪廻転生の理外から新たな魂生まれ落とす、ここが生誕と呼ばれている所以である。
しかし、レティが納得できない点は別に視点にあった。魔力が全く無い。これが矛盾と疑惑に至る。
魔王の住処たる各ダンジョンにて活動、命の灯火を動かすには少なからず魔力を燃やす必要がある。魔族の大半がこの理を知らないでいる。魔族の大半は殆ど馬鹿なのであった。無論、魔力を貯めることができない生物がダンジョンに潜れば、直ぐ死に至る。ダンジョンにて生物が動くには、魔力を入れる魂の器が必須となる。
色々試している最中、力量の程度はどうであれ、あの魔神は普通に動いていたのだ。途中で息絶えるかとも思いきや、疲弊しつつも活動していた。
ダンジョンに潜ることが出来る人族・獣族は、どの種族も少なからず貯める器を持っていた。力の強くない冒険者の魔力も何度か見たことあるが、それでも普通に魔力感知できる程度であった。
力は【武術(肉体)】、【魔術(精神)】、【秘術(奇跡)】の3つの象徴に分類される。【武術】と【魔術】は非常に判り易い象徴であり、力を測る目安となる。複製できない奇跡、種族特有の力などが【秘術】とされていた。3つの象徴が開花しない者も居る。これは特に人族に現れやすい傾向がある。
「あの魔神は秘術を持っているやもしれん」
レティがうつ伏せのままストゥニールに声を掛ける。
「とてもそうは見えませんでしたが」
「テレサも秘術の線で探っているようだからの。現状から考えれば秘術を内包している可能性が一番高いのだ」
「テレスタジア様でも分からないようでしたら、本当にお手上げということになりそうですね」
「じゃのぉ……」
レティが可愛らしい寝息をたてる。




