第二十七話 種族の垣根を越えた闘い
やっべぇ。適当なこといって、カリストさんサッサと帰さなくて本当に良かった。今もこうしてカリストさんが居るのは単なる偶然としか思えない。
「お前さんあれだろ? 今街で冒険者ギルドの奴等が必至で探しているノヴィてやつだろ?」
おう滅茶苦茶バレてるよ。シヴさんもいるから、最悪なことにはならないと思うが、傭兵ギルドの人を呼んでもらったほうがいいかな。
「あーそんなに心配するな。別に言わねーよ。最近半獣の娘を連れてる男がいるて聞いてたからな。半獣の娘を見てピンと来たんだわ。それに俺が仕事引き受けたのも、お前さんが半獣の娘を連れてるという話を聞いたからだしな」
そうなると今までのちょっとしたことに合点が行く。ファンレのアレだと思っていた美的センスは、どうやら獣族的なセンスらしい。ごめんよファンレ。
「で、どうするよ、俺の方から喋るか?交互に質問すると面倒だから、どっちかにして欲しいんだが」
「じゃあ俺から聞いてもいいですか?」
「おういいぜ」
「単刀直入に言います。カリストさんは獣族や半獣を人として扱いと考えていますか?」
周りにいる一部が驚愕しているが、いい機会だからぶっちゃけることにした。
「隠さないノヴィのその態度は気に入った。だから俺も隠さないで言おう、俺は人族も獣族も平等に暮らせる国が作れると信じている」
カリストさんの視線が鋭いものに変わり、風格に満ちた発言をする。風格あるというには相応しくないかもしれないが、目の前にいる人は、毛むくじゃらなくせに凄い様になっていてカッコ良い。
「俺はこの街ぐらいしか知りませんが、獣族は獣同然で扱われ、半獣である彼女すら獣扱いされています。人族にはカリストさんのように考える国や街があったりするのでしょうか?」
「俺が知る限り無いな。だが、作ろうとしている国があることは知っている」
「その国はどこに?」
「関係の無い奴等を巻き込むのは良くない。俺やお前みたいな奴等は教会に粛清される。国の存在が知れれば、内戦が起こりかねないからな。知っているだけでも教会にとっては粛清の対象だ」
自分が探そうとしていた道に食いつくようにしていたが、他の人もこの場にいることについて失念していた。
「すみませんでした」
「いいさ、気持ちはわからんでもない」
「カリストさんは獣族の街や村にいって、酷い扱いは受けなかったのですか?」
「どうだろうな。少なくとも暴力とかそんなんは無かった。ただ非力な種族といった感じで、見下される感じはよくあったな」
接する機会が極端に少ない為、互いを知る時間が無いのであろうか……。
「俺からもいいか?」
「あっ、はい」
「お前さんなんで半獣の娘と一緒にいる?」
なんでと言われても……、なんでだろ。酒場の同僚で、可愛い女の子だからとしか言い様がない。答えらしい答えを考えるも、納得させることのでそうな台詞が浮かばない。
「ほら、何でもいいから言ってみろ」
「特別これといった理由は。ファンレは同じ酒場の同僚ですからね。あと可愛い女の子と行動を共にするのは男の性かと」
「ハハハハハハハその通りだ。ちげーねーな」
「他に聞きたいことは?」
「いや無いぜ」
「それなら良いのですが」
俺が彼女に対し、奴隷や酷い扱いをしていないか、心配していたということなのだろうか。獣族関係の話はそれっきりで、あとは玩具作りの話で終ってしまった。何か隠していることがありそうだけど、お互い様だしな。それ以上は尋ねることができなかった。
それから俺とエポックス監修の下、新たなる試作品が次々仕上がっていく。盤面は既にオセロで作った折り畳み盤等のノウハウがありスムーズに完成。カラトミさんの白駒を参考に、ツクダさんが黒駒を量産して行く。
カリストさんには、ある別の作業を割り振っていた。
「おい俺が獣族用の変な彫り物したからて、こんな幼稚な彫り物はあんまりだぜ?」
そう、俺はカリストさんには木板に描いた、各駒のイラスト掘って貰えるよう頼んでいた。
「これはこれで、凄い重要な仕事なんで、気合入れて下さい。万人受けするかどうかは、カリストさんのが担当する部分が大きいです」
カリストさんを説得の上、六種類の駒のイラストを板に掘ってもらう。そして俺は掘って貰った板にインクを付けては、ペタペタ紙にイラストを打つ。取り敢えず試作品であるため、四セットぐらいにしておく。問題が無ければ原板が流用出来る為、焦る必要は無い。
盤上には完成した駒が揃っていく。最後の黒駒がセットされ、『チェス』第一号の完成。
「皆さんお疲れ様でした。無事に『チェス』試作一号が仕上がりました」
試作品とは思えない、かなりいい出来である。以前は素人が作った試作品であった為、所々変な形をしていたが、今回はいきなり売り出しても問題無いと思われる水準で仕上がった。早めにプロの方々に手伝って貰ったことが本当に大きい。
そして今回のもう一つの目玉『ルールブック』。チェスはなんといっても駒の動きを覚えるところまでが大変なのだ。これを皆に丁寧に教え、売り出すことまで考えると、とんでもない苦労になる。そこで新たに『木版印刷』を導入。既に若干ながら『活版印刷』のアイディアが入ってしまっているが。
シヴさんの目の前で実践したところ、俺がやってることに目を剥いていた。いきなり大きな板に一気にやるには問題が残るため、板を小分けしカリストさんに手伝ってもらっていた。小さな文字を掘ることが難しく、結果としてルールブックが大きい本になってしまったことが、非常に残念である。
まぁ木版印刷については、その手の専門家を集めて見せるとシヴさんが凄い意気込んでいた。まぁそうだろう。これが完成すれば書物の量産体制が整うわけであるから、まさに金の山。ある意味のチェス作りで一番儲けたのはシヴさんかもしれない。
そしてプロモーション担当は俺とファンレである。一日中殆ど一緒に居るのがファンレであった為、彼女に覚えてもらうのが一番手っ取り早かった。エポックスは器用であるため、他の職人の手伝いに回ってもらっていた。そして何より宣伝するなら男同士より、可愛い子に宣伝して貰うことが一番だしね。
「というわけでこれからチェスの実践を始めます」
「お願いします」
俺に習うよう、ファンレもペコリと頭を下げる。俺の手元にはルールブックが必要無い為、ファンレの手元、シヴさん、エポックス。残りの一冊を他が回し読みしてるみたいだ。
……。
…………。
…………………。
…………………ん?
…………………あれ?
気づけば俺が詰んでいる。……おかしいな。初戦だから俺が勝つとか、いい勝負みたいな感じの予定だったのに、初めてのファンレに対してあっという間に詰んでいるぞ。日本ではネットで嗜み程度に打ったことしか無いが、それでもファンレにこんな圧倒的に負けるとは思ってもいなかった。
「ノヴィ。おめぇファンレが相手だからて、手抜いてんじゃねーよ」
隣からエポックスが野次をいれる。以前チェッカーやオセロの試験で初戦をボコボコにされていたおっちゃんからしてみれば、俺が手を抜いてるようにしか見えないのだろう。
「手なんて抜いてないよ。よし、おっちゃん試しに勝負してみよう」
結果は俺が普通に勝った。おっちゃんにも元々ルールを大雑把に知らせていただけに、駒の動き方さえ分かれば直ぐにゲームができた。当然これが初めてなわけで、俺が勝ちを拾うこととなる。
その日はみんな駒作りの手を一旦止めて、順番に触れてみることになる。まぁなんというか、勝った人は勝ちの味を覚え、負けた人がムキになるのである。終いにはジャンケンを教えて、ジャンケンで取り合う始末。
そんな中に唯一の無敗がいた。ファンレである。ファンレだけは他を寄せ付けることなく、圧倒的な感じでチェックしていく。
そしてこの中で一番ドハマりしていた奴がシヴさん。俺を含めた全員に勝つことができていたが、未だファンレには勝つことができない。爺さんがムキになってファンレに挑んでいる状態である。
(ノヴィ負けてあげたほうがいいかな?)
小さな声で俺に助け舟を乞う。そりゃそうだ。かれこれ10回以上爺さんとやってる。俺でもウンザリするわ。
「ファンレ、手を抜いたら承知せんぞ」
ワザと負けそうな雰囲気を察したのか、シヴさんがソレを察する。
「シヴさん。それ負けたら今日終わりね。もう真っ暗だよ」
「まだ負けるとは決まっとらんぞ」
俺の言葉に耳を傾けつつも、盤の前から離れない。他の皆は面倒になり、すでに各自の工房に帰ったり、部屋に戻って行った。
「チェックです」
「むむ、こうだ」
「チェックです」
「ええーい!」
「チェックです」
……。
…………。
結局チェスにハマった爺さんが、明日の朝から続きをやると言い出して聞かない。俺が考えていた結果とは違うが、種族の垣根を越えたいいゲームだったと思う。明日からファンレには手加減を覚えてもらうとしよう。




