第二十六話 折れそうで折れないフラグ
シヴさん宅の家人の協力を経て、第一回細工師審査会がシヴ屋敷にて行われることになる。審査員は俺、シヴさん、エポックス、ファンレ、あとはシヴさん宅の使用人の方何名かの協力を仰ぐ。美術的評価も重要であるが、今回は万人受けする者を選出するため、審査員は幅広く用意。
朝食を食べた後、日が高くなる頃に職人の何人かがチラホラ現れ出す。最低でも銀貨3枚貰えるという報酬が効いたか、それなりに人が集まったようである。おっちゃんが選出しただけあり、職人達の試作品を見る限り、彫り物細工としては評価高い。
俺が見た限りでは一定のレベルまで行ってしまうと、評価が判断し難い為、最終的には直感に頼ってしまうことになる。そうなると意見が出ないにしても、総合数で判断する方向性は良い判断だったと自負する。
今回試作品として作ってきてもらったもらったものは三つ。ナイト、クイーン、ビショップ。他の駒は後でいいと判断。美術的造形もそうであるが、ある程度量産に向いた万人受けする駒を探していると注文した。
この世界には紙やすりが存在していないため、仕上げ面には期待していなかったが、仕上げが予想していたよりもずっと綺麗に仕上がっているのが何品か見受けられた。これは個人的に評価が非常に高い。
そして見てしまった。やけに異質な試作品があるのだ。何処かでみたことがある気がする。凄い微妙なセンスであるが、何処で見たのだろうか。俺の隣を離れないファンレを見て思い出した。そうだ二人で露店通りに行った時にあった彫り物である。
皆にコッソリ聞いてみたが、ファンレ以外は俺と同様の判断である。ファンレだけはあの時と同じく無駄に褒めている。
「すまねぇなノヴィ。コイツを作った奴は本当は結構な腕利きなんだ。一応声は掛けてみたが、やっぱりこうなっちまったか」
「いや他は結構ちゃんとしてるし別に問題無いよ。全体的に見てもいい人選だったと思うよ」
そして暫く皆で試作品を確認した後、評価に移る。まずは匿名投票にて回収。一人だけあの異質なものに投票が入っていたが、間違いなくファンレであろう。最初は俺の美的センスを疑っていたが、これはもう疑いようが無い。二人の美的センスが世間に合っていない。
実は量産する際に黒色と白色のものを作る予定であると予め伝えていた為、黒い物と白い物を職人達は用意してくれていた。適当に伝えていたつもりであったが、これが意外といい判断材料となった。特に『漆』を使った駒を見つけることが出来たのは非常にいい収獲であった。これがあれば漆器が作れる。
そしてもう一つインパクトのある駒を作ってくれた良い職人がいる。他の職人達が、いかにも馬に乗った騎士、王妃っぽい駒を作ったきたのに対し、記号となるようなイメージの駒を作ってきたのである。ナイトであれば馬だけ。王妃であればティアラと言った感じである。この記号に近い形の駒は俺が日本で見てきたチェスの駒そのものである。勿論量産という面についても遥かに優れていた為、俺の評価はコイツに決定となる。
しかし投票を数え終えると、明らかに分散する形となった。念のため各々の意見を聞いてみると、皆評価している部分が違っているようである。俺が最終に気に入ったあの人も、結果としては俺とエポックスだけが評価。基準を漠然とし過ぎていたのがいけないかもしれない。エポックスは俺のイメージに一番近いだけに、評価が同じになったのかもしれない。
俺は改めて玩具製作であることを説明。あくまで現段階では美術品的価値を問わないことを説明する。美術品的価値を上げ過ぎると、今度は庶民に広がらない可能性が高い。この手の娯楽は庶民にも手が届く安い値段だから、価値が高いということを伝える。
再評価後、俺とエポックスが評価した、簡素な作りであった人の作品にも何名分か投票が入る。最終的には俺達が評価した人に強引に統一させてしまった感が否めないが、時には独裁制も必要ということで割り切る。
職人達にも玩具製作の試作品を手伝ってもらっていた事、将来的に量産する予定であることを説明。方向性がピッタリであった、記号を模した駒を作った職人を評価することにした旨話す。一部は渋々ながらも評価するのは俺達なのであるから、無理やり納得したようである。
「えーと実はこれからが本題でして、この方のデザインを中心として駒を作ってもらう予定ですが、参加したいという職人はいらっしゃらないでしょうか?」
玩具製作と言われて、顔をしかめた職人も多数居た為、今のうちにやる気のある職人に限定する。
「あ、因みにこの黒い駒を作ってくれた貴方は強制参加です。よろしくお願いします」
一瞬俺?みたいな顔して動揺する姿を見せる。漆塗りをした職人は逃がさないようにしなければ。玩具が気に入らなければ、漆器作りでも頼めばいいと思っている。
それでも最終的に残った人は評価した職人、漆の職人を残し帰ってしまった。もう一人だけ残っている人が居たが、例の問題の人であった。よりにもよってこの人だけしか残らないのは、誤算だったかもしれない。この時代の細工師にとって玩具作りというのは、職人のプライドを傷つけるものなのかもしれない。
「ところで、俺が玩具作りと伝えて、もしかして帰りたくなりましたか?」
「仕事には少し疑問が残るけど、俺の細工を一番に評価してくれたことには間違いないしな。是非やらせてもらうよ」
エポックスと同じぐらいのオッサンは『カラトミ』さん。
「ボクはどうして残されたのでしょうか?」
このボクといった今回一番若手の職人。例の漆塗りをした人である。
「これ『漆』ですよね? 漆て売っているのですか?」
「いえ。これはボクの故郷の特産品ですね。『漆』なんて良く知ってましたね」
このボクといった職人は『ツクダ』さん。この人の話を聞けば、なんとあのマヨネィズもこの人の街では名物化しているものらしい。間違いない、この人の街には元地球人が居る。もしくは過去に居た。
「今回テストを兼ねてですが、漆を使い黒い駒を担当して頂きたいと思いまして。基になるのはカラトミさんの駒になってしまいますし、玩具作りということには抵抗ないですか?」
「ボクは特に気にしません。まだ満足に仕事も貰えない立場なので、こういった機会を頂けるだけでもありがたいです」
「ということは、他の仕事が全くない状態だったりしますか?」
「えぇそうですね。恥ずかしながら銀貨3枚でも、ボクにとっては随分と良い仕事だったんですよ」
これはとんでも無い拾い物かもしれない。
「もしかしてですが、漆の食器を作れたりしませんか? お箸やお椀とか」
「はい。実は以前にそういったものをこの街の露店で出してみたんですが、全然売れなくて諦めてましたから」
「カラトミさんの駒が出来上がるまで少し時間かかると思うので、もし宜しければ仕事を依頼しても?」
「ええ。ボクとしては願ったり叶ったりです」
こうしてトントン拍子でお箸とお椀のセットを発注することに。取り敢えず試しに四人分をセットで注文。帰り際にツクダさんから凄い泣いて喜ばれる始末。
さて残ってしまったこの人であるが……どうしようか。
「遅くなりすみません。ここに残って頂いたということは、玩具作りに協力してもらっても大丈夫ということで問題ないでしょうか?」
「俺は大丈夫だぜ。玩具作りなんてやったこと無いしな。これをどうやって使うかすげぇ興味ある」
結構あっけらかんとした、中年の髭や髪が伸びてる人だ。長い髭面な為、年齢が分かり難い。名前は『カリスト』さんとのことだ。
「仕事関係で揉めたくないので、始めに言っておきます。まず中心になってもらうのはカラトミさん。俺が今考えている玩具のベースはこの人の作品中心で行く予定です。次にツクダさん。この人にはサポート中心で回ってもらう予定ですが、直ぐに量産する側にもなって貰う予定でいます」
「まぁ妥当だと思うぜ」
「カリストさんについてですが、同じくサポート側に回ってもらう予定です。しかし正直にいうと、あの奇抜なデザインを施している人を量産に回すというのは不安が残ります」
「まぁ仕方無いな。アレは人族受けする細工じゃないしな」
(あれ、今人族受けて言ったのか?)
「すみません。ちょっとお聞きしたいのですが、実はファンレという半獣の女の子が凄い気に入ってるんですが、それと関係あったりしますか?」
「そうだな。多分獣族で教えてもらった細工技術だからかねぇ?」
カリストさんはとんでもないフラグを置いていきやがりました。
カラトミは同じく某玩具メーカー名の一部より。ツクダも昔あった玩具メーカーが元ネタとなります。




