第二十五話 ファルファシオンのお尋ね者
7/8は21、22、23、24、25話と同日でアップしています。注意下さい。
トランスペアレンシー・ファルファシオンの結成以来、まだ街の様子が変わり続けていた。
具体的に今この瞬間の様子はどうなっているのか、俺ことノヴィが冒険者ギルド達のお尋ね者になっている。
幸い商人ギルドと傭兵ギルドという強力な後ろ盾を得ており、ここ最近は商人ギルドのシヴさん宅で匿ってもらっている最中である。
しかも話によると賞金まで掛かった大捕り物状態になっているとか、気が滅入る情報まで入ってくる。
「予想していたよりも遥に早く、情報が漏れている気がするのですがどうなんでしょう?」
「ノヴィ殿申し訳ありません。正直私も予想外でして。疑いたくはないのですが、トランスペアレンシー・ファルファシオンのメンバーの中に情報を漏らした者か……あるいは妖精の力としか」
「妖精の力ですか。妖精の力を甘く見過ぎていたかもしれませんね。ところで案内妖精にはそんな力があるのですか?」
「いえ正確には妖精の力というよりは、情報網といったところでしょうか。妖精族は元々噂好きの種族ですから。その傾向が一部の案内妖精にも現れるようなのです」
ピンチというにはまだ余裕はあるが、事態が思っている以上に長引き、しかも悪化していることが心配な要素であった。
そして俺はこの状況に日々ストレスを溜めていた。あの超美少女ことファンレに会えないことである。折角仲良くなれたのに、お尋ね者になって以来、会えない状況が未だ続いている。これが俺のフラストレーションを溜める最大の原因。
商人ギルドの人から酒場にはこっそり状況を伝えて貰い、代理のウェイトレスさんを派遣してもらった。
ここ数日はシヴさんとニュトンさんが『ノヴィは既に街を出た』と偽の情報を流してくれてはいるが、ファルファシオンの中でも冒険者ギルドのメンバーが血眼になって俺を探しているらしい。
歴史上の革命家は暗殺されたりといったことが茶飯事のようであったが、自分が同じ状況に立たされているとしたらピンチである。
しかし納得できない点もある。俺がお尋ね者になっているのに、シヴさんとニュトンさんには何も影響が無いことだ。少なくとも俺を含めたこの3人が中心であり、ぶっちゃけ俺の立場は酒場の下っ端なのだ。革命家としてのカリスマ性は低い。暗殺の対象としては些かおかしい気もする。
最初は商人ギルドと傭兵ギルドが俺を囲う為に、何かに嵌められたとも考えたが、そういった感じではない。第三者が介入しているような雰囲気である。
(俺が世界三大発明をばら撒こうと考えているのが、どっかのど偉い組織にバレたのかな?)
考えれば考えるほど、疑心暗鬼になり、何かとてつもない陰謀説を考えてしまうのである。
そしてもう一つ俺が狙われる可能性が残っていた。
(魔人てバレちゃったのかもなぁ。全然力の無い魔人だけど、魔人は魔人だしな)
最悪シヴさんとニュトンさんには俺を切り捨てるよう伝えてはいるが、義理堅い二人は俺の味方を続けてくれている。
シヴさんには人族の魔族に対する認識を聞いてみたがやはり良くない。内容的には獣族より関係が酷く、完全に悪、敵と認識しているのである。
俺も召喚された当初はそのような認識を持っていたが、半獣の件が俺の認識を変えるキッカケとなった。魔族とも話し合いができるかもしれない、という可能性に気づいたのである。魔族も人族に対して何かしらの先入観や倫理観を刷り込まれているだけかもしれないのである。仮にもライオン丸がいるわけなのであるから。
少なくとも魔王様達は俺と朝食を共にし、それなりにコミュニケーションも取れていた。おまけにあの美人はやたら好意的だった。俺から魔族特有のフェロモンでも出ているのであろうか。
とにかく今になって考えると、生き返らせてくれたことも、ご飯をくれたことも礼を言っておらず、黙って出てきてしまったのだ。少々罪悪感を感じる。
かといってあのダンジョンにまた入って謝ってくるか?と言われれば、そんな命知らずなことはしたくない。仮にまた最下層まで戻れたとして、再びこの街に帰れる保証が無い。
翌日フラストレーションを溜めすぎた俺に二つのサプライズがあった。二つのうち一つは正直どうでも良くなるぐらい、一つ目のサプライズが重要であった。
「ファンレあいたかったお!」
「ノヴィ」
もう生き別れになった恋人の如く抱きついてしまった。酒場では紳士道を貫いていたはずだったが、無節操に手を出していたあの荒くれ者達と同じだ。よし自重しよう。あと30秒だけ抱いて、自重するんだ。
「ノヴィ俺も居るんだが」
(ごめんおっちゃん。俺おっちゃんのことはどうでもいいんだ)
心の中でエポックスにサラッと酷いことを告げる俺。
「ファンレはわかるけど、おっちゃんはどうしたんだよ?」
「俺の方の要件が主要なんだよ阿呆。ファンレはお前に会いたい会いたい言ってたから、無理して一緒に連れてきてもらったんだ」
なんということでしょう。もうこれは告白したら付き合えるんじゃないかというぐらい、好感度が上昇しまくりな気がしてならない。真っ赤になっているこの娘さんを連れて、どっか別の街に行こうかしら。
「お前から頼まれていた細工師の件が止まったままなんだよ。ちっとも工房に顔出さないし、街に行ったら、冒険者ギルドの奴等が血眼になってお前を探してやがったからな」
「ごめんおっちゃん。外に出たくても出れない状況になっていたからさ」
「で、冒険者ギルドの奴等に何やらかしたんだよノヴィ?」
この発言っぷりから言うとおっちゃんは白だな。まぁ元々おっちゃんのことは疑っていなかったけど。さてどうしようかと一緒に居たシヴさんに目を合わせると、どちらでもいいよみたいなサインをくれる。最近この爺さんと一緒に居る時間が長いせいか、ちょっとしたアイサインで直ぐ理解ってしまう。遠慮したい親密さではあるが。
「実は……」
冒険者ギルドから仕事くすねて、挙句潰しかけたみたいなこと言ったらドン引きされちゃったよ。
「ここ最近の冒険者の奴等が縮こまっていたのは、ノヴィが原因だったのかよ」
「あくまでも俺は原因その一だけどね。ほらほらファンレも、もっと会話に参加していいんだよ」
お茶をチビチビ飲んでいた、ファンレが急に話を振られて一瞬だけびくっと肩を跳ねる。
「タリサさんがお店の色々なものが安くなったて喜んでました」
「ん、そっちもノヴィ達が関係しているのか?」
「おっちゃんはファンレよりも視野が狭いな。直接は俺が原因じゃないけど、この件は商人も絡んでいるからね」
ファンレは酷い境遇だったせいか、観察眼や視野も広い。そこから推測する力も持っている。俺が引き起こした状況が、商人達に掛かっていた負担が減ったと考えたのであろう。
説明後、おっちゃんも以前の物価の高さは冒険者ギルドが影響していたことを理解する。
「そうなると、これからは色々な材料が安くなるのか」
「いやいや、絶対に一つだけ値段が上がるものがあるよ」
「あの石か」
「そうそう。あの石だけは反対にどんどん値段が釣り上がると思うよ」
「以前はアレが高くなるなんて半信半疑だったが、楽しみになってきたな」
「この街でも売っていた筈のあの石が何処に行ったと思ったら、ノヴィ殿とエポックス殿が二人で買い占めていたのですな。薄々は予感しておりましたが、それですか二人が買い占めて……」
忘れていた。シヴさんには俺達が買い占めたことを、伝えていなかったのである。結局その後、少し分けてあげるということで納得してもらった。
そしてファンレもエポックスも暫くの間、シヴ屋敷でご厄介になることに。俺の行き先が元々少ない為、このまま屋敷を出ると居場所に繋がってしまう可能性が高いとか。勿論二人には予め説明の上、シヴさんの屋敷に招いたらしい。
味方が増えるというのはそれだけで心強い。ピンチかもしれないと思っていたあの気懸かりは、なんとかなるという変な自信にすり替わっていた。




