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勇者がいないファンタジー世界で俺は……  作者: アルねこ
第1章 生誕編
25/92

第二十四話 S級冒険者 リリアン=バレットヴィクトール

7/8は先行で21話、22話、23話をアップしています。注意下さい。

「緊急時事態です。Sランク妖精は速やかに返事なさい」


「はい!」

「はぁーい」

「はいさ」

「あい!」

「ぁぃ」

「ん」

「応!」


 ヴィヴィアンが立つ場所は精神世界(アストラルワールド)の森の中。湖に呼びかけると、落ちゆく水滴を逆再生するかのように、7つの水球が中に浮かび始める。


 ここで直接呼びかけているのは、ヴィヴィアンとリンクしている、個性を与えたオリジナル妖精である。冒険者に通常貸与される妖精とは異なり、それぞれが個性を持ち、話すことが可能な妖精である。


 冒険者に貸与される妖精とはランクによって異なる。通常貸与される下位妖精は、妖精族の魔法を貸しているというイメージであり、Sランク冒険者に渡しているのは妖精そのものといえば判り易い。例えば一番下のFランクには三徳ナイフぐらいの妖精。Bランクには十得ナイフぐらいの機能が増えた妖精が渡される。


 一番上から、SABCDEFである。中でも特別視されているSランク冒険者。実は当初Aランクの中から使い勝手の良さそうな冒険者を適当に選び、ヴィヴィアンがオリジナルの妖精を与えたことから、Sランク扱いとなった大きな声では言えない経緯がある。



 ヴィヴィアンにとって丁度良い駒なだけであり、それ以上の扱いや思い入れは特に無い。俗世界の情報収集や面倒事に使うだけ。Sランクの一部は誉れとか訳の分からないことを言う輩もいるらしい。実際便利なだけあり、ヴィヴィアンは『あっそ、頑張って』程度にしか普段は構わないのである。


 しかし最近は五月蠅いことに、俗世界ではこのSランクを希望するものが多発し、その手の輩が増える一方らしい。ギルド長を束ねているアリーシャが未だ愚痴にしているから、ヴィヴィアンの耳にはタコができた。


 なぜSランクを増やさないのか。Sランク妖精を作るのが面倒なだけである。非常に明確な理由である。ヴィヴィアンにとってSランクもAランクも対して変わらないのに、これ以上増やしたら自分の負担が増えるだけ。


 いっそのことSランクなんて名前廃止して、変態部隊とか便利屋にでも変えてやろうかと思ったこともある。当然これを聞いたギルド長のアリーシャは、泣いてこれを阻止。


 といった冒険者にはちょっと言えない境遇から、Sランクは世界でも未だ7人しか存在しないという無駄な希少性を放っている。


「今みんな何処で遊んでるのかしら?」


 冒険者本人達の中には命懸けの仕事の者もいるが、ヴィヴィアンにとっては妖精を遊ばせているに過ぎない。ヴィヴィアンの言葉に妖精が次々と自分の場所を伝え始めた。


「『ファルファシオン』という街に一番近いのは誰かしら?」


 ヴィヴィアンは俗世界の地理に疎い。この手の情報、話は本人達に直接確認する方が早い。


「セレクティア!」

「セーちゃん!」

「せれくちあ!」

「セー」

「ティア」

「セレクティア殿」


 ヴィヴィアンの最初の呼びかけに、2番目に返事していた妖精の名前が一斉にあがる。


「じゃあセレクティアね。急いでファルファシオンに行き来なさい」

「えぇー。なんでですかー?」

「拒否権は無しです。『ノヴィ』という男の足取りを辿りなさい。それでも拒否した場合は、拒否した者から順番に食べていきます」


 ヴィヴィアンの食べるは存在ごと取り込んでしまうこと。拒否権は一応用意されているもの、妖精達にとってその瞬間、無に還ることを意味する。


「「「「「「がんばって!!」」」」」」

「みんなのはくじょーものー」


 面倒事はいつもこの手の感じで、誰かしらが人身御供ならぬ妖精御供とされていた。


 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 ファルファシオンよりも幾つかの山を越えた場所。『ヘルズキャニオン』と呼ばれる、世界でも有数の高さを誇る山々が織りなす峡谷である。


 リリアン=バレットヴィクトールはヘルグライダーと異名を持つ、グリフォンの解体を行っている最中である。グリフォンの素材が高く売れることは勿論のこと、グリフォンの羽根を要した為、峡谷を乗り越えてきた。


 通常魔物は魔素が多く漂うダンジョンに徘徊するが、ヘルズキャニオンのように魔素の密度が濃い場所にも現れる。


「おまたせーリリ」

「おかえり、ティア」


 セレクティアがリリアンの胸元から飛び出す。セレクティアと呼ばれる妖精は手の平サイズの妖精であり、髪をサイドの結った可愛らしい形容をしていた。


 一方リリアンは、見た目20歳前後の金髪の色白の女性。人族と少々違う部位と言えば、長く少し尖った耳である。あと胸元も少々残念である。


「ヴィヴィアン様から面倒事言われちゃったぁ」

「急いだ方がいいかな?」

「そうしたほうがいいかもー。ごめんねー」


 少々勿体無いが必要とする羽根を回収し、最低限嘴、爪を回収すると残りはサッサと燃やす。他の素材は剥ぎ取りに時間が掛かるし、余計な荷物は山を降りるのに時間を要してしまうのである。


「リリごめんねー。私の貧乏クジに付き合わせて」

「しょうが無いよ。それにいつもは私が助けて貰ってるからお互い様だよっ」

「リリありがとー」


 ちょっと百合百合しい雰囲気を漂わせる、仲の良い二人であった。



 半日程時間を掛けてヘルズキャニオンを後にする。二人が歩くのはファルファシオンへ向かうための街道。先に素材等を売りに行くことも可能ではあったが、ヴィヴィアンの要件となると急いだほうが良いのである。


 以前にヴィヴィアンが急ぎで向かいなさいと言われた現場では、ドラゴンの生き残りが街を襲うという大きな事件であった。その際、先に到着していた他のSランクとAランクが奮戦していた為、致命的な被害は避けることができた。そういった過去の経験から、二人はできるだけこの手の話は優先し動くよう心掛けているのである。


「その『ノヴィ』て男の人だっけ、見つけたらどうすればいいのかな?」

「えーと、ヴィヴィアン様が言うには、見つけたら一緒に生誕に潜りなさいってー」

「生誕といえば何も無いダンジョンでしょ?」

「んー。生誕の魔王と話がしたいんだって」

「うへぇ。魔王と話なんて出来るのかしら?」


 リリアンは過去に一度、Sランクメンバー数人とAランクのパーティーでダンジョン最下層に潜ったことがある。その際もヴィヴィアン様の命で話し合いをする為に潜ったが、話し合いが出来ないどころか激しい戦闘の上、脱出するだけになってしまった苦い記憶だ。


「生誕といってもダンジョンだからねぇ。流石にSとAでパーティー組まないと、最下層まで行ける気がしないな。今から都市に戻って、メンバーかき集めたほうがいいかな?」

「多分ノヴィが居れば、最下層まで行けるんじゃないかて、ヴィヴィアン様は言ってたよー」

「ノヴィて男そんなに凄いの?」

「わかんなーい。もしダメそうなら、メンバー増やすからとは言ってた」


 単独でダンジョン最下層まで潜れるような、相当な実力者なのであろうか。少なくともリリアンが会ったことのある冒険者には、そのような実力者には心当たりが無かった。


「それで、ノヴィという人の特徴は?」

「ヴィヴィアン様が言うには、生誕から出てきた魔力無しだってー」

「ん?魔力が無いのにダンジョンから出てきたの?」

「ヴィヴィアン様はそう言ってたよー」

「どうやって出入りしたのかしら?」

「わかんなーい」

「あれ?もしかしてそうなると、ティアの魔力感知でも探せない感じ?」

「多分そうなるの……。なんかその関係で、捜索が滞っているみたいだよ」


 今から向かう先の頼まれ事が、急に面倒になってきたと感じ始めるリリアンであった。

文字体が違う異世界でSABCみたいなアルファベット順でランク付けしましたが……ファンタジー要素ということで納得して下さい。

正直下手に崩すとややこしくなりそうなので、ランクで親しみやすい順番にしておきました。よろしくお願いします。

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