第二十二話 妖精族慌てる
森の中に小さな泉が一つ。泉の上には幻想的に映る神秘的な女性。それと対話する女性も同じく人らしからぬ神秘的雰囲気を漂わせる。
「そうですか、やはり魔神の男は見つかりませんか」
「はい。なにぶん特徴が無いことが特徴と言われますと……。ヴィヴィアン様には申し訳ありませんが、魔力が辿れない人物となると探すことが一苦労なものでして」
各地の冒険者ギルド長の妖精族を束ねているアリーシャは、心労で胃を痛めている最中。精神体である彼女には直接胃は存在しないが、今の彼女の状況を示すには一番ピッタリの言葉である。そして彼女の目の前にいるのは『泉の姫ヴィヴィアン』。とある事件をキッカケに性格が大きく変貌し、彼女を怒らすことは、この世界の妖精一族の死を意味するものであった。
普段は俗世界に興味が無く、精神世界に篭っていたことが殆どであった。それがどうしたということか、天変地異の前触れと言わんばかりに、ここ最近のヴィヴィアンは俗世界に執着している。
「例の一番近い街はなんと言いましたか?」
「『ファルファシオン』で御座います」
ヴィヴィアンの話によれば、最近生誕から魔神が産まれた落ちたとか、耳を疑うような言葉が世間話のように出てきたのである。
この世界の妖精族でも古参と呼ばれるアリーシャはそれなりに知識を蓄えている人物である。魔神と呼ばれる存在が、世界を揺るがし壊す存在であるということを。ヴィヴィアンの存在だけでも頭が痛くなるのに、ここに来て魔神生誕。過去に起きた龍神による世界半壊と並ぶやもしれない大事件である。龍神災害とは大陸焦土だけで無く、何種類かの種族を滅殺する程の大被害であった。
「その街から進展情報は?」
「該当するそれらしい人物の情報は見つからないと。ただ……」
「どうしましたか?」
「実はファルファシオンのギルド長ですが、人族の世界に馴染みすぎているようでして」
本来妖精族とは精神世界の住人である。彼女達はこの俗世界の物にはあまり価値を見出さないのであるが、該当のギルド長が貴金属等、人族と同じく光ものに夢中になっているとの情報が入っていた。
「俗世に住めば、いずれそうなるでしょう。多少は目を瞑ります」
「はい。ただ些か行き過ぎた報酬を取っている様子が。以前私のギルドからも何名か確認に向かわせたのですが、上手いことギリギリのラインでお金を集めているようです」
「あらあら…………私が直接天罰でも下した方が良いかしら」
「(((( ガクガクブルブル)))」
「冗談です(ニッコリ」
「(ヴィヴィアン様の冗談は冗談に聞こえないから嫌なのぉ)」
「生誕の魔王との交渉材料にするつもりでしたのに……。これで見逃していたら私が直々に食べに行くと伝えておきなさい」
「はっ!、はいいいい!」
「私の方からも一人見繕って、ファルファシオンの方に向かわせてみます」
「かしこまりました」
泉に映るヴィヴィアンの姿の消えると、彼女は痛むお腹を擦りながら、ホームである冒険者ギルドへと帰って行く。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
場所は変わりファルファシオンの冒険者ギルド長室。
「ということでした……」
「「「「ひいぃぃぃいいい」」」」
水の入った透明ガラスの瓶に映るアリーシャの言葉に、アリーシャの言葉を聞く妖精一同が恐怖に怯え慄く。この水を通しギルド長会議に参加しているのは、各地に散らばる冒険者ギルド長を務める妖精族。水瓶は妖精族の秘術の一つであり、遠方との通信のやり取りで利用される。
彼女達妖精族にとってヴィヴィアンとは神であり、同時に恐怖の大王なのである。湖の貴婦人や乙女と呼ばれていた頃の彼女はもう居ないのだ。
「特にフランさん貴方です。これで本当に魔神様を見逃していたら、私は庇えませんからね」
「は、はい!」
ファルファシオンのギルド長であるフランが特に叱咤され、ギルド長会議が終りとなる。
実のところフランと呼ばれた彼女はその魔神という人物に心当たりがあった。結構前のことではあるが、生誕から出てきたという怪しい男がいた。その人こそが魔神様なのである。あろうことか痴れ者と罵った上、ギルドから追い出したのだから始末が悪い。
(あわわわわわ、どどどドドドドぅすればぁ)
幻想的な妖精族には似つかわしくない姿で取り乱す。慌てて幾つかの捜索隊を出してみたが、未だ足取りが掴めないでいた。
戦火の矢面に立たされているフランは気づいていない。捜索隊としたファルファシオンの冒険者は実力が低く、非常に捜索能力が乏しいという事実を。加えてステイタスを嵩にしていた冒険者達の横柄な態度が、情報を混乱させる一因となっていた。
そんな頭を抱えている彼女に、追い打ちを掛けるような難題が降り掛かってきた。ここ数日前から依頼される仕事が異様なまでに減っていたのである。これについては直接被害が出るものではないからと、問題を甘く見過ぎていた。
そう金に困り始めた冒険者達があろうことか、生誕に向かってしまったのである。しかしフランには、ファルファシオンの冒険者達を止める余裕が残されていなかった。
そして実力の足りない多数の冒険者達が生誕から帰って来ない。まさにファルファシオンの冒険者ギルド始まって以来の未曾有の危機。むしろギルド壊滅の未来が目の前まで迫っていた。
同日中に23話アップ予定です。次回もノヴィはお休み。




