第十六話 テレサと魔神の魂
時系列少し前のテレサ視点となります。
テレスタジアことテレサの生活は、ここ最近変化に富んでいた。主に夜活動することの多い夢魔族ではあるが、とある人物の為にテレサの活動時間は昼と夜が反転。
目を覚ますとまず身嗜みを整え、他のサキュバス達が戻ってくる頃には魂の回廊を離れ、生誕のダンジョンへ赴く。
出来ればずっと生誕に居たいのではあるが、夢魔族は皆同じ器を介し魔力を扱っている以上、自分一人で独占できないのである。唯でさえサボり続けているような状況である為、これ以上の我が儘は言えないでいた。
生誕へ現れると真っ先に『ノヴィ』の元へと向かう。ここ最近のテレサを変えた張本人。テレサが初めて魂を渡した男である。
最近のノヴィは知識の習熟に努め、本人のやる気もありスイスイと理解してくれていた。知力が低い魔族が多い中、授業をしっかり理解してくれていることは、テレサのモチベーションを高める一つの要素であった。
過去テレサの授業を理解してくれていた魔族は、先代の魔王一部と魔王のレティ、ルーカス=メルリナイトの以上である。他の魔族達やダンジョンの住人は知識を疎かにする傾向が強く、理解が及ばない授業、それが拍車を掛け夢魔族を風刺することとなった。
武力、魔力に乏しいノヴィは自分と同じく、やはり他の魔族からは脆弱な魔神と思われているようである。
だがノヴィは少なくとも、知力、理解力があり、それに謎めいたあの精神体の強さがテレサの心を強く惹きつけてやまない。
今のところノヴィを独占できる授業の時間が、ここ最近テレサの一番の楽しみであり、心躍る時間であった。
いつもと同じように彼の寝床となっているベッドに向かうと、既にもぬけの殻となっている。直ぐ様、一同が揃う食堂へ向かう。
「今朝はテレサだけか? 珍しいこともあるのぅ」
一番偉い魔王が待ちくたびれたぞといった感じになる。大抵食堂に来る時は二人一組。食堂に揃う者達の共通の認識。
「今朝ノヴィはベッドに居ないようでして……。食堂にも来てませんか?」
「私が一番最初でしたが、今日はノヴィ殿の姿は見ていませんね」
「ありがとうルーカス。ちょっと他の部屋見てくるね」
食堂を後にしたテレサは心当たりの部屋を順に見ていくが、探し人の姿は一向に見つからない。心当たりの部屋にも居ないとわかると、今度は手当たり次第他の部屋を探し回り始める。他の部屋に入る度、トクントクンと焦り、不安がテレサの心を少しずつ傷つけていく。
「で、ノヴィはやはり見つからんか」
「はい……」
「テレサは先に朝食を摂れ。手が空いてる者でノヴィを探すぞ」
「魔王様。探すのは結構ですが、上層に登っているとしたら既に野垂れ死んでいると思いますぜ」
「ハッセル。テレサの前でそのようなことゆうな」
腕を組みながらこれからの事を悩むレティ。
「レティやはりノヴィは……」
「テレサまでなんじゃ。アレはひ弱ではあるが、知恵は回るほうであろう。どっかで何か企んでいるのじゃろ。何を考えているかまでは、妾には分からんがな。しかしそうなると、ノヴィの魔力の無さが恨めしいな」
「レティ……ぐすっ」
「テレサ泣くな。まったく、お主の泣いてる姿なんぞ初めて見たぞ。ハッセルとヴルムは先行して10階層から探せ。ルーカスは19階層からチェックじゃ」
「魔王様10階層に行くことは大丈夫ですが、正直ノヴィの実力で19階層から上階層に行けるとは思えませぬ」
普段は寡黙で通しているヴルムであったが珍しく意見を申す。
「実はの……、以前ノヴィがの……もし迷子になった時どうすればいいか聞かれたんじゃ。その時19階層の罠を仕掛けている通路を喋ってしまったんじゃ」
魔王がテへと言った姿で謝る。
「実は魔王様、私も……」
今度はルーカスが気まずい面立ちで話しだす。
「まさか……、お主もかルーカス?」
「はい。申し訳ありません」
「いやルーカスからさり気無く聞き出すとは、この場合ノヴィを褒めるべきかもしれん……、しかしそうなると他の皆も喋っている可能性が高いのぅ」
やはり皆同じくノヴィとの会話時に、通路について喋っていたことが判明。
「本格的にマズイのう。ざっと皆の話を確認する限り、10階層までの道程は把握してそうじゃな。ノヴィは10階層からサイクロプスが動いておると知っておる筈じゃがのぅ。あれは力が強くていいが、頭が悪くて困る。ノヴィから遠ざける為にもワザと10階層から動く様に指定しておいたんじゃが……どうやって抜けるつもりでおったんじゃ」
そんな重い雰囲気の中、特に冷や汗を流している獣人が居た。ライオン丸ことハッセルである。
「ハッセルどうしたのじゃ、そんなに汗をかいて? 通路の事を喋ってしまったのは仕方無い。皆の責任じゃ」
「じっ、じつはその…………」
ライオンの人が、首根っこを掴まれた猫の様に白状した。
「サイクロプスについて喋った……じゃと?」
ハッセルによればこうであるらしい。サイクロプスがどんなに凄いのか聞きたい、といった流れから始まり、気づけば砂時計が終わるよりも長く、サイクロプスの特徴ついて語っていたらしい。
「これはサイクロプスを攻略されている可能性も出てきたのぅ。何方にせよ10階層から立ち往生している可能性が高いから、ヴルムとハッセルは急いで10階層に迎え」
泣いていたテレサといえば……、気絶していた。
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テレサが目から覚めた後、ノヴィの姿を隈無く探してみたが、全く見つからなかった。念のため血痕などの痕跡も確認したが、いずれも見つからない。
少なくともノヴィが生きている可能性が高いことにテレサは一安心する。
しかしそうなると、何故ノヴィはダンジョンの外に行ってしまったのであろうか。あまりに皆(特に阿呆獣人)が馬鹿にするから、見返す為に一人で行ってしまったのであろうか。でも、ノヴィはそこまで自分の力を過信するタイプには見えない。そんな事ばかりぐるぐると考え続けるテレサ。
そしてそんな様子を見かねて、精神世界の住人である隣人が声を掛ける。
「ちょっとこれ読んでみる?」
何冊かの書物を渡される。これらの本は魔神の外殻から持ち出したものである。最初は勝手に持ち出したことに注意をしたが、どうやらヴィヴィアンは本人に許可を取って、借りていると言う。
ヴィヴィアンの話によると、この書物は漫画と呼ばれるものらしい。絵が多い不思議な書物であることはテレサにも直ぐ解った。
「全く文字が読めないのだけど」
「それはテレサの勉強不足ですね」
「そうは言っても、こんな異世界文字の勉強をする時間なんて、するだけ無駄じゃない」
ヴィヴィアンは目を細め、鋭い視線を投げつける。テレサがその視線に思わずたじろぐ。
「そう考えている間は、彼の心内を理解できないと思いますね。まずはこの書物を読む努力をしなさい。そうすれば、少しは手を貸して頂けるかもしれませんよ」
森の合間から3人の妖精達と魔神が現れたことに動揺を隠せない。
「彼は貴方が今探しているノヴィでありません。魔神たる精神体がここにいるということは、また世界を離れようとしているのかも……しれませんね」
「何か知っているなら、教えなさいっ!」
怒りが一面を支配する。
「何かあると暴力で解決しようとする姿勢は不愉快ですね」
テレサの位置とは反対に居る魔神の姿に、テレサの心がグシャグシャにかき乱される。
「訳の分からない問答は要らない。サッサと答えろ!」
「魔族と暮らす間に身も心も、魔族に染まりきってしまったのですか?」
「ま~じ~ん」
「た~ち~は」
「テ~レ~サ、たちが~」
「「「こーわーい~て~」」」
「こらっ、それ以上は言ってはいけません」
ヴィヴィアンが妖精達を摘む。
妖精達の発言からして、この者達が何か事情を把握していることには間違いないとみえる。しかしながら、このヴィヴィアンは上位の精神体である為、一筋縄でいかないことも直ぐに判断できた。
現在は1秒でも時間を惜しむときであり、自分の怒りよりもプライドよりも彼を探すことを優先させた。
「さっきまでのことは謝ります。どうか教えて下さい」
ヴィヴィアンに対して、謝罪と敬意を示す。
「私が理由や答えを伝えることは簡単ですが、テレサが答えを導き出すことに非常に大きな価値があります。先程も言ったように答えはその書物に。その書物は貸してあげますから、一度ゆっくり目を通して御覧なさい」
ヴィヴィアンはそれ以上告げること無く、森の中へ姿を消して行く。
テレサは昂った苛立ちや焦りを静める。案の定、開いた書物の文字が全く読めない。このまま無駄な時間とも思ったが、あのヴィヴィアンがあれ程までに言い通したのである。藁にもすがる思いで目を通す。
この書物について共通する発見があった。この挿絵は非常に喜怒哀楽が判り易いのである。この人物であろう者が怒っているのか、泣いているのか。偶に分かり難い表情もあるが、それだけでも話の雰囲気が読み取れるのである。小さなことではあるが、大きく前進した。
改めて最初の書物から読み返す。何やら争っていると思われる雰囲気までは読み取れ、最終的にはそれが決着するところまでは判別がついた。ここまで来ると何と何が争っているのか、文字を読めないことが歯痒い。
こんな事態に陥るのであれば、ノヴィに少しでもこの文字について心当たりが無いか聞いておけばよかったと後悔する。そもそもこの書物を外殻から引っ張り出したのはヴィヴィアンではあるが……。
何かが心を引き止めるように、違和感に似た何かがテレサを引き止める。
それから何度も何度も書物に目を通してみるが、書いてある文字も、ヴィヴィアンが言っていたことも一切解らないのである。
このままノヴィと離れ離れになってしまうことに胸を締め付けられ、心が乾き苦しみを覚える。乾いた心が潤いを求めるように、涙がポロポロとこぼれ落ちる。こぼれ落ちる涙は心を潤いを与えることなく、無情にも心に更なる乾きを与える。
心の乾きが言葉になって漏れ出す。もっと一緒に居たかったこと。好きと伝えたかったこと。ノヴィの事をもっともっと知りたかったこと。
テレサはふと頭を優しく撫でる感覚に気づく。例の魔神の魂である。定着した筈である魔神の魂が分離し、分離した一部がこの場に留まっていると思われる。
「魔族」
端的ではあるが、何かを告げる魔神。魔神の指差す場所は先程から何度も目を通していた。書物の1ページであり、それが書物の中で最終的に負けてしまうものである。
テレサは別の書物を手に取ると、ページを開くと指差しで順に確認して行く。どうやら書物の中で負けている姿の大半が魔族であることが判明した。
「こっちはもしかして人族?」
2回コクコクと頷く魔神。
書物の中でこの場面が多く描かれていることを不思議に思う。そもそもこの書物はあの外殻ではあるが、これがノヴィの一部であることは間違いないのだ。テレサは頭の中でようやく見つけた一つの手掛かりを拾う。
「ノヴィはこの世界に蘇る前……人族だった?」
魔神は1回頷く。
次回は主人公視点に戻ります。心情を分かり易くしたい意図でこのタイミングになりました。視点がコロコロ変わるのは力量不足だと思います。スミマセン。
一応テレサはメインヒロインなんで重要キャラとでも思って下さい。




