第十五話 ギルドと世界三大発明
とどまるところを知らない俺のテクノロジーハザード。早速エポックスの工房で試作品になるものを作る。正直今までの玩具よりも滅茶苦茶簡単にできてしまった。
手順。天然磁石の石を細くカット。木片の上に取り付ける。水に浮かべる。ね?簡単でしょ。
世界三大発明こと『方位磁針』である。
広い地上を旅する人々がこれだけ大勢いるのに、方位磁針という発明が生まれていない原因。街中でも偶に見かける案内妖精のせいだろうと思う。ファンタジーが横行しているがゆえに、科学が発展しない。一見凄く便利そうな世界ではあるが、実際便利な思いをしているのは魔力を持った一握りのみ。魔力を持たない人は魔力持ちに頼る。この世界で言うところの冒険者や妖精に頼り気味のようである。
門で銀貨2枚を払い、街外で確認してみたが、方位磁針は問題無く動作する。抱える難題は水が必要になるということ。これはエポックスという非常に心強い味方が居る以上、羅針盤、コンパスに仕上げるのも時間の問題だ。
外で方位磁針をテストしたことにより、確認できた事実もある。単純にこの世界の星も磁力があり、北(仮)、南(仮)がある。星に磁力が働くということは、球体で地球と同じではないかと思われる。自転などの性質も結構地球に近いイメージではと推測。
以前、思い浮かべていたベーゴマ案ではあるが、鋳物が成功すれば『活版印刷』が可能になるということ。この時点で世界三大発明の2つをもたらしてしまう。
そもそも『木版印刷』をすっ飛ばし、『活版印刷』はマズイ気がする。暫く考えない方が良いかもしれない。この世界出鱈目設定が技術の発展を邪魔している為、未だ印刷技術無く全て手書きの模写なのである。おかげで本がかなりの高級品だ。
話は戻り、この試作方位磁針を持って、早速例の商会へ訪問。突然の訪問に何事かと不思議そう対応をされたが、俺が方位磁針を取り出すと金の臭いに気づいたのかアレコレ聞かれる流れ。
世界の方向を示すアイテムだと説明。試作品のN極側には赤い印。商人の内の一人が、早速試作品を持って外に飛び出していく。
「随分と騒がしいと思いましたら、ノヴィ殿でしたか」
遅れながらギルド商会の爺さんことシヴ=リューケンが顔を見せる。他の客と商売話があったようだが、早めに切り上げてきたらしい。改めて試作品の方位磁針について説明。
「やはりノヴィ殿との縁を作っておいて正解でしたな。これは商人どころか傭兵達からも、喉から手が出る程欲しい一品となりますな」
「参考に聞かせて頂きたいのですが、商人の方や傭兵は遠出をする際、どういった方法で方角を調べているのでしょうか?」
気になっていた点である。道中に馬車に乗せて貰った商人も、勘と経験、微妙な地図を頼りに馬車を走らせていた感じであった。
「そうですな。ノヴィ殿は『夜の灯』をご存知で?」
「いえ、見たことがあるぐらいですね」
シヴさんが言っている『夜の灯』とは月のことである。太陽に当たるものは『昼の灯』。ファルファシオンに来て学んだ知識の一つである。しかもこの『夜の月』が地球の仕様と違い。3つもあるのである。
「我々は『昼の灯』と『夜の灯』の位置で、おおよその方向を決めております。後はどうしても迂回ことが多くなりますが、目印となる森、川、村、街や都市でしょうか」
話しぶりから地球でいうところの紀元前ぐらいの話になりそうな勢いである。
「ただどうしても迂回をするとコストが高くなることが多い為、大抵は冒険者というよりも案内妖精を雇うことで解消しております」
なんか冒険者とは名ばかりの、案内妖精を扱う便利屋みたいなイメージが湧いてきた。そうなると案内妖精あたりにも、何かしらのカラクリがありそうではある。
「案内妖精は商人ギルドでも、借りる事できなかったんですか?」
「案内妖精の多様性には我々も目を見張るものがありまして、以前に交渉済みです。詳しく話を聞いてみたところ、どうやら魔力が無いと契約が出来ないと断られ。我々の中にも魔力持ちは数人居た為、交渉の糸口としてみましたが、結局は冒険者ギルドに所属といった感じで最終的に断られました」
「冒険者ギルドが案内妖精を独占しているのには、何か理由があるのでしょうか?」
シヴさんがおや?と少し驚いた表情を見せる。
「失礼。ノヴィ殿がその事情をご存知でなかったことが、すごく意外でしたので。冒険者ギルドを立ち上げ、管理しているのは妖精族ですからな。管理している妖精族が妖精を冒険者達に派遣しているのですよ」
ここに来てファンタジーの1つを初めて理解する。言われてみれば、成る程と納得する。俺のイメージでは冒険者ギルド=人間が作ったというイメージが強く、案内妖精なんて生物が出鱈目すぎる印象が強かった。
シヴさんの話によると、当初妖精族に解決できない問題を、人族や獣族と協力して解決する目的手段として立ち上げられたのが冒険者ギルド。冒険者ギルドを真似て、商人ギルド、傭兵ギルドが立ち上がったとのことである。流石年の功。本を満足に読めない俺としては、本当に貴重な情報源でありがたい。
そんな感じで商会との話は割とスムーズに進む。方位磁針の試験から帰ってきた商人の言葉を聞き、皆驚きと喜びの声を漏らす。
俺は早めに天然磁石であろう鉱石の回収を先行する形で勧める。天然磁石は早々掘れるものでもないようなので、早めに集めておくことが一番だと判断する。
本格的な製作に掛かるのは、ある程度買い占めた後でも十分だと、この場に居るもの全員が納得。
難題となっていた水の件ではあるが、水を持ち歩かない商人はいないから、一先ず大丈夫と言われる。改良よりも、直ぐにでもギルド商会分は用意したいとのことであった。
「これ皆が方向を示すアイテムと言って、直ぐに信じてくれますかね?」
以前酒場に来た一番若手のジェラルドである。確かに言われてみれば、突然こんな鉄の棒を貼り付けた木片を渡されても疑うであろう。売りに出す時も同様になる問題である。
他の商人も大体同じ意見のようだ。この場に居る商人達は、以前に俺が『オセロ』を用意したことが既に実績となっていた為、このアイテムの効果を直ぐに信用してくれたようだ。
そういえば昔の方位磁針は『指南魚』と呼ばれる、魚を形どったものであると歴史で習った気がする。魚である理由はハッキリ分からないが、その案にあやかってみるのもいいかもしれない。
「いっそのこと、方位磁針なんて呼び方を止めましょう。妖精の欠片という名前で、案内妖精の形や模様を掘った木材に埋め込みます。これを『妖精の力を宿し木片』みたいな名目で売り出してみては如何でしょうか?」
製作コストは上がってしまうが、こちらの方がファンタジー世界では信憑性がある気がする。商人達もコストが掛かってしまう点に迷いを示すが、売り出す初手としては有効になると判断してくれ、一同納得してくれた。
そして最大の問題点は、このアイディアに対する報酬であった。あまりに凄い発明であるが為、値段が付けられないと言われてしまったのである。向こうの世界でも『世界三大発明』とか言われてたぐらいだ、当然こちらの世界でも莫大な価値が生まれてもおかしくない。金に困って思わず作ってしまった方位磁針であったが、なんかやってはいけない技術革命を起こしてしまった気がしてきた。
「ノヴィ殿。いっそ商人ギルドに来ませんか?」
真剣な表情のシヴ=リューケンが居た。
次回は7/5、7/6にはアップできると思います。




