第十四話 オーバーテクノロジー-後編-
ところで世話になっている酒場の入りが悪いのは、若い看板娘が居ないことが理由だとは言えない。そんなこと言おうものなら、俺が真っ先にクビになってしまうからである。もしくはタリサさんに殺される。
心のなかで詫びを入れつつ、酒場夫妻にに『オセロ』を説明する。流石にルールは簡単らしく、すんなりとご理解頂けたようである。挟んだら裏返す。これを繰り返し、盤面が駒で一杯になったら終わり。
これを試しに酒場の隅で置かせてもらいたいと話した所、真ん中のテーブルでやれとか言われだした。これで寄り付かなければ、面目丸つぶれであるが……。
そして、その日の晩。
ゴツくて暑苦しいオッサン達が盤の取り合いを繰り広げる。とても気持ち悪い光景が繰り広げられていた。個人的にはモザイクを入れて欲しい地獄絵図である。
本当にこの世界の住人は、この手の娯楽に飢えていたのだろうと実感した。男共が金を使う場所といったら、酒、飯、女の3択になってしまうようである。そんな事情を抜きにしても、目の前の光景は相当気持ち悪い。
3日後、噂を聞きつけた客がどんどん増え、酒場夫妻から数を増やして欲しいと頼まれた。結局、商会への売り込み用に用意していた現物と、夫妻から貰った材料費で、更に二つ程オセロを量産することになる。
そして更に3日後、地球でいうところの1週間が経過した頃だ。行こう行こうと思っていた矢先、商人ギルドの連中が向こうからやって来た。こちらの当初の狙い通り、流通目的の商品を是非売って欲しいとのこと。後日商会には改めて伺うことを約束する。
工房のおっちゃんと二人で商人ギルドへ向かう。おっちゃんは利権が要らないとか色々言っていたが、アレコレ協力して貰っている礼もあるし、何より俺が知らない色々な情報がある為である。商会連中に丸め込まれない為に一緒に来て欲しいと頼むと、なんかだんだで一緒に来てくれた。良い人である。
商会の受付に案内され、中へと案内される。流石金入りがいいだけあり、頑丈でしっかりとした建物であることが、素人ながらも直ぐに分かる。
「初めまして、商人ギルドのシヴ=リューケンと申します。こちらから順にライガ、オウフウ、ジェラルドになります。本日はご足労頂きありがとうございます」
初老の男が礼儀正しく挨拶頂き、他に座る商人も順に紹介してくれる。年功序列だろうか、年老いた人から紹介される。先日酒場まで足を運んだ商人は、一番若いであろうジェラルドという男である。
「私はノヴィと申します。こちらの男性は……そういえば、おっちゃんの名前なんて言うんだ?」
「名前とか今更だよな。俺はエポックス。言葉遣いは勘弁してくれ」
互いの名前を今頃知ったことに軽く笑いを入れる。自己紹介が簡単に終わり、早速本題の話となった。商会は完成した商品を売り出させて欲しいとの切り出し。
「こちらとしては利権だけ売って、売上の何割かを頂ければと考えていたのですが……」
「私共商会としては構いませんが、これだけのものとなると長期的に売れますし、早々に利権を手放すのは勿体無いかと思いますが……」
思ったよりこちらのことも考えてくれているようである。
「利権を売るとした場合、買い取りは幾らぐらいの見積もりになりますでしょうか?」
「少しお時間を頂いても?」
「構いません」
商人達がひそひそ相談を始める。
「商会としてはどれだけ伸びシロがあるかわかりません。即金で用意できるとすれば、金貨10枚を考えておりますが、如何でしょうか?」
日本円でざっと800万である。隣でおっちゃんが驚いてる。そりゃそうだ、まさか樽のゴミが金貨に生まれ変わったのだからな。この世界にあるか知らないがある意味錬金術。しかし俺のフッカケは終わらない。
「私は大丈夫ですが、エポックスはどうでしょうか?」
「おっ、おおお俺は構わないぜぜっ」
おっちゃんきょどりすぎ。
「では『オセロ』の利権は金貨10枚ということで。ノヴィ殿は何かご要望ございませんか?」
おそらくこの商人達は金貨10枚を1~2年以内には回収できると算段している筈。であれば、向こうの利益は単純に考えても年間金貨10枚以上。
「私からの希望ですが利権をここで手放す代わりに、初年度の売上10%を頂きたいのですが」
一番偉い爺さんの眼光が鋭くなる。1割か10%の言葉で通じるかと心配していたが、この反応であれば理解しているようだ。俺の予想が正しければ、これでも食い付いてくれると予想はしている。
「ふむ、そうですな……。先にお尋ねしたいのですが、ノヴィ殿は過去に商いの仕事や勉学をなされた経験が?」
「いえ、本格的な勉強はしたことがありませんね。正直に言うと文字の読み書きにも、まだ不安が残るぐらいの力量です」
読みはともかく、マントの裏にある擬似アイウエオ表が無いと文字の筆記ができない。象形文字っぽいせいで、細かな筆記が判らないのである。実はこの筆記に不安があることを理由に、ボードゲームの一つ双六案も保留としていた。
「ふむふむ。仮に私共がここで誓約書を誤魔化したり、明らかに利権を安く買い叩くとは考えなかったのでしょうか?」
「そうですね。まず文字の読み書きトラブルを極力を避ける為、エポックスに同行を。安く買い叩かれた場合は、既に案がある改良型オセロの販売を考えておりました」
若い商人達が皆驚いてる。その一方爺さんは、隠していたことに気づいていたようであり、悪戯小僧のようにニヤリと笑う。
「宜しい宜しい。その条件で取引させて頂きましょう。その改良案をここで聞かせて貰うことは?」
「もし改良案を気に入って頂けた場合は、金貨5枚を上乗せして頂けないでしょうか?」
「宜しいでしょう、その案も聞いてみましょう」
まず馬車移動の空き時間で扱える物についてアイディアを出す。揺れ防止の対策としてオセロの駒中心に穴を空ける。盤面には短い突起を付けることを提案した。
「いい案です。持ち運び用の改良案も買いましょう。馬車の時間が多い商人としては、改良型の方が魅力的です」
「というのが1つ目の案でして、実はもう一つ案が……」
「「「まだあるんですか!?」」」
次に提案したの改良案は貴族や高級品を嗜む金持ち用に売る用である。素材や仕上げに拘るのは勿論、盤面を二つに割れるよう作り、盤と盤を蝶番で繋ぐ方法。折り畳みできるようにして、折り畳んだ内側に溝を作る、駒を収納出来るようにと詳細まで説明。
日本では当たり前の様に売っていた収納式ではあるが、やはりこちらの世界ではオーバーテクノロジー的扱いだな。
最終的に商会がその案も気に入り、結果金貨20枚という形でその日の取引が終了。
実はその後、一番揉める出来事があり、今も尚続いていた。利権の分配についてだ。俺は金貨10枚ずつで良いと言っているが、金貨15枚と5枚を譲らないのである。実際金無しの俺としては助かる為、15:5で取り分が決まる。
「あんな樽のゴミクズがまさか金貨になるなんてな……お前じゃない、ノヴィだっけか何者だよ」
「俺は暇潰し程度の娯楽アイテム製作と、小遣い稼ぎ程度に考えていたんだけどな……」
「でも流石に『オセロ』の案は出し尽くしたし、ノヴィとしては満足行ったんじゃないか?」
「いや実は頭の中ではまだアイディアはあったんだけどな。その内の殆どが素材や技術的に無理そうなんだ」
エポックスにマグネット案を説明したところ……
「あれか、鉄屑が張り付く珍しい鉱石が確かにある。よく知っているなノヴィ」
(あるのかよ天然磁石!!)
しかもこの天然磁石。イマイチ利用用途が見つからないせいか、材料費としては高いものでも無いとかなんとか。
そして以前に一度思いついた、あの世界三大発明が再び頭に浮かぶ。ことがうまくいけば、もう一財産築くことができるかもしれない。
今日の金貨で天然磁石を買い占める準備をして欲しいと、エポックスに企みを伝えた。
エポックスの元ネタは某玩具会社の名前から。段々と名前を考えるのが面倒になってきました……。
次回UPは7/5予定。




